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神卓会議②

 漸く……漸く決まったと思えば、一人の茶髪で軽薄な口調の神の登場により、振り出しへと戻ってしまった。


 あぁ、退屈だ……。


「それじゃ、決めようか」


 まるで今までの話し合いは無駄だと言わんばかりに、茶髪の男の神、水瓶は仕切り始めた。

普通ならば、文句の一つも出そうなものだが、彼らには時間は悠久にあるからか、一切遅刻を咎めることなく、再び納得出来るまで話し合う。


「なぁ、会議始まってどれくらい経過した?」


 俺の話し相手として残ってくれた天使は、懐から懐中時計を取り出すと「三百年とちょっとってところでしょうか」と呟く。

今の転生、転移を行う前の俺には、空腹もなく睡眠も不要。

疲れもないため、壁にもたれ続けるしかない。


 三百年など、この空間に居ればあっという間だが、神々の持つ世界は時間の流れが遅く、大体三時間ほどか。


「これで、また新たに神が来たら最悪だ」

「そうですねぇ。また振り出しに戻りますから」


 天使も大変だなと思う。今俺の隣にいる天使は、俺からみたら全く同じ顔ではあるが、ここまで先導してきてくれた天使とは別個体だ。

俺の行き先を決めるのは神々だが、転移や転生など雑用諸々は、天使の仕事になる。

忙しい合間を縫って、俺の相手をしてくれている。


「俺の所も行って貰いたい世界があるんだよねぇ」


 水瓶の神が、のっけから今まさに会議が始まったかのように振る舞う。


「私も同じよ!」

「俺の所も、だ!」


 一度決まった山羊の神と、一度は引いた獅子の神が素早く畳み掛ける。

早い者勝ちではないが、一度乗り遅れてしまうと先ほどの獅子の神のように、何も言わなくなり、何か切っ掛けでもなければ再び話に入るのはままならない。

これが神々の決定方法だ。

こうして再び互いの世界のプレゼンを始める。


「私の所は、本当に困っているのよ。ずっと停滞のままなのよね」


 先手を切ったのは、双子の女の神である山羊。先ほど決まっただけあって、場の雰囲気を支配していく。


「はは、そりゃ停滞もすると思うぜ、山羊ちゃん。なんだこの世界は。法と秩序で縛られてちゃ、停滞もするわ」


 鼻で笑い飛ばす水瓶の神に乗っかり獅子の神も畳み掛ける。


「そうだぜ。これだから山羊は駄目なんだ」

「何よ! 獅子のところなんて無秩序過ぎて、衰退すらして来てるじゃない!」


 同じ顔で言い争いを始める二人。さっきと全く同じ光景を見せられるとは。


「ああ……ちょっといいかな。俺の所なんだけど……停滞している理由がわかんないだわ」

「「はっ?」」


 水瓶の発言に獅子も山羊もキョトンとした顔をして水瓶に目を移す。


「良かったら転移、転生先予定の世界の資料を持ってきたのですが、見ますか?」

「ああ、ありがとう」


 天使が俺に見せてきた資料は、山羊と獅子、そして水瓶が候補に挙げた世界の大まかな内容だ。

資料に目を通していく度に、俺の気は滅入っていく。


 まずは、山羊の世界。法と秩序が厳しいというレベルを越えている。人々は、決められた行動しかせず、少しでも外れると自ら命を絶つ世界。

書いてある内容は、その程度だが、果たしてそんな世界が成り立つのだろうかと。


 次は獅子の世界。これまた山羊の世界とは真逆で、無秩序過ぎるだろと資料を読んだ俺の感想だ。

殺人、強盗、強姦、詐欺など日常茶飯事で、取り締まる者もおらず、働いて稼ぐより奪った方が楽な世界。

こうなると、働く者が居ないわけだから食糧難を引き起こし、それがまた無秩序に油を注いでいた。


 最後は、水瓶の世界。資料を読んだ限りでは一言で言うと──意味不明。

平和な世界。人々は平和そのものを謳歌しており、犯罪率も低い。

しかし、確かに文明は停滞しているようで、刺激が足りなそうだが、これと言って資料を見た限りでは理由が判明しないのだ。


「どこ行きたいですか?」


 暇潰しに天使が話かけてくる。退屈しているだろうと気遣ってくれるのがわかる。薄毛に見える天使の白い髪が、余計に抜けてしまいそうでこっちが心配になってくる。


「行きたい場所というより、山羊の所が一番行きたくないなぁ」


 法と秩序で縛られた世界なんて面白くなんてない。それならば、まだ獅子の無秩序な世界の方がマシである。

別に無秩序が好きな訳ではなく、無理なく生きれそうだからな。

