プロローグ②
電車に揺られること2時間弱、歩くこと10分、家を出たときはまだほのかに暗かった空も青く染まっている。
桜並木を歩いて校門へと向かう。
校門で入学おめでとう!の胸飾りを着けてもらって案内にしたがって教室へと向かった。
1年4組、俺のクラスはここか、中には入るとほとんどの席が埋まっていて、お喋りをする者、一人で読書をしている者、スマホを弄ってる者、そわそわとしている者と皆思い思いに時間を潰していた。
俺も黒板に張ってある座席表を見て自分の席について静かに待った。
予鈴がなって、教員が入ってきた、俺たちは指示にしたがい廊下に二列に並び、入学式の会場である体育館へと向かった。
入学式は普通だった、中学の時と変わらない、長い来賓の挨拶や校長先生の話にあくびを噛み殺し時間が過ぎるのを待った。
そして、入学式が終わり再び教室に戻ったんだ。
俺は自分の席で静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。この後、おそらく自己紹介があるだろう、最初が肝心なんだ、最低でも清潔感のあるイメージ、ちょっと明るい感じの印象を与えたい、一週間かけて考えた少しウェットにとんだ自己紹介を頭のなかで反芻する。
大丈夫、しっかりと練習してきたんだ、上手くいく。
案の定、ホームルームは自己紹介から始まった。
出席番号1番の安東くんからだ。頭文字がア行から順に自己紹介をしていき俺は皆の自己紹介を頷きながら聞いていく、そしてハ行に入った。
星宮である俺の席の二つ前の女の子が自己紹介をはじめた。
「姫宮雪羅です、私の特技はー」
……姫宮雪羅、その名前を聞いた瞬間、頭が真っ白になった、もうその後の自己紹介なんて入ってこない。
彼女は雪羅なんていうどこか冷たい印象の名前とは裏腹に笑顔の可愛い女の子だ。
ふんわりとした明るい茶髪にぱっちりとした瞳、大きな双丘、間違いない俺がかつて告白した女の子だ。
走馬灯のようにあの日のことが頭をよぎる。
体が震える、動悸が早くなる、嫌な汗が出る。
俺の苗字は星宮、そして彼女は姫宮どこか似ていて可愛い女の子だからって勝手に運命の相手にした。
彼女は悪くない、勝手に俺に戦乙女認定されて付きまとわれたいわば被害者だろう、だけどどうしてなんでこの高校に、よりにもよって同じクラスに……
彼女を見ているとどうしても忘れたい黒歴史を思い出してしまって……
「星宮、おい!星宮どうした?顔色悪いぞ、大丈夫か?」
突然名前を呼ばれてハッと目が覚める。
担任が心配そうに俺の名前を呼んでいた。
「だ、大丈夫です」
「そうか、無理するなよ、次自己紹介、星宮の番な」
「はい」
俺は静かに返事をして教卓の前へと歩いて、クラスメイトを見渡す。
そして、自己紹介を始めようとしたが、頭は真っ白で……
その上、俺を心配そうに見つめる姫宮さんと目があってしまい……
「……星宮流星です……よろしく、お願いします」
目を伏せ、ボソボソと名前を言うだけが精一杯だった。
こうして俺の高校デビューは失敗に終わったのであった。
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