天使なお友達
パーティー会場の隅に固まっていた集団の中に居たのは、癖っ毛ブロンドで左の顔半分を隠した男の子だった。
何か揉めている様で、一人の子息が彼を突き飛ばし、顔に掛かった髪を握って引っ張った。
すると、彼の顔の半分が露わになる。彼の左頬には、酷い火傷の痕があった。
「うわっ!気色悪い!!」
「お前なんかが、ナターシャ様のパーティーに参加するなんて、おこがましいにも程がある!!」
「貧乏貴族で妾の子供なんて、貴族とは言えませんわ」
「身なりだけ装ったって、中身がね…」
「…」
彼は、周りの心無い言葉に何も言わずに地面にお尻をついたまま耐えている。
何となく後ろで見ていた私が声をかける。
「一体何処が気持ち悪いの?貧乏だろうと妾の子だろうと、貴族の血は流れているし、まだ没落していないのならそれは貴族ではないかしら?」
「「!!」」
私の声に驚いた小悪魔ちゃん達が、一斉に振り返って散って行った。
それに少し傷つきながらも、驚いた顔で私を見つめたまま座り込む天使ちゃんに、私は手を差し出した。
「いつまでもそんな所に座っていたら、また馬鹿にされちゃうわよ?」
「…ありがとう」
彼は私の差し出した手を掴み、私は彼を引っ張り起こした。その際彼がバランスを崩して倒れそうになったのを抱き止めてあげた。
骨ばった細い腰に、軽い体。この子は、ちゃんと物を食べているのかしら?
私がそんな事を考えていると、彼は慌てて私から離れた。顔は真っ赤だ。
私は、その顔を見て少し笑ってしまった。
「私はテレサ。テレサ・ルーベルン。貴方は?」
「お…私は、マルロ・ペンドラ、です」
なんともたどたどしい言い方。まだ慣れていない様だ。
確か、先程妾の子だと言われていたが、引き取られて間もないのだろうか?
しかしそれにしても、あの火傷跡といい、痩せ過ぎた体といい、一体ご両親は何をしているのかしら?
「取り敢えず、一緒に座ってお話ししましょう?」
「え、お、私とですか…?」
「あら、他に誰かいる?」
マルロ君は一度周りを見渡してから、首を小さく振った。
「悲しい事に、私も避けられているみたいだから、良かったら一緒にお話ししたいの」
「私で良ければ…」
「えぇ、貴方が良いわ」
「!!」
私は彼の手を取って、先程座っていた場所に戻った。
しかし、テーブルに置いておいたお皿は、既に片付けられていた為、新しく軽食などを皿に乗せ、マルロ君に渡した。
始めは驚いていたが、私はお皿を強引に渡した。
「さっき少し食べたけど、中々美味しかったわ。マルロ君も食べてみて?」
「…私が食べて、良いのか…ですか?」
「ふふふ、招待されたのだから、良いに決まっているじゃない」
そう言うと、小さなサンドイッチを手に取り、一口でそれを食べてしまった。
マナーはなっていないが、リスの様で可愛らしい。
私が笑うと、彼は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「ふふふ、私は盗らないからゆっくり食べたら?」
「…はい」
そう言うと、彼はちびちびと皿に乗った軽食を食べる。
なんて可愛い!!
先程もリスの様で可愛かったけど、ちびちび食べるのも可愛い!!!
私の脳内はお祭り騒ぎで、紙吹雪まで舞っている。
彼が食べ終わったところで、ナプキンを渡して口を拭かせる。
私がやりたい気持ちは、グッと抑えた。ここには他の天使達もいる。貴族たるもの、軽率な行動はとってはならない!!
「ところで、その顔の傷はどうしたの?」
「!!」
「あぁ!言いたくないならいいのよ?ただの好奇心で聞いているだけだから」
我ながら最低な質問だ。
マルロ君は、そのエメラルドの様な瞳で私を見てから、口を開いた。
「ここでは言えない」
あら!ここじゃなかったら教えてくれるのかしら?私には教えてくれるの?餌付けのお陰??
「そうね。ここは天使ちゃんが多いものね!」
「は?て、天使ちゃん??」
「あぁ、いえ。こっちの話よ」
素早く誤魔化した。
つい、天使ちゃん呼びしてしまったわ。
「良かったら、私とお友達になりません?」
「え…」
「嫌、ですか?」
「いや!そう言うわけじゃない!けど…俺なんかと仲良くしても、良い事ないよ…」
あら?喋り方が少し変わった?これが素なのかしら?
「ふふふ、そんな事ないわ。私にとっては良い事ばかりよ?」
「は…?なんで?」
「そうね…貴方がとっても可愛いからかしら?」
「なっ!?」
可愛いと言ったら、顔を真っ赤にして立ち上がった。私は座ったまま彼を少し見上げる。
そして彼から一言。
「お前の方が、可愛いじゃないか!」
「うぐっ!!」
思わず吹き出しそうになったが、何とか耐えた。
こんなババァに、この子は顔を真っ赤にして何を言ってるんだ。いや、外見はそんな変わらないけど。
必死に抑えながら笑ったせいで、涙が出てきた。
その間も、彼は顔を赤くしながら「何がおかしいんだ!」とか「笑うな!」と言っていた。
本当に可愛い。
私は、必死で笑いを収めて、涙を拭った。
その頃には、マルロ君は膨れていた。
リス再び。
「ごめんなさい。あまりにもおかしくて、つい」
「ふん!」
「ほら、怒らないで?ケーキ取ってきてあげるから、ね?」
私が立ち上がり、ケーキを取りに行こうとすると、会場の入り口辺りで歓声が上がった。
何かと思ったが、今はご機嫌取りの為にケーキを優先した。
ケーキをお皿によそって戻ると、私達が座っていた場所に人だかりが出来ていた。
何事かと思ってすぐに戻ると、またマルロ君が天使ちゃん達に囲まれていた。
今度はそこに、ナターシャちゃんと銀髪に紫色の瞳をした天使が居た。
私は慌てて、その中に入りマルロ君を救出しようと急いだ。
「貴方、マリウス様に対して失礼ですわよ!!」
「え…あ、すみません」
怒るナターシャちゃん。
周りもマルロ君を睨んでいる。
マルロ君は、よくわかっていない様な顔をしている。なので、私がマルロ君の隣についてすぐに、紫色の瞳をした天使に挨拶をした。
「これは王子殿下、私の友人が失礼を致しました。どうかお許しを」
そこまで聞いて、やっと状況を理解したのか、マルロ君も慌てて頭を下げた。
「貴女、さっきの!そう…やはり、品のない者同士で群れるのね」
ナターシャちゃんは、笑みを浮かべながらそう言った。
私はと言えば、そんなナターシャちゃんを嬉しそうに見ていた事だろう。
品がないなんて、面と向かってこんな可愛い天使に言われるなんて、今日は何て良い日なんだ。神様ありがとう。
それを見たナターシャちゃんは、顔を歪めていた。
それは流石に傷付く。
「本当に、何故こんな人達を招待してしまったのかしら?折角殿下が…」
「おや?君は…もしや、ダグラスの孫の…」
「テレサと申します」
「そう!テレサだ!ダグラスからよく話は聞いている」
ナターシャちゃんの言葉を遮ったのは、マリウス君だった。
しかも、何故か私に話しかけてきた。
確かに、ダグラスは私のお爺様の名だ。
お爺様、一体マリウス君に私の何を話したのですか…。
内心、溜息をつきたくなった。




