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山羊の神の世界 イース・タール① 転移直後

 真っ暗なトンネルを抜けたように、目の前がいきなり明るく照らされて、たまらず俺は目を細める。

山羊の神の世界の一つ、イース・タールに転移してきた。


「随分と眩しいな」


 俺の手の届く範囲には、建物らしき壁があり、両隣にあるところから、何処かの町の路地裏にでもいるのではないかと推測出来た。

漸く、目が慣れてくると予想通り、人が一人通れる位の細い路地にいるのだとわかる。


「何でこんなところに……」


 思わず一人呟いてしまったが、まだマシな方である。

過去には海のど真ん中に転移させられたり、吹雪く雪山の麓に転移させられたりもした。


 細い路地でありながら建物が影を作ることもないくらいに、空が眩しく明るい。

少し歩いて路地から出て上空を見上げると、その理由が良くわかった。


 大概の世界を転移、転生してきたが、空に太陽がないのは初めてであった。

それどころか、空ですらない。

映像で作り出した空。目映い光源は、あちこちに存在していた。

真っ青な空の映像を天井に流して、初め眩しい太陽だと思われたものは、綺麗に整列しているただの照明に過ぎない。


「なんだ、この世界は」


 俺が驚いたのは、空だけではなかった。

路地を抜けた先には大通りがあるのだが、そこは自動で動く歩道であり、等間隔で設置された椅子に、真っ直ぐ前しか見てない人々が座って流されていく。


 まるで、工場のベルトコンベアで人を運んでいるような異様な光景。

空には奇妙な物体も多数浮かんでおり、飛び回っていた。


 これだけ眩しい明かりにも関わらず、特殊な金属で出来ていると思われる建物は、光を反射させることはなく、辺り一面、高層の建物で埋め尽くされていた。


「ちょっと、不味いかな」


 俺は再び路地へ身を隠すように潜めて、空を浮かぶ奇妙な物体を観察する。

物体の上部に付いているプロペラが回り空を飛ぶ。

どれもこれも白い金属製の丸い物体であるが、真ん中に付いた黄色く光る瞳のようなものが忙しなく動いており、どうやら人々を監視しているようであった。


 移動式の監視カメラのロボット……というところか。


 観察し続けていた俺の目の前に建物の影から、その監視ロボットが現れる。

俺とそのカメラが内蔵されていると思われる瞳と目が合うが、何事もなく通りすぎていく。


「……認識していない?」


 俺の存在がイレギュラーだからだろうか。


 これは下手に動かない方がいいかも、そう考えた時、何処からか大音量でピンポンパンポーンと、怪しげな音が鳴り響く。

音が鳴り止むと同時に、人を乗せたコンベアは、その動きを止めた。


『ソレデハ皆様、立ッテクダサイ。マズハ屈伸カラ』


 明らかに人とは違う声が聞こえると、椅子に座っていた人々が一斉に立ち上がって屈伸をやり始める。

俺が推測するに、恐らく座りっぱなしだからだろう。長時間座りっぱなしは良くないと聞いたことがある気がする。


「法と秩序、ねぇ……」


 辺りを見回すと、建ち並ぶビル、ビル、ビル。雑踏の音は一切聞こえず、町の音は機械音と成り代わる。

機械に支配された世界。法と秩序は、機械の命令とそれを遵守する世界だと、改めて俺は理解出来た。


 これでは、文明の発展などあり得ず停滞するばかりだ。


「なんともつまらない世界だな……」


 やはりハズレを引かされたな、と俺は密かに心の中で山羊の神への愚痴を言う。


「さて、どうしたものか。取り敢えずは情報を集めなければな。あとは、食料を確保したい」


 転移した後の俺は、疲れも出るし空腹も感じる。生きているということが実感出来るから嫌ではないのだが、こんな世界では外食どころか店すら無いだろう。


 再び動き出したコンベアに近づき、情報を得るべく人へと近づいて声をかけるも、俺を見ることはなく、淡々と人が流されていく。


 人には感情ってものがある。

なのに、この世界の住人は、皆が死んだ魚のような目をしており、果たしてここまで感情を殺せるものだろうかと疑問に思う。


