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異世界魔王は現代勇者  作者: 佐村井コージ
グランベル編
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第10話 憂鬱な新生活

一ノ瀬ユウキは思っていた。

こんなとこ来るんじゃなかったと。

実はこの少年、十年前に大穴(ホール)に落ちた綾瀬の同級生、一ノ瀬勇気と同一人物である。

なぜこんなことになっているのか、それは十年前に遡る。



勇気は異世界に行った後、グランザムの血を吸った影響により人の体とは言えなくなっていた。

髪の色は色が落ち金髪の様になっており、口には、鋭く伸びた二本の犬歯が覗く。

体つきもガッチリとしており、以前にも増してたくましくなっていた。

だが、一番の変化は失ったはずの左腕が再生している点だろう。

俺は吸血鬼ドラキュラとなっていたのだ。

吸血鬼はこの世界では上位の存在で、俺は生まれ変わったことにより強大な力を手に入れたのだった。

俺はこの異世界から元の世界への帰り方を考えた。

思いつくのはやはりあの大穴(ホール)のことだ。もう一度あれに入れば戻れるのでは。

しかし、辺りにそれらしきものは見当たらない。

大穴(ホール)を探す旅をすることにした。こんな状況だが漫画の主人公にでもなったかの様な感覚がありどこかワクワクしていた。

旅の途中、マモノの被害にあっている人々を助けているうちに勇者と呼ばれる様になっていた。

異世界にきて三年の月日がたったが、大穴(ホール)の情報は思う様に集まらなかった。

そんなおり、一つの情報がもたらされる。

大穴(ホール)を作ったのは七人の魔王の中の一人だと。

それから俺はそのうちの一人に会いに行ったのだが、交渉は決裂し激しい戦いが始まった。

二日間にも及ぶ戦いの末、魔王を倒すことに成功した。

激しい戦いにより、酷く疲弊し再生も追い付かないほどの怪我を負ってしまった。

怪我を癒す暇もなく、追い討ちをかけるかの如くさらなる悲劇が俺を襲う。

それは、魔王を倒したものの宿命、大罪の呪縛である。

大罪とは、“憤怒”、“傲慢”、“強欲”、“暴食”、“嫉妬”、“色欲”、“怠惰”、の七つの罪のことである。

それぞれの罪を司る魔王がおり、それは決して途切れることなく存在し続ける。

故に、俺が魔王を倒したことにより六人となってしまう、そのため跡を継ぐものとしてその大罪を司る魔王を倒したものに呪縛をかけるのである。

俺が背負った罪は、“怠惰”であった。

直後、体の奥底から溢れ出てくる魔力により、体の傷は完全に回復した。

更に、金髪となっていた髪もだんだんと黒く染まっていく。

そしてそこで自身の防衛本能から思考は止まる。

心を守ろうと感情が、意識が薄れていき、目からは生気が失われていく。

こうして俺は勇者から“怠惰”の魔王へと職業変更(ジョブチェンジ)したのであった。

この異世界に来て三年で世界最強クラスの魔王となり、それから四年間ただただ日々を怠惰に過ごしていた。

そこに現れたのが、この世界では見慣れない黒スーツに身を包む黒瀬だった。

黒瀬の一年にも及ぶ協力により、俺は勇者の頃の一ノ瀬勇気に戻った。

俺が元の世界に帰りたいと頼み込むと、黒瀬が元の現代世界に帰る時に一緒に連れ帰ってくれた。

だが、その条件として提示されたのが現代世界で勇者となり協力することだった。

そしてこの世界に帰ってきて勇者になり二年、この町の大穴(ホール)通称“28区”の管理の為戻ってきたのだった。

まあ、それだけの理由だけでは無いのだけど。

そして、黒瀬の余計なお節介により、失われた青春のためこの高校にやってきたのだった。



そして現在……

(やってしまった、俺としては一目綾瀬を見れればよかったのに、なんでこんなことに全部クロのせいだ)

席に座りそんなことを内心呟く。

一ノ瀬勇気と気づかれない様に真逆のキャラ付けをして、尖りきったキャラにしたのだがそれが裏目に出た。

考えてみれば学校で堂々とゲームをする奴なんていない。

それを注意されるのは当たり前だが、綾瀬に反抗してしまった。

しかもその後、その空気に耐えられず帰ろうとして困らせてしまった。

それに、昨日の学校見学の時もクロのおかげ?で二人きりになれたのだが、緊張して一言も喋れなかったし。

だせぇ……

でも、俺を追いかけてきてくれたときは嬉しかったな。

そんなことを考えていると少しにやけてきてしまう。

しかし、今の綾瀬も可愛かったな。前より大人っぽくなって綺麗になっていた。

まさか、同じ学校にまた通える日がくるとはな、綾瀬のためにもここは大人しくしておこう。

ぼーっと窓の外を見ていると、始業チャイムが鳴った。

テストが配られるが筆記用具を持ってきていないことに気づいた。

今日テストあるとか考えてなかったし、そういえば昨日綾瀬が言っていた気がする。

まあ無いものは仕方ない。

借りようかと思ったが、テストが始まっているので声をかけられない。

と、思っていたら先生が前の席の生徒から借りてくれた。

お礼を言ってテストを始める。

(どうしよう…五分で終わった。俺の思考速度だとスーパーコンピューターの演算能力より上だからな。終わるまで待つか?残り一時間弱…長いな。)

