蟹の神の世界 アクアスフィア⑫ シノブとの対決
モモの動向も気にはなったが、俺達は交代で見張りを立てて仮眠をとることに。
クシナとナゴのペア、そして俺。
女の子同士で仲良くなってくれればいいなと思い、分けたのだが、まぁクシナが殆んど喋らない。
何度かナゴの方から話かける試みを行ったが、成果は得られていなかった。
結局五日目の朝になり、俺が二人を起こすと、ナゴから息が詰まりそうと、次は俺とのペアがいいと言う。
一応、男と二人というのは嫌だろうという、俺の真の配慮は無駄に終わった。
朝の投下分の食糧を探そうと千里眼を使うが、ナゴからカードの裏に大まかな島の地図と食糧の大体の位置を示す赤い光点が現れると教えてもらう。
「くそぉおお……これと千里眼組み合わせれば、食糧ほぼほぼ先取り出来たじゃねぇか!」
俺は恥ずかしくて顔を手で覆いながら、見つけた食糧に向かって走り続ける。
「冷静。グレン、前。あっ!」
ガツンッ、と物凄い音を立て俺は目の前の大木に激突して、転ぶ。
「いてて……くそぅ、恥の上塗りじゃないか」
「ま、まぁ。これでいつものグレンらしさが出てきたし、いいじゃない」
ナゴの言うグレンというのは、俺の転生のために追い出されたグレンの方だろう。この手の転生は幾度と経験していたが、少なくとも今の状況下よりずっとマシな生活を送っていると思う。
まぁ、俺に知る術はないのだけど。
俺達は、運良く自分達の近くに投下されてあった食糧を確保すると、近づくレンカとサクラから逃げるように離れる。
戦わないのかとナゴに聞かれるが、別に今無理に戦う必要はない。
明日になれば誰かがジョーカーに指名される。
もし、俺達の内誰かがジョーカーになったならで構わない。
俺達は、レンカ達から離れた場所で二人前の食糧を三人に分けた。飲料水は貴重なので、少しずつ回し飲みだ。
「どうした? 飲まないのか」
俺から飲料水を受け取ったナゴは、じっと飲み口辺りを見ている。
なるほど、如何せん俺の中身は大人だ。全く気にしていなかったが、どうやらナゴは俺が口を付けた飲料水に躊躇いがあるみたいだ。
いわゆる間接キスというやつか。ナゴくらいの世代だと恥ずかしいか。
もう少し気を遣ってやればよかったか。
俺は何かコップらしき物は無いかと辺りを見回すが、ナゴが意を決する方が早く、グッと飲料水の入ったボトルを傾けた。
「んっ」と、口元を手で拭いながらクシナに手渡すナゴの顔は、少し赤く見えた。
気の強そうなナゴが照れる姿は、少し可愛いなと俺は思ってしまった。
食事を終えた俺は、千里眼で辺りを見渡す。レンカとサクラは、食糧が無いとわかってか、一度引くと辺りを散策していた。まだ、俺を探しているのだろうか。
モモとマサカツは、何をするでもなしに歩いている。マサカツの歩行が少し変だなと感じた限りは、特になにもない。
向かっている場所も、昨日ミツルが死んだ方角。
そしてシノブを探してみるが、見当たらない。島の何処にも姿は無い。
ゾクリと背筋に寒気が走ると同時にクシナがグングニールのレプリカを構える。
俺も五属性の飛刀を構え、ナゴにもイージスを出してもらう。
ナゴのイージスの盾は、大きさはナゴの体を完全に隠し半透明になっているため、視界を覆うことはない。かなり頑丈でクシナのグングニールでも貫けない。
俺達は互いに背中合わせに陣形を組み待ち伏せる。
辺りから感じる殺気。当然素人だから、殺気を消せてはいないが、その姿を目視出来ない。
昨日のミツルの事を思い出す。
彼はいきなり背後から何かに土手っ腹に穴を開けられた。
ミツルの血で染まった獣のような手。
そこから推測すると……。
「クシナ、ナゴ、気をつけろ! シノブは透明になっているぞ!!」
俺は二人に呼び掛けると、ナゴのイージスに衝撃が走る。
「くっ!」
