ラルズの大墳墓④
…………コツン、コツン。
暗闇のなか静かに足音が響く。
だんだんと近づいてくるその足音の方をみると、そこには赤い骸骨がいた。
明らかに今までの骸骨とは違う気配。
その手には身の丈ほどの白い杖が握りられている。
その杖の上部には拳大の青い宝石、その宝石の中心には焔が封じ込められている。
その杖の記録を王城で読んだことがある。
世界樹の枝に最高級の魔宝石、焔龍の息吹を封じ込めた世界にただ1つだけ存在する杖だ。
つまり、この杖の所有者は……
「……リッチーロード《ラルズ》」
この《ラルズの大墳墓》の由来となった化物がいた。
大魔導師ラルズ、千年前栄華を誇った国の宮廷魔導師だった男だ。
あらゆる魔術を極めたその男は死さえも超越しようとし禁術にまで手を染めた。
不老不死へと至る研究、誰も無しえたことのない奇跡、竜種の逆鱗や世界樹の朝露、不死鳥の羽、様々な希少な素材をもちいて不老不死の秘薬を造ろうとした、しかし、あと1つ何かが足りない、その欠片さえ揃えば完成できるはずそう考えた男はついにもっとも身近でいままで素材にしたことが無いものを思い出した。
人間だ。
そうだもともと人である私が不老不死へと至るための研究だ、同じ種族である人を研究しなければ話しにならない。
まずはスラムの子どもから、次は村人、宮廷魔導師としての権力を使えば簡単だった。
男はバレずに何千もの人を殺した。
流石にこの辺りから騎士の巡回も厳しくなってくる。
まだ、足りない。
自らの弟子を煮詰めた。
……ダメだ、そうだ、もっと高貴な血を使ってみよう。
私に惚れていたあの娘がいたな、ちょうどいい。
ある貴族の娘の心臓を取り出したところで、全ての悪事がバレて騎士団を差し向けられた。
仮にも宮廷魔導師、あらゆる魔法を極めた男だ。
騎士団の包囲を突破し逃げることは容易かった。
男が向かった先は、森の中のゴミ捨て場、研究に使った死体を棄てていた場所だ。
男は魔法で土を掘り、地下に広い空間を造っていた、そこに死体を棄てていたのだ。
故に大墳墓。
無論、国も騎士団を追ってとして差し向けたが、そこに待ち受けていたのは動く死体と数々の罠、騎士団は男を討伐できぬままに年月だけが過ぎた。
今はもう、男が宮廷魔導師をしていた国はない。
「ヒョヒョヒョ、上の階が騒がしいと思って来てみれば、なんとそれを壊したのか、やるではないか、それはワタシの研究成果の中でも傑作、なかなかの代物だったのにのぉ……どうれーー」
……シワがれた声、骨だけでもわかる醜悪な笑み、けれども目の前のコイツは強い。
先手必勝!間合いを詰めろ、常に剣士の間合いで闘え、相手は魔導師、距離をとられるな!
一息で踏み込み、星剣で斬りつける!
キンッ
……!?障壁の様なものによって防がれた。
「驚いたか?オートプロテクション、ワタシの開発した魔法よ、」
もう一撃、
キンッ
「むぅ、まだ話しておる最中であろう、先程から話の途中で、まったく最近の若者ときたら」
ガキンッ
防御の魔法を使っているということは不老であっても不死ではないということだろう、コイツは倒せる!
動きを止めるな!間合いを詰めろ!斬りまくれ!
「……8月3日、晴れ、夏だ、」
「ぬ?何をブツブツ言っておる?」
「……流石に暑いな、外そうかな、指貫グローブ ー発動【付与炎槍】」
星剣に炎を纏わせる、渦を巻いた炎が槍を形づくって
「炎槍突撃!」
ギュィーン!!
ラルズの魔法障壁と俺の炎槍がぶつかり火花を撒き散らす。
「はぁーー!!!」
「……ぬう」
瞬間、爆ぜた。
障壁を突き破ってラルズにダメージを与えることはできなかったが、しかし、ヤツをぶっ飛ばせた、障壁を少し削れた、ヤツは無敵じゃない!
駆ける、間合いを詰めて斬りつける!
キンッ!
「……ぬう、体勢を立て直すか【テレポート】」
……!?消えた、瞬間移動か。
だが、
「星魔眼」
千里を見通すことのできる俺の魔眼はただ遠くを視ることができるだけじゃない、気配を探れるのだ。
……見つけたッ
バックステップして反転、星剣を凪ぐ!
ガキンッ
「何故、わかった!?……【テレポート】」
……そこか、魔剣を振り下ろす
ラルズが転移し、俺が見つけて斬る。
互いに致命傷を与えられないまま鬼ごっこは続く。
……勝てない、確かに障壁を削れてはいるが、まだ時間はかかるし、俺の体力と集中力が先にきれるかもしれない。
だめだ、弱気になるな、今の俺は闇を纏いし星屑、俺に斬れないものなど何もない!
最強をイメージする。
障壁ごと切り裂く一太刀を。
今まで教室なのかで何百何千と妄想してきたじゃないか、テロリストが現れたらどう制圧する?ドラゴンはどう倒す?アンデットの倒しかたも、それはただの妄想だったけれど、このセカイでならこの身体なら現実にできる!
恐怖も焦燥も押し込めて、ただ斬るその意思だけを刃にこめて……
すっと星剣が障壁へとはいる、斬れる。
「……!?ワタシのオートプロテクションが……ぬぅ【テレポート】!」
「どこに逃げようと必ず斬る!」
「逃げんよ、ワタシは何処にも、跳ぶのはお主じゃ」
「ッ!?」
俺の身体を赤紫色の魔力が包んで……浮遊感に襲われる。
テレポートの対象を俺に指定したのか、くそッ
……最期に視たのはラルズの醜悪な笑みだった。
プツン、視界が途切れる。
ヒュン
……何処だここは?ダンジョンの外、ん?墜ちている?
下を見る、遥か下に豆粒のように街が見える。
上空に飛ばされたのだ。
ヤバい、この高さからの落下、死が頭をよぎる。
吹き荒ぶ風のなかで考える。
着地の直前攻撃系のスキルを地面に放ってその衝撃で落下の衝撃を和らげよう。
詠唱を開始する。「5月28日、雨…………」
……300m
……200m
……100m
ここだッ「【水槍突撃】!!」
衝撃に備える、大地と水槍がぶつかる。
転がる様に着地に成功した、生きてる。
土埃がおさまる。
「……あ、貴方は?」
後ろから声が聞こえた。
振り返るとそこには呆けた顔の綺麗な女騎士がいた。
その彼女の後ろには彼女と同じ鎧をきた騎士たちと武装した冒険者たち。
へ?戦でもあるの?
俺は再び振り返り前方を見ると、魔物の大群がいた。
……なにこの状況?
お読みくださりありがとうございます!
「面白い」「なんかもにょもにょする」「右手が疼く」と感じた方はブクマ、評価、感想、宜しくお願いします。