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君が為  作者: 末永彩琉
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信頼と焦燥

近藤さんに事の顛末を話す。梓紗が攫われたのは間違い無いにしても、理由も目的も判らな……………。理由は俺の許嫁だから、か………。だが、目的は何だ?新選組の瓦解を狙った所で、ただの愚策だろう。間諜として利用する気か……?いや、ほんの僅かでも梓紗と接すれば、向いていないと気付くはずだ。

何にせよ、下手をすれば梓紗の命が危ない。過激派の奴らが欲しがるような情報なんて、あいつは一切持っていない。


「彼女については、監察方に調査させてはどうか」


俺の静かな焦りに気付いたのか、近藤さんが口を開いた。


「島田に行かせるか………」


山崎は別件で不在な為、もう1人の優秀な人物に頼むのが良いだろう。梓紗の居場所さえ判れば、助ける為の策を練れば良いだけだ。


「制札の件に関しては原田に、総司は三条大橋付近での聞き込みだな。目撃者が全く居ない訳でもなかろう。彼女が拐かされたのなら、早急に動かんと命に関わる可能性だってある。島田くんに調査してもらっている間、あらゆる想定のもとに、対応策を考えねばな」


近藤さんの言葉を受けて、総司は早々に動き出す。


「島田、頼んだぞ」

「御意」


気配を消し潜んでいるであろう島田に命じる。監察方の実力は信頼に値する。俺に出来ることは、齎される情報を基に策を練る事だ。気ばかりが急いて、上手く思考が纏まらない。だが、やるべき事は山積みだ。片付けなければならない仕事をこなしながら、情報を待つより他ない。近藤さんの部屋から自室へと戻る。隣からは、当然ながら梓紗の気配は無い。女の部屋に勝手に入るのは躊躇われたが、少しでも梓紗を感じたくて襖を開ける。綺麗に整えられた部屋には、いつぞや買った着物が掛けてある。簡素な鏡台の上には、いくつかの組紐が。

それらを纏った梓紗を思い浮かべては、今どんな思いでいるのか、拷問などされてはいないだろうかと、不安になる。


(俺が不安に思う事があるとはな……。それだけ、あいつに心が傾いているという事か……)


そろそろ仕事しねぇとな、と思い、襖を開け放したまま文机に向かう。島田が、総司が、どんな情報を齎してくれるのか。奴らが戻ってくるまでに、目の前の仕事を片付けておかねばならない。近藤さんの指示が必要な物から、順に目を通していく。余程集中していたらしく、気付けば夕餉の時間になっていた。よく通る甘やかな声で俺を呼ぶ梓紗は居ない。代わりに来たのは新八だ。

一部の幹部連中には、梓紗が攫われたと伝えたが、信用ならねぇ奴らには山崎の仕事を手伝っている為、暫く戻らねぇと伝えておいた。故に、この件について話す時は俺の部屋でのみと決めた。


「梓紗さんが居ないと、こんなにも静かなんですねぇ……」


武田がため息混じりに呟く。迂闊に余計な事を言わないように、そうだなとだけ言って平助が同意する。


「早く戻って来てくれねぇかな、梓紗ちゃん」


新八がしみじみと呟けば、


「うむ。彼女の存在は癒しだからな。早々に戻って来て貰わねば」


と近藤さんも、どこか寂しそうに言う。俺の許嫁殿は、随分と皆から可愛がられているようだ。故に願う。傷一つ無く、無事に俺達の所に帰って来てくれと………。






******************





ここへ連れて来られて、数時間は経っただろうか。この時代に来て、こんなにも歳三様達から離れたのは初めてだと思う。


「帰りたい……………」

「ごめんねぇ、それは無理だよ」

「っ……………!」

「あ、やっぱり驚かせちゃったみたいだね」

「………………」

「ご飯持ってきたから、一緒に食べよう?」


お腹は空いている。だけど万が一を考えると、彼が持ってきた食事を食べるのは危険だ。そんな風に考えているのが顔に出ていたのか、


「毒なんて入ってないよ。君が大人しくしていてさえくれれば、危害は加えないって言ったでしょ?」

「………だからと言って、貴方を信用する訳にはまいりません」

「まあ、そうだろうね。でも、食べないともたないよ?無駄死にさせるつもりもないんだ」


そう言われても信用は出来ない。物腰は柔らかいけど、威圧を感じる笑顔が不信を煽る。彼自身それを自覚しながらも、納めようとはしない。なのに食事をしろと言う。手足が縛られた状態で食事も何もないのだけど、確かに食べなければもたないし、歳三様達の所へ帰れる日が来るかもしれない。少しの期待と諦めのもと、受け入れる事にした。


