乙女の神の世界 地球⑤ 祐介と白
予想通り美里に再び頬を叩かれた。クシナとナゴは、明らかに美里に対して敵対心を露にしていたが、なんとか宥め透かしてやり過ごす。
俺達は、隼人と美里に連れられて改革派の主要メンバーに引き合わされることになった。
場所はかなり改革派の領土の奥地にある一つの頑丈そうな建物。
元々は何か競技でもするためなのだろうか、かなり広大な広場があり、それをぐるりと囲むように観客席がある。
広場では、的に向かって小型の自動小銃やハンドガンなどを構えている人々。火薬と銃声が辺り一面に広がっていた。
「随分と、初歩的なことをやっているんだな。あれじゃ、練習にもならんぞ」
俺は忌憚なき意見を述べる。的に向かって撃つのは結構だが、相手も動くのだ。動かない前提での練習など無駄だろう。
「痛いとこを突くな。これが改革派の未熟なところさ。穏健派の中には、このコロニーを守っていた軍隊出身者が多い。それに比べて改革派は民間人が主だからな。どうしても練度には差が生まれる」
対人戦の弱さ、か。数で押せばなんとか差は埋められるか……。そうか、だから改革派は亡命してきた人を受け入れざるを得ないのか。
「おおい! 祐介、白!」
訓練を見守る二人の男。一人は、隼人と年齢が変わらないくらいだが、体つきも良く、力自慢ってところだ。なかなか凛々しい顔つきもしている。
もう一人の白と呼ばれた青年は、祐介と対照的に線は細く髪の色も真っ白で一見弱々しく見えるが、その鋭い目付きに俺は感嘆してしまう。
一般人とは思えないくらいに、その眼光は鋭く光っていた。
「紹介するよ。美里が危ういところを助けてくれたグレン、それにクシナとナゴだ。こっちのデカいのが祐介。俺の親友さ。そして、この真っ白なのが白。変わった名前なのは、記憶の一部を失っていてな。その見た目から名前を付けた」
俺と握手を交わす二人。祐介という青年は、兎も角、この白という青年と握手をした時、奇妙なデジャブを覚えた。
(俺はこの白を知っている?)
そんなはずはない。俺には記憶がないのだ。他の世界のことなど、調べない限りは分からないし、覚えていない。
「それでな。この三人も俺達に手を貸してくれるってことになったから」
「ちょっと待て、隼人。こいつら三人で穏健派の方から来たんだろ。ということは、この子供二人は……」
「奴隷じゃないですよ。なんでこの世界の──ふがっふがっ」
慌てて俺はナゴの口を塞ぐ。迂闊過ぎだろ。別の世界から来たなんて言えば、余計に怪しまれるだろうが。
「まぁまぁ。奴隷じゃないそうだ、この子達は。それに、このグレンはな、美里の婚約者だから仲良くしてやってくれ」
「もっと待て! いつの間に、そんなことになったんだよ!」
「仕方ないだろ。美里が惚れたらしいんだから」
「その割には、美里のやつ、何度もグレンってやつのケツ蹴っているが?」
そうなのだ。俺のお尻は先程から、蹴られ続けていたのだ。しかも、その威力から手を抜いていない事がわかる。
噛みつきそうなクシナを宥めるので手一杯で、俺も手に追えなくなっていた。
「喧嘩するほど、仲がいいってな。そういうわけで、グレン達の家を何処か見繕ってくれ」
「相変わらず人を疑わないやつだな。わかったよ、俺は隼人を信じるだけだ。で、三人一緒でいいのか?」
「何言ってるんだよ。美里の婚約者だって言っただろう? 四人一緒だよ」
「ちょっと待って、兄さん! ぼくも!?」
「当たり前だろ。婚約者なんだから」
俺は半ば諦め始めていたが、隼人が立ち去る時、俺の耳元で「美里を頼む。何があっても美里だけは守ってやってくれ」と囁いていった。
兄なりの妹への愛情、か。
ここへ来る途中も隼人は、色々な人に声をかけられていた。人徳というやつか、彼は改革派のリーダーとしてなるべくなった男なのだと感じていた。
その彼の唯一の懸念が美里なのだろう。
俺の側なら安全だと判断しての行動なのだろうが、俺は、それほどお人好しではないし、正義の味方ぶる気もない。
甘いな、隼人。お前が生粋の人たらしでよかったな。安心しろ、美里は俺が守ってやるさ。
いつの間にか俺は、隼人が嫌いになれずにいた。




