絶望を切り裂く黄金色の剣
流星達が召喚された国から離れた、大陸の東にある小国、アリーズ王国。
その首都ウォーグレンは巨大な壁に囲われた城塞都市だ。
城塞都市の中心部にそびえ立つ城。
その王城の廊下を二人の女性が歩いていた。
二人とも似たような服装をしている。
白地に青のラインがデザインされた騎士服に腰には細身の剣を携えている。
二人の違いは胸元の勲章の数ぐらいだろうか。
「アーデ団長、宰相からの呼び出しってなんなのでしょうか?」
「わからないわ、けれど私達のやることは変わらないわ、この国の民のために剣を振ることだけよ」
アーデ団長と呼ばれた女性は、アーデライン=フォン=ローズフェルト、アリーズ王国第3騎士団団長である。
隣の女性はエリノーラ=フォン=リリーベル、アーデラインの副官である。
コツンコツンと規則正しい足音を響かせていた二人は1つの部屋の前で立ち止まる。
アーデラインはコンコンっとノックをしてからドアのぶを回した。
「第3騎士団、アーデライン入ります」
「同じくエリノーラ入ります」
「ああ、突然呼び出してすまないね、アーデライン団長、エリノーラ副長」
その部屋の中にはひとりの男性がいた。
目元に大きな隈をつくり疲れきった様子の男こそがこの国の宰相、リリク=フォン=グラスグリーンである。
「かまいませんよ、宰相殿、してご用件は?」
この人、働き過ぎでは?と思いながらアーデラインは宰相に話を促す。
「その、なんだとても言いづらいのだが悪い報せだ……魔族が攻めてくる」
アーデラインは自らが呼ばれた理由を察した。
アーデラインは第3騎士団団長、この国には3つの騎士団がある。
しかし、第1騎士団は遠征中、第2騎士団は王族の近衛騎士団、このような有事の際は王族の護衛につく、つまり現状戦力と言えるのは第3騎士団のみである。
「敵の規模は?」
「確認できた魔族は1体、その魔族が三千匹程の魔物を率いて進軍している」
「魔族は1体だけですか、魔物のランクは?」
「ほとんどがCからE、Aは数十、Bもそこそこいる、Sは確認されていない」
Sクラスの魔物が確認されていない、アーデラインはそのことに少し安堵した、それは隣のエリノーラも同じだったようで、
「確かに脅威ではありますが、そのくらいであれば我々と冒険者たちでなんとかなるでしょう」
「うむ、しかし問題なのは魔族の方なのだよ、エリノーラ副長」
「といいいますと」
「十二魔将なのだよ」
その言葉に二人は言葉を失った。
十二魔将、魔王と四天皇につぐ魔王軍最高戦力だ。
一体一体が魔物でいったらランクSS以上の脅威だろう。
「先代の勇者パーティーによってほとんどが倒されるか封印されるかしていたはずですが、復活していたのですか……」
「そういうことだ、これからギルドマスターと作戦会議にはいる、君達も動向してくれ」
☆☆☆
アーデライン達は会議室に入室した。
中には幾人かの貴族と冒険者がいた。
(あそこにいるのはAランクパーティー《蒼狼の爪》のリーダー、あっちも同じくAランク《朱色の宝玉》、そのとなりもAランク《銀牙》……Sランクはいませんか……魔将の相手は私がしなくてはならないみたいですね)
「これより作戦会議を始める」
敵の戦力、進軍ルート、首都までの到達時間、偵察部隊が得た情報を基に作戦がたてられる。
魔物の軍勢は2日で到達するだろうということ。
遠征中の第1騎士団に連絡をいれたが全速力で戻ったとしても3日はかかること。
罠を張るにしても防壁を築くにもとにかく時間が足りない。
結果、作戦はいたってシンプル。
この首都ウォーグレンを囲う壁の内側から遠距離攻撃魔法で雑魚を間引いてからAランクの魔物や魔族を討ちにいくというものになった。
街を囲う壁には結界が張られておりかなりの防御力が期待されている。
ある程度なら魔将の攻撃も防げるだろう、その間に雑魚を殲滅しようというのだ。
「アーデライン団長、君が魔将を抑えてくれ」
「かしこまりました」
(第1騎士団長もSランク冒険者もいない今、この国の最高戦力は私でしょう、きっと私では魔将を倒せない、けれど第1騎士団が戻ってくるまでの時間稼ぎくらいはしてみせましょう)
☆☆☆
そして、二日後。
「見えました、魔物の大軍!」
「よし、魔導師部隊、詠唱開始!いつでも撃てるようにしておけ!」
しかし、魔導師部隊は魔法を放つことは出来なかった。
騎士、冒険者、その場にいた全ての者に声が聞こえた。
「なんだぁ、街ん中に引き込もってんのか?こないなら俺様からいくぜ?」
続いたのは爆風と轟音。
舞い上がった砂ぼこり。
斧だ、巨大な赤く光る斧が翔んできたのだ。
魔将が投擲したのだろう。
「……壁が壊された」
「……嘘だろ、たった一撃で?」
魔将が投擲した斧は結界を切り裂き、城壁の一部を粉々にした。
瞬きする間もなく起きたことに、騎士、冒険者問わず絶望した声が聞こえる。
(いけません、このまま心が折れてしまったらただ蹂躙されるのを待つだけになってしまいます)
「魔導師部隊ッ!攻撃開始!放て!!!」
アーデラインは叫ぶように命令をした。
その声に呆然としていた魔導師たちは詠唱を再開し攻撃魔法の雨を降らせた。
アーデライン自身も魔力石を砕き威力をブーストした上級攻撃魔法【紫電の蛟】を魔将を狙って放った。
攻撃がやむ、低ランクの魔物はあらかた倒せているが、Aランクの魔物は傷こそついてはいるが、大したダメージは受けていない様子だ。
その上、魔将に至っては無傷である。
(わかってはいましたが、魔将とはこれほどのものなのですか……いけません、私が弱気になっては皆が崩れてしまう、こんな時こそ堂々と前にでなくては)
「作戦通りです!蒼狼、朱色、銀牙、Aランクの相手を、エリノーラ!騎士たちの指揮を、魔将の相手は私がします!皆、守りますよ、私達の国を!」
そう言ってアーデラインは悠然と歩きだした。
(私の声は震えてはいなかったでしょうか?……ああダメです、怖い、だけど私が逃げたら街の人々が殺されてしまう……闘わないと、私が一番強いのだから……怖い怖い怖い……だれか、だれか、助けて)
そうです、この時です。
彼が空から降ってきたのは、まるで流れ星のように。
流れ星は願い事を叶えてくれるというけれど、きっと私たちの祈りが通じたんです、助けに来てくれたんです。
夜空のように黒いローブに身を包み、吸い込まれそうな程に黒い剣と深い闇の中で耀く黄金色の剣を携えて、その一太刀で私達の絶望を切り裂いてくれたんです。
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