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蟹の神の世界 アクアスフィア⑬ 屍

 草むらの陰に隠れて一部始終を見ていた俺達は、死んだはずのミノル、そしてつい先程死んだはずのシノブの遺体が動き出したことに驚く。


「あ、あれ……もしかしたらマサカツの……」


 ナゴは気付かれないように小声で伝えてくれるが、今目の前にいるマサカツの所に飛び出したいだろう。

何せ、今いるマサカツの体全体には、シノブと同じくハリネズミのように無数の針が刺さったままであった。


「ナゴ、どういうことだ?」

「マサカツのカードには“屍”ってあったの。だけれども、どんなものなのかは使ったことが無かったからわからなかったの。だから……」

「遺体を操る能力……か。だとしたら、もう、マサカツは……」


 マサカツも、ミツルも、シノブも、モモに寄り添うように立っているが、目は虚ろで全くモモの姿ですら見ていない。

屍を操る能力か、あの遺体が何処まで動けるかによるけれども、俺やクシナはともかく、ナゴと協力すると言った以上、今マサカツを目の前にすると、ナゴは動けなくなってしまうだろう。


「退くぞ、ナゴ。おい、ナゴ聞いているのか!」

「う、うん」


 放心状態であったナゴを連れて俺とクシナは、モモからゆっくりと離れるのだった。



◇◇◇



 モモから一定の距離は取った。しかし、もうすぐ、島の動ける範囲が狭まる時間帯だ。

今いる場所も決して安全だとは言えず、俺は移動するかどうか思索していた。


 モモがマサカツを使ってナゴを襲ったこと、レンカが俺がミツルを殺したと思っていることから、二人の狙いは俺達だ。


 モモは、自分自身のカード、マサカツ、シノブ、そしシノブが殺したミツルとマキ、モモを襲って……いや、襲ったのは恐らくモモの方だろう、ダイジロウのカード、計六枚……いや、一枚俺が拾ったから計五枚持っている。


 レンカとサクラは自分のカードを一枚ずつ。


 そして俺達は、俺のカード、クシナのカード、ナゴのカードにリンのカードと、さっき拾ったカードの計五枚。


 俺達三人が必要なカードの数は残り四枚。つまり、モモを襲うしかない。

レンカとサクラの二人も残り四枚。つまり俺達か、モモを襲うしかない。

そして、モモは一人ノルマをクリアしている。


 レンカ達が俺達と手を組むことはない。クリアは四人までなのだ。一人溢れる。


 モモが俺達かレンカ達と組むことは考えられる。しかし、どちらかと言えばレンカ達の方だろう。

理由は、ナゴが此方にいるからだ。

十中八九、マサカツを殺したのはモモだ。

ナゴが嫌がるのは目に見えている。

一方レンカ達は、モモがどうやってここまで生き延びてきたのかを知らない。

騙すなり、嘘をつくなり容易いのだ。


 つまるところ、俺達はモモとレンカ達に狙われることに。


「不味いなぁ……」


 レンカはともかくサクラの奴は、助けてやりたいのだけれども……。


「サクラって、なんでレンカと一緒にいるんだ?」

「何よ、急に。何? サクラが気になるワケ?」


 どうして、色恋沙汰に、持っていきたいのか。呆れつつもナゴに尋ねるしかなかったが、幼馴染み以上のことは分からない。


「ん? あの二人が幼馴染みなら、ミツルも幼馴染みか」

「ええ、そうよ。まぁ、もっともミツルの方はサクラにご執心だったみたいだけど」


 レンカのミツルが死んだ時の、あの反応。なるほど、三角関係ってやつか。まだ、子供なのに、それだけでサクラを火炙りにするのか。

いや、子供だから、か。


 そうなると、レンカがサクラを連れてシノブのグループを離れたのも、サクラとミツルを一緒に居らせたくない為か。

いや、でもそれはレンカが、サクラに執着する理由だ。

サクラは何故、レンカから離れないんだ。


「まぁ、サクラはサクラで他に好きな人がいるみたいだけど」

「何!? 誰だ、そいつは」

「……はぁぁぁ。そんなのあたしの口から言えないわよ。本人に聞いたら?」


 呆れられてしまった。本人が居ないから聞きたいのに。


「クシナ。だから、何故俺の頭をつつく?」


 グングニールの先で、俺の頭をしきりに突いてくるクシナ。その表情は何処か不機嫌な顔をしていた。


 モモとレンカ達の監視を千里眼で行いつつ、俺達は移動を始める。

移動し始めて、数分経過した頃、いつもの地響きと共に杭がすぐ近くに地面から勢いよく伸びる。


「危なかったな。お、食糧が投下されたようだ」


 五日目の昼。ここを確保すれば、まず七日目まで空腹でもギリギリ動ける。

すぐに千里眼とカードが示す赤い光点で、食糧を発見するも、残念ながらレンカ達が圧倒的に近い。

そして、夜の食糧も残念ながらモモの近くに投下され奪われてしまった。


 明日は六日目。二回目のジョーカーが決まる日。下手をすれば、ここにいるクシナかナゴに決まるかもしれない。

俺は空腹を我慢している二人を呼ぶと、明日について俺の意見を述べた。


「明日はジョーカーが決まる。六分の三で俺達の誰かの可能性がある。だから、これだけは言っておく。万一、俺がなったとしても俺は君達を襲わない。口先だけの約束になってしまうが、明日になれば俺は君達にカードを見せよう」

「あたしも良いわよ、見せても。危ない所を助けてくれたんだもの……それに、もう他に一緒にここを出たい人は居ないから」

「約束。クシナも見せる。もしグレンがジョーカーだったら、クシナを殺してくれていい」

「ナゴ、ありがとう。そして、クシナ。君はなんか重いから、そんなこと言うな、わかったな」


 ナゴが、約束だと左手の甲を差し出す。俺とクシナは自然とその甲の上に自分の左手を乗せるのであった。 

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