「…………わかりました。ですが、この状態では食事など出来ません」

「ん~………、じゃあ、食事の時は手の拘束だけ解いてあげる。食べさせてあげても良いけど、君は嫌がりそうだし」


ご理解頂けて何より。受け入れはしたけど、これが続くのだと思うと憂鬱になる。拘束を解かれ、目の前に食事が差し出される。人質に出すにしては豪華な料理。思わず彼を見ると、


「だから、毒なんて入ってないって。遠慮しなくて良いから食べなよ。作ってくれた人に失礼だよ?それとも、食べさせて欲しいの?」


意地悪く笑う。


「いただきます………」


そう言って箸を伸ばすと、彼も食べ始める。

食事の際こんなにも静かなのは、こちらに来て初めてだった。だとしても、彼と会話する気にはなれない。話しかけられれば応える程度で良い。私の居場所は、帰る場所は新選組だから。彼等に不利益な事など、私は望んでいない。食事も会話も、最低限で良いと思っている。

黙々と食事をし、私には多すぎる量は食べ切れるはずもなく、半分近くを残す事にした。作ってくれた人に申し訳ないが、こればかりは仕方がない。


「……ご馳走様でした。」

「もう良いの?結構残ってるけど」

「私には多すぎますから……。それに、私は客人ではなく人質なのでしょう?」

「……………君は、自分の立場をよく理解しているんだね」


私は首を横に振る。この状況における立場を理解しているかと問われれば、否である。人質にしたところで、私は何も持ち得ていない。差し出せるものなど、持ち合わせていない。


「何を目的として私を攫ったのかは知りませんが、現状から人質であると推測しただけです」

「だとしても、よく理解していると思うよ。でもね、1つだけ思い違いをしている」

「え?」

「確かに手足を拘束されてるから、そう思うのは無理もない。でもね、君は人質ではないんだよ」


この人は何を言ってるのだろう。気絶させられた上で攫われて、手足を縛られていたのに、『人質じゃない』?


「ある人に頼まれててね。君を『見つけ出して連れて来い』って。頼んだ本人は故郷に連れ戻されたけどね」

「その方が居ないのに、私をここへ……?」

「そう。だって君、滅多に新選組の屯所から出ないじゃない。それに、あいつだっていつ戻って来るか分からないからね」

「何故私なのでしょう………」

「それは本人に聞くと良い。ちなみに、逃げられると困りはするけど、危害を加えるつもりは一切無いんだ。あいつの気が済んだら、ちゃんと帰してあげるよ」


彼の言葉を信じる事は出来ない。その考えは変わらない。連れて来られた理由を明確に示されていないし、食事を終えた今、再び手を拘束されているのだから。人質で無くとも、客人でも無いのだ。

嘘か本当か判らないけど、それがどうであれ、歳三様はきっと私を探してくれているはず。連れ戻すための策も考えてくれているだろう。

誰よりも厳しくて、誰よりも優しい彼の人は、形ばかりの許嫁にも心を砕いてくれるから。


「君があの男の許嫁なんて、やっぱり信じられないなぁ……」

「……え?」

「……ううん、何でもない」

「そうですか……」


何でもないと言うなら、深く聞かないでおこう。聞いたところで、私には何も言えない。恋い慕う相手が、同じ想いを返してくれるとは限らない。あの場所に居る為に必要な役目であって、本物じゃない。

だけどもし、本当に無事に帰る事が出来たなら、自分の気持ちを伝えよう。叶わなくても、この役目はしっかりとこなそう。迷惑をかけたくはない。邪魔になりたくもない。枷になるのなら、いっそ切り捨てて欲しい。そう願う程、私の心は歳三様に囚われている。


