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月がこんなにきれいな夜は  作者: 芦谷かえる
第三章「listen to my」
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三十九話 敵

 

 ――――――。

 ようやく追いつくと、神父が壁際に倒れていて兵士が一人首を刎ねられていた。

 残ったもう一人の兵士は剣を構えるも、戦意喪失といった様子でじりじりと後づさりしていく。

 兵士の横に転がっているのは、生きてるのか死んでいるのか分からないジャスティン。へたり込んでロイズを見上げるヨーコ。

 地面に落ちている松明の炎の、パチパチと燃える音が静かに響く。

「で、お前も死ぬか?」

 ロイズが一歩近づくと、兵士は武器を捨て一目散に逃げ出していった。

 再び松明の音だけになった。

 ロイズはヨーコに手を差し伸べる。ヨーコはその手にしっかりと指を絡ませ、安堵しきった様子で僕とメリビィにも視線をくれる。

「ありがとう……でも、どうしてここに?」

「それはな――――」

 ロイズとヨーコ。二人がその答え合わせをしている間に、僕は倒れているもう一人に駆け寄り声を掛けた。

「おい、生きてるか?」

 ジャスティンは目を瞑ったまま、頭を左右に小さく振った。

「だめ……死んだよ……」

 傷は深そうだったが、致命傷となるような傷はないように見えた。

「そっか、お気の毒に」

 そうは言っても、ジャスティンに肩を貸しどうにか立ち上がらせる。

 さて、僕もそろそろ合流するとしよう。

 ここはどこで、どうしてこんなことになったのか。

「ほんとだ、指輪が少しだけ光った」

 どうしてこの場所が分かったかは、ロイズの推測と力業で辿り着くことが出来た。

 二人のしている指輪はどうやら対になっていて、片方に一定の魔力を注ぐと、もう片方の場所へ向かって薄っすらと光を放つ仕組みらしい。

「それにしても、よく気づいたね」

 素朴な疑問を口にするも「勘」の一言で片づけられる。

 第六感でも働いたのだろうか。

「で、こいつらはなんだ?」

 まだ微かに息のある神父を指差しヨーコに尋ねるも「悪い人」の一言。まるで的を得ていないが、ロイズは納得したのか首を縦に振った。

「起きろ……この先には何があるんだ?」

 神父は無反応。

「とっくに気が付いてるんだろ? 狸寝入りなのはばれてるからな。ほら、三数えるうちに起きないと、これ刺すぞ?」

「…………」

「三……二……一……はい」

「ぐぎゃああ!」

 本当に刺しやがった。まあ、足を数センチほどだけど。

「何するんじゃこのガキ! ぐぎぃ……ひぃひぃ……」

「言ったじゃん、刺すって。で、この先には何がある?」

「た、ただの倉庫で、さぼるには最適な場所じゃったからここに居たんじゃ」

「……で、本当は?」

「本当じゃ、何もないっ。倉庫があるだけ…………ひゃ!」

 ロイズはつまらなそうにナイフをもう一度突き刺そうと、ゆっくり足に向けた。

「分かった分かった。言う、本当の事を言う。だから待ってくれ。この先には――――」

 その瞬間、背中から寒気が突き抜けて行くような感覚があった。

「この先には?」

 聞き返すロイズに、神父はただわなわなと震え口をパクパクとさせる。

「――――――」

 何かを話そうとしているのは分かるが、声が出ていない。一体どうしたと言うのだろうか。言わずにこの場を乗り切る策でも思いついたのだろうか。

「――――――」

 突き抜けた寒気はそのままこの場所のどこか、例えばそう、神父の足下に留まっているような感覚があった。

 足下には、ただ炎の灯りが作り出す影が一つ。

 いつの間にか神父は喉を押さえ、奇怪に踊るかの如く苦しそうにもがいている。

「……がっ……どう、し…………バラ……」

 一瞬の耳鳴り。金属同士が激しく擦れた時に近い、脳にまで響く、空気すら割れてしまいそうな音。

 その音と同時だったか、それとも音の後だったか。

 喉を押さえていた神父の顔が内側から、風船でも爆発したかのように容易く破裂した。

 中身が一面に飛び散り、残った肉体は地面に崩れる。

「はっ、使えねぇ奴だったな」

 いつからいたのだろうか。

 僕らの後ろに立っていた男に、僕は気圧され思わず一歩、二歩、まだ距離を遠ざけたくて三歩そいつから離れる。

 肌の表面を冷気がひりひりと伝う感覚。うずくまって目を閉じ耳を塞いで、これは現実ではないと逃避できたらどんなにいいだろうか。

「あいつ……」

「お前、まだ生きてたの?」

 男の手の平がヨーコに向けられる。

 その手のひらに白い霧のようなものが集まっていき、氷となりヨーコに向かって行くまで一秒ほど。

「ヨーコっ」

 氷は真っ直ぐ、ヨーコを目がけて飛んでいき、顔に衝突するほんの数十センチ手前で、何かに当たり僅かに逸れていった。

 氷はヨーコの頬をかすっていき、小さな切り傷を残していった。頬をゆっくりと血が伝っていく。

 ヨーコの足下にからんとナイフが落ち、同時にロイズが風のように衣服をなびかせヨーコの前にふわりと着地する。

「ほう……少しは面白い奴がいるな」

 男はロイズを、やや嘲るように見る。

「じゃあ、これはどうだ?」

 距離にして十メートルほど。その距離を助走もつけずに飛ぶように地面を蹴りたったの一足で半分に縮め、次の一足であっと言う間に正面、ロイズを宙から見下ろす位置へと男は移動していた。

