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水瓶の神の世界 ファルブーク⑧ 魔法

 授業開始三分で寝てしまった俺は、教師にこっぴどく怒られるかと思っていたが、そんなことはなくお咎め無し。

かなり放任的な学校のようであった。


 それもそのはずで、この学校の目的、特に女子生徒に関しては勉強など二の次で、あくまで教養として身に付けさせる程度。

実習も料理や、姿勢から歩き方など様々あるが、学校からしたら同じようなタイプを揃えるより、色んなタイプを揃えた方が勇者の目に止まるのではとでも考えているのだろう。


 同級生も珍しがるものの、競争相手が減ると考えているのか、特に何も言って来ない。

もしかしたら、ログを一撃で気絶させたことで、怖がられているのかもしれないが。


 俺と違いメイリーは、その見た目通り真面目で、授業を受け、実習にも参加していた。

たた、遠目で見ている限りでは無理をしているようにも見える。

お姉さんのことが心配で、何かしなければ気が紛れないのだろう。



◇◇◇



 放課後、俺とメイリーは学校を飛び出して街の外へと出る。

昨日みたいに寮には門限があるため、それほど遅くなるわけにもいかない。

街の外へ出るときに門番に挨拶してから、すぐ戻ることを伝える。

もしかしたら、この門番も魔物なのだろうか。

俺は街から離れていく度に振り返り、門番の様子を伺う。


「ちょ、ちょっと待って……はぁはぁ」


 後ろでついて来たメイリーが、肩で息をしながら「もう無理」と地面へ座り込む。

それほど急いで走ったつもりはないのだが。


「私……はぁはぁ……運動……苦手なのよ……はぁ~」


 街からまだ近いが、へばったメイリーの息を整える為に少し休憩させた。


「ごめんなさい、クリス。もう少し移動しましょう」


 息を整え終えたメイリーと俺は、また少し街から遠のく。


「ここまで離れる必要あるかな? メイリー」


 広がる地平線の先にガイガルの街が見える場所まで移動してきた俺達は、早速準備を始める。

まずは、俺が“万能魔法のススメ”を取り出すと、メイリーから距離を取る。

メイリーには、俺に向かって魔法を放つように伝えていた。


「危ないわよ」と心配するメイリーであったが、俺はなるべく身近で感じたいからだと説得する。

十メートルほど距離を取ると、腕を上げて合図を送った。


 さて、どんな魔法なのか。


 俺は、今後も転移転生を繰り返す為になるべく戦える手段を増やしたいのだ。

だからこそ、メイリーの魔法を肌で感じてみたかったというのが一番の理由である。


“ファイアボール”


 詠唱は必要無いようだ。俺に向かって両手を伸ばすメイリーの手の先に火の球体が現れた。

俺はコッソリと過去の記憶を辿り同じような魔法が他の世界で無かったか確認をする。

二ヶ所ほど、該当するものを見つけた。

今使っている魔法は割りと何処にでもありふれたものなのだろうと、俺は少々ガッカリして、改めてメイリーを見た。


「へっ!?」と間抜けな声を漏らしてしまう。何せ、初めは拳サイズの大きさだった火の球が、どんどんと膨らんでいき、俺からはメイリーの姿は隠れてしまい全く見えなくなっていた。


「んんー! もう、だめー!」


 耐えきれなくなったメイリーの巨大な火の球は、今の俺の背丈の三倍くらいの大きさになり、俺の十センチほど頭の上を通り抜けて後方へと飛んでいく。


「ちょ……不味いわ!」


巨爆火球(ラ・フレアー)


 “万能魔法のススメ”のページを咄嗟にめくり、飛んでいった火球に向けて同じように俺も火球を飛ばす。

俺の魔法では大きさは半分もないが、その分速い。

あっという間に追いつくと、二つの魔法はぶつかり爆発を起こす。


 地面が揺れるほどの高威力。

鼓膜が破れるのではないかと思うほどの爆音と、俺の体が浮き上がるほどの爆風。

メイリー自身も飛ばされていく。

辺り一面の草花は全て吹き飛び、地ならしされてしまう。


 ──想像以上だった、威力だけは。


 そう、威力だけは申し分ない。今の俺の攻撃手段を上回る威力。問題は、制御と精度を高める必要がありそうだ。

しかし、どうやって教えれば……。


「メイリー。他の魔法は使えないの?」


 二人とも吹き飛ばされて付いた埃を払いながら、聞いてみた。

あれは、ちょっと危険だ。教えるこちらの身が持たない。


「あと二つくらいなら……」


 再び俺とメイリーは距離を取る。万が一に備えて“万能魔法のススメ”を用意しておく。


“ストーンスピア!”


 俺に向かって伸ばした手のひらから、石の槍が数本飛んでくる。


「真っ直ぐに出た!」と、メイリーは呑気なことを言っているが、真っ直ぐに出るということは、俺の方に向かって来ているということで……。

こっちは避けることで精一杯だ。


「わた……わたたたっ」


 一本、一本が細長い為に、どうしても大きく避けざるを得ない。

さすがに、少しヒヤリとした。迎え撃つ準備はしていたにも関わらず、避けるので手一杯になってしまった。


「それじゃ、次……」

「ちょ、ちょっと待って!」


 俺はメイリーに駆け寄り、背後につく。


「ここなら安全……よね?」


 流石にメイリーの真後ろならば、攻撃は飛んで来ない。

そう思って、完全に俺は油断していた。


“ガイアブレイク!”


 後頭部の辺りに風が舞い上がり、俺のスカートがめくれる。ゆっくり首を後ろに回すと、目の前には地面から巨大な岩が突き出ていた。


「失敗……みたいね」

「いや! 危ないっわ、メイリー! 私、死ぬところじゃない! ちょっとズレていたら、串刺しコースだったじゃない!」


 俺の肝は完全に冷えてしまっていた。「もう一度、練習」と張り切るメイリーを止め俺達は、一度帰宅することに。

何せ、あれだけの揺れだったし、ガイガルの街からやって来る人影も見える。


 帰宅した俺は、改めてメイリーの魔法について考える。

威力は申し分なく、この世界の魔王がどれ程の実力かはわからないが、少なくとも切り札として使える。

問題は制御と精度の二つ。

過去に行った異世界にヒントは無いかと探るものの、これといってなく、何度も訓練して精度を上げていくしかないのだと、頭を痛めるのであった。



◇◇◇



 数日が経過して、普段は朝から授業、放課後はメイリーの魔法の練習に付き合わされていた。

今日も、お互いヘトヘトになりながら練習をしていたが、一向に改善の様子が見られなかった。


 寮へと戻ると、学校の門前に一台の馬車が止まっていた。


「やっと戻ってきた。探したんだぞ」


 馬車から顔を覗かせたのは、ログであった。


「お久しぶりです、オジサン」

「おう。悪いがクリスと話があるんだ。少し席を──」

「いいわよ、聞かれても。ログ」


 俺はログにメイリーの姉のこと、そしてグランベルーで見たことを全て話す。


「ま、魔物……」


 驚くのも無理はない。兵士が魔物であることは、その兵士を操るものがいることになる。

やはりそれは、魔王としてしか考えられず……。


 ログは驚きから覚めると、俺とメイリーに拠点に戻った時のことを、話をしてくれた。


「やっぱり、あの方の言うことは、嘘だったんだ……」


 ログは、そう口火に切ったのだった。

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