乙女の神の世界 地球① 美里
俺とナゴとクシナの三人は、いきなりどこかの街の路地裏に到着する。
資料によれば、ここは地球という世界であり核戦争とやらで衰退していると聞いていたのだが、レンガ造りの建物に挟まれている。
「もっと荒廃したボロボロの土地のど真ん中に着くかと思ってた」
ナゴの言うように路地裏を出たところに、人の気配もちらほらとする。
「うん? 今悲鳴のようなものが聞こえなかったか?」
微かに女性の叫び声が聞こえた気がする。クシナとナゴも確信はもてないようだが、俺と同様のようだった。
悲鳴のした方向へと歩き出す。
かなり入り組んだ路地裏ではあったが、ほぼ一本道で進んでいく。
「いてっ!」
「うわぁ、何だてめぇ!」
曲がり角で男とぶつかる。ギラついた目付きに眉間に皺を寄せていた。俺も強面だが、こいつは相当いかつい顔をしている。
何よりその手には拳銃が。
「おい、ここから先は何もねぇ! 命が惜しかったら引き返しな!」
典型的な脅し文句。俺はともかく、人に対してあまり恐怖心を抱かないクシナや、あの修羅場のゲームを生き抜いたナゴにとっても、たいした意味を成さない。
「いやぁあああっ!! 止めてぇえええぇっ!!」
完全に聞こえた。まだ若い女性の悲鳴。俺よりもナゴよりも男が拳銃を構えるよりも速くクシナが男の喉へグングニールを突き刺す。
「ぐ……ぅえ」
ろくに声を出すことなく、男は倒れた。
カードを構えたナゴと呪血銃を構えた俺が曲がり角に飛び込む。
俺達の視界に入ったのは厳つい顔をした男達四人が一人の女性を暴行している最中であった。
「ナゴ! 躊躇うな!」
「“ダウンバースト”」
両脇の建物の上空から男達へ猛烈な風が押し寄せる。それこそ、目が開けられないくらいに。
俺は呪血銃に血液を飲ませると、引き金を引いた。
通常の弾丸なら風で軌道がずれるが、俺の呪血銃ならば、その心配はない。
真っ直ぐ伸びた赤い閃光が、風を貫き男達を貫く。
鮮血が路地裏の一角に舞い散り、赤く染め上げた。
「大丈夫か?」
暴行されていた女性は、俺が差しのべた手に怯え行き止まりの壁まで後退り、体を震わせる。まだ年は若そうで十代後半くらい。
顔は今は涙と男達の返り血を浴びてぐちゃぐちゃに汚れている。
ゆっくり俺は視線を下げると、服はボロボロで下着も履いていない。
何より、股の間から流れ太ももを伝う血を見て、間に合わなかったことを示していた。
「ナゴ。男の俺より君の方が安心するだろう。俺は曲がり角にいるから、必要なものがあったら言ってくれ」
俺は今着ている服を脱ぎ上半身裸になると、彼女は一瞬ビクッとからだを丸めた。
脱いだ服をナゴに預けて俺は曲がり角に向かった。
◇◇◇
彼女が落ち着くまで、二時間ほど経過していた。体や顔を拭き俺の服を着た彼女がナゴに寄り添われてやって来る。
「大丈夫か?」
俺の言葉にコクリと頷く。肩まで伸びた黒髪は乱れていた為に、ナゴによって整われており、黒く大きな瞳をこちらへ向けていた。
瞳の奥にはまだ怯えみたいなのが見える。
「俺達は何も見ていないし、ここで何があったのかを知るやつもいない。安心しろ」
再び彼女はコクリと頷いた。
「さてと、これからどうするかな?」
この世界に来たばかりだし、何か始める前に事に巻き込まれてしまった。
まずは、この子をどうするかだ。
「名前、言えるか?」
「美里」
「美里。君を安全な場所まで連れて行きたいのだが、何処に行けばいい?」
「ボクを襲わないの?」
俺の話を聞いていないのだろうか。そんなつもりは全くないと再び伝えるのだが、彼女は納得していないみたいだった。
「だって、幼い女の子二人を連れて……兄妹にも見えないし……奴隷なんでしょ?」
「もう、さっきから言っているけど、奴隷じゃないわよ、あたしもクシナも!」
「悪いけど俺達には、君の言っている意図が全くわからない。説明してくれないか?」
「いいけど……君たちは何者なんだ?」
「遠くから来た者とでも思ってくれたらいい。だから、俺達には何もわからないんだ」
美里は木箱に腰を落ち着かせると、クシナとナゴが奴隷に見えた理由を話してくれた。
この街を外界から守る形で壁に覆われており、それをコロニーと呼ぶそうだ。
各地にコロニーはあるものの、外界から遮断されており、各コロニーがどうなっているかわからないという。
そして、ここオダイバコロニーは、今二つの派閥に別れている。
一つは、コロニーの外を出て他のコロニーとの連携を模索している改革派。
もう一つは、変革を恐れ安定を求める穏健派。
彼女、美里は改革派で、幼い子供の面倒を見ているがクシナやナゴを見たことないため、俺達を穏健派だと思ったのだと言う。
穏健派は、安定を求める──つまり、子孫を残しこのコロニーの中で生活をしていく。穏健派が何より恐れるのが出生率の低下。
コロニーが出来る以前、核戦争が起こる前の世代の人達は、当時豊かになりすぎて出生率がかなり低下したという背景もあり、穏健派では女性の特に子供が産めなくなる年齢まで、その立場は奴隷そのものだと話をしてくれた。
「何よ、ひっどい話だわ!」
ナゴは、プリプリと怒りだしその辺りの木箱を蹴っていく。
「美里。悪いけど、二度と彼女達をそういう目で見ないでやってくれ。彼女達は俺の大事な仲間なんだ」
「そうか……ごめん。えーっと、そういやお前の名前は?」
名前を問われ俺は言葉に詰まる。ナゴがずっと俺の事をグレンと呼ぶからか、俺は思わず「グレンだ」と名乗ってしまった。




