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君が為  作者: 末永彩琉
4/11

許嫁という立場

私の部屋は、運び込まれた場所。土方さんの隣の部屋。そこしか空いていないという事と、土方さんの婚約者という立場で、傍仕えを仰せつかった事による。お小姓さんと言えば良いだろうか。それでも若い娘というのは、この男所帯では身の危険があるだろうと、近藤さんの提案によるもの。土方さんは目を見開き、何か言いたげに近藤さんを見ていたのだが、華麗にスルーされていた。


「梓紗くん、君はこれからトシの許嫁として、傍仕えをお願いするよ」

朗らかな笑顔をたたえて、近藤さんは言い放った。

幹部の皆さんに説明する為に、ある程度の立場を与えねばならないのだと言う。

幹部の皆さんにもそう認識して貰えたが、それ以外にも役に立てと言外に含んだ台詞を、武田さんが放つ。

ある程度の家事なら出来るため、それを言うと土方さんもそれならと許可をくれた。

私としては、今日これからでも良かったのに。無理をするなと、許嫁殿に言われてしまっては黙るしかない。そうして手持ち無沙汰になってしまった私は、替えの着物が無いことに気付き平助くんと総司くんと連れ立って、買い物に行く事になった。

2人に着物を見繕って貰い、支払いを平助くんにお任せして、総司くんと次のお店に向かう。この時、平助くんのお会計がやけに長かったのだが、その理由が判るのはもう少し後。



翌朝、斎藤さんと共に台所へ。献立というものは特になく、その時にある材料を見て決めるのだという。朝の鍛練をしている隊士も居る為、軽めだけどしっかりとした物を作ろう。

丁寧に出汁を取り、味噌汁と焼き魚、おひたし等を作る。竈を使った事がないので、使い方や火加減などは斎藤さん達にお願いする。ご飯は少し多めに炊いてはみたものの、足りるだろうか、という不安も過ぎる。

そうして出来た物を広間に運ぶと、食事が始まる。予め自分の分は別に取り置いて、皆さんへの給仕に回る。

「味噌汁のおかわりを貰っても良いだろうか?」

近藤さんが遠慮がちに言うので、思わず元気よく答えてしまった。

「では、私にも頂けますか?」

と武田さんも言う。

「お口に合いましたか?」

とおかわりを渡しながら問えば、

「これが答えですよ」

と微笑まれた。良かった、と安堵の表情を浮かべる私を土方さんが呼ぶ。

「お呼びですか?」

「お前も、他の世話ばかりしてねえで、さっさと飯を食え」

不機嫌そうにそう言うと、私の手を引き隣に座らせる。

「ご一緒してよろしいのですか?」

「構わん。後回しにしたら、食いっぱぐれるぞ」

「……ありがとうございます。では、取りに行ってきますね」

立ち上がりかけた時、私の前にスっと膳を差し出す島田さん。

「どうぞ。入れ違いにならなくて良かったです」

「ふふ、ありがとうございます。……では、いただきます」

落ち着いて食事が出来たかと問われれば、答えは否なのだが、それは給仕に回っていた訳では無く、土方さんとの事を平助くん達にからかわれたからだ。もう、あの時平助くんも総司くんも聞いていたじゃない!声に出して抗議出来ず、精一杯睨んでみたのだけど、2人には通じなかったみたい……。

そんな状況下でも何とか食事を終え、片付けを始める。3番組の皆さんが膳を下げてくれたので、洗い物を始める。慣れないためか、少し時間が掛かってしまったけど、皆で洗っていたのですぐに終わった。洗濯は各自でするらしく、私が手伝う事は無さそうだ。さて、どうしようかと悩んでいたら、とても珍しい人に声を掛けられた。

「梓紗さん、今手空きだろうか?」

振り返った先には山崎さん。

「はい、空いてますよ。何かお手伝い出来る事ありますか?」

「うむ、サラシの洗濯を頼めるか?俺は薬の補充をしなければならなくてな……」

「はい、承ります。終わりましたら、お声掛けしますね」

頷くと、足早に去っていく山崎さん。

食器を洗っている時に、洗濯の仕方も教わっておいて良かった。早速洗濯を始めるが、なかなかに難しい。一緒に洗濯していた隊士さんからも、効率の良い洗い方や干し方を教えて貰い、何とか午前中に終わらせる事が出来た。

