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水瓶の神の世界 ファルブーク⑩ 同業者

 ログの妻が閉じ込められていると思われる牢に向かって俺達は、洞窟を進む。

肌寒さが奥へ進むほど増してくる。

足元はぬかるんでいるが、整備されているのか進むのに苦にはならずに済む。


 牢は三ヶ所並び造てれており、一つ一つ確かめていく。

最初の牢には、俺やメイリーより歳上っぽい女性達が入っており、俺達を見て哀れみの視線を送ってくる。

拉致されたあと、説得に失敗した人達だろう。俺とメイリーがログによって拉致されたのかと同情しているのかもしれない。


 二つ目の牢には、虚ろな目をした男性が入っていた。こちらを見ようともせず、ピクリとも動かない。

ログによれば、数ヶ月前に、説得に失敗した女性に、いきなり襲いかかった者らしい。


 そして最後の牢……には、誰も入っていなかった。


「バカな!? 何故、居ない?」


 焦るログを宥めながらも、牢に居ないということは、無事なのか、それとも……。と、俺でもそう考えてしまう。

ログの気持ちが痛いほど理解できた。


「ログ。まずは、ここで見た武器ってのを見せて」

「あ、あぁ。済まない。こっちだ」


 ログの奥さんが向かう場所に見当が付いているなら、ここを訪れたりはしない。ログにも居場所がわからなくては、探しようがないことは、わかってくれているみたいだ。

まずは、出来ることをやっていかなければ。


「これだよ」


 牢の奥に進み篝火が焚かれている場所の更に奥へと進むと、ログの言うとおり大量の武器が。メイリーも流石にその量に驚いていたが、俺はそれ以上に驚くことになった。


「ちょっと待って、これは……かなり不味いかも!」


 唖然とする。俺は武器と言っても剣や槍かと思ったのだが、そこに置かれた武器の殆どが重火器なのだ。

あり得なかった。この世界においての武器のレベルを越えている。


 原因は、わかる。“あの方”の仕業だろう。しかし、俺でもこの世界に持ち込めるのは二つだ。

もし、“あの方”が俺と同業ならこれは違反に当たる。


 どの神かは分からないが、容認している?


 俺は過去の記憶を二人にバレないように確認する。陳列している武器の中には、チラホラと俺が以前行った世界特有の武器も見受けられる。

中には、条件が揃えば、半永久的に弾切れを起こさないようなものまである。


 これで、戦争を起こそうというのか。魔王相手にどこまで通じるかは、わからない。けれど、魔王を勇者と思い込んでいる人達は、魔王を守ろうと立ち向かうだろう。

無防備に銃弾に晒されながらも……。


「そこで何をしている!?」


 背後から声をかけられ、俺達は一斉に振り返る。

そこには、槍を持った二人の住人らしき男性と、もう一人。

篝火の明かりに照らされてはいるものの、真っ白なマントを(なび)かせて、真っ白な穴すら開いていないのっぺりとした仮面を被った人物が。

背丈や体格からして男性のようだが、薄紫色の長髪が腰にまで(わた)って伸びていた。


「あいつだ」


 ログのその言葉だけで、俺はあの仮面の男が“あの方”なのだと理解する。

そして、その佇まいから、只者ではないと感じ取っていた。


「不味いわ」


 今俺達の背後は、行き止まり。逃げるには、仮面の男をすり抜けなければならない。


「ん? お前、ログか?」


 住人達の方からは、俺達の姿がよく見えないようで、ようやくログだと気づいたみたいだ。


「もしかして、嫁でも探しに戻ったのか? はは……ちょっと遅かったな」


 元仲間だった住人の男からの心無い言葉にログはキレて襲いかかろうとする。

俺は咄嗟に割って入ってログを止めた。


「どいてくれ! 妻に……妻に何をしたぁあああっ!」


 俺はログを制しながら、この場をどう凌ぐべきかを考える。

あの仮面の男がどれ程強いかは、わからないが、体格の差が致命的なミョルニルでは圧倒的に不利だ。

もっと別の武器にすれば良かったと後悔する。


 いや、まてよ──あるじゃないか、武器なら。俺の後ろにたっぷりと。

少し光明が差す。

問題は、すんなりと武器を取らせてくれるか、だ。


「メイリー! ストーンスピアを撃って!」


 一番後ろにいたメイリーへ声をかける。訓練しても、ほんの稀にしか真っ直ぐに飛ばないメイリーの魔法だが、ここなら十分に条件が整っている。


“ストーンスピア!”


