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蟹の神の世界 アクアスフィア① ゲーム

「──くん。──レンくん」


 俺は意識を失っていたのか、俺に向かって呼び掛ける声と体を揺すられることで目を覚ました。

真っ青な快晴の空、潮の匂いとさざ波の音が鼻と耳を刺激する。

海の近くか……。それに、俺の視界の半分を埋め尽くす少女の顔。


「はっ! お、俺は一体……」


 急に体を起こすと少女は、びっくりして白い砂浜に尻餅をつく。

俺は自分の手を確かめると辺りを見回して、寄せては返す波に自分の姿を映し出す。


 そこには、髪の毛が燃えるように真っ赤な少年の姿が。


 そうか、転生と言ってたが、魂転生の方だったようだ。


 転生には二種類ある。一つは、新たに生まれ魂と体を持つ完全転生。もう一つは、魂だけを入れ替える魂転生。

今頃、この体の元の魂は別の世界へ転生させられているのだろう。


「グレンくん。大丈夫?」

「えーっと……」


 困った。どうやらこの薄い桃色をしたショートボブの少女は、俺の事を知っているようだが、俺には誰か判らない。


「サクラーっ! こっちにもいたよー!」

「うん、わかった。すぐ行くー」


 サクラと呼ばれた少女は「ごめんね」と手を併せて謝ると、サクラを呼んだ少女の元へと駆け出した。


 一人になった俺は改めて自分の現状を把握する。今居る海岸からぐるりと海を見渡すが、何処までも続く水平線。

海岸も見るが、何処までもずっと続いている。

海とは反対方向を見ると、森と呼べそうな木々が鬱蒼と生えていた。


「なんだ、ここは?」


 何の取っ掛かりがないまま、俺はサクラが向かった方向へと歩き出す。

彼女なら何か知っているかもしれないと。


 しばらく歩くと、サクラを始め同じ年頃の少年少女が集まっていた。

ひい……ふう……みい、全部で少年少女は十一人。いや、俺も含めると十二人か。

サクラが俺に気づくと手招きして来いという。


 俺も集まった輪の中に入ると、幾つかの情報を手に入れることが出来た。

ここに集まった少年少女は全員同級生でクラスメイト。

気づいた時には、この場所にいたこと。

そして、この場所に全員が見覚えがないこと。


「もしかして……遭難でもしたのか?」


 俺の発言に皆が注視する。しかし、皆は別に船に乗ったような記憶は無いという。


「でもでも。本当に遭難だったらどうしよう……」


 先ほどから落ち着きなくキョロキョロとしている細い少女──いや、喉仏がある少年の間違いか。


「リン、落ち着けって。焦っても仕方ないだろ」


 リンと呼ばれた少女のような細い体に綺麗な顔立ちの少年は、却ってキョロキョロとし出す。


(参ったな……名前、わかんねぇ)


