アーデライン=フォン=ローズフェルト①
ごめんなさい、書きかけの物を投稿してしまってました。
18の全文になります。
またよろしくお願いいたします。
「星竜解放!星竜の翼撃!!!」
眩い一筋の閃光が魔族の頸を斬り飛ばし勝利を告げるかのように高く掲げられた剣に誰もが奮い立った。
そこからははやかった。
彼に続けとばかりに勢いを増した私たちは魔物の軍勢を倒していった。
そして騎士の1人が最後の1匹を斬りとばした。
「アーデ団長、終わりましたね」
「ええ、でもまだやることは沢山あるわ、まずは被害状況の確認を」
「はっ」
アーデラインは騎士たちに指示をだしていく。
そして!ある程度落ち着いてきたところで騎士たちに指示をだしながらも、ずっと目で追っていた仮面の男のもとへと向かった。
「あの!」
その仮面の男こと流星は冒険者にまざって瓦礫の撤去などをしていた。
魔族の攻撃によって砕かれた城壁の一部を運びおえてふぅと一息ついていたところで後ろから聞こえた声に振り返った。
流星は、あ、さっきの綺麗な騎士さんだと思いながら「なんでしょう?」と返事をした。
「わ、私は王国第3騎士団団長アーデライン=ローズフェルトと申します、この防衛戦の指揮を預かっていた者です、貴殿の助力に感謝致します、ありがとう、貴方がいなければ私たちは皆殺されていた」
「はい、どういたしましてです」
「お礼をさせていただきたく、王城まで同行願います」
「いえ、お礼なんてそんな、たまたま通りかかっただけですので」
事実たまたまラルズの転移魔法で跳ばされた先に魔物がいて襲われたから戦ったという感じだ、そこまでかしこまられてもなぁなんて思う、それにアイリス姫の元から去ったのに他国の王族の世話になるのもなんだかなぁという理由もあって立ち去ろうと思う。
ふぁさり、華麗にローブの裾をはためかせてアーデラインに背中を向ける。
かつてシーツをマントがわりにめちゃくちゃ練習したふぁさりだ。
その動きは身体が覚えていた。
……ふっ、自分が恐いぜ。
彼女に背を向けて歩きだした。
「あっ、待ってください!」
とっさの事だったのだろう、立ち去ろうとする流星を引き留めようとアーデラインは彼の右手を掴んだ。
「ん?」
流星は歩みを止めて振り返ってその仮面越しに彼女に目を向ける。
アーデラインは望み通りに流星を引き止めることに成功した。
しかし、彼の腕を掴んだままじっと動かない。
それは思いがけず男性の腕を掴んでしまって照れているという訳ではない。
ただ思い詰めたようにじっと彼の腕を見ていた。
流石にこれには流星もいぶかしみアーデラインに声をかけようとした。
しかし、彼が言葉を発っするよりも早く彼女が口を開いた。
「……このような傷を負っていたのに、貴方は私たちを守るために、剣を振るってくださったのですね」
その声は震えていて、それは泣き出しそうにも感極まっているようにも聞こえた。
ん?傷ってなんだ?流星は一瞬なんのことを言われているのかわからなかった。
しかし彼女の視線の先を見て気がついた。
アーデラインが握った右腕、ローブの袖の奥に覗く包帯でぐるぐる巻かれた腕があることを。
……なんか勘違いされてる。
アーデラインを見ると、潤んだ瞳で熱を帯びた視線を向けてくる。
あ、これ、ボロボロな腕でも民を守るために剣を振るった高潔な戦士だと思われている。
ち、違うんだ、別に怪我なんかしてない。
この包帯はただの厨二ファッションなんだ。
冷や汗が出てきた、しかし幸か不幸か仮面で顔が隠れてるため流星の動揺はアーデラインには伝わらない。
澄んだ瞳に見つめられて本当の事を言いあぐねていると彼女は更に包帯の上から腕をさすってくる。
アーデラインの手のひらから伝わるのは慈しみだ。
「早く手当いたしませんと、我が騎士団の治癒魔導士は優秀ですから是非治療に......」
「大した怪我ではありませんから......」
心配そうな彼女を見ながら断ろうとして彼女の方が全身擦り傷だらけなことに気が付いた。
「俺よりも貴女の方が傷だらけではありませんか、早く治療に」
「な、なんてお方なんだ、私の怪我を気遣ってくださるなんて......」
「あ、いやあの、俺は大丈夫ですから、ね、早く治療に......」
「私の怪我なんて大した事ありません!唾でも付けてれば勝手に治ります!そんなことより貴方様です」
綺麗な容姿に似合わないたくましい事を言い出したアーデラインからの様付けに彼女の中で自分への評価がぐんと上がった事に気付いた。
その事実に後ろめたさも手伝い、たじろいで後退りしてしまう。
するとアーデラインはずいっと距離をつめてくる、その一歩は流星が後退った歩幅より大きく必然的に先程までより二人の距離が近くなる。
そんなことはお構いなしにアーデラインは更に一歩、二歩と近づきその距離感は初対面の人のそれではなく最早恋人同士のそれであった。
