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水瓶の神の世界 ファルブーク⑥ 消える兵士

 グランベルーに侵入したものの、俺は何故か気付かれ行き止まりに追い詰められる。

アイテムボックスから、ミョルニルを取り出して“万能魔法のススメ”を片手に構えて迎え撃つ。


「いたぞ!」


 ぞろぞろと数だけは集まってくる。一目で剣士と判る者や青銅っぽい鎧で全身を包む鎧を着ている者も居ると思えば、軽装で短剣を抜く奴も。

何故、バレたのか気にはなるが、俺は一先ずここを突破することだけを考える。


光の雨壁(レ・フォール)


 短剣を構えた奴らが、盾になっている重装備の戦士の間を縫って火の矢の魔法を短剣から撃ってくる。

すぐに魔法の壁で対抗するも、連射速度が速い。

此方へ通しはしないが、一時も気が抜けない。

しかし、相手の狙いはその間に俺との距離を詰めることにあった。


 家に囲まれて身動き取れない上、俺の片手は本で埋まっている。

魔法の壁を出し続けるには、本を開きっぱなしで相手をしなくてはならなかった。


 重装備の戦士の武器は双斧やバトルアックスと呼ばれる物で一人が先んじて俺に向かってくる。

一瞬、重装備の戦士のお陰で魔法が止むと、俺はすかさず本を閉じてミョルニルを着けた拳で殴りつけた。


 十歳の女の子に殴りつけられ油断もあったのか、相手は突進を止める。

その隙をついて俺は電流を流し込む。

幸いにも、身につけている全身の鎧は、電気を通しやすく中の人は感電してしまい気を失うと膝を地面に着く。


 後ろから見れば何が起こったのか判らないのだろう、相手の動きが止まる。

俺は一度膝をついた重装備の戦士を盾にして隠れると、脇を縫うように相手の集団の中へと飛び込む。


「くっ! このガキっ、ちょこまかと!」


 この時は、今の自分の背丈で助かる。それにしても、こいつら。

この平和な世界で、随分と腕が立つ。

訓練……いや、実戦慣れをしている気がする。


 それでも俺は、時折光の雨壁(レ・フォール)で、相手の火の矢を防ぎながら、次々とミョルニルで気絶させていく。


「あっ、不味った!」


 目立ちたく無かった為に、敢えて気絶を狙っていたが、俺とした事が踏み込みが強くなってしまった。

一人の剣士に致死量の電流を流し込んでしまったのだ。


「ぎゃあああああああっっ!!」


 剣士の断末魔が辺りに広がる。そして、その剣士は白目を剥いて倒れるのだが、その剣士を見て俺は驚いた。

身に付けていた服と剣を残して、溶けてしまったのだ。跡形もなく。


「人……じゃない?」


 それを聞いた奴らは、動きを止めて殺気が強くなっていくのを俺は感じた。


「危なっ!」


 奴らの攻撃の鋭さが増す。俺の頭のあった場所を双斧が通り抜けた。

咄嗟にしゃがんで助かったが、奴らの目の色が変わったことに気づく。

先ほど迄は捕まえれば良かったけど、命を確実に刈りに来ていた。

どうやら、俺は見てはならないモノを見てしまったようだ。


「……滅せよ!」


 向こうがその気ならば、俺も考えを変える。踏み込みを一歩強くしてミョルニルの電流全開で叩きつけ、そのまま、群れの真ん中を進んで力ずくで突破を試みた。


 次々、身ぐるみだけを残して消えていく。集団を抜けて、奴らの後方にまで辿り着いて突破する。

そして──俺は逃げ出した。


 奴らが、殺す気になったということは、この事が外部に漏れたら不味いからだ。だから、俺は逃げる。

それが相手が一番困ることだから。


巨爆火球(ラ・フレアー)