「じゃあ僕は戻るね。君を連れて来たこと、まだ知らせてないんだ。また明日食事の時にでも」


そう言って立ち去る彼に、言葉を返す事は無い。もとより彼も返事を期待していなかったのだろう。何事も無かったように部屋を出て行った。

新選組の皆さんとなら、沈黙も心地良い。私を連れて来るように命じた人がいつ帰ってくるのか、いつ解放されるのか、本当に歳三様の元に帰れるのか。何も判らないけれど、どうしようもない。ずっとこのままという訳でもないと思うから、もう少し様子を見るつもり。

歳三様達を信じているからこその余裕。こちらの様子が分からない新選組が、どれ程焦っているのか等知る由もない。私が連れ去られてから半日、歳三様の焦燥を知るのはもう少し後になってからだ。






*****************





─○○視点─



全く世話の焼ける人だ。


「先刻呉服屋で、珍しい毛色の女を見つけた!あの女が欲しい!」

「はい…………?」

「ただ問題があってな」

「……はあ、何なんだ、問題っていうのは?」

「その女、土方の許嫁だと言っていた」


………あ?こいつ、今何て言いやがった……?

いけない。言葉が乱れた。


「で、土方の許嫁殿を何だって?」

「欲しい!」

「断る」

「嫌だ、欲しい!」

「ならば自分でどうにかしろ」


我儘も大概にしろと思う。こいつに付き合っていたら、命が幾つあっても足りない。そもそも土方の許嫁だというのなら、不用意に出歩く事もなかろうに。


「俺は1度長州に戻らねばならん。というか、戻れと命じられている」

「あぁ、脱藩の疑いがかけられていたな」

「念の為特徴を伝えて行く。もし見つけたら捕らえておけ。俺が戻るまで、丁重に扱えよ。見た事もないような美しい娘だ。傷一つ付けるんじゃねーぞ?」


聞かされた特徴は、芸妓や遊女とは異なっていた。何人かにそれを伝えておく。僕が探し歩けるとは限らない。ましてや新選組と関わりのある女だ。出来るなら、あいつの戯れ言と無視しておきたいのだが、拗ねられても厄介なので一応気に留めておく。




あいつが長州に戻ってから一月程経ったある日、藩邸に帰ると彼女が居た。

なるほど、確かに珍しい毛色だ。万が一の事を考えてか、手足は縛られている。


「ここは………………」

「お目覚めかな?」

「ここは何処ですか…………?」

「それは教えられないかな。君を解放するつもりは無いけど、万が一の事があれば君を殺さなきゃいけないから」


軽く脅しておく。危害を加えるつもりは全く無い。傷一つ付けるなと、丁重に扱えと言われているから。そんな風に言付かっていなくても、これだけ美しい娘さんだ。傷など付けるものか。怯えているのか、涙を流す。零れたその雫すら美しい。

彼女はとても気丈だった。冷静に自分の置かれた状況を判断し、理解しているように思う。


「帰りたい……………」


ごめんね、帰してあげられない。あいつが戻ってくるまでは、ここに居て貰わねばならないんだ。共に食事をして、彼女を観察する。自身が人質であると思い込んでいるからか、食事にも警戒している。その量の多さにも、料理の豪華さにもその意を示した。こちらの意図を理解せずとも、僅かな希望を見出して料理に手を伸ばす姿でさえ、凛としている。


「じゃあ僕は戻るね。君を連れて来たこと、まだ知らせてないんだ」


そう言って部屋を後にする。返ってくる言葉が無いのも気にならない。

自室に戻って、あいつへの手紙を綴る。その間にも、新選組の動向を調べている者から報告が入る。監察方が彼女の行方を捜している。引き続き動向を調べさせつつ、こちら側の情報が漏れないように徹底する。ここは長州藩邸だ。そう簡単に彼女を連れ戻されては色々と拙い。


彼女は恐らく逃げ出さぬだろう。だとしても、彼女の心が疲弊する前に帰って来い。



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