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蟹の神の世界 アクアスフィア② 一人目の犠牲者

 俺は素早く木の上に登り、早速“千里眼”を使用してみる。

確か頭の上に掲げて「千里眼」と言えば良かったな。


「千里眼!」


 ほう、凄いな。俺は海岸からは大分離れたつもりであったが、木々の葉っぱなどの障害物を通り抜け、海岸まで視界は辿り着く。


「ん? まだ、一人海岸に残っている」


 女の子……いや、あのリンという女の子に見える可愛らしい男子。オロオロと、どうすれば良いのかわからずに、皆に置いていかれてまったようで、とうとうしゃがみこんで、泣き出したみたいだ。

膝を抱えて顔を伏せてしまっている。


 さて、どうするか……カードを奪うか? いや、もしかしたら他の奴から囮として使われているかもしれない。

……考えすぎか?


 木の上から千里眼で様子を伺っていた俺は、ちょっと他の奴らを見るべく辺りを見渡す。

俺はてっきり一つにまとまって行動していると考えていたが、そうではなかった。


 一番大きなグループ。シノブを初め取り巻きっぽいミツルとダイジロウ、カップルぽかったナゴという女の子とマサカツという男の子、眼鏡をかけた真面目そうな雰囲気のマキに、あまり喋らず無口であるがピンク色の髪をしたモモの七人。


 そこに俺を起こしてくれたサクラと、その友達ぽかったレンカがおらず、別行動を取っているようだ。

仲違いでもしたのか。


 俺はカードに書かれたルールを確認する。ここを出るには三枚のカードが必要。つまり最大四人しか出られないのだ。

いずれあの大きいグループも、分裂するか、それとも、もしかしたら……そう考えた時、突然島全体が揺れ出す。


「うおっ、危ねえ!」


 予想外な大きな揺れに俺は木の上から落ちそうになる。何が起こるのかと辺りを見渡した、その時──海岸では悲惨な光景が俺の視界に飛び込んできた。


 一本一本が、一般的な男性の腕並の太さを持つ杭。それが海岸の砂浜全体埋め尽くしていたのだ。

海から逃げられないように、というよりは別の目的。

恐らく行動範囲を狭めていくのが目的だと思われる。


「惨いな……」


 砂浜で泣いていたリンという男の子は、砂浜から伸びた複数の杭に貫かれていた。

もたもたしているとこうなるぞ、と見せしめかのように。


「あの子には悪いが、カードを一枚集める手間が省けたな」


 俺が木の上から降りようとしたとき、杭に貫かれたリンに近づく者が現れる。

唯一、名前が判明しなかった俺と同じ赤い髪の女の子。

千里眼で更に拡大すると赤髪の女の子の表情に驚く。

全く怯えや恐怖をその表情からは読み取れないくらいに平然としていたのだ。


「なんなんだ、あの子は……」


 俺は暫く、赤髪の女の子を観察することに。あの子のカードの能力も判明していないし、恐らく俺と同じ目的であのリンという男の子に近づいているのだろうが、一本一本の杭が人の背丈程高く腕くらいに太い、更にはそれがビッシリと砂浜を埋め尽くしている。

どうやって近づく?


 赤髪の女の子は、座ったかと思えば服の背中を捲り、隠していたのであろう二本の棒を取り出す。

更に二本の棒を互いに先端でくっ付けると、一本の棒になり更に背中から取り出した何かを棒の先端に取り付けだした。


「おいおい……持ち込みかよ」


 用意周到といえば俺も同じだが、まさか武器を持ち込んでいる子供がいるとは。彼女は、くるくると手慣れた手つきで、一本の槍となったものを振り回す。


 そして──真横に一閃。


 容易く杭を次々と斬っていく。折れた杭を踏み越えリンに近づく赤髪の女の子。

リンに刺さった杭を斬り、遺体からポケットを探るとリンの遺体に砂浜の砂を被せてやる。


「埋葬してやるのは言いが、見ていて助けない時点で何も変わらないぞ……クシナ」


 俺は木の上から見ていてポツリと自然に溢した呟きに違和感を覚える。

クシナってのは、誰だ? あの赤い髪の女の子か? もしかして、俺はいつの間にか彼女の名前を聞いていたのだろうか?

