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蟹の神の世界 アクアスフィア⑯ 最終日

 クシナの頭上を何かが通り抜ける。サクラは、強引にグングニールから自らの体を引き抜くと、直ぐに“癒し手”を使用する。

すると、体に空いた穴はみるみる塞がっていく。

回復の速度が異常に速くなっていた。


「クシナ! サクラは何か持っている! 気をつけろ!」


 俺は木を蹴る反動を利用して、一気にサクラに接近すると、両手に持った二丁板斧(にちょうはんぷ)を振るう。


「イフリート!」


 着地を狙われて俺は脇腹に一撃をもらってしまう。


「痛ぇえ!」


 僅か一撃殴られただけで、焼けるような痛みが走り、俺は顔を歪ませる。

危うく追撃される所に、ナゴがイージスを構えて割って入り助けてくれた。


「すまない、ナゴ!」


 礼を言い立ち上がったものの、非常に不味い状況に置かれていた。

レイカが使用していたイフリートと明らかな違いに戸惑う。

一撃貰っただけなのに、悲鳴を上げたくなるほどの痛み。

俺は額に脂汗を掻きながら、必死に我慢をしていた。


「一体、レイカと何が違う……」


 人型の炎の塊を観察するが、サクラに付き合う義理はなく、再びイフリートが俺達に襲い掛かる。


「お、重い……!」


 イージスの盾でイフリートを防ぐ為にナゴは踏ん張るが、数センチ後退させられる。

レイカの時は、易々と受けきったにも関わらず。


「ちょっと、何か変よ! グレンくん」

「わかってる!」


 サクラにあって、レンカに無いもの。


『ジョーカーの褒美としてカードを一枚貰えたの』


 サクラは確かにそんなことを言っていた。だとしたら、このイフリートといい、癒し手の回復速度といい、手に入れた新しいカードが関係しているのか。


「俺に子供を斬るつもりは無いのだがな」


 どうやら俺は、どこかでサクラをまだ子供扱いしていたみたいだ。

俺は二丁板斧(にちょうはんぷ)をしまい五属性の飛刀(フィフスエレメント)を取り出す。


「ナゴは、イフリートを牽制しておいてくれ。クシナ、行くぞ!」


 俺は両手に小太刀を持ち周囲に三本の小太刀が浮く。そのまま、俺はイフリートを躱しながら遠回りにサクラへと迫る。

イフリートが邪魔をしに来るが直ぐに間にナゴが割って入り、イフリートの進行を止める。

クシナも俺の動きに合わせて、遠巻きに何時でもサクラへ突撃をかけられるように待ち構えていた。


「きゃあ!」


 俺の本気の打ち込みは、何かに当たり弾かれる。サクラの持つ刀の柄のようなものの先にある見えない何かで偶然弾かれた様であった。

しかし、俺の片手にはもう一本小太刀を持っている。

弾かれて腕が跳ねあがるも、俺はもう一本で横薙ぎで斬り込む。


「手応えが浅い! クシナ!」

「やぁあああっ!」


 クシナが突撃をして背後からサクラの背中を貫く。


「グレンくん、そっちに行ったわ!」


 ナゴの声に反応して追撃をかけようとした俺は、咄嗟に避ける。

下手な場所に食らうと、次は動けるかわからない。

その間にクシナのグングニールから逃れたサクラは癒し手で回復をしようとした。


「させるか! (サンダー)!」


 雷撃がサクラに命中してサクラの体は硬直する。その隙を狙ってクシナが突っ込んでいく。

貫いたのは左肩。サクラは思わずポケットに入れていた左手を出すと、地面に何かを落とした。


 それは一枚のカード。カードの能力は恐らく癒し手だと思われた。


「クシナ、逃げろ!」

「逃がさない!」


 サクラは柄を捨てグングニールを右手で掴む。その瞬間クシナがイフリートに抱きつかれ炎を纏う。


「きゃああああああっ!!」


 クシナの悲鳴が、森の中に響き渡る。クシナは体中に炎を纏い苦しみ踠く。

ニヤリとサクラは嗤うその瞬間を俺は狙っていた。


「がっ……あ! な、何これ……」


 俺の周りに浮かんでいた三本の小太刀は、全てサクラの体を貫いていた。

そのうちの一本は、首を貫通して。


 目を見開いてサクラはこちらを見る。その目には憎しみと苦しみと怨みと、そして何処か悲しみを表していた。

サクラが地面に倒れるとイフリートが姿を消す。

まだ微かに息のあったサクラは落としたカードへ手を伸ばして拾おうとしていた。


「サクラ。ごめんなさい」


 カードはナゴによって拾われてしまう。ナゴは直ぐにクシナの元へと向かい癒し手を使用する。

みるみると焼け落ちた髪や肌は、回復再生していく。

俺はホッと胸を撫で下ろすと、サクラの側へと近づいた。


「何か言い残したことはあるか?」


 サクラは此方の方に顔を上げるが視線が俺と合わないところをみると、もう目は見えない様であった。


 何を訴えたいのかわからず、口を魚のようにパクパクと動かすのみ。

このまま放っておいても、直ぐに死を迎える。

ただ何となくであったが、サクラは俺に殺されたいような目をしていた。

もし、それが最後の願いであるならば……。


 俺は逆手に持った小太刀を大きく振りかぶり、そのままサクラの心臓目掛けて振り下ろした。



◇◇◇



 確かにサクラはカードを四枚所持していた。俺達が持つカードは五枚。

これで一人三枚のノルマを終えた。

カードに書かれた時間を見ると、真夜中を過ぎていた。

いつのまにか最終日に突入している。

このまま朝を迎えてもいいが、杭のこともある。

さっさと移動するしかないと、そのまま俺達は島の中心に向かって歩き出す。


 島の中心には既に到着していたモモと、マサカツやシノブの遺体が立っていた。


「モモ、お前。サクラを誑かしたな」

「何を言っているのだか? あたしにメリットないじゃない」


 あくまでも(しら)を切るつもりだろう。サクラには気の毒だが、カードを全員が揃えている以上、戦う必要はない。


「クシナ。傷は大丈夫か?」

「平気」

「そうか。それならいいが」


 突然島が揺れ出す。クシナやナゴも揺れを感じているところを見ると、俺を戻すいつものやつではないみたいだ。

まぁ、俺はまだここに来て何もしていないしな。


 杭は島の中心から半径百メートルくらい近くまで覆う。危なかった、ボーッとしていたら串刺しだ。


 パチパチパチパチ。


 突然背後からきこえた拍手に振り返ると、そこには初日に会った糸のように細い目をした燕尾服を着た男が立っていた。

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