 俺はコンベアの流れに沿って声をかけていくが、一度も反応がない。生きているのだろうかとまで疑いたくなる。


 仕方ないと俺はコンベアの上に乗り、椅子に座る若い男性に並走しながら「ちょっと失礼」と声をかけた後、男性の手首を取る。

青白い顔をして、痩せ細っている。

栄養は足りているのだろうか、いや、それすらもギリギリで管理されているのだ。


「脈はあるな」


 生きてはいるみたいだ。俺は男性の前に座り目を合わせるも、何の反応もない。少し驚かそうと目の前でパンッと手を叩いて見せるが、瞬きすらない。


「ったく、一体どんな訓練したらここまで出来るんだ」


 人には防衛反応があり、それすら制御されているのか、失われているのか。

俺は仕方ない自分であちこち見て回るしかないかと、立ち上がろうとした──その瞬間。


 ガクンと、俺のいた場所のコンベアが枝分かれしていることに気づかす、足を踏ん張り耐えた際に、思わず若者の男性の手首を掴んでしまう。

男性を無理矢理立たせる格好となった瞬間、ベルトコンベアはビーッビーッと五月蝿く鳴り響く警報音と共に止まった。


「不味いなぁ」


 空を見上げると、浮いて辺りを飛び回っていた監視ロボットが集まり出してきた。

手首を掴んだ男性は、俺の手を振り払うとフラフラとコンベアの外へと歩き出す。

そして、空に浮く監視ロボットから垂れ下がったコードを自らの手首へと巻き付けた。


「おいおい……ちょっと待──」


 ものの数秒間であった。呼び止める間もなく男性の体が小刻みに痙攣を始めるとビクンビクンと、弾けるように跳び跳ねた。


「おいおい、本気か……」


 人形のような物言わぬ男性は、本当に糸の切れた操り人形のようにぐったりと地面へ這いつくばる。

監視ロボットから伸びるコードは男性の手首に繋がれたまま、役割を終えて監視ロボットの根元から切り離された。


 そこにガタガタとキャタピラー音を立てながら地面を進むロボットが現れると、男性の遺体を手前に付いたショベルを使って掬い上げ、血で染まった地面を後方から噴射される洗剤らしきものとモップで清掃し始める。

清掃を終えたロボットは、何事もなかったかのように、キャタピラを動かしながら男性の遺体を運んでいった。


「……不味いな、次は俺か?」


 監視カメラを此方に向けて宙を浮くロボットは、俺の目の前に、先程と同じようにコードを垂らしていた。

俺が全くコードを手に取ろうとしないので、カメラが仕込まれていると思われる黄色い光が此方をジッと凝視してくる。


 少し不味い状況に逃げるかと後退ると、遠くからプシューップシューッと、空気を吐き出す音が聞こえ出す。

音がする方向に目をやると、大人の背丈ほどある大きさの金属製の人型のロボットが此方に向かってやって来ていた。

人型のロボットは、脚の下部から空気を吐き出して地面を滑るように進む。

何より左右にある腕の先端は銃口になっており、明らかに俺へと向けていた。

俺を始末するつもりか、この世界の兵士や衛兵、そんなところだろう。


 俺は直ぐに逃げ出す。

目指すは、建物と建物の間の路地。

あそこなら人一人程しか通れない為、あの人型のロボット兵は追ってこれないだろうとの目算であった。

案の定というか、想定内というか、俺が逃げ出したのを見て人型のロボットは俺を追って来るために方向を転換させた。


 ビルの谷間に逃げ込んだ俺は、後方を気にしながら進んでいると、予想通り路地の幅に引っかかり人型のロボット兵は進めない。


 ところが、なかなかロボットの癖に賢い。

真っ直ぐ伸びる路地には人が一人しか通れる幅しかなく、追い詰められたのは俺の方であった。


 人型のロボット兵は、路地へと腕を差し入れて銃口を俺に向けていた。


タタタタッ!!──ガッガッガッ!!


 連続して放たれる銃声と、ロボット兵の足元へと落ちていく薬莢の音。

ひたすら全力で逃げると、建物の二階の小窓が俺の視界へと入る。

いけるのか、いや、やるしかないと、俺は建物の狭い間隔を利用して両壁を蹴り上がっていき、小窓に頭から突っ込むのであった。

次回明日の0時投稿予定です。

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