幾つもの疑問点が浮かぶも、俺の中にモヤッとしたモノが取れず、どれも違うような気がした。

暗く沈むような感情、しかし、この中にも明るく光る感情が中心にあるような。


「考えても仕方ない。接触してみるか?」


 その時──俺のポケットに振動が。ポケットの中にはカードしかなく取り出すと、カード自体が震えたようであった。

そして、カードには“食糧を投下しました”の一文が。


「いつの間に投下なんて……さっきの揺れの時か」


 俺は再び千里眼を使い食糧らしきモノを探す。遥か遠くを邪魔な障害物を透かして見渡す。


「あった!」


 森の中で不自然な人工物の箱というか、コンテナだな。他の人達は……シノブのグループは、何か揉めている? 食糧を確保しには動いていないようだ。

あとは……サクラとレンカが、真っ直ぐに食糧目指して走っていた。


 何故、そんなに迷わず進めるのか疑問に思いながら、まずは、食糧を確保しなければと俺も動き出す。



◇◇◇



 コンテナには、俺がいち早く着くことが出来た。まぁ、身体的な能力自体が子供であるサクラ達よりかは高いから当然といえば当然か。


「さて、メシ、メシ」


 コンテナには鍵がかかっており開かない。俺がコンテナを探っていると背後から「グレンくん!」と呼ばれる。

思っていたより早かったな、振り返るとそこにはサクラが一人だけ。


「なるほどね、こそ泥はどうかと思うぞ、レンカ」


 大方俺をサクラが誘い出してコンテナを奪うつもりだろうが、そうは問屋が卸さない。苦虫を潰したような表情をしたレンカが、背後の茂みから出てきた。


「参ったな。サクラがどうしてもグレンと話し合いたいって言うから、任せたけど、簡単に見透かされるとはね」

「俺を出し抜くなんて二万とんで五十年早い」

「何よ、その数字は……」


 レンカには呆れながらも、どこか余裕が見えた。確かレンカのカードの能力は“イフリート”だったか。

随分と俺とは差がある気がする。


「サクラ。グレンと話さないの? それなら……」

「レンカちゃん、待って!」


 レンカがポケットに手を突っ込むと慌ててサクラが止めに入った。

やっぱり子供だな。そこにカードがあるよって教えているようなものだ。


「あの、グレンくん。良かったら、あたしたちに食糧分けてくれないかな? お願いします」


 サクラは、ご丁寧に頭を下げてまで同級生の俺に頼み込む。そこが少し胡散臭いけど。


「俺にメリットはあるの?」

「ほら見ろ、サクラ。こいつは譲るつもりなんてないんだよ!」

「譲る? 分けるだろ? レンカも勘違いするなよ」


 俺は体をサクラに向けたまま、背後のレンカを睨む。勝ち気な女の子だ、全く怯む様子がない。


「待って、二人とも! グレンくん、メリットならあるわ。あたしの……あたしのカードをあげる!」

「なにっ!」

「ちょっと、サクラ! 何言ってるのよ、あなた!」


 レンカが怒鳴る所を見ると、何かの罠ではなくサクラが勝手に言い出したようだ。


「その代わり……レンカちゃんをクリアさせてあげて」


 サクラは震える声で懇願してくる。いや、実際に足は震えている。

幾ら親友だとはいえ、自分の命を賭けれるのだ。

この子とレンカには、一体……。


「はぁ……サクラ、レンカ、お前達はリンがどうなったか知っているのか?」


 突然リンの名前が出て二人は一瞬きょとんとするが、すぐに首を横に振る。


「リンは死んだよ。砂浜中から伸びた鉄柵に貫かれて。さっきの島の揺れは、その仕掛けが動いた振動だ」

「うそ……」


 二人は言葉を失う。特にサクラは本当に死ぬという現実を突きつけられてショックを受けたようで顔が真っ青になっていた。


「ん?」


 まだ距離はあるが、何か近づいてくる気配を感じる。


「サクラ、レンカ。メリットの話は無しでいい。コンテナを運ぶのを手伝ってくれ。シノブ達が近づいている」

「えっ?」

「ちょっと待ってよ、本当なの?」


 俺は黙って頷くと、これ以上声を出さないように指を唇にあてて合図を送る。

俺がコンテナに手をかけ、二人に目配せすると二人もシノブ達とは何かあったのか、すんなり手伝ってくれた。


 森の奥へ奥へとコンテナを運び、シノブ達が来ないか気配を探る。

大丈夫だと判断した俺は指で丸を作って合図を二人に送った。


「はぁ……良かった。シノブ達に見つからなくて」


 やっぱり仲違いでもしたのか、心底ホッとする二人。


「ほら、あいつらが来る前に食べちまおうぜ」


 俺はコンテナの裏側にあったカードの差し込み口に自分のカードを差すと、開いたコンテナから箱に包まれた食糧を二人に手渡すのであった。

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