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珍客







和解から数日経った。



私は、部屋でマリウス君からの手紙を読んでいた。


何でも、ロゼライン公爵が以前の様に鬼の如く働いているらしい。


実をいうと、公爵はこの国の宰相なのだ。

『鬼の宰相』などと影で囁かれる程、自分にも周りにも厳しい人だったらしい。確かに、そんな様な事をゲームで言っていた様な、いなかった様な?



それが、ナターシャちゃんの誕生で豹変したらしい。


仕事を疎かにする程、ナターシャちゃんを可愛がりまくっていたらしい。


その気持ちは分かる。だって、ナターシャちゃんは天使だから!!あんなキュートな娘が産まれたら、仕事もそりゃあ手に付かんわな!!


しかし、そこは宰相。しっかりしてくれ。


まぁ、それが元の仕事の鬼に戻ったのなら良かった。別に、鬼である必要はないのだけど…。



その公爵の変わり様を見たマリウス君は、私の仕業なのではと思ったらしい。


流石マリウス君!よく分かったね!!

伊達にメイン攻略キャラクターやってないってか?



私は一人で笑いながら、手紙の続きを読んだ。



『今回の件で、テレサ嬢には本当に悪い事をしたと思っている。お詫び…という訳ではないが、ちょっとした品を一緒に送らせてもらった。是非使って欲しい』



品?


私は、机の端に置かれた小さな箱を見る。


ノアちゃんに頼んで開けてもらうと、中にはシンプルな髪飾りが入っていた。

シンプルと言っても、はめ込まれた紫色の小さな石は、日の光を反射してきらきらと美しく輝いているし、蔦を模した作りがとても細かい。



「良かった。このくらいなら使えそうだわ」

「これを…使われるのですか…」



何故か、顔に陰を落とすノアちゃん。



「え?駄目かしら?」

「いえ…ですが…」

「何かあるの?」

「…これは、王族の…いえ、殿下の瞳の色…ですよね?」



…確かに!!


ノアちゃんに言われて気づいた。

確かにこれは、マリウス君の瞳の色そのものだ!


王族は皆、紫色の瞳をしているのだが、実は一人一人少しずつ違う。


髪飾りに付いた石をよく見ると、マリウス君の瞳と同じ透き通る様な薄紫色である。



「そうね。いくら殿下から頂いた物だからといって、婚約者でもない者が着けていたら、誤解が生じるわね。…ノアちゃん。これは大切にしまって置いて頂戴」

「畏まりました」



そう言って頭を下げたノアちゃんは、すぐさま髪飾りの入った箱を持って衣装部屋へと消えていった。



あんなの着けてるのをナターシャちゃんにでも見られたら、絶対に悲しませてしまうわ!しまって家宝にするのが吉ね!!



私は一息ついて、ソファーの背もたれに身を預ける。


最近、色々あり過ぎて疲れるわ…。ただ、ナターシャちゃんに会いに来ただけの筈だったのに…何故こうなった…。


考えても答えは出ない。



何故かマリウス君には気に入られるし、ナターシャちゃんには嫌われる…何とも切ない。



「お嬢様。ペンドラ子爵のご子息様がいらっしゃいましたが、お通ししてもよろしいですか?」

「え?」



ノアちゃんとは別のメイドさんが、そう私の部屋に知らせに来てくれた。


マルロ君かしら?何で急にうちに??



「そうね。応接室にお通しして」

「畏まりました」



そして、そのメイドさんにマルロ君の案内を任せ、私は仕度をノアちゃんに手伝ってもらってから応接間に向かった。


その間に、ノアちゃんが『また、お嬢様との時間を邪魔する男が…。』と、囁いていた。本人は独り言なんだろうけど、丸聞こえでした。


ノアちゃんが、私に懐いてくれている事が分かって嬉しいのだけど、いつかやらかしそうで怖い。




そして、応接間に着くとそこにはマルロ君とその義兄、《ルイス》が居た。


一瞬狼狽えたが顔には出さない。

笑顔を作ってご挨拶。



「初めまして、テレサ・ルーベルンと申します」

「こちらこそ初めまして。挨拶が遅れました。ルイス・ペンドラと申します」

「…!!」



義兄のルイスは笑顔だが、マルロ君はめちゃくちゃ不機嫌…そして、私の腕を見て驚愕している。


確か、ゲームでも攻略対象のルイスの事を嫌って殺そうとまでしていたような…?


何故、そんな二人が私の家に?


