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水瓶の神の世界 ファルブーク④ レイラ

 随分と俺にとっては、きな臭い話になってきた。

俺の他に転移者もしくは転生者がいるというのだろうか。

それも、世界を変える規模の行動を起こしている。


 神々に聞いてみたいが、今は連絡を取ることが出来ない。


 俺達を乗せた馬車は、丸一日かけてガイガルの街の近くまでやってくる。


「あれがガイガル?」


 馬車の荷台から覗いた俺の視界に飛び込んできた街を指差す。

しかし、オッサンの操る馬車は無視して進んでいく。


「あれは、ガイガルじゃない。あれが首都のグランベルーだ」


 遠目で確認出来る限り、グランベルーの周囲には城壁などは見当たらず家の屋根がここからでも見える。

四十年前まで、魔王に危険をさらされ続けた街とは思えない。

もしかしたら、魔王が倒されて不安が無くなったために、建て壊されたのかもしれないが。


 ただ、侵入しやすい。ガイガルにある学校から近ければ一度勇者とやらの顔を拝んでおくのも悪くない。

出来ればシロさんに会えるかもしれないし。


 グランベルーを発見してから馬車でのんびりと進み半日ほどが経ち、皆が静かに寝息を立てている。

メイリーも、眼鏡を外して横になっていた。


「まつ毛が長い……」


 眼鏡を掛け、細く切れ長の目でもハッキリと瞳の動きがわかるのは、この長いまつ毛で目が大きく見えるからだろう。

将来クールで麗しい姿になったメイリーを想像してしまう。

俺もこれくらい美人に転生したかった。

いや、男なら男でいいのだが、折角女性へ転生したのだから、せめてこれくらいはと願ってしまう。


「何見てるのよ」

「うわっ! 起きていたの、メイリー」


 目を擦り体を起こすとメイリーは眼鏡をかけて、こちらを睨む。


「いやぁ、メイリー将来美人になるだろうなぁって」

「そう? 私はあなたみたいに、可愛らしくなりたかったわ」

「私なんて、全然! メイリーみたいなクールで知的な美人の方が私は好きよぉ」

「えっ、好き……?」


 夜空に照らされた月明かりしかなく、よくメイリーの表情がわからないが、ひょっとしたら照れているのだろうか、モジモジと指遊びをしていた。

少し気まずい空気が漂う。


「が、学校、同じクラスだったらいいね」


 話を逸らして俺は、つい明後日の方角を見てしまった。



◇◇◇



 結局、ガイガルの街へと到着した朝までメイリーは起きたまま、俺との会話に付き合わせてしまった。

眠そうに眼鏡を外して指で目元を擦るメイリー。

こういう時は、どこか年相応に見えて可愛らしい。


「着いたぞ」


 御者のオッサンが、馬車をガイガルの入口に止めて俺を見る。

目では「本当に見逃してくれるのか」と訴えてきていた。

俺は黙ったまま頷いてやると、オッサンは入口の門番をしている男性に声をかける。


 手慣れた様子で手続きを済ませるオッサン。あの人と言うのが現れるまで、何度もこうして女の子を学校に送り届けて来たのか、いや──そう毎回拉致していれば誰かが話を聞きつける。

現れてからも、何度かガイガルに送り続けていたのかもしれない。


 馬の手綱を操りガイガルの街へと入っていく。白壁の煉瓦造りの建物を物珍しそうに見る他の女の子達。

メイリーと俺だけは、ボーッと馬車の中から流れる景色を眺めていた。


 同じように白壁の煉瓦造りの建物だが、街随一を誇る大きさ。

その建物の前に馬車を横付けしたオッサンは、再度建物前にいた女性と手続きを始める。

一斉に馬車から自分の荷物を持ち降りていく女の子達。

気付けば馬車の中には俺とメイリーだけが。


「降りないの? クリス」

「メイリーこそ」


 俺はオッサンに話がまだ残っていたから、居るのだが、メイリーが残っている理由がわからない。


「何で君たち、まだ居るんだよ」


 戻ってくるなりオッサンは怪訝な顔をこちらに向ける。そして、早く降りろと急かしてきた。


 俺とメイリーは、互いに「話したいことがあるなら」と譲り合う。

「お先にどうぞ」とメイリーが強く睨み付けながら、勧めてくるので、仕方なしに俺から話すことにした。


「もし、オッサンが困ったり少しでも今の現状に疑問を感じたら、私を頼って欲しいの。あえて教えるけど、私は勇者に嫁ぎたくないし、むしろちょっと許せないところもあるから」


