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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

空を揺蕩う船だったのに

作者: 位月 傘

女の子同士の恋愛みたいなものに見えなくもない何かです。

あと初投稿です。稚拙なものですが読んでくださったら嬉しいです。


 りっちゃんは美人だ。私よりも小さいのにスタイルが良くて、律なんて名前のきちっとしたイメージとは相反的に蠱惑的な笑みを浮かべるのだから、女の私でもついついドキドキしてしまう。

 いわば学園のアイドル(というにはちょっと妖しい雰囲気あるけど)と平凡な私が何で一緒にいるようになったかなんて覚えてないけど、きっと他の子たちといるより楽だし、特別気にしたことはない。ただちょっと面倒事が起きることもあるけどけど、そんなのは些末なことだった。

 「で、結局アンタが好きなのは誰なの?」

 「どういう話の流れでそういうことになったの……」

 不機嫌そうに長い髪を耳にかけながらそんなことを言う彼女に、つい苦笑いをこぼす。何も言わなくてもばれてしまうなんて、そんなに分かりやすかっただろうか。いや、彼女がそういう事に敏感なのはいつもの事か。

 「そんなんじゃないよ、ただちょっと気になってるだけ」

 ごまかしでもなんでもなくほんとにそうなのだ。自分と彼が付き合ってる様なんて想像できないし、ただ優しいなって思うだけ。これは恋ですらない。しいて言うなら憧れだろうか。それも人に恋をしてみるという憧れから生まれたものであるのだろう。恋に恋をしてるなんて我ながらなんて子供っぽいのだろうとも思う。

 彼女はふぅんと小さく呟いて退屈そうに頬杖をつくが、この話は終わりとばかりに息を一つ吐くと今度は口角を釣り上げて覗き込むように笑ってでも、と続ける。

 「恋をしたなら一番に私に知らせなさい。なんでも教えてあげるし、今の10倍は可愛くしてあげるわ」

 りっちゃんがやってくれるなら安心だなぁ、なんて言うとふふんと笑って当然でしょ、と得意げに言う。深くは踏み込まないというより、そこまで相手に対して興味を抱かない彼女とのこの距離感は私にとって心地よいものであって、壊したいと思っても、到底無理な透明なガラスの壁みたいだった。

 煩わしいチャイムが鳴り響き、彼女は何も言わずに自分の席に戻っていく。そんな様すら綺麗に見えてしまうんだから、きっと私が恋をしてるとしたら彼女になんだろう。

 いつも道理の授業、退屈なグラウンドを眺めている。このまま眠ってしまうか、とふと考えてやめる。私の隣にいる彼にそういうところを見られるのはやっぱり乙女的にはよろしくないだろうし、何より先生にばれたら面倒だ。

 ふと隣を見るとうっかり例の彼と目が合ってしまったので曖昧に笑って見せると、彼もそのまま微笑んでくれた。

 清潔感もあるし、顔も性格も悪くないと思うのに憧れ止まりなのは何故なのだろう。恋は落ちるものだと聞いたことがあるし、こんなことを考えている間は恋なんてできないのだろうか。これも彼女なら知っているのだろうか、なんて彼女を横目で盗み見ながら考える。

 彼女は、私に気づくことは無かった。

 そのまま何事も無く過ごしてりっちゃんと帰ろうとして下駄箱に着いたところで忘れ物をしているのに気付いた。

 「ごめん、ちょっと行ってくるから先に帰ってて」

 「嫌よ、私、今日は愚痴いうつもりだったんだから早く戻りなさい」

 はーいなんて間延びしたように返すと元の道筋をたどっていく。背後から聞こえた溜め息にまた苦笑いをこぼす。あれは別に優しさとか、そういうのじゃないのだ。前に似たようなことが起きたときは普通に先に帰ってたし。

 ただ、そういう自分本位で、自由気ままなところは私にはどうあがいても出来ないものだから、まさに恋してるみたいに彼女に憧れてしまう。あまり評判の良くない彼女と話すようになってから、初めは他の子たちには心配されたりしていたけど、今は何も言われない。

 高飛車な態度と、モデルみたいな見た目に、ほんの少しの悪い噂は魅力でもあるけれど、ほとんどの女の子たちは毛嫌いしてる。

 何度か転びそうになりながら階段を駆け上るといつの間にか教室の前に来ていた。そこでつい見知った男の子とクラスメイトが数人しかいないものだから、つい入るのを戸惑ってしまう。

 「マジであいつら釣り合ってないよな。律もなんであんな地味なの傍に置いてんだろうな」

 とっさにドアを開けようとした手を引っ込めてしまう。これは鈍い鈍いと言われる私でも自分の事を言われてるのだとわかる。わかるというか、すでに何度かこういう場面には遭遇したことがあるからなのだけれど。

 やっぱり、りっちゃんは目立つのだ。今まで孤高だった彼女に私みたいなのが引っ付くようになれば、そりゃあ皆の話題に上がるようになるだろう。

 こういうところで入って行ってもいいことは無いと知っているから、いつもだったら適当に何処かで時間を潰すんだけど、今日は彼女が待っているのだ。

 優先順位的にはこの人達よりも遥かにりっちゃんのほうが高いからさっさと用事を済ませてしまいたい気持ちもあるのだが、如何せんクラスメイトというのが面倒だ。今でもすでに悪目立ちしているのに更に距離を置かれると何かと大変だ。

