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蟹の神の世界 アクアスフィア⑰ アクアスフィアという世界

「おめでとうございます」


 いつの間にか俺達の背後にいたのは、初日にこのゲームの説明をした男であった。

細い糸のような目を、ますます細めて実に嬉しそうにしていた。


「やっぱり、七日目は丸一日無かったのか」

「おや、お気づきでしたか?」


 恐らく程度だったか、最後の杭が出た時点でカードが揃っていなければ、範囲がグッと狭くなり一触即発になる。そうなれば、カードの奪い合いが始まると、下手をしたら混戦になって全滅もあり得る。


「途中で杭を出す時間を遅くしたり杭の範囲が広がったのは、それを隠す為だろ」

「よく、お気づきで。さすがゲームの勝者だ」


 男は今、確実に「勝利」だと言った。つまり俺達三人とモモを含めた四人が勝ったのだと言い切ったのだ。


「さぁ、この箱をカードを使って開けてください」


 男の足元には四つのコンテナが置かれていた。今俺が持っているカードは自分の物とサクラのカード。俺がサクラのカードをナゴから受け取った時、カードには新しい記載が増えていた。

それは、サクラの言ったようにこのカード一枚で二枚分あることと、新しい能力“増幅”。

この能力で、イフリートを強化したり癒し手の回復速度を増したのだろう。


 俺はカードをコンテナに差し込む。サクラのカードを差して抜き、自分のカードを差す。

ここで、俺は違和感に気づく。

一枚目のカードを差したあと、一度抜かなければならないことに。


「嘘……だろ、おい……」

「どうかしましたか?」

「どうかしたじゃねえよ。お前、俺達を騙していたな!」


 それは、一つの可能性。今となっては取り戻せない。

脱出に必要なのは、カード三枚。

それだけ。

そう、カードを三種類ではなく、三枚。

そう、脱出に必要なのは、カード三枚のみ。あとの九枚は要らないのだ。

コンテナに一度差しても、抜けるのだから。


 二日、ジョーカーがあるために、二人は犠牲にしなくてはならないが、最大十人脱出可能だったのだ。


 俺は男に、俺の推理を叩きつける。ナゴはもちろん、モモですら驚いているようであった。


「ははは。面白い推理をしますね」


 あくまでも俺の憶測に過ぎない。コンテナを全て開けてしまった以上、試しようがない。


「あははははは。正解です、正解ですよ。グレンくん。素晴らしい。今までその答えに辿り着いた者は居なかったのに」


 男は嗤い、俺達だけでなくモモですら、愕然としていた。


 コンテナの中にはカードが一枚入っており、ナゴやクシナのも確認すると全て同じ能力“帰還”という物になっていた。


「さぁ、能力を使ってこの島から帰還してください。私は先に失礼しますよ。“帰還”」


 男は遥か彼方へ消えていく。俺達は、しばらく茫然と立ち尽くしていた。


「く……っ、こんなのあんまりよ……サクラも一緒に戻れたっていうの……サクラは……サクラは、きっとグレンくんと戻りたかっただけなのに……」


 ボロボロと涙を溢すナゴ。


「ごめん、もっと早くこの答えに辿り着いていれば……」


 無理だ。いくら何でもこの答えに辿り着くには、目の前に転がるコンテナを確認しないと。ナゴもそれくらいは、わかっているのか、特に俺を責め立てることはなかった。


「あは、あははははは! どうしたの、そんなにしんみりしちゃって。他の奴らは、弱かっただけ。それだけの話じゃない。サクラもシノブも。それに忘れていないでしょう? ジョーカーの存在を。結局誰かが犠牲にならないといけなかったのよ。二人を犠牲にするか、八人を犠牲にするか。数が違うだけじゃない。悪いけど、これ以上付き合ってられないわ。先に行かせてもらうわね。“帰還”」


 モモは、腹を抱えて笑い終えたあと、カードを掲げると先ほどの男と同じように遥か彼方へと消えていった。

残された俺達三人のみとなる。

ゲームも終わった、監視ももうないだろう。


「ナゴ。お前はこの結果に納得いっているか?」

「そんなの納得出来るはずないじゃない!」

「ああ、俺もだ。恐らく今から、何故このゲームが行われたのか知ることになる。どうだ、俺とクシナに手を貸さないか? ちょっとむしゃくしゃしているからな。裏で手を引いているやつを見つけ出して、二度とこのゲームが行われないように、無茶苦茶にしてやろうかと思ってな」

「グレンくん……本当に人が変わったみたいね。いいわ、わたしも怒っているし」

「じゃあ、戻るとするか。クシナもいいな?」

「了解」


 俺達三人は、カードを掲げて「帰還」と叫んだ。島には誰も居なくなり静寂だけが残された。



◇◇◇



 俺達三人は到着した場所を見て驚く。なにせ、一歩後退すれば無事で済まないだろう。俺達の眼下には、白い雲が見えていた。

浮島と言えばいいのか、俺達の立つ地面は、空に浮かんでいたのだ。

目の前には、街が賑わいを見せており、あの男がニコニコと笑顔を此方に向けている。


「ようこそ、選ばれた者しか住めない天界へ」

「天界?」

「そう。ここは、下に住む下等な者達から昇華した上等な人のみが住める土地なのです。貴方達は、その資格を手に入れた。おめでとうございます」

「……何故、空の上なんだ? 人を差別し分ける。こんなことは、地面にいても出来るだろ。わざわざ()()()()()理由はなんだと聞いている」


 分かりやすく男は表情を歪ませる。どうやらその事に触れられたくないらしい。


「逃げるわけないですよ。我々は昇華したのです」

「だからって空に住む必要はないだろ。神様にでもなったつもりなのか?」


 ああ、大きく頷きやがった。

俺の知っている神々が一番嫌いな種族だ。自分達を神様にでもなった気でいやがる。

俺達は、男にこれ以上問う必要はないと無視をして、下の世界の情報を探るべく街の中へと入っていった。


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