乙女の神の世界 地球⑨ 改革派の綻び
俺達が改革派に入ってから幾ばくか、穏健派の奴らは進攻してきたが、俺とクシナ、ナゴの三人を中心に退けてきた。
「今回も助かったよ、グレン」
「俺はいいから、他の奴らを労ってやってくれ」
隼人自ら銃を持ち前線に立つも、いたずらに改革派には犠牲の数が増えていくばかり。穏健派にも多数の犠牲は出ているはずだが、その数は衰えることはない。
「グレン、お疲れ様。二人もありがとう」
美里が俺達にタオルと水を渡しに来てくれる。初めこそ隼人に代わり美里も前線にたっていたのだが、今は後方支援に回っていた。
ある意味、隼人の代行として象徴されてきた美里であったが、どうも俺の婚約者になったとの噂が広がり士気が下がったということで、その役目を終えた形だ。
最初はつんけんとしていた美里も、何度か俺達の戦いを間近で見てきた為、今ではその顔つきも柔らかくなっていた。
「なんか、外が騒がしくないか?」
「もしかして、また来たの?」
外に出てみると人だかりで円が出来ている。その中心では隼人と祐介が取っ組み合いをしており、浩と白が二人を押さえていた。
「なにやってんだ、お前ら!」
俺も間に割って入り、二人を制する。争いが止まると野次の人たちは去っていく。
二人をひとまず家に連れ込み事情を聞くが、二人とも話そうとしない。
仕方ないので、浩と白の二人から事情を聞く。
どうやら改革派の一部から、もう早くこのオダイバコロニーを飛び出して他のコロニーを探すように突き上げがあったという。
祐介自体は、隼人の意向に従いたいが、こうもイタズラに犠牲を出す状況ならば一層出ないかという。
隼人は隼人で、状況はわかっているが、後方から穏健派に突かれると帰る場所を失うと、言い張り、否定的で対立していた。
二人の言いたいことはわかる。
「グレン、君の意見を聞きたい」
「そうだ、グレン。どうするべきだと思う?」
二人から俺に意見を求められる。俺の意見も概ね隼人に賛成だ。もし、万一改革派に裏切り者がいるならば、すぐに穏健派に情報が流れ後方から攻められるという最悪な事態も考えられた。
悩みどころだな。
「今すぐにとはいかんだろうな。だが、祐介の気持ちもわかる。下の不満を解消するのは、リーダーとして隼人の役目だぞ」
「そう、だな。わかってる。済まないな祐介、俺も熱くなりすぎた」
「いや、こっちも済まない」
隼人は祐介に協力してもらい、不満がある者からの意見を聞いて回ることに。
これで少しでも、混乱が収まればいいのだが。
「どうかしたの?」
「協力。クシナも手伝う」
考えごとをしていた俺を心配してか、ナゴとクシナが俺の顔色を伺う。
そうだな、考えてばかりいても仕方ない。二人に協力してもらうか。
まずナゴに“バニッシュ”で改革派の中で怪しい動きをする奴がいないか探ってもらうことに。
特に、祐介の周囲を中心に見張ってもらう。
次にクシナには美里と一緒に改革派のメンバーの一覧を手に入れてもらうことにした。
特に、ここ最近改革派の方へ移ってきた者を中心に。
そして、俺自身は穏健派に少し忍び込むつもりだ。あまりにも穏健派の情報が少ないこともあり、あわよくば穏健派のリーダーである沢木という男を一度見ておきたい。
俺は隼人だけには留守にすることを伝えて、穏健派の領域へと夜中に忍び込んだ。
◇◇◇
穏健派の領域に入るなり、女性の悲鳴が聞こえる。襲われているのだろうが、今は、かまっている暇はない。
そう思ったのだが、足は自然と悲鳴のした方へと向かう。
特に街灯など無いために、頼れるのは月明かりのみ。建物の上を飛び移りながら女性を探す。
悲鳴は、悲痛な助けを呼ぶ声に変わる。
ここでは日常的なのだろう、他の人は見向きもしない。
俺がようやく視界の悪い中、女性を見つけた時には、嗚咽を溢しながら複数の男に囲まれ一人の男が女性にのし掛かって腰を打ち付けていた。
(胸糞悪いな……)
ここでは当たり前の光景なのだろうが、俺の矜持に反する。
呪血銃に自分の血液を吸わせて充填すると、女性にのし掛かっている男の頭に狙いを定める。
「ん? 誰か来た……」
複数の人影が現れると、男性達は行為を中断して頭を下げながら立ち去って行った。突然現れた人影達は、女性を優しく起こしてやると、破れた服の代わりに布をかけてやり、そのまま女性を何処かへと連れていった。
俺は呪血銃をしまうと、そのまま人影を追うのだった。