 追いかけられつつも、外壁に辿り着いた俺は柱を破壊して街の外へ。

そのまま逃げ続けるが、後ろを振り返ると追って来ない。

いつまでも壊れた柱の前で留まり続けていた。


「変なの」


 広い場所なら広範囲の魔法で吹き飛ばすつもりだったが、追って来ないとなると、ここに留まる理由もなく、俺はガイガルの街を目指して走り出した。


 ガイガルへ向かいながら、俺は不思議に感じていた。

何故、俺が侵入者だと気づいたのだろうか。

なるべく、目立たないようにしていたつもりなのだが、侵入の際に誰かに見られていたのだろうか。

しかし、あの時、俺は勇者とピンポイントで目が合った気がした。


「全く……何なのよ」


 ほぼ、休むことなく走り続けてガイガルの街へと戻ってきた頃には、夜は更け朝方近くになっていた。


 外壁を乗り越えて、寝静まったガイガルの街を走り抜け、学校の寮へと戻って来た俺は、困ったことに気づく。


「鍵、掛かっている」


 当然と言えば当然だ。けれども、犯罪が殆ど無いこの世界で鍵をかけるとは予想外だった。

今までナバナ村では、無かったことだったので、俺も失念していた。

ウロウロと寮の周りを見て回り開いている窓が無いかと、探し回る。


「開いている?」


 見覚えのある木の側に立ち見上げると、三階の窓が開いていた。


「メイリー……メイリー……」と、小声で呼ぶと部屋に明かりが灯り、ランプで俺を照らすメイリーが顔を出す。

物凄く、俺を睨み付けてくる。


 怒らせてしまったかと思ったが「待ってて」と一言言うと、恐らくベッドシーツだと思われるモノを窓から垂らしてくれる。

二つのベッドシーツを結んであり、手際の良さから準備をしておいてくれたのかもしれない。

それに、この時間帯でも呼んですぐに反応した所から、ずっと起きていてくれたのか。


 俺はシーツのロープを掴み、外れないことを確かめると、音を立てずに三階目指して登っていく。

一階を登りきり、二階に足をかけた時、メイリーの手がキラリと光る。

目を凝らすと、メイリーの手にはナイフがあった。


「えっ!? 嘘でしょ?」


 ニヤニヤと見せる笑みが、却って恐怖を煽る。一歩一歩進む度にメイリーがナイフをシーツに当てないか確かめながら、登っていく。


「ぷはーっ!」


 三階の窓際に手をかけて一気に部屋の中へと入ると、俺は思いっきり息を吐き出した。

結局、メイリーは何もせずに、ただ俺が緊張しただけで終わる。

どうやら、からかわれたらしい。


「酷いよ、メイリー……」と、そこまで言うと「は?」と、ドスの効いた声で振り向いたメイリーの眼鏡がランプで煌めく。


 怖っ……、相当怒っているようで、俺は素直に謝った。


 寝間着に着替えながら、俺はメイリーにグランベルーであった出来事を一部始終話す。


「よく、無事だったわね」

「私、強いから」


 それでもメイリーは呆れた顔をしながら、本当に聞きたかったことであろう本題に取りかかった。

それは、メイリーの姉のこと。

勇者に嫁いだことから、俺が会えるのではないかと思ったらしい。


 俺もそれは、理解していたから時間があれば探すつもりでいた。

しかし、結果は追われることになり、探す時間が取れなかったと、正直に話す。


「そう……」と、残念そうな表情のメイリーに、俺は少し申し訳なくなってくる。

本来なら、兵士を撒いてもう少し探ることも出来たはずだ。


「でも、貴女が無事だったんで良かったわ」


 メイリーは、本当に心底心配してくれたのだろう。だから、この時間まで起きていたのだ。

どうするか悩む。俺は兵士に追われた事は話したが、倒した兵士の異変のことは話ししていない。

ここまで心配してくれたメイリーに、後ろめたい気持ちになる。


「メイリー……」と俺は決断する。


「メイリーは、勇者の事をどう思っているの?」


 俺は思いきって、メイリーに、そう問うのであった。

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