昼食はどうするのかと思い、土方さんの部屋へ向かう。

「土方さん、いらっしゃいますか?」

「入れ」

「失礼します」

「用件は何だ?」

「昼餉は皆さんどうなさるのかと思いまして……」

「…………あぁ、昼は各々で済ますから、作らんでも構わん。頼まれた時は作ってやれ。」

「かしこまりました。本日、土方さんや近藤さんは如何なさいますか?」

「近藤さんはお偉いさんと会合があるから要らん。俺もこれから少し出掛けるから不要だ」

「そうですか……。では、必要な時は仰ってくださいね」

「わかった」

「では失礼します」

頭を下げてその場を辞する。私だけなら適当で良い。朝の残りもご飯だけだから、お茶漬けにでもして、サラっと済ませよう。お掃除もしたいし、それが終わる頃は頼まれた洗濯物も乾いているだろう。初夏の風は程よく爽やかで、とても過ごしやすい。エアコンや扇風機といった文明の利器は無いものの、打ち水という涼のとり方はある。現代社会においても、京都では昔ながらの町屋等では、よく見る風景だ。軽めの食事を終え、廊下を磨きながらそんな事を考えていた。

巡察に出ていた隊士達が戻ってくる。今日は平助くんと永倉さんの隊だったようで、玄関周りを掃除していた私に声を掛けてくれた。

「梓紗、戻ったぞ~」

「梓紗ちゃん、俺も戻ったぞ~」

「平助くん、永倉さん、おかえりなさいませ。皆さんもお疲れ様でございました」

そう言って微笑むと、他の隊士さん達も

「ただいま戻りました」

と応えてくれる。

「梓紗ちゃん、ちょっと良いかい?」

そっと背中を押し、中へ促しつつ永倉さんに話し掛けられる。

「近藤さん達に頼まれてな、梓紗ちゃんのじいさんを探してるんだが……」

いつの間に頼んでいたのだろう……。きょとんとしていると

「似たような特徴の人物にすら行き当たらなくてな……。すぐに見つかるとは思ってねえんだが、他に何か手掛かりがねえかと思ってよ」

私の部屋に着くまでの短い間に、そんな事を話してくれた。

「少しお待ちください」

そう言って部屋に入り、こちらに持ってきた荷物の中からハンカチを取り出し、

「もし似たような人が居たら、これを見せて花の名を聞いてください。この花の名はコスモスといいます。この時代にはまだ日本には無いはずなので、花の名を正しく答えられる方を絞ってください。あとは可能であれば私が直接お会いすれば良いかと思います」

「その辺は土方さんあたりに確認しておくよ」

「ありがとうな、梓紗ちゃん。じゃあ、これ借りておくな」

平助くん、永倉さんの順で言葉を掛けると、また後でなと去っていく。

土方さんの許嫁、傍仕えという立場だけでなく、祖父を探すという気遣いまでくれたなんて……。最早感謝しかない。心を砕いてくれる人達に報いる為にも、やはり私に出来る事で返していかなくては。

それでも祖父が見つかる確率はゼロに等しいと、私は何となく感じている。おそらく転移してきているのは私だけなのだ。そして元の時代に戻る事も、おそらく不可能である事も理解している。元の時代に戻りたいとも思わない。この時代なら私の年齢で結婚してもおかしくはない。でも元の時代では、婚約者がいるというのも早すぎる。ここに来て許嫁が出来た私が言うことではないのだけど……。

婚約期間は2年、高校卒業と同時に結婚。それが敷かれたレールの上の出来事。否とは言えず従うしかないのだが、私は見合い相手を愛せる自信が無かった。10歳年上の見合い相手は、見目も良く人当たりも柔らかな人だと聞いた。ただ、私には虚飾に塗れた人にしか思えなかっただけなのだ。

そんな見合い相手よりも更に年上なはずの土方さんの方が、余程魅力的に思う。愛だの恋だのとはまだ違う。人として尊敬出来るという意味でだ。資料で見ただけの人と、実際に関わった人とを比べるのは少し違うのだろうけど、この時代に来るまでは、新選組の皆さんだって資料で学んだだけの人達だ。それでも、新選組の皆さんは尊敬に値するのだから、思い入れが違うのかもしれない。