ナゴは両足で踏ん張り耐える。イージスがどれだけ頑丈か試してみたのか、追撃は無い。思っていたより頑丈だったのだろう。だとすれば、次に狙うのは。
「クシナ、最大で警戒しろ!」叫ぶと同時に真横に剣を振る。
微かな手応え、しかし、姿は未だに見えずにいた。
「はっ!」
クシナが一歩踏み込み槍を突く。クシナも微かに手応えがあったのか体が止まってしまう。
「クシナ、避けろ!」
一歩踏み込んだせいで、クシナとナゴの間に隙間が出来てしまい、ナゴは背後から攻撃を受けてしまった。
熊爪のような傷痕に、俺はシノブと確信する。俺は無理矢理ナゴの後ろの襟首を掴んで自分の後ろへ追いやるとナゴがいた辺りを斬る。
手応えは無い。
「クシナ、動けるか!?」
「肯定。問題ない」
俺がナゴのいた辺りを斬ったことで、クシナと俺を繋ぐ経路にはなにもない事を確認したクシナは、すぐに俺達と合流する。
「いいか、離れるなよ!」
俺達は再び背中合わせになり構える。しかし、辺りから殺気はするものの、襲ってくる気配が無い。
このままじゃ埒が明かない。
「クシナ、ダウンバーストを使え!」
「了解。“ダウンバースト”」
いわゆる下降気流を起こす能力。殺傷力は無いが、辺り一面砂埃が舞う。
これが狙いだった。
昨日、ミツルの血がシノブと思われる手にベットリと付いた。つまり消えるというよりは、相手から見えなくなるという能力なのだろう。
違和感のある砂の舞い方をする場所から咳き込む音が聞こえる。
「クシナ、ナゴを頼む!」
俺は一目散に走り出すと、自分の回りに浮く五属性の飛刀の一つを手に取る。
「雷」
「ぐぅううううっ!」
切っ先から出した広範囲の雷は、直撃はしなかったがシノブを捉えたのは間違いなかった。
一気に詰め寄り短刀を振るうと、何も無い場所から血飛沫が舞う。肩に当たったのか血で肩から腕にかけて姿が見えた。
深い傷の手応えではなかったが、これで見失うことはない。
完全に逃げに入ったシノブを俺は追いかけた。
チラリとクシナ達を見ると追いかけてくるがナゴのペースに併せているようだ。
俺は見失うかと徐々に迫ると、シノブも逃げるのを諦めたのか血濡れた腕は止まり俺を迎え撃つ。
奇襲ならいざ知らず、正面で俺と渡り合おうとするのは愚の骨頂。
俺の振るった短刀からは、かなりの手応えが伝わった。
「うわぁあああああああっ!」
ボトリとシノブの左手首が地面に落ちた。と、同時に獣の姿で現れたシノブ。
落ちた左手にはカードが握られていた。
どうやら、これが透明になる能力のカードらしい。
シノブは、すぐに逃げ始める。
急ぐ必要は無い。俺はカードを拾い、ゆっくりと血の痕跡を追う。
後ろからは、ナゴとクシナが追い付いてきた。
「シノブは?」
「この地面のあちこちに落ちた血の跡を追えばいい。そう長くもたないだろうがな」
ほどなくしてシノブに追い付く。シノブは逃げる足を止めていた。
ゆっくり背後から俺達は近づくと、そこで意外な人物の姿に驚く。
「み、ミツル!?」
それは見間違うことなく、ミツルの姿。シノブと対面していた。
しかし、そのミツルの顔は蒼白で血の気がなく、目は虚ろ。腹にはシノブが空けた穴がしっかりと向こうの景色を写し出す。
「み、ミツル……お前、生きて……た、頼む。助けてくれ……サクラが治療出来る能力を持っているはずだ、お前からレンカに……」
次の瞬間、ミツルの背後から飛んできた、かなり太く長い無数の針はミツルの体を貫通してシノブに突き刺さる。
「あ、あれはモモの!?」
俺は二人の頭を押さえつけて茂みの中へと隠れて様子を伺う。力を失い前のめりに倒れたシノブとミツル。そして、姿を現したのはマサカツとモモであった。
モモはシノブの遺体を探りカードを二枚手に入れる。そして自分のポケットから出したカードを使用すると、なんとミツルとシノブの遺体が立ち上がったのだった。




