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水瓶の神の世界 ファルブーク⑬ 結末

 メイリーと引き離されてしまった。勇者……いや、魔王は俺とメイリーを個々に始末してくるはず。

どちらを狙ってくるんだ。


「私!?」


 意外にも魔王の狙いは俺であった。一気に懐へと迫られた俺は、片手一本で魔王の連打を捌きにかかる。

重い一撃一撃に、俺は自然と後ろへ押されていく。

ダメだ、片手じゃ厳しいと、俺は“万能魔法のススメ”をアイテムボックスへ戻して両手で対処する。

それでも防ぐので手一杯。


“ガイアブレイク!”


 魔王の足元の床が割れ地面が突き出してくる。尖った大岩は、俺と魔王を分断するように伸びてきた。

しかし、俺は魔王を視界から見失う。

チラリと、メイリーを見ると、いつの間にか魔王はメイリーの方へ。


「メイリー、逃げて!」


 俺は魔王のあとを追う。


“ストーンスピア”


 メイリーは逃げるどころか、立ち向かう。岩の槍が一瞬魔王を止める。

これで、追い付けると、俺が迫ると魔王は、待ってましたと言わんばかりに振り返りカウンターで殴りかかってきた。


「ぐわっ!」


 痛ぇ。魔王の拳は俺の横っ面に命中して俺は地面を滑っていく。


「ぐふふ、ながながやるでねぇが」


 初めて聞く魔王の声。随分と訛りのある低く濁った声。老齢だが、なかなか凛々しい姿とは真逆のような似つかわしくない。


「お褒めに頂き光栄ですわ、()()()?」


 皮肉気味に丁寧に答えてやる。


「ほう。おでの事を魔王だど?」

「目から光を放つ人など、居ないわよ」


 なんだろう、俺の想像していた魔王と違う感じがするのは。もっと「ワハハハ、よくわかったな。なかなかやるではないか」とか、もっとスマートなイメージを想像していたのだけれども。


「ふごー。よぐわがっだな。さては、おでの信仰者か?」

「いや、全く。それより、あなたには嫁がいっぱいいたはずよね。どこ行ったの?」


 これだけ騒ぎにもなっているにも関わらず様子見にすら出てこないところを見ると、監禁でもされているのかと思っていた。

ところが、現実はそう甘くはなく……。


「嫁? ああ、餌のごとかい。そんなのもう残っでいねぇよ」


 いけない。俺は、メイリーの元へ駆け寄り気を失いかけ倒れそうになったメイリーの体を支えてやった。


「メイリー! しっかり!!」


 嫁の中には、メイリーの姉もいる。それは、つまりメイリーの姉レイラも……そして、シロさんも……。


 俺はメイリーの体を抱き抱えて、城から逃げ出す。


「逃がさねぇど!」


 すぐに魔王が追いかけてくるのがわかると、俺は振り返り再び臨戦態勢に入る。

城外では、本当は魔物である兵士に苦戦しつつも踏ん張り戦う者と、家の中から様子見している者と多数残っていた。


「メイリー、しっかり! お姉さんの仇を討たなくていいの?」


 辛いだろうが、魔王を倒すにはメイリーの力がいる。叱咤激励すると僅かにメイリーの目に力が戻ってきた。

これなら、いけるだろうか。


「メイリー。“ストーンスピア”を!」


 俺はそう言い残し、メイリーから離れて魔王へと向かっていく。力は俺より上だ、掴まれるわけにはいかない。

俺は、撹乱するように魔王を中心に円を描き動き回る。

メイリーの攻撃は、まだかなのか。


 魔王の攻撃を躱しながら、機会を伺う。

一撃でも受けると、体重のない俺の体は簡単に吹き飛ぶだろう。

対抗で、蹴りやミョルニル以外で殴ってみるが、びくともしない。


 その時──“ストーンスピア”と俺の背後で聞こえる。

俺が背後から迫るストーンスピアを躱すと同時に、魔王も大きく体を崩して俺と同じ方向へと避ける。

機会到来。俺は、足を強く踏ん張り拳をギュッと力強く握ると、魔王の脇腹目掛けて殴りつける。

殺すつもりで強く握ったミョルニルから強烈な電流が。


「あががががががっ」


 致命傷にはならないだろうが、動きは止めた。


“ガイアブレイク!”


 メイリーの魔法が続いて、魔王の頭を吹き飛ばす。


 吹き飛ばす……?