しかしアーデラインはそのことに気が付いていない。
彼女の声音は更に熱量を帯びていった。
「わ、私は貴方様ほど高潔なお方を知りません、貴方様こそ理想の騎士です、騎士になりませんか?いえ、私なんかより騎士団長に相応しい、私たちを導いてはくださいませんか?」
「俺は騎士なんて柄じゃ......」
「......そうですよね、きっと貴方様には成し遂げなくてはならない重大な使命があるのですよね、一国に縛り付けることなんて出来ないですよね」
アーデラインはシュンとして俯く。
そんな姿に何か言わないとと言葉を探す流星だったが、彼がおろおろしている間にアーデラインは顔を上げて、
「で、ですが!せめて傷が癒えるまでは我が国で療養してください!そ、そうです!貴方様の腕が治るまで私が貴方様の右腕になります!」
力強く提案してくる。
アーデラインの想いが先行したのだろう、彼女は更に距離を寄せてその両手は流星の胸元にすがりつくように、その顔は流星が仮面をしていなければ鼻先が触れてしまう程の距離にあった。
しかし、彼女は自分の体勢に気がついていない。
当然、普段の彼女であったのならばこのような真似はしないだろう。
しかし、戦後の高揚や死を覚悟しながらも守られたこと、日頃から密かに願っていた自分よりも強く優しい男性に甘えたい乙女的願望さえも相まってその行動を大胆なものにしていた。
一方、流星はというとその仮面の下で盛大にパニクっていた。
超のつくほどの美人さんの顔がこれでもかと近くにあるのだ。
生まれてこのかた女性の顔とここまで近づいたことなんてない。
まるで抱き合っているような体勢である。
すげぇ顔近いしめっちゃ美人だし心なしかいい香りがするし、それにあからさまに好意を向けられてるし、でもでもそもそも勘違いだし……
と流星の頭はいっぱいいっぱいになって、しばらく固まっていたがついにオーバーヒートした彼は逃げることにした。
逃げるとは言ってもそれは物理的なものではなく、精神的なものである。
つまり、普通の高校生、星宮流星から【闇を纏いし星屑】へと意識を切り替える。
要は【闇を纏いし星屑】を演じたのだ。
かつて紡いだ黒き歴史、キザでカッコいい(と当時は思っていた)言動をとることにした。
アーデラインの頬に手を添えて
「流れ星に願いごとを唱えると叶うって知っているか?」
「ふへ?」
「可憐な乙女の純粋な祈りが星に届いた、それだけのこと……礼は不要だ」
「……可憐」
すこしぽうっとしたアーデラインはハッと我にかえり、自らの体勢についに気が付いてパッと流星から離れてトットッと後ろにさがった。
その雪のように綺麗な白い素肌の顔は耳まで朱みがさしていた。
前髪をくしくしとせわしなく整えながらチラチラと上目遣いに流星を伺っている。
可愛いな、純粋にそう思った。
けれども【闇を纏いし星屑】はそんなこと尾首にも出さずに言う。
「女の子に傷が残ったら大変だ、治療に行っておいで?」
コクリ静かに頷いたアーデラインにうむと頷き今度こそ立ち去ろうとふぁさりと翻る。
「あ、あの!お名前を教えて頂けませんか?」
その背中にかけられた願いにこう答えた。
「……ふっ、名乗る程の者ではないさ」
☆☆☆
「名乗る程の者ではない、ですか……そんなこと、ありませんよ、だって私たちを助けてくれたではありませんか、ちゃんとお礼したいです」
立ち去っていく彼の背中を見つめながら静かに呟いてみる。
「いえ、ちゃんとお礼をしましょう……でもお金や地位とかは受け取ってくれないでしょうから、どうしましょうか」
(……私のこと、可憐だっていってくれた、ならキスとかしたら喜んでくれるのかな?)
つい想像してしまう先程までの体勢、あのまま彼の仮面を外して、それから……
「はぅ」
ぶんぶんと頭をふってその考えを打ち消す。
そんなことをしていると後ろから声がかけられる。
「アーデ団長」
副官のエリノーラだ、振り返る。
「どうされましたか?お顔が真っ赤ですよ」
「な、なんでもありません、大丈夫です、問題ありません」
朱く染まった顔を指摘されてしまった、そんなことはないのだろうけど、
さっきまで考えていたことが彼女に気づかれてしまったかのようで慌ててしまう。
「ホントに大丈夫ですか?もしかしてどこか怪我を」
「い、いえ心配には及びません!」
本気で心配されてしまった。
パンパンっと頬を叩いて浮わついていた心を落ち着かせる。
「はい、大丈夫です、さぁ報告を」
「はっ、」
エリノーラの報告を聞きながら、復興に防衛設備の見直しに、彼へのお礼、やることは山積みですね、ふんっと気合いをいれます。
仕事は沢山あるけれど不思議と憂鬱な気持ちにはなりませんでした、だって皆生きてますから、さぁ頑張りましょうか。
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