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君が為  作者: 末永彩琉
2/11

私に出来る事

一通りの説明を受け、幹部の皆さんは局長と副長の意向に概ね従う模様。それでも信じ難い状況を受け入れるには足りず、私の存在に価値を見出そうと目を眇める者も居るのも事実。向けられる視線に俯きそうになるけど、それをするつもりは無い。

「貴方には何が出来る?」

そう問いかけるのは武田観柳斎さん。暗に『役立たずは不要』と言われている気がしないでもない。

「お料理やお掃除、お洗濯といった家事は一通り出来ます。」

実際問題、私に家事以外で役に立てとは無理な話だ。

「ならば、これからはお前に担ってもらう。各隊の当番の補助として動け。」

「君が居た時代とは勝手が違うと思うから、その都度教えて貰うと良い。」

土方さん、近藤さんからのお言葉に自分の今後の立ち位置を確認し、

「かしこまりました。ご迷惑にならぬよう、頑張ります。」

「武田も、それで良いか?」

「はい、構いません。……では、よろしくお願いしますね。」

こちらを向いて微笑む武田さん。

「こちらこそよろしくお願いします、武田さん。」

何となく、まだ納得はしていないようだが、とりあえずは大丈夫そうだ。

「では、解散としようか。」

近藤さんのその言葉に、退室していく皆さん。私もと思い立ち上がると、

「梓紗ちゃん、僕が部屋まで送ってあげるよ。まだちゃんと覚えていないでしょ?」

「ありがとうございます。ちゃんと戻れるか、少し不安だったんです…。」

そう言って苦笑する私に、

「え、じゃあ俺も!」

声の主に目を向け首を傾げる。

「あ、悪ぃ。俺は藤堂平助、よろしくな!」

人懐っこい笑顔で言う。

「よろしくお願いします、藤堂さん。」

「平助で良いよ。堅苦しいの苦手なんだ。」

「じゃあ、僕も総司って呼んで欲しいな♪」

でも………、と戸惑う私に構わず、キラキラの笑顔でこちらを見ている。

「………えっと、平助くんと総司くん……?」

「うん、じゃあ行こうか。」

良い笑顔です。呼び方も気に入ってくれた模様。きっと私が早く馴染めるようにと気遣ってくれたのだろう。満足気に広間を出て、私に宛てがわれた部屋までを歩く。

「は~い、到着~♪」

「ありがとう、総司くん、平助くん。」

敬語も使わなくて良いと、ここまでの間に言ってくれた為、簡単にお礼の言葉を。

私がこの時代に迷い込んでから、ほんの数時間程。総司くんと平助くんは気さくな人柄のようで、とても話しやすい。新選組については学校で学んだ程度の知識しかない。それでも彼らは新選組の幹部なのだから、と考えれば、やはり私を気遣ってくれたに違いない。