 手には氷柱をもぎ取ったような先端の鋭利な氷。それを真下へ、一呼吸も間が無いほどの速さで放り投げた。

「くっ」

 ロイズは背を向け手を伸ばし、後ろに居たヨーコの服を掴んだ。そのまま自身ごと、その場で爆発でも起きたのではと思えるほどの勢いで真横に吹き飛んだ。

 ロイズの居た場所に衝突した氷柱は、ガラス細工のように粉々に砕け散った。

「くっそ、ふざけやがって」

「避けたか。それなら次は……ん?」

 相変わらず嘲るように笑っていた男は、自身の右腕に突き刺さったナイフを見てやや驚いた表情を見せた。

「あの一瞬で、避けるだけでなく俺に傷を負わせるとは……楽しくなってきたじゃないか。だが残念だ、この身体ではもう無理だ。せっかく、少しは楽しい時間になりそうだったのにな。こんなことなら俺自ら出向くべきだった」

「何言ってやがる」

 ロイズは男に向かって走り出そうとして、その足を止めた。

 男の体が靄でもかかったようにぼんやりとしていき、蒸発するようにふっとその場から消え去った。

「後悔してるよ、もうお前と戦う機会もないだろう。じきに魔王様が甦る。そしたら全部、終わっちまうんだからな。はっはっは」

 高笑いだけがどこからともなく響き、数秒もすれば再び静寂に包まれていた。


 *


 満身創痍と言う訳ではないが、ヨーコとジャスティンはすぐにでもここから出て治療をすべきだと思ったが、二人とも、特にヨーコがそれを拒否した。

 ロイズの持っていた回復薬で、一人で歩けるぐらいにはそれぞれ回復したがその程度である。戦闘などとてもじゃないが出来るとは思えなかった。

 それでも僕らは、足を止めず階段を下へ下へとおりていく。

「あいつの目は一緒だった。あたしの……あたしのママたちを殺した奴らと」

 だからって折角助かったにも関わらず、わざわざ自分から再度戦いに行くなんてどうかしている。

 普段なら止めそうなものを、ジャスティンはなぜかそれを指示していた。

 僕だって全力で止めようとしたが、そこにロイズの一言で僕らの進行方向は決した。

「なら行くぞヨーコ。俺だって気に食わないさ。やられっぱなしで、これじゃまるで敗者じゃないか」

 しばらく歩き続け階段の途中に小さなドアを見つける。ロイズは真っ先にドアノブに手を掛けるも鍵が掛かっているらしく開かない。

「開いてないか」

 諦めたのだろう、そう思った自分が馬鹿だった。

「ロイズ?」

 もう僕の声など届かないのだろう。

 ロイズはポケットから細い針のようなものを取り出し、カギ穴へと突っ込ん。そしてぐりぐりと回して引っこ抜き、針の形を指で変え、回しては針の形を変え、三度目にして、ぐりぐりと回していると何かが外れた音がした。

「よし」

 ドアは、ロイズの手によって開かれた。

「ちょ、ロイズ」

 まるで書斎のような小さな空間だった。

 壁際にはいくつもの本が並び、テーブルの上には何の用途に使うのか分からない小物が散乱していた。

「ここって一体……」

 メリビィが声を上げる頃には、ロイズは部屋のあらゆる棚や箱を物色し始めていた。

 ヨーコとジャスティンは中には入らず部屋の外の階段に腰掛けていた。歩きづくめでさすがに疲れたのだろう。

 正直、僕も休んでいようかと思ったが、先程から妙に気になる小箱があった。テーブルの下。まるで特別な何かを隠すように箱と箱の間の、さらに奥へと押しこまれた、怪しげな気配を発する小箱。

 他の物と違い上質な木箱で、持って見ると軽く、何も入っていないのではと思ったが、僕には何かが入っている気がしてならなかった。

 ゆっくりと蓋を開けると、その何かはこれまたこの世界ではお目にかかったことがないような上質な布に包まれていた。

 箱をテーブルに置き、布を、例えどんな壊れ物だったとしてもいいように優しく丁寧に持ち、手のひらの上でゆっくりと広げた。

「アリィ、何それ?」

 広げた瞬間、メリビィが顔を覗かせた。

「えっ?」

 上質な木箱の中の、上質な布の中から出てきたのは――――――パンツだった。

 つい顔が綻んでしまった。

 その綻びを、見事にメリビィに目撃される。

「…………アリィ?」

 まるで変態でも見る目つき。

 違うんだ、待ってくれメリビィ。

「そういうの、好きなんだ?」

「あの……これは、その……違くて……」

「別にいいよ隠さなくたって。アリィだって男の子だもんね、こういうの、好きなんだもんね」

「痛い、ちょっと……強いよ。そんなに強く蹴らなくても……」

 つま先で膝あたりを何度もつつかれるが、これが結構痛い。

「何してんだお前ら」

 一通り物色を終え、袋に一通り詰め込んだらしいロイズが後ろから顔を覗かせていた。

「な……それ、どうした?」

「ここに入ってて」

「すごいなそのパンツ」

 え、もしかしてロイズこれ履きたいの?

「メリビィ、これ履くのか?」

「履かないわよ」

「ほんとか、だったら俺にくれないか。すごいぞこのパンツは。けた外れの魔力を保有している。これを履いたら、一体どれほど気持ちよくなれるんだ、ワクワクしてきたな」

 お前、言葉だけ聞いてると変態だな。



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