取り敢えず座るように促し、ソファーに腰掛ける。



「突然の訪問で申し訳ありません。しかし、貴女に折り入ってお願いがあるのです」

「お願い…ですか?」

「待って下さい!そんな事より、その腕はどうしたの!?」

「これですか?これは馬に蹴られましたの。マルロ様も、馬の後ろには近づかないようにして下さいね?危険ですから」

「それを君が言うの…」



呆れ顔のマルロ君だが、私がいつも通りなので少し安心したように溜息をついた。


私を心配してくれるなんて…何て可愛い…。


私がニコニコマルロ君を見ていると、ルイスが少し強い口調でマルロ君に注意した。



「マルロ、その口の利き方は良くない。ルーベルン嬢、申し訳ありません」

「いえ、頭を下げなくても良いのですよ?マルロ様と私はお友達ですから。それで、話を戻しますがお願いとは何でしょう?」



頭を上げて、少しばつの悪そうな顔をするルイスと、やはり不機嫌そうな顔のマルロ君。



「大変言い難いのですが…しばらくの間、マルロを匿っては頂けないでしょうか…?」



神妙な面持ちで、何を言い出すのかと思えば…。



「匿う…ですか?」

「…はい。私もつい先日知ったのですが、義弟のマルロは母上から手を上げられているようで…。先日、偶然それを見てしまったのです。マルロを問いただしても何も言いませんでしたが、私はこの目で見てしまった…。まさか、母上があの様な事をしていたなんて…」

「それで、何故こちらに?そういった事は、身内で何とかするのが筋なのでは?」



何故、子息が令嬢の家に逃げ込むのだ。可笑しいだろ。というか、私とマルロ君は会って間もないのに図々しいとは思わないのか?



「それは…。私は体が弱く、あまり外にも出ないので友人と呼べる者が居ないのです」



いや、だから身内に相談は?いないの身内?そんな筈ないよね??


私の頭の中は混乱していたが、話は進んでいく。



「しかし、使用人から聞いたのです。マルロに友人が出来たと…。それがルーベルン嬢、貴女です」



いや、だから…。もう訳がわからない。

マルロ君に頼まれた訳でもないのに、勝手に首を突っ込んで…こいつは何がしたいんだ。良い兄を演じたいのか?


私は、笑顔を崩す事なくルイスに言った。



「そうでしたの…。しかし、迷惑ですわ」

「え…?」

「…」



迷惑という言葉に、マルロ君もルイスも驚いた顔をこちらに向ける。


本当ならこんな事を言いたくはないが、こう言った家庭の事情系は縺れる事が多い。そんなのに私が首を突っ込んで、もしこちらにまで被害が降りかかってはたまったものではない。



「しかし、ルーベルン嬢とマルロは友人なのでは…」

「友人に、そんな面倒事を押し付けるのですか?」

「面倒事だなんて…。友人なら、助けるのが筋ではないのですか?本当の友人なら…!」



語気を強めてそう言ってくるルイスだが、何も響かない。


私、このルイスってあまり好きじゃなかったのよねぇ…。なんか、頭がお花畑で…。男でこれは無いわぁ…って、普通にドン引きした。



そう、ルイスは母親から大事に大事に育てられた為か、頭の中がお花畑なのだ。自分ルールの正義感を振りかざす、勘違い男。

こんな奴に恋したヒロインちゃんって…とも思ったけど、ゲームだから仕方ない…と、思ったり思わなかったり。



私は立ち上がり、ルイスを見下ろす。



「物語の主人公の様に、正義感を振りかざすのは結構ですがここは現実、周りの迷惑も考えた方がよろしいのでは?」

「なっ!」

「マルロ様。貴方は強い方だわ。きっとこんな壁など乗り越えられます。私に出来るのは、貴方の身を守る事ではないと思っております。もしも、苦しくて辛くて、弱音を吐きたくなった時は私がお話を聞きますわ」

「…ありがとう」



マルロ君は、私の言った事を理解してくれたのか柔らかく笑ったのだが、義兄のルイスは…。



「信じられない!何て人なんだ!!もう良い!帰りますよ!!」

「お帰りになるのでしたら、帰った後マルロ様にもしっかり貴族としての教育を受けられる様に手を回して上げてくださいね?そのくらいの進言は出来ますでしょう?あと、貴方も学び直した方が良いですわよ。」

「!!…なんて醜い女だ」

「貴方がどう思おうと勝手ですが、口に出すべきではないですわよ?」

「煩い!」




扉を乱暴に開け放ち、ルイスは出て行ってしまった。どう見ても病人とは思えない。


壁の置物と化していたノアちゃんの顔は、まるで般若のようだ。



「テレサ、ごめん」

「良いのですよ。あんな子供の癇癪など、気にもなりません。それよりも、頑張ってくださいね?」

「うん、ありがとう」



そう言って、またマルロ君は柔らかく笑う。

その後、ルイスを追ってマルロ君も部屋を出た。



良かった。マルロ君もあんな風に笑えるのか…。


マルロ君の小さな背を見送っていると、ノアちゃんが…。



「…あの男は、処しましょう…」

「え…?」

「いえ、何でもありません」



とっても良い笑顔だけど、全部聞こえてたからね?処すって何?何をする気なの?






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