乙女の神の世界 地球⑥ 穏健派
俺達は、祐介に案内されて一軒の家へと連れてこられる。二階建ての一軒家。広さもそこそこあり、四人で住むには充分だ。
「なんで、ぼくまで……」
美里は一人納得しておらず、家のなかへ入ってもぶつぶつと文句を垂れ流す。
祐介は、そんな美里に対して頭をポンポンと叩きながら笑顔で「隼人が決めたことだ。諦めろ」と笑い飛ばす。
その光景は、もはや兄妹と変わらない
「随分と隼人の事を信頼しているんだな。素性もわからない俺達をアッサリ受け入れたり、美里の婚約にも寛大だし」
「まぁな。隼人とは小さい頃からの付き合いだし、アイツが居てくれたお陰で俺達は今、生きていられるからな」
「へぇ……それは一体、どういうことか聞いていいか?」
祐介は何かを飲み込むように一呼吸置いて昔話を語ってくれた。
「穏健派のこと、どのくらい知っている?」
俺達は美里を助けて、穏健派の方向からやって来た。それは祐介もわかっているはずだ。にも関わらず彼は、俺たちが穏健派の事を全く知らないような口振り。
中々抜け目ないな。隼人の言葉は信用しても俺達のことは一応疑っているというわけか。
「いや、全く……美里から最低の奴らくらいにしか」
敢えて俺は正直に話した。祐介が隼人の事を信頼しているのならば、俺達の事を追及してこないだろうと踏んだからだ。
何より、嘘を吐いたところですぐバレると思った。
「……今から五年になるか。俺達、ここにいる改革派も昔は皆穏健派の連中と一緒にいたんだ。つまり、俺達も最低な連中と一緒ってわけさ。俺も初めは、連中の言っている事が正しいと思っていた。この荒廃した世界でコロニーの中に閉じ籠るには、子孫繁栄が何より重要だと。女連中を道具のように扱うのが、当たり前だと。現に、俺は美里を襲おうとしたこともある。まだ美里が十二歳くらいのときにな」
「本当か、美里?」
美里は、当時の事を思い出したのか暗い表情のまま頷いた。
「だけど、寸でのところで俺は思い止まれた。それは、隼人の、親友の妹だと思い出せたから……。俺は彼女の芯の曲げないところが隼人とダブって見えたんだ」
同じように祐介の表情も暗い。美里と同じく当時を思い出しているのだろう。
「穏健派……正確には、俺達が改革派と名乗っているから相手を穏健派と呼んでいるのだが、そのリーダーである沢木。こいつが全ての元凶さ。
俺達が産まれる前までは、穏健派の連中も真っ当だったって聞いている。しかし、こいつがトップになってからは、大きく変わった。
女性の人権を取りあげて、多くの男の支持を得る。そのやり口は、巧妙で徐々に女性から色々なものを奪っていき、俺達が産まれた頃には、女性の人権など皆無さ。俺も隼人も父親が誰かもわからない。美里と隼人も間違いなく父親は違う」
反吐が出そうになる。大義名分を掲げている分、余計にだ。ナゴも憤りを隠すことはなかった。
「決定的なのは、俺や隼人の母親が殺さたことだが、実は隼人はその前からゆっくりと改革派を立ち上げていたんだ。穏健派がおかしいと思っている人も男の中にも少なからずいた。そういう人達は、大事な妻や娘を奪われた人達だ。いや、奪われても生きているなら、まだいい。散々犯され、そのまま殺された者もいる。精神的なショックで自ら命を絶つ者も」
「ちょっと待て。それっておかしくないか? 大義名分は子孫繁栄だろ? 女性を殺したら意味がない」
祐介は俺の指摘に悲痛な表情を浮かべる。まだ、何かあるのか。
「奴らは女性の命を紙くずのように思っている。一人二人減ってもいいのさ。女を次の女性を産む道具としてしか見てないからな」
想像以上に気分が悪い。なるほどな、女性に女児を産ませて、その女児が出産出来る年齢になれば、また産ませる……。
そして、恐らく俺が現れなければ、美里もその一人に……。
「隼人が改革派……つまり、このコロニーを出て、他への探索に出ると賛同する者が増えてきて、俺も参加を表明した、そのタイミングで、俺と隼人達の母親は何者かに殺されたんだ。けど、それからの隼人は凄かった。武器を調達して、一夜にしてバリケードを張って、穏健派からここの領土を奪ってみせた。しかも、それだけではなく、遂には話し合いの場も取り付けた……不発に終わったけどな」
美里はしゅんとして落ち込む。本来なら、穏健派の要求など飲まず、隼人が有利に話し合いを続ける予定だったのだろう。
しかし、功を焦った美里のせいでそれも有耶無耶になったのだろうな。
それにしても沢木という男、許せんな。そして、もうひとつ気になることが。
彼らの母親が殺されたタイミング。
あまりにも、タイミングが良すぎる。
考えられる可能性の一つ──裏切り者の存在だ。