 魔王は、頭を失う。コロコロと地面を転がる頭に俺やメイリーだけでなく、戦っていた他の連中や、家で様子見をしていたグランベルーの住人達を唖然とさせた。

魔王は、しばらく首なし状態であたふたしていたが、自分の頭を見つけると、そそくさと胴体にくっ付ける。


「なかなかやるでねか。勇者のおでに一撃を与えるとは」


 いやいやいや、何をサラッと無かったことにしているのだ。誰が見ても人の所業じゃないだろう。

住人達を見ろよ、開いた口が閉まらないじゃないか。


「無理あるわよ、魔王」


 魔王は、キョロキョロと辺りを見回すが、ようやくことの重大さに気付いたのか、体を小刻みに震わせる。

そして、怒りが頂点に達する。


「ぶふーっ! ぶふーっ! おでの、おでの作戦がぁ。お前らもう許さんどう!」


 とうとう魔王は、本来の姿を晒す。これで、俺が話したことが本当だとわかり、士気も上がるだろう、そう思っていたのだが。

魔法なのか勇者の皮を破り現れたその姿は元の勇者より背丈が倍近い。さらに下顎から上へ伸びた二本の牙に全身灰色の毛むくじゃらの豚……いや、いわゆるオークだろう。

ひっきりなしに、ぶふーっ、ぶふーっ、と鼻息荒いが。


「あ、あれが魔王?」


 メイリーが戸惑うのも無理はない。俺も予想外過ぎた。

そして、魔王が姿を晒したことにより、兵士も正体を現す。

それは魔王よりも一回り小柄なオーク達。


「ま、魔物だ。に、逃げろおおおおっ」


 のんびり傍観していた住人達は、顔を真っ青に変えて家を飛び出す者、窓を閉めて閉じ籠るものと様々だ。

だが、パニックになったのは間違いなく、元兵士のオークは不注意に逃げ出した住人達に手を出し始める。

それが、功を奏す。住人達に気を取られたオーク兵は不意を突かれやすくなり、ログ達は徐々に押し始めた。


 これで魔王を倒しさえすれば、絶対的な王政が無くなり、そして人々は欲望を露にしていく。

勇者に誰が成り代わるのか、争いも始まる。

戦争は起きないにこしたことはないが、人々は己が生き残る為に知恵を絞り出して、文明は発展をするだろう。

明日を生き抜くために。


 かなりの巨体のオーク、俺の一撃では仕留められないのは、わかっている。

とどめには、どうしてもメイリーの力が必要になってくる。


「メイリー。私が動きを止めるから、大きいやつを一発お見舞いしてあげて」

「クリス、無茶はしないでよ」


「わかった」と一言だけ伝えて、俺は魔王に立ち向かう。巨体になった分、懐が深く、そして甘い。

ミョルニルで電流を何度も流すが、脂肪の厚さからか効果が薄い。

万能魔法でも、果たして効くかどうか。


 仕方がないな。


 俺がアイテムボックスから取り出したのは、重火器の一つ。見知らぬ武器を使うわけにはいかないが、数点ある覚えのある重火器。

俺は、本体となる筒を肩に担ぐ。

とても重い。

動きが鈍った俺に向かって魔王が正面から迫る。

間違いなく、この魔王はこの重火器を知らない。知っていれば、絶対に正面から来ない。

パンツァーファウスト。携帯式の擲弾(てきだん)発射器。

擲弾(てきだん)は、一般的には手榴弾みたいなものだと思えばいいだろう。

それを筒で発射する。


 ボタンを押すと筒の後方から火柱が上がり、擲弾は至近距離で魔王に命中する。一発しか撃てないから、それほどこの世界に影響は及ぼさないだろう。


 魔王のその分厚い脂肪を削り、全身覆われた灰色の毛も抜け落ち血を大量に流しながら、後方へ吹き飛び城に激突する。


「メイリー!」


 俺の声にハッと反応すると、メイリーは杖を魔王へ向けた。


“ファイアボール”


 その火球は、みるみる大きくなっていき、弾けるように真っ直ぐ魔王へと向かう。

そして、城もろとも巻き込みながら火球は、地面を揺らすほどの爆音を鳴らして爆発した。


 魔王の断末魔か、他の巻き込まれたオーク兵士の断末魔かわからないが、聞こえてくる。


「終わった……」


 メイリーの姉やシロさんは残念だけれども、魔王による勇者の成り代わりは終わる。魔王を亡くした証拠だろう。オーク兵士も煙のように消えていく。


 俺の仕事はここまで。後はゆっくりと、自由に生きてやる。

まずは、メイリーといい関係になってやる。女同士だが、関係あるか。


 俺は持っていた筒を捨てると、メイリーの方を見る。俺と目が合いメイリーは、パッと明るい表情に。そして、俺に向かって走り出す。

俺はメイリーと抱き合うべく、大きく腕を開き迎え入れる。


 俺の脇を通り抜けていくメイリー。


 呆気に取られ振り返ってみると、メイリーはログと抱き合っていた。


「えぇ~、いつの間に……」


 考えられるとしたら準備をした一週間。嫁を失くしたログを慰めているうちに、焼け木杭に火がついたのか。


 そして、お前の役目は終わりだと言わんタイミングで、地面が激しく揺れだした。


 もう、いいよ。二人ともお幸せに……なんて、言うか!

俺は足元にあったパンツァーファウストの筒を蹴り飛ばし、足元に開いた漆黒の穴に落ちていった。

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