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第九話 神々の住まう処 

「クソッタレ!! 何で呼び戻したぁ!?」


 いきなり呼び戻された俺は、八つ当たりがしたくて拳を伸ばすが、こういう時に限ってこの空間では壁は現れてくれず、空を切る。

青白い帯状の光が現れては消えるのみ。


「す、すいませぇん。“もう世界は発展に向けて動き出した”と言われたので……」


 頭に生えた純白の羽を動かしながら、天使は俺に謝罪する。

俺も分かっている。天使達は、何も悪くない。

許可なく、勝手なことは出来ないのを俺は知っていた。

つまりは、許可が出たということだ。


 度々、似たような経験はしたが、今回は最大級に胸糞が悪い。


(あの子は……あの子は、無事だろうか……。くそ、もう名前を思い出せない)


 俺の転移先、転生先の記憶は、戻ってきた時点で天使の持つ球体へと移され始める。

今回は、その事が余計に腹立たしい。


 あの子の顔を思い浮かべる度に心がギュッと締め付けられる。

それなのに、ああ、それなのに……何故、俺はあの子の顔を思い出せないのだ。

俺の記憶が天使の持つ球体に完全に移されて、天使は「これを……」と申し訳なさそうに球体を差し出してくる。


 記憶は完全に移されたはずなのに、俺の心の痛みは取れない。


 天使から受け取った球体が俺の手のひらの中へと吸い込まれると、俺はすぐに球体を取り出して、記憶を探る。

今までは、こんな事はしたことなかった。

だけれども、今は一刻も早く記憶を見たい、そう思ったのだ。


「クシナ……」


 名前と顔を確認すると、俺は拳を強く握りしめて下を向く。

一度移した記憶は、二度と俺の記憶に留まることはない。

球体を戻すと、心にポッカリと虚しさだけが残る。


 汚れた服を脱ぎ捨てて、真っ白いワイシャツに着替え直すと、俺は天使の先導を受けて、いつもの円卓のある場所へと向かう。

「大丈夫ですか?」と、普段以上に俺を心配してくれてる天使に、俺は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。


 神卓会議は、既に始まっているようではあったが、思ったより人数が少ない。


 一発殴らないと気が済まないと思っていた山羊の神は、不在で、いつものように妖艶な笑みを向けて手を振ってくる乙女の神と、次に行く予定である獅子の神、そして円卓に足を乗せて、ちゃらついた笑顔の水瓶の神の三人だけであった。


 珍しく乙女の神が立ち上がり、俺の側に寄ってきて声をかけてくる。

どうやら俺は、相当酷い顔をしていたらしい。

心配してくれたのはありがたいが、彼女も神の一人。

仲間意識などは、なさそうだが、それでも俺からしたら、同じ穴のムジナで。


「大丈夫ですよ」と、うわべだけの愛想笑いで返すと、乙女の神は「そう……」と、何度か此方を振り返りながら、自分の席へと戻っていった。


 もしかしたら、本当に心配してくれたのか、と少し申し訳ない気分になる。


 会議の方は、決めた順番から言ったら次は獅子の神の世界で、至極当然、三人の神が立ち上がり、早々に決まってくれた。

天使が俺に次の世界への資料を手渡してくる。


 次は獅子の世界、そう思っていた俺は資料を見て驚く。

受け取った資料は、水瓶の神の世界。


「次は獅子の神のところじゃ──」と、ここまで言って俺は、不味いと思い口ごもる。

神に意見をしてはならない、それが、俺と神々との暗黙の了解で、俺は獅子の神に睨まれた。


「俺のところは、もういい。何故か、発展へと動き出したのでな」と、獅子の神はそう言うと、俺から視線を反らして帰っていく。


「と、言うわけで次は俺の所だから。よろしくね。あ、出来れば転生でお願いするよ」


 水瓶の神は、俺の肩を叩いて通り過ぎると、軽く手を振って去っていった。


 改めて資料に目を通す。以前言っていたように原因は不明のようではあるし、

長期的な転生の方がいいのかもしれない。


 乙女の神も去っていくと、誰も居ない円卓には俺と天使の二人きりになる。

まだ、心のモヤモヤは晴れていないが、とにかく行くしかない。

さて、武器を選ぶかと、俺も出て行こうとした時、天使が俺を呼び止める。


「あの……良ければ、その……前回行った世界がその後どうなったか、調べましょうか?」

「……いや、いいよ。気持ちだけ受け取っておく」


 俺は天使の気遣いに礼を言う。天使には、そんな権限はないはずだし、何より俺に、転移、転生先がどうなったのかを教えるのは、ご法度のはずだ。

そんなことをしでかしたら、神々に何をされるかわかったもんじゃない。


 切り換えなくてはいけない。今までだって同じような事があったじゃないか。

締め付けられる心を押し殺して、俺は次の転生先へ前を向く。


 新たな転生先、原因不明な為に一から探らなくてはならない。武器選びも慎重を期すか。


 俺と天使は武器庫へと向かうと、転生先に持っていく武器を選ぶ。

とはいえ、今度は転移ではなく、転生。

いきなり、生まれたての赤ん坊が、武器を持っていたらパニックになるだろうし、何より俺の母親となる人が、産む時エラいことになる。


「アイテムボックスですよね」


 天使がヒラヒラと手のひらサイズの紙を持ってくる。紙には赤い六芒星が描かれており、裏はシールになっている。

俺は「ありがとう」と受け取り、六芒星のシールを自分の手の甲に貼った。


 これで武器を転生先に持ち込めるって訳だ。とはいえ、持ち込める個数は決まっている。

俺は次に向かう世界の資料と照らし合わせて、武器を選ぶ。


「魔法アリ、科学兵器ナシ、文明度は三か……」


 前回転移したイース・タールは、魔法ナシ、科学兵器アリ、文明度は六だった。だからこそ、俺は前回、在っても不思議ではない呪血銃(カースブラッド)と、大概な物なら貫けるグングニールのレプリカを持っていった。


 あまり、その世界に武器で影響を与えるわけにはいかない。あくまでも、俺が動くことで、停滞しだした世界に影響を与えなければならないのだ。


「魔法があるなら、魔法も持っていかないとな。もう一つは……これでいいか」


 俺は一つに一冊の黒い本を手に取る。タイトルは“万能魔導のススメ”。

読んで字の如く魔法について書かれた本。一概に魔法と言っても各神の世界で魔法の形式が違う。

名称だけで発動したり、長ったらしい詠唱を唱えなければならなかったり、契約を結ばなくては使えなかったりと、様々。

そこで、この“万能魔導のススメ”が役に立つ。

ここに書かれている魔法は、どの世界でも使用可能で、それなりの効果を発揮してくれるが、唯一の欠点は、この本を開いて持っていなければ使用出来ないという点だろうか。


 もう一つは、赤と黒のチェック柄の手甲。こいつも、以前に行った先で手に入れた逸品で、ミョルニルという名の鎚だったのだが、柄が折れてしまい手甲に打ち直したものだ。


 本と手甲は、手の甲にある六芒星に触れさせると、吸い込まれていく。

そして、俺は着ている物を全て脱ぎ捨てて、いつものように武器庫の隣にある一段高くなった台座に登ると、天使が設置されているパネルを操作し始めた。


「次はファルブークという世界です。それでは、良い人生を」


 台座は赤く光輝き、漆黒の渦が俺の足元から広がると深い闇の穴へと吸い込まれていくのであった。

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