「あの、総司くん……。」

「ん、なぁに?」

「早速お夕食の準備をお手伝いしたいのだけど……。」

「無理しなくても良いんじゃない?君は来たばかりじゃない。」

「無理してないよ?総司くんと平助くん、私が早く馴染めるように気遣ってくれてるでしょう?」

そう言うと、2人は目を見開く。

「はは、じゃあ俺、土方さんに話してくるよ。」

苦笑混じりに、平助くんがそう言って立ち去る。

「……気付いたんだね。でも、それだけじゃないよ。少なくとも僕はね。」

「?それって、どういう………。」

「何でもない。平助が戻ってくるまで、少しお喋りしようよ。」




*********************




戻ってきた平助くんは

「明日から頼む。今日はゆっくりしていろってさ。」

と。

「そうなんだ………。」

手持ち無沙汰になり、ほんの少し気落ちする。それも仕方の無い事なのでしょうと、納得はしている。そしてふと気付く。着物はどうしようと……。

「あ、着物………。」

私の呟きを総司くんが拾う。

「ん、着物がどうかした?」

「あぁ、着替え用の着物が無いなって……。」

「そういえば……。君がここに来たのも偶然だし、この時代の貨幣も持たないもんね。」

こくりと頷く私と、思案顔の総司くん。

「あ~………暇ならさ、これから出掛けねぇ?」

平助くんの提案に私達は

「「出掛けるって、どこに?」」

と綺麗にハモる。

「1着しか買ってやれねぇけど、着替えがねえより良いだろ?」

「……悪いよ、そんなの……。」

「ん~……、僕も1着買ってあげる♪その着物だと家事しにくいんじゃない?平助の言う通り、替えがあった方が良いと思う。」

その好意に甘えるのは申し訳ないと思う。誰かのお下がりでも充分なのにと言うと、

「僕達が買ってあげたいだけだよ。ここは甘えてくれると嬉しいな♪」

「………じゃあ、お言葉に甘えて。」

にこっと微笑むと、2人も微笑み返してくれた。きっとこれもまた、私の為に気遣ってくれたのだろう。その思いに報いる為に、私は私に出来ることで返して行こう。

「一応近藤さんに、連れ出す事を話してくるね。僕達と一緒でも、君の髪の色や見た目は、良くも悪くも目を引いてしまうからね。」

この時代の人達に比べれば、日本人離れした顔立ちに栗色の髪は『異質』なのだろうね。それに加えて大振袖を纏っているのだから、尚更だ。



近藤さんから許可を頂き、街に出る。呉服屋に行くついでにと、土方さんからお使いを頼まれたので、お茶屋と団子屋にも寄る。

年代的に仕立て売りもしているはずなので、とりあえず先に呉服屋へと向かっている。本当は古着屋でも良かったのだけど、『武士の名折れ』と言われてしまっては、それ以上言い募ることは出来なかった。呉服屋に着くと、仕立て済みの呉服を数点見繕って悩む。華美では無いものの、色味は可愛らしい萌黄色や浅葱色、薄紅色などに目が行く。実用性重視で柄も色も地味目な物を見繕ったつもりなのだけど、個人の好みはきちんと反映されていたようだ。

「これ、お前に似合うと思う。」

平助くんが指したのは浅葱色の小花をあしらった着物。

「こっちの方が似合うと思うんだけど。」

総司くんは薄紅色の白梅をあしらった着物を指す。若草色の格子柄や市松模様、藍色の矢絣柄などもあったけど、無駄に悩むくらいなら彼らが似合うと言ってくれた物を選ぶ。

「じゃあ、これとこれの2着にする!」

言うが早いか、着物と帯を選び購入。小物は特に必要ないので、今買わなくても良い。帰ったら早速着替えようと思う。支払いを平助くんに任せて、総司くんと一足先にお茶屋さんへ。茶葉を包んで貰っている間に、平助くんと合流。お団子屋さんに向かう途中、気になったので聞いてみる。

「土方さんって、甘い物がお好きなの?」

「いや、そうでも無かったと思うよ。」

「じゃあ、どうしてお団子なんて………?」

「疲れてんじゃね?」

「うん、そうかもしれないねぇ。」

総司くんは苦笑する。そんな会話をしているとお団子屋さんに着く。頼まれたものを、その数だけ買い店を後にする。

「飯の時間には間に合いそうだな。梓紗、疲れてねぇか?」

「えぇ、大丈夫よ。」

微笑むと、安堵したように息をつく2人。恐らく監視対象だろう私にも、心を砕いてくれているのが判る。だから私は密かに誓う。これからの全ては、新選組の皆さんのためにと………。



屯所に戻ってから、私は早速着替えてみた。浅葱色の着物を纏って夕食の際に広間へと向かうと、平助くんはキラキラの笑顔で、総司くんは少し不満気な顔で私の元へ来た。膳を囲んで賑やかな食事の場、手酌でお酒を嗜んでいる土方さんの隣で黙々と箸を進めるが、流石男の料理と言うべきか、味が大雑把である。

「もう少ししっかりお出汁を取れば、もっと美味しくなるのに…… 」

私の呟きにピクリと反応した土方さんは、

「なら、明日の朝餉はお前が作ってみろ」

周囲がざわつく。それすら意に介さず続ける。

「……斎藤、明日の食事当番はお前の隊だったな?梓紗を手伝ってやれ」

「……かしこまりました」

「あの……、良いのでしょうか、そのような事……」

当たり前の疑問を口にすると、

「先に提示したのはお前だろう。お前に間諜の真似事やら、暗殺など無理だと判りきっているからな、問題ねえよ」

そう言って、広間を見渡す彼は間を置かず

「文句がある奴は、後で俺の所へ来い。聞くだけは聞いてやる。だが、近藤さんも了承済みの決定事項だ、覆らないと思え」

凛とした声は張らずとも響くのか、広間は静まり返る。

「ふふふ、良かったね梓紗ちゃん♪もちろん僕は文句なんて無いですよ、土方さん」

ニッコリ微笑む総司くんの声は柔らかく弾み、私を安心させてくれた。

「そんなん、俺だってねぇし!」

拗ねたように言う平助くんも、私に向かってニカッと笑ってみせる。

何となく戸惑って居ると、思わぬ所から擁護の声が上がる。

「得意と仰ってましたし、私も楽しみにしましょうか」

くつくつと笑いを漏らし、武田さんが言う。それを聞いてざわめく人も居るけれど、特に異議はないようだった。

「………はい!明日から頑張りますね」

と、安堵の笑顔を見せると、ほぅ……と溜め息を吐く音と、ハッと息を飲む音が聞こえた。そちらを見遣ると、パッと顔を逸らす平助くんとニッコリ微笑む総司くん、柔らかな笑みを湛えた武田さんと近藤さんが居た。

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