ぼんやりとそんな事を考えていたら、斎藤さんが呼びに来た。いつの間にか夕食準備の時間になっていたようだ。

急いで台所へ向かう。数品作り、広間に運ぶ。

朝とは違い、私は終始土方さんの隣。お酒を嗜む近藤さんと土方さんにお酌していた。

「土方さん、もう少し呑みますか?」

コクリと頷く土方さんのお猪口にお酒を注ぐ。

「ん~?梓紗ちゃんは許嫁なのに、『土方さん』って呼んでるの?」

仮の立場という事は解っているはずなのに、総司くんは意地悪だ。頬を染め、なんと言って良いか判らず俯くと、

「そうですね~。お名前で呼んで差し上げてみては如何です?」

「うむ、それは良い!」

武田さんと近藤さんからの援護射撃がエグい……。チラリと土方さんを見遣ると、土方さんもこちらを見ていた。困ったような呆れたような顔をして、小さく頷く。

「…………歳三様……?」

と、土方さんにすら聞こえているか怪しいくらい小さな声で呼んでみる。

「ん、なんだ?」

赤いままの顔をパッと上げ、土方さんを見る。聞こえていた事に驚いたのもあるが、とても穏やかな声で応えてくれたのだ。

「これからは、そう呼んでも構いませんか?」

「好きに呼べ」

おずおずと尋ねれば、シンプルに返ってくる。照れ笑いを浮かべ、

「ありがとうございます、歳三様」

と言えば、目元を和らげて頷いてくれる。完全に2人の世界になっていたようで、

「薮蛇だったかも~……」

「そのようですね……」

呆れたような声と、苦笑いが聞こえる。熱くなった頬を押さえて、またも俯く。総司くん、本当に意地悪だ!





*******************




-土方視点-



「土方さん、もう少し呑みますか?」

耳に心地の良い柔らかな声で、梓紗が声を掛ける。それに頷けば、酒を注ぎたす。そんな些細なやり取りをしていると、

「ん~?梓紗ちゃんは許嫁なのに、『土方さん』って呼んでるの?」

とニヤニヤしながら総司が言い放つ。

「そうですね~。お名前で呼んで差し上げてみては如何です?」

「うむ、それは良い!」

……………………おい、何言ってやがるんだ?呆れた顔で近藤さん達を眺めていたが、梓紗が俯いているのも視界に入った為目をやる。仮の立場なのに、と困っているのだろう。暫し見つめていると、それに気付いたのか顔を上げる。目が合うと、何か言いたげにしていたが小さく頷く。言い出したら、煩いのはよく理解している。くだらねえ茶番はサクッと終わらせるに限る。

「……………歳三様………?」

蚊の鳴くような声で、俺の名を呼ぶ。

「ん、なんだ?」

と応えてやると、赤いままの顔を上げて俺を見る。驚きと嬉しさを滲ませた顔は、年相応のそれだ。

「これからは、そう呼んでも構いませんか?」

おずおずと尋ねる姿は、なんともいじらしい。

「好きに呼べ」

言外に肯定的な意味を含ませて、簡単に応えると照れ笑いを浮かべ、

「ありがとうございます、歳三様」

と返してくる。

「薮蛇だったかも~……」

「そのようですね……」

総司と武田の呆れと苦笑いが聞こえるが、知ったこっちゃねえ!話を振ったのは総司だ。

頬を染めまたも俯く梓紗を見て、俺は深い溜め息を吐いた。




****************




-藤堂平助視点-




「ん~?梓紗ちゃんは許嫁なのに、『土方さん』って呼んでるの?」

からかいを含んだ台詞を吐くのは総司だ。俺の予想が正しいなら、総司は梓紗を気に入っている。島原の女達とは違って、媚びを売る訳でも無い梓紗は、俺達にとっては珍しい。からかうのも程々にしねぇと、なんて思っていたら

「そうですね~。お名前で呼んで差し上げてみては如何です?」

と、こちらもからかいを多分に含めて言い放つ。

………おいおい、武田さんよぉ。悪ノリが過ぎるぜ?

「うむ、それは良い!」

いや………、近藤さんもそりゃ無ぇっての。真っ赤になって俯いてるじゃねぇか。土方さんも、だいぶ呆れ顔だぞ?

互いを気遣うように見つめ合う2人に、何となくやるせない気持ちになる。

梓紗の口が、何かを紡ぐ。それが俺の耳に届く事は無かったが、

「ん、なんだ?」

と応える土方さんの穏やかな声音は、もうずっと聞いていなかったものだ。俯けた顔をパッと上げた梓紗の表情は判らない。あの空間は、醸し出される空気感は、まるで2人きりであるようだ。

そんな2人を見つめる総司の目は、悔しさを滲ませている。そんな顔をするくらいなら、突っつかなければ良かっただろ。

「薮蛇だったかも~……」

「そのようですね……」

呆れと苦味を含んだ声色。武田さんは完全に面白がっただけだが、総司は言外に多大なる不満と悔しさを滲ませている。許嫁なんてのは、建前上必要な設定だ。これから先、あの2人がどうにかなる可能性は高いが、付け入る隙だってあるはずだ。指を咥えて見ているだけなんざ、有り得ねぇだろ?本当に欲しいなら、足掻けよ総司?敵は土方さんだけじゃねぇんだから………。



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