 俺は観察と他の人の話を聞き逃さないようにして、名前をなんとか覚えていく。

身長は、まちまちだが皆は十二から十三歳くらいか。

だとしたら俺も今は同じくらいの年頃か。


「お腹空いてきた……」

「もう、マサカツ。こんな時に何言ってるのよ!」


 マサカツと呼ばれた少年は、自分のお腹をさすりながら、天を見上げる。

そして、そのマサカツと常に腕を組んで仲の良さそうな少女はナゴと呼ばれていた。


 なんだ、付き合ってるのか、この二人。別に羨ましくなんかないぞ。だから離れなさい。

内心舌打ちしてしまう。


「ん! なにっ!?」


 俺は何か察して振り返ると、そこにはいつの間にか黒いシルクハットに、黒い燕尾服。何より糸のように細い目をした男性が立っていた。


 気づかなかった俺も間抜けだが、何故俺の正面にいた奴らも気づかないのだ。


「初めまして皆様。そして、我らの計画にご参加感謝する」


 一切感情が込もっていない機械のように冷たい声で、糸目の男はシルクハットを脱いで丁寧に九十度腰を曲げて挨拶する。


「計画? それじゃ、オレ達をここに連れて来たのはお前か!?」

「その答えは、肯定であり否定でもある。我は只の案内人に過ぎない」


 随分と遠回しな言い方だ。眉尻一つ動かさない表情も気に食わない。


「ちょっと待ってよ! 別に私、参加したいなんて言ったこと無いし、計画って何なのよ!」


 サクラの隣にいるレンカというショートカットの少女が怒鳴り散らす。

サクラがずっとレンカの手を繋いでいるところを見ると、相当仲が良いみたいだ。


「その解には答えられない。ただ、この参加は強制ではない」


 強制ではない、その言葉を聞いて一同はホッと胸を撫で下ろすが、俺だけは、そうではなかった。ついつい、深読みしてしまう。

強制ではないのなら、元々連れてくるはずがないと。


「ただ、この島からは出られないだけだ」


 やっぱりそうなのか。皆は一度持ち上げられて叩き落とされたために、そのショックは大きいみたいだ。

騒ぎ出す奴もいる。名前は確かシノブとか言う少年。

言葉遣いが粗暴で荒々しい。


 ふと、一人の少女と目が合う。日に照らされて、キラキラと煌めく赤毛の少女と。

そう言えば、誰もこの子の名前呼んでいなかったな。

他の子が糸目の男に向かって文句を言う間も、ただ一人冷静に遠巻きに見ていた。


「それでは、全員参加ということで今からゲームの説明をする」

「ちょっと、勝手に決めんなよ!」


 シノブという少年が糸目の男の胸ぐらを掴もうとするが、容易に腕を捻り返される。


「いたたたたたっ! は、離せ!」


 糸目の男は、無言のままシノブを俺達に向かって投げつけるように手を離した。


「ゲームの説明──」


 糸目の男は淡々とゲームの説明をし始める。そして、内容を聞いていくうちに皆の顔が蒼白になっていった。


一つ、今から一週間、この島で生活をしなければならない。


一つ、この島には人はおらず、食糧は毎日八時、十二時、十八時の三回上空から投下される。


一つ、初日は六人前が、二日目は五人前、三日目は三人前、四日目以降は二人前だけ食糧が落ちてくる。


一つ、各プレイヤーには、それぞれ特殊な力を秘めたカードが一枚配られる。


一つ、一週間生き延び、かつカードを三枚以上集めることがこの島から出られる条件。


一つ、三日目と六日目には、一人ジョーカーとして指名される。ジョーカーは、二十四時間以内に一人を殺さなければならない。


一つ、殺す手段は問わない。


 先ほどまで怒鳴り文句を言っていたのが、嘘のように静まり返る。

俺は自分のポケットを探ると一枚のカード──というか、手のひらサイズのプレートが出てきた。

そこには、先ほどの説明と、その字より大きく“千里眼”と書かれてあった。

どうやら、これが特殊な力のようで説明では、カードを自分の頭より上に揚げて、文字を声に出せば発動するみたいだ。


 皆はまだ信じられないといった表情だが、俺と同様ポケットに入ったカードの存在に気づく者が現れる。


「なになに……俺は……なんだこれ、“獣人変化”?」

「僕は……む、むな? “無銘刀”か」

「私、“イフリート”だった。サクラは?」

「あたし、“癒し手”って読むのかな?」


 皆が次々とカードに書かれた特殊な力の話をしていく。


「ね、ねぇ。グレンくんは?」


 サクラの質問に俺は大きなため息を一つ吐いた。呆れてしまっていたのだ。

今からお互いに命のやり取りをするというのに、それを忘れてちょっと不思議な力を使えることにワクワクし出していることに。


「話すわけないだろ? 何の力かバレてしまったら、対策を取られて命に関わるしな」


 俺の言葉に皆がハッとなる。俺にしては、随分とペラペラと喋ってくれたからな。今置かれている現状を教えてあげた。


「おい、グレン! お前のも見せろよ!」


 シノブ、それにミツルという少年とダイジロウというちょっと他の子供に比べて背が高くがっしりとした体格の少年が俺に絡んでくる。

教えるわけないだろう。大体何故俺だけ“千里眼”なんだよ。もっと戦闘向きなやつがあるだろうが、と頑なに教えたくなかった。


「それでは、開始します」


 糸目の男が開始の合図を出すと、俺はシノブ達から逃れる為に逃げるように島の中心の森へと向かう。


「なるほど。どうやら彼は、先に入って罠でも仕掛けるつもりですね」


 糸目の男の奴、ろくなことを言わないな。丸聞こえじゃないか。他の少年少女達も一斉に走り出す。

そして男は、内ポケットから同じカードを取り出すとポソリと呟き、一瞬で何処かへ飛んで行くのであった。

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