旅立ち
骸骨巨人を倒したあと王城へと戻った。
今日の戦いの反省会だ。
騎士団長の総評を聞いた後で皆の意見を交わしていく。
「ひぃとりさぁ、何んの役にもたってねぇ奴いたよなぁ」
工藤が俺の方を見ながらそう言った。
「てめぇのことだよ、星宮ぁ、なんか言ったらどうだぁ?あ?」
「ちょ、ちょっとやめなよ」
つかつか詰め寄ってきて胸ぐらを掴みあげる工藤、何人か間に入ってとめようとしてくれるけれど、
「うん、その通りだね、ごめん」
なんの役にもたってないその通りだったので、謝った。
「あ?ふざけてんか?」
それが更に気にくわなかったようで胸ぐらを掴む腕に力がはいる。
「今日はここまでにしよう、初戦闘の興奮が冷めてないんだ、皆冷静でいられてない」
「ちっ」
剱崎の言葉で今日はお開きとなった。
「コホッコホッ」
「星宮くん、大丈夫?」
「うん、大丈夫、姫宮さんありがとう」
……どうして彼女は俺なんかを気にかけてくれるのだろうか?
☆☆☆
「アイリス様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「はい?どうしましたかリューセイ」
ずっと考えていた。
このままでいいのかって、クラスメイトの中では、姫宮さんの側では、戦えない。
今日、ダンジョンで骸骨巨人と戦って強く思った。皆がピンチの時何もできなかった。
だから、俺は1人で旅にでようと思ったんだ。
俺はアイリスに旅に出たいとだけ伝えた。
「……たしかに、スキルを使えないのでは居づらいのかもしれませんね」
アイリスはとても申し訳なさそうな泣き出しそうな顔をしていた。
「い、いえそんなことは……これは俺の問題で……」
「こちらの都合で勝手にお呼び立てしたのにも関わらずこのような形になってしまい申し訳ありません、旅の一式こちらで整わせていただきます、して出発はいつに?」
「できるだけはやく、できれば明日の朝にでもと考えていました」
「それは、急ですね、もう少しここにいてもいいのではありませんか?」
「いえ、あまり長く居座ると別れが寂しくなってしまいそうで、クラスの皆やアイリス様とも」
「わ、私もですか?仕方ありません、急ぎで用意させます、ですが忘れないでください、いつでもここに戻ってきていいんですからね」
アイリスはそういうと近くに控えていたメイドに旅支度を整えるように命じた。
「それからリューセイ、ついてきてください」
そう言って歩きだした。
長い廊下を歩いていく。
暫くして一つの部屋の前で立ち止まった。
「こちらに」
中に入るとそこには様々な剣や槍、甲冑、アクセサリーにただのガラクタみたいなものにいたるまで所狭しと並べられていた。
「ここは私が管理する宝物殿です、強力な武具もあります、お好きなものをお選びください」
「……アイリスさま」
「このようなことしかできず心苦しいのですが……」
「そ、そんなことありません!ありがとうございます」
彼女の厚意に胸が熱くなった。
宝物殿の中をゆっくりとみて回る。
「……これは」
無数の仮面が壁にかけられて飾られていた。
「これは見ての通り仮面ですね、貴族の催しの1つに参加者全員仮面着用で出席するパーティーなんてものもあるのですよ、これはそれようですね」
無数の仮面の中の1つ。
その仮面に何故か強く惹かれて「これにします」勝手に口が動いていた。
「これでいいのですか?なんの魔法効果もないただの仮面ですよ」
「これがいいんです」
「わかりました、ではこの仮面を、それからこちらを」
アイリスは壁にかかっていた仮面と一本の短剣を俺にくれた。
「この短剣は?」
「この短剣には守護の祈りが籠められています、きっとリューセイを守ってくれます」
「……ありがとう、こざいます」
どうにか口からしぼりだせた声はかすれてしまっていた。
☆☆☆
翌日。
まだ多くの者が寝静まる程の早朝。
城の前、俺は1人旅立とうとしていた。
見送りに来てくれたのはアイリスのみだ。
これは俺がクラスの誰にも旅に出ることを告げずにいたからだ。
「……お元気で」
「はい、アイリス様もご自愛ください」
城に背をむけ歩き出す。
一歩一歩。
「待って!待って!」
後ろの方からそんな声が聞こえた気がして振り返った。
「……姫宮さん?」
「……はぁはぁ、待って……どこにいくの?……はぁはぁ、いつ帰ってくるの?……すぐだよね?」
「……ごめん」
「今朝、何故か早く目が覚めたの!……なんだか嫌な予感がして、私たちと一緒にいようよ!昨日、工藤くんに言われたこと気にしてるの?足手まといだなんて思わない!」
「ううん、気にしてないよ」
「ならなんで!」
「……ごめん」
「わ、私が守るから!だから!ここにいてよ!」
「……違うんだ姫宮さん、やっぱりさ俺も男だからさ、守られてるだけじゃ嫌なんだ、だからちゃんと強くなって守れるようになりたい、これはそのために必要なことなんだ」
「……いやだよ、」
俺の服を握りしめポロポロと涙をこぼす彼女の頬に手をあてその瞳をしっかりと見つめて伝える。
「もし、どうしようもなくなって、助けてほしいって時は俺の名前を呼んで、必ず助けにいくから」
「……うん、知ってる」
彼女はそう言って握りしめていた手を離し一歩後ろにさがって涙をぬぐって下手くそな笑みを浮かべたんだ。
「姫宮さん、行ってきます!」
そう言うと彼女はいつものように、俺が心を奪われた素敵な笑顔を浮かべてくれたんだ。
「いってらっしゃい!」
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