 俺はメイリーの邪魔にならないようにログの服を引っ張り前を開ける。

当然メイリーの魔法は、真っ直ぐに天井目掛けて飛んでいく。

しかし、ここが狭い洞窟であることが幸いする。

天井にぶつかった岩の槍は天井を崩しながらも、跳弾により無作為に跳ね返り仮面の男達に襲いかかった。

天井も崩れ落ち、瓦礫が落下していく。

当然、跳弾や瓦礫は俺やログにも襲ってくるのだが。

メイリー、恐るべし。


 ところが、仮面の男だけは怯むことなくマントを翻し、岩の槍や瓦礫を叩き壊す。一体、何で出来ているのだ、あのマントは。

物凄く便利だな。


 しかし、作戦は功を奏し仮面の男の視界を塞ぐことに成功する。たとえあの穴が一切なく俺達が見えているのかわからない仮面が、透けて見えるようになっていたとしても、自分の腕やマントで視界を塞いでいるのだ。

チャンスはここしかないと、俺は一番使えそうな武器を目指して走り出す。


 あと少し──そう、あと少しというところで俺の腕は仮面の男に掴まれていた。


「いつの間に……!! なっ……ぐうぅぅぅっっっ!!」


 くそっ、痛ぇぇっ。なんて握力してやがる。いくら十歳の少女の姿だとはいえ、握力だけで腕の骨を折るとは。

地の喋りが出そうになるくらいに、痛みが強い。折った後、ご丁寧に捻りやがったのだ。


「がはっ!」

「クリス!!」


 俺はそのまま振り回されて、洞窟の岩壁に叩きつけられて肺の中の空気を全て吐き出す。

骨が折られた瞬間に、ミョルニルを叩きつけてやろうと動いたのを読み取っての行動であった。


 不味い、不味い、不味い。このままだと、殺されかねない。そういえば、俺が死んだらどうなるのだ。くそっ、思考が上手く回らない。


 死をも覚悟した、その瞬間。洞窟が激しく揺れ出す。地震か、と思ったがメイリーは、俺を心配そうな目をして見ているだけだし、ログに関しても揺れに対してアクションが無さすぎる。


 まさか──呼び戻されるのか。


 しかし、意外な結果になる。「チッ」と、舌打ちする仮面の男。

まさか、呼び戻されるのは、この仮面の男か。

まさに、その一瞬であった。仮面の男の足元に常闇の穴が開いて、一瞬にして仮面の男は姿を消すことに。


「き、消えた……」


 ログだけでなく、他の二人の男達も唖然としていた。

助かった……のか。しかし、何故急に呼び戻されたのだ。

俺と……出会ったから……なのか。


 未だに思考が纏まらず、混乱している俺にメイリーが肩を揺らして意識を取り戻させてくれた。

痛む腕を押さえながら、俺はアイテムボックスに、近くにあった重火器を適当に詰め込んでいく。

転生、転移で武器の持ち込みは二つだけだが、持ち出しに関しては無制限だ。

あの仮面の男は一体どうやってこれ程の武器を持ち込めたのだろうか。


「メイリー、ログ。取り敢えず、ここを出よ。ついてきて」


 仮面の男を失った男達は、俺達が進むのを阻むことなく、恐れて道を開ける。

牢を通り抜け、洞窟を出た俺達を待っていたのは、ここに住む人達全員であった。

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