 馬車の外に漏れない程度の小声で話すとオッサンは目を丸くしていた。


「だったら一緒に──」


 俺はオッサンの言葉を途中で止める。あの人──気にはなる相手ではあるが、まずは勇者の方を確かめたい気持ちが強かったのだ。


「私はオッサンの言う()()()も、疑っているわ。理由は教えられないけど。だからこそ、オッサンが困ったら助けてあげれる」


 オッサンは疑心の目で俺を見てくるが「心にとどめてくれたらいい」と伝えると、渋々納得してくれた。


 さぁ、次はメイリーの番だと、俺はメイリーに手を差し向ける。

メイリーの眼鏡の奥の瞳が、席を外して欲しいと訴えているが、俺は敢えて知らんぷりを決め込んだ。

メイリーは、諦めたようで一つ小さくため息を吐くと、オッサンを見据える。


「オジサン。レイラという女の子知らない?」

「もしかして、俺が今までここに連れて来た中にか? 悪いがイチイチ名前なんか覚えてないよ」

「そう……」

「特徴があれば、覚えているかもしれないが」

「……私と同じ髪色で、私より優しい目をしているわ。五年くらい前の話なんだけど……」


 メイリーと同じ青竹色の髪か、もしかしたら、それはメイリーの……。そんな事を考えていると、オッサンが手を打ち鳴らす。


「五年前……あ! もしかして、そのレイラって子って、君と同じ形の眼鏡をしていなかったか?」

「そう! それよ、オジサン!」


 パッとメイリーの表情が明るくなり、目尻が綻ぶとその笑顔は、年相応の少女の笑顔であった。

いつも、冷めた表情でいるが、こんな笑顔も見せるんだ。でも……その笑顔は、すぐに元に戻ることに。


「すまない。多分俺が拉致ったと思ったんだとしたら、残念ながらその時は、まだ……」


 オッサンもメイリーの事情を察してか悲痛な表情で頭を下げる。

メイリーも分かりやすく落ち込み「そう……」と呟くのであった。


「もし、そのレイラって子に再会出来たらありがとうと伝えておいてくれ」


 そう言い残しオッサンの操る馬車は、去っていく。

何でも、オッサンはそのレイラって子に、魔法で窮地を救ってもらったらしい。

命の恩人なら名前くらい聞いとけよと思ったが、メイリーが追及しなかったので、俺も止めておいた。


「もう気づいていると思うけど、レイラってのは私の姉なの。私なんかより優しい目をした大好きな姉。姉はね、魔法に関して相当の使い手だったのよ」


 メイリーは、オッサンを見送り俺と二人きりになったあと、寂しそうに俺に教えてくれた。


「姉は筆まめでね。勇者に嫁ぐ事が決まったと連絡が来てから途絶えてしまったのよ。一度も欠かしたことの無い手紙だったのに……」

「メイリー……」


 また、勇者……か。やはり一度、勇者を見ておくべきなのかもしれない。


 寮に遅れて入ってきた俺達は、部屋割りは既に決められており、同室となる。


「よろしくね、クリス。……って、ちょっと、何しているのよ!?」


 部屋に入り、荷物をベッドへ放り投げると俺は窓を開いて、窓枠に足をかけていた。


「いやぁ、ごめんメイリー。私はどうやら馬車旅で体調崩したみたい。だから、しばらく学校休むので。それじゃ」


 そう言って俺は窓から軽快に飛び降りる。すぐ側にある木の枝に掴まりワンクッションおいてから、着地した。

まだ、日は明るく、俺は人目を避けるように、一度上から覗き込むメイリーに手を振って去っていくのであった。


 メイリーの呆れた物を見るような目が忘れられなかった。

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