あと、やっぱり水瓶の世界が気になると言えば気になる。


 俺と天使は、互いに資料を見ながら語り合う。しかし、それも長くは続かず、気づけば話すことも無くなり、俺は黙って神卓会議の様子を見守る方向へと変わっていた。


「それじゃあ、私の所から順番に獅子、水瓶の順番ね」


 白い髪を手で掻き上げながら立ち上がる山羊。どうやら順番を決めたようだが、これまた順番というのが、神々にとっては当てにならない。

次に集まった時に不在だとか、別の神々が参加していたりとか、その世界が滅んでしまったとかで、まぁ順番が守られることはない。


「もう、誰も来るなよ」


 ここでまた新たな神が来てしまうと、振り出しに戻ってしまう。

目の前にいる神々に、心の中で祈りながら、強く願う。

一斉に神々が立ち上がり、この時ばかりは、俺でも神に感謝する。


 席を立つ。これが神々による神卓会議終了の合図であった。


「良かったですね」


 天使が俺を労ってくれるが、行き先を思い出した俺は、素直に喜べずにいた。


「転生は嫌だな。法と秩序で窮屈な世界だと、頭がどうにかなりそうだ」


 神々は席を離れて何処かへと向かう。獅子の神が俺の横を通り抜けて出ていく時に「無茶苦茶にしてやれ」と囁いた。

獅子の神には悪いが、行った先で俺がどうするかは、俺の自由だ。

こればかりは神の命だろうが聞けない──本来は。


 元々行き先が決まってから無茶苦茶にしなければ面白くも何ともないと考えていた俺はこっそりと「そのつもりです」と答えておいた。


「獅子の奴、何か言っていたかしら?」


 俺の元へと遅れてやって来た山羊の神が追及してくる。俺は()()()獅子の神が言った言葉を伝えると、山羊の神が眉をひそめて不機嫌に変わった。


「それで、貴方はなんて答えたのかしら?」


 自然と威圧するように語尾が強まる。俺は「いつも通りやるだけ」と()()()答えた。そう、いつも通り、自由に無茶苦茶にするだけ……。


「なら、いいわ。今回は時間がちょっと惜しいから転移で行ってちょうだい」

「わかりました。それでは準備があるので失礼します」


 軽く頭を下げて俺は天使と共に、そそくさとボロが出ない内に退散するのであった。



◇◇◇



 俺と天使が神卓会議の場所から移動して向かったのは、俺専用の武器庫である。

剣や、槍、弓や銃、短剣や斧にハンマーと、今まで向かった先で手に入れた武器。

俺専用にあつらえた物から、その世界で伝説とされた武器まで各種揃えており、今回のように転移の場合だと持ち込めるからありがたい。


 転生の場合だと、大体その身一つであるために、厄介な相手をする場合、面倒だし、時には苦戦も強いられる。

一度、邪悪な魔王の近くの村に転生したときは、襲ってきた魔王へ赤子のように、愛想を振り撒くという、なんとも屈辱的なこともあった。


「これと、これでいいか」


 俺は刃の部分がが通常より短い槍と、銃身が三十センチほどの銃を手に取る。

槍の名称はグングニール──のレプリカ。

昔行った世界にその伝承と作成の言い伝えが残っており、その際に俺用に作らせた物だ。

片手で扱えるように、柄は細めで長さも自分の背丈ほどしかない。

先に付く刃が短いのは、斬るより突くに特化させた為だ。

刃が長いと折れる可能性が上がるし、俺が昔学んだ槍術は、突きが主体であった為でもある。


 もう一つの銃は、弾や魔法を直接撃ち出す訳ではなく、扱う者の血を吸い取りエネルギーに変換して撃ち出す。

その為に生きているかのように蠢く二本のコードが付いており、コードの先には注射針が付いている奇妙な銃だ。

手に入れた世界では、呪われていると言われており、俺はこれを呪血銃(カースブラッド)と名付けて持ち帰った。


「準備はそれだけですか?」

「ああ、頼む」

「わかりました。それでは今から転移を始めます。行き先は……イース・タール……山羊の神様の世界です」


 武器庫の隣に設置されている丸い台座の上に立つと、天使が隣のパネルに触れて行き先を入力し終え、俺に向かって一礼する。


「それでは、良い人生を」


 俺の足元の台座が赤く光輝くと、その輝きを吸い込むように黒い渦が現れ俺の体は深い闇の底へと落ちていくのであった。

本日0時にもう一話投稿します。



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