 私がうーんと悩んでいる間に気づいたら彼女が昇ってきているのに気付いた。そんな長い間待たせてしまっただろうか。これならさっさと入ってしまえばよかった。

 不機嫌そうにずんずんというには軽やかに近づいて来る彼女に、思わずへらりと笑顔を浮かべる。教室の前まできて文句を言おうと口を開こうとしたようだが教室からの音を聞いて端正な顔をちょっと歪ませた後、つまらなそうな顔をしてドアを見る。これは何故さっさと行かないのかと言われるのだろうか、彼女を待たせることに比べたら何故こんな些末なことに煩わされるのだと。それとも机の中で大人しく待っているであろう携帯端末は諦めろと言われるだろうか、いちいち面倒なことに悩まずに、むしろ悩むくらいなら早々に切り上げろと。

 

 私に再び視線を戻すと、私が想像していた不機嫌そうな言葉の数々とは対照的に、自身に溢れていて、高飛車で自分勝手な笑みを口元にたたえて見せたのだから、思わず胸が高鳴って言葉が詰まる。小悪魔とか悪女とか、きっとそんな言葉じゃ収まりがつかない。しいて言ったら女王様だろうか。きっと自分の欲に忠実で民の言葉なんて聞かない、悪政を敷くような、世界一魅力的な女王様だ。

 「ちょっと待ってなさい、いいものみせてあげるわ」

 私の戸惑いなんて無視したように勢いよくドアを開けると、彼らはげっとしたように顔をしかめた。同じ人間でもりっちゃんは何をしてもこんなにきれいなのに何で彼らはあんなに醜いのだろうと疑問に思っている私なんて目に入っていない様に、彼らはりっちゃんに目を奪われている。

 「汚い声で私の事を語らないで貰えるかしら。貴方みたいな人達のせいで私の魅力が損なわれる……なんてことはないけど、汚いものは出来れば聞きたくないじゃない?」

 むっとしたように声を上げようとした彼にグイッと近づいて――こちらからは見えないけど、きっととびっきりドキドキさせるような笑みを浮かべて――相手の唇にしぃ、と人差し指をあてて媚びるように、まるで恋人に甘えるみたいに囁くのだ。

 「あら、私の話、聞いていたでしょう?ちょっと黙っていてくださる?」

 うっと息をのむように言葉を詰まらせて頬を赤らめている彼の顎を掴んで座っていた彼と目線を合わせて馬鹿にしたように蔑んで笑う。なのに言葉は何処までも甘やかだ。

 「貴方達はあの子が私の引き立て役なんて言っていたみたいだけれど、この私が、引き立て役なんて必要とするはずないでしょう?」

 彼女の言葉は問いかけているようで答えなど求めてなどいなくて、その言葉は完結していて、完璧だ。だから思わず聞き入ってしまうのだ。それこそ政治家の発言なんて比じゃないくらいには。思わず服従したくなるような甘味な言葉は、相手を屈服させる為に放たれているかのようだ。

 彼からふっと離れた彼女は踊るように彼らの目の前に、まるでステージに立ってるみたいに堂々としてやっぱり完璧な笑みを浮かべて声高らかに話すのだ。

 「だって、私は完璧なのよ」

 ぽかんとしたように彼らが黙ってみている事しかできない様を見て満足したのか彼女は私を呼び、早くしろと急かす。

 駆け足で彼の横の机の中を手で探って目的の物を掴むと、そこで彼は私に気づいたかのように驚いて、とっさに声を上げる。きっと意味などない言葉なのだ。それに、興味なんて無かったし、今、彼からの言葉を聞いても、きっと色も無ければ、味もしないだろう。

 「おい――」

 「ごめん、今急いでるから」

 もう既に教室から出て行こうとする彼女を急いで追いかける。心なしか足取りは軽かったし、憧れに似た恋に恋していた様な何かは綺麗さっぱり消えていた。

 やっぱり満足気な彼女は長い脚を惜しげもなく投げ出すように歩いて行くので必死に追いかける。

 「やっぱりあんな男はやめておきなさい。人の恋愛に割り込むのって好きじゃないけれど、やっぱり言っておくわ」

 「あれ、知ってたの?」

 ばれてるかも、くらいにしか考えてなかったから、見事に言い当てられて驚いてそう言うと、やっぱり得意げに笑うのだ。何処までも綺麗な彼女が可愛いところは、こういう人の称賛を素直に受け取るところじゃないかと私は思っている。伝える機会なんて来ないだろうけど。

 突然、少しむっとしたかのように突然足を止めてこちらを振り返り、今度は意地悪そうに笑ってみせた。それは私の憧れで、初めてこちらに向けて見せた蠱惑的な笑みに媚びるような瞳で息が詰まるような存在で――明確に私を堕とすためだけのものだった。

 

 「こんなにいい女が近くにいるのに別の男に惚れるなんて、失礼だと思わない?」

 あ、と想像していたよりもずっと鈍い音を立てて、急速に私は落下した。

 

読んでくださってありがとうございます。

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