それから五分くらい悩んだ結果、退室することにした。

先生に伝え俺は教室を出た。

ふぅ、と一つため息をつく。

「この学校は息が詰まるな」

外に出ようと思うが、今教師に見つかるのは面倒だ。

誰もいないであろう屋上に行くことにする。

階段を上り終え、屋上への扉を開けようとするが鍵がかかっている。

「鍵かかってんのか」

小さく舌打ちしながら、その場で合鍵を作る。

これが俺の魔法、「創造(クリエイト)」である。

俺の想像(イメージ)をそのまま創り出す魔法である。

生き物を作り出すことはできないが、それ以外のものであれば作れないものは無いと言える。

構造を理解できれば車や電車、更には核兵器すら創り出すことができる。

また、ものに限らず魔法を再現、創り出すこともできる。

もはやチート能力である。

だが、勿論リスクもある一つは魔力効率の悪さである。

創造は他の魔法に比べ遥かに魔力消費が激しい。

例えば、今の鍵の創造にかかる魔力は常人の魔力一日分にも匹敵する。

車の創造なんかは一生かかっても無理だろう。

それほどまでに魔力の消費が激しく燃費も悪いのである。

次に、想像(イメージ)と知識である。

イメージは比較的簡単にも思えるだろうが、一瞬でも崩れてしまうと上手く創造することは出来ない。

そのためイメージを崩さないだけの集中力が必要である。

知識は言わずもがなだろうが、物の構造を理解出来なければ創造することは出来ない。

鍵の創造にも鍵の構成物質、強度、重さなどの情報が必要となる。

この知識を正しく認識するだけでも時間がかかる。

が、魔王であった俺には「思考速度の超加速化」それに「無限の魔力」があった為無尽蔵に扱うことができる。

正に魔王にふさわしい魔法である。今は勇者だが…

屋上に出ると涼しい風が吹く。

どこまでも澄んだ爽やかな青空に、飛行機雲が薄く残っている。

開放的なその空間はとても心地よく落ち着く。

先ほどまでいた教室は息が詰まる。

バタンと大の字に寝そべる。

「綾瀬に会いたいな……」

小さく呟き、スッと目を閉じる。


キーンコーンカーンコーン

「う、んー。あれ?」

どうやら眠っていたらしい。フワァーとあくびをする。

やっと全てのテストが終わった。

俺は最初のテスト以降も全てのテストを開始早々に終わらせ屋上へときていた。

最後は全校集会か、面倒だなと思いながら立ち上がろうとすると、スマホが鳴る。

「なんだ?ああクロか、どうした?」

電話の相手はクロだった。ということはあまりいい要件では無いだろう。

「なんか嫌そうだな」

「伝わって良かった。どうせ面倒ごとだろ」

「よく分かってるな。マモノだ。28区A-6に巨大なオークだ。どうにかして来い」

ッチ、と一つ舌打ちをする。

「どうにかってなんだ。もう少しわかりやすく言え」

不機嫌そうに返す。

「あ〜?そんなこともわからねえのか?討伐でも捕獲でもなんでも良いからどうにかしろってことだよ。そのぐらい自分で考えろ。いいからさっさと行け命令だ」

「てめえ、後で覚えてろよ」

「さーな、オレ記憶力悪いから。じゃ頼んだぞ。オレはこれからデートだから」

それだけ言い残すとブツッと電話は切れた。

メキッと音をたてスマホにヒビが入る。

「ふざけやがって、どうせすぐ別れることになんだろ」

と、通話の切れたスマホに向かって叫ぶ。

後で絶対に痛い目に合わせてやると心に決め、屋上を後にする。

教室に戻ると、全員全校集会に行ったのだろう。誰もいなかった。

好都合だなと思い、鞄を取り学校を出て勇者の仕事へと向かった。

俺は自分の家のデーミングPCの前に座っている。

何も勇者の仕事を忘れてゲームを始めるわけでは無い。

これも立派な仕事である。

俺は自らの魔法、創造(クリエイト)により創り出したリアルアバターを駆使し、家にいながら安全にマモノを討伐する術を生み出していた。

これも俺の魔王としての力があってこそなせる技であり、他の誰にも真似をすることなどできない。

今回操作するのは、黒髪ショートで目は金色、背丈は百八十センチを超える長身で、執事服に身を包んだイケメンアバターである。

アバターと言っているが実際はただのゴーレムである。

ただし、現代の科学の要素を踏んだんに取り入れたハイテクゴーレムであり、異世界の土塊のみで創り出すゴーレムとはスペックが違う。

俺はヘッドセットをつけディスプレイへと目を向ける。

アバターとの同期を完了させ、早速マモノ退治の始まりである。

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