事の始まりは
戻れなくても良い。あのまま好きでもない人と結婚するくらいなら……。
「梓紗、そろそろ準備は出来たかい?」
「……はい。」
「では行こうか。お相手を待たせちゃいけないからねぇ。」
―遡ること数時間前―
朝から頭が酷く痛み、それでもつつがなく過ごしていたのだけど、
「梓紗、すまないが、急いでこれに着替えて来てくれないか?」
そう祖父に渡されたのは、薄紅色の華やかな振袖。白梅を模した可愛らしい簪も渡されたわ。
「何故でしょうか?」
と疑問を口にしたのだけど、祖父は答えてくれない。
「良いから、急ぎなさい。」
そう言われてしまったので、とりあえず自室に戻り、美しい振袖に身を包む。
メイクとヘアセットをして、白梅の簪をさしたところで、冒頭の会話に。
行先は帝国ホテル。どうやら私はお見合いをするらしい。『らしい』としか言えない。何も知らされていないのだからね。それにしても、今日はどうしてこんなにも頭が痛むのだろうか……。
車に揺られながらそんな事を考えていたら、目の前が暗くなり、意識を手放した。
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ふと気が付くと、知らない男性に覗き込まれて居た。何だかとても恥ずかしい。
「あ、気が付いた?良かった~。屯所の目の前で倒れていたから、連れてきちゃったんだけど……。」
「……そうでしたか。ご迷惑をお掛けしました…。」
まだ意識がはっきりせず、ぼんやりしていたのだけど、
「今、近藤さん達呼んでくるから、ちょっと待ってて?」
と言われ、周囲を見回しつつ起き上がった。祖父は何処に居るのかしら?近藤さん『達』と言っていたから、別のお部屋に居るのかもしれない。そう思って言われた通りに待っていた。
「目を覚ましたようだな。気分はどうだ?」
部屋に入ってきた、端正な顔立ちの男性に問われる。
「…少し頭が痛いだけで、他はどこも……。」
「そうか、それは良かった。」
私の返事に答えたのは、朗らかな笑みをたたえた男性。
「しかし、何だって屯所の前に倒れてたんだ?見たところ、何処ぞの姫君のようだが……。」
端正な顔の男性は聞きます。
「いえ、姫などでは……。あの、ところで祖父は何処に居るのでしょうか……?」
見回してみても祖父が居ない。
「僕が見つけた時、キミ1人だったよ?」
え……?1人……?
「私、祖父と一緒にホテルに向かう車に乗っていたはずなのに………。」
「は?ほてる……?車……?」
そんな呟きはスルーして、
「すみません、ここは一体……?」
「ここは新選組の屯所だよ。」
「……!!」
「あはは、びっくりした?」
いたずらっ子のような無邪気な笑顔で言うものだから、
「なんだ、冗談なんですね……。」
と安心しかけたのだけど、
「冗談なんかじゃねぇよ。新選組の西本願寺の屯所だ。」
と食い気味で話す男性。続けて
「新選組を知らない人が居るとはねぇ。僕達もまだまだって事かな?」
と。頭が鈍く痛み、眩暈を覚える。混乱する私を気の毒に思ったのか
「この子、ここに置いてあげましょうよ。」
と言う。
「氏素性も判らねぇ、怪しい奴を置く訳にはいかねぇんだよ!」
私の存在が迷惑である事は明らかで、まだ名乗ってすらいない事にも気付く。しかしながら、名乗ることは出来ても、俄には信じ難い状況を説明するのは困難にも思う。
「そういえば、まだ名を聞いていなかったね。私は新選組局長、近藤勇と申す。君の名を教えてくれるかな?」
「………都倉梓紗と申します。」
「梓紗殿、眉間に皺を寄せて居る男が、新選組副長の土方歳三だ。」
あぁ、やっぱり……と思っていたら
「僕は沖田総司。よろしくね♪」
と、私をここへ運んでくれた男性が名乗る。そして、土方と呼ばれた男性が
「梓紗とか言ったな?それで、お前は何者なんだ?」
やっぱり状況説明しなきゃダメだよね……。どう話せば良いのか判らないけど、事実を語らなければならない。躊躇いつつ、ありのままを話す事にした。
「信じられないかもしれませんが………。」
と前置きして、今よりもずっと後の時代から来たこと、呉服屋の孫娘である事、どうしてこうなったかは解らない事を語り、その証明になるかは判らないけれど、バッグの中身を一通り説明したり、財布の中身を見せてみたりした。
ちなみにスマホはやはり圏外。当たり前よね。
「信じて貰えなくても構いません。それでもこれが事実ですし……。」
「土方さん、やっぱり置いてあげましょうよ。近藤さんも良いですよね?」
「うむ、もちろんだ!身寄りのない、か弱い女子を放り出すことは出来ん!」
目尻に涙を滲ませながら、近藤さんは言う。それを聞いて土方さんは、
「はぁぁ………、仕方ねぇ。総司、幹部連中を広間に集めろ。お前も来い。」
と私を連れて広間へと向かった。
初投稿、稚拙な文章にお付き合いくださり、ありがとうございました(*^^*)