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ケース1 -前編-


「召喚されし勇者たちよ、魔王の魔の手からどうかこの王国を救ってほしい」

そう王冠を被った老人が、玉座から謁見している少年少女たちに軽く頭を下げた。

一国の王が頭を下げる事態などそうない為、家臣たちは少々動揺しつつも、彼らのリーダーの少年がそれに答えるのを待った。

少年が面をあげ、言葉を発しようとした時、端に並んでいた如何にもご令嬢そうで勝気な少女が立ち上がった。

その挙動に王や臣下たちは無礼だぞと叱責を投げかける前に少女はポケットよりカードを王に向かって突き出し、

「異世界保険を使用しますわ」

しんと静まり返っていた謁見の間に少女の声が響き渡り、無礼者な少女を取り押さえようと衛兵が動いた時、カードから眩いばかりの光が放たれた。

「魔王の手先であったか!」

少女を取り押さえようとしていた衛兵たちは、咄嗟に少女と王の間に入り、王を護る盾となった。

数瞬の間、光っていたカードは収まると、そこにはくたびれたスーツを着た日本人のサラリーマン風のおっさんが立っていた。

「何奴か!さては魔王の手先か!」

王を護る盾として立っていた衛兵たちがその男に武器を向けた。

「すみません、武器を降ろしてもらってよろしいでしょうか。

私、怪しいものではございません。

異世界保険、渉外担当、望月と申します」

そう言うと男はどの貴族が見ても礼儀正しく美しいさを感じる挙動で王にこうべを垂れた。

その美しさに飲まれる中、王の脇に控えていた宰相が言葉を発した。

「異世界保険?聞いたことがありませんな。

渉外担当という事は、何かしら交渉を行いたいという事でよろしいかな?」

宰相が王に目配せしながら目の前にいる男に問いかけた。

「御理解頂き感謝致します。

私、こちらの保険契約者様よりご依頼を頂き参上いたしました。

急な登場でご無礼でございますが、何卒よろしくお願いいたします」

王に向けてカードを突き出した少女が後ろで憮然とした態度で立っていた。


20XX年、地球、取り分け日本では、異世界からの召喚の数が多くなっていた。

それは地球人の魔力的素質が高いこともさることながら、日本人のイエスマンと言える体質、つまりは頼まれたら断れない国民性に漬け込んだ召喚であった。

異世界へ召喚されたものは存在を消されたり、行方不明とされた。

地球の神々としても管轄の魂が消失する為、近年特に問題視され始め、その現状を解決する為に作られたのが、異世界保険である。

制度としては、年3000円の掛け捨てであり、

異世界に召喚された際に、カードに保険の使用の意思を伝えると保険外交官が派遣され、召喚主と被保険者の交渉の仲立ちを行う。

因みに一般的には、ジョークグッズと受け取られているが、神々からの神託もあり、一部神社仏閣でも取り扱われている。

その為、強ちニセモノではないのではないかとも言われている。


「というのが、当保険の概要となります。

今回、こちらの被保険者、神部百合香様の代理人を努めさせて頂きます改めまして、望月仁と申します」

「そちらの保険のことは分かった。

して何を交渉を行いたいのかな?」

応接室に宰相、その対面に望月、神部とさながら学校の三者面談のように対峙しながら交渉が始まった。

「神部様の要望としましては、日本への即時帰還を希望されています」

当の本人は宰相と顔も合わせず憮然とした態度であった。

「こちらとしては魔王が帰還のための宝珠を持っているので魔王を討伐していただいて宝珠を取り戻して頂かないことには、

お返しできません。

勝手にお呼びして申し訳ないのですが、何卒お力を…」

宰相が深々と少女に頭を下げるが、

「やっぱりね、勝手に呼び出しておいて魔王を倒さないと帰れませんんとか、

本当かしら?変える方法なんてないんじゃないかしら?」

神部はそんな宰相に一切目もくれずまくし立てる。

そんな契約者様をなだめる望月はカバンから資料を取り出す。

「えー、そのような嘘をつかれては困ります。

この世界の魔法技術では帰還方法はまだ確立されておらず、呼び出すのが精々、しかもかなり成功率と魔力効率が悪い」

望月が出した資料には、この国でも召喚技術に対してトップシークレットとされるような極秘情報が全て載っており、それを目にした宰相は手の内を全て知られており、この交渉に鼻から主導権が無かったことを悟る。

そして、神部は大変有能そうな保険外交官の手腕にまるで自分の手柄かのように鼻高々さを感じ少し顔を綻ばせる。

「こちらとしましては、このように帰還方法をお持ちでないのも把握してますので、

弊社の方で帰還をアシストさせていただきます。

つきましてはその費用に関して、ご相談をさせてください」

望月が最初に一枚の見積書を提出した。

震える手で、宰相がそれを受け取るとそこには国家予算が傾くような金額が記入されていた。

「とな、なんだこの金額は到底払えるわけがないであろう」

さしもの宰相もその金額に対して、望月に激昂する。

「明細はご希望であれば別途ご提供させて頂きますが、何分希少な素材、大量の魔力等を必要としますのでその金額でも良心的な価格となっております」

宰相の激昂に神部は当てられた萎縮していたが、

望月はまるで意にせず出せれた紅茶を優雅に啜う。

「望月殿、ここがどのような場所であるか分かっているのかな?」

苦々しくも堪忍袋の尾が切れた宰相は悪い笑みを浮かべつつ椅子に深く座り込む、

「ローナ神が管理するイルローナの最大の人類国家神聖ローナ王国の王都にある王城の応接間ですね。

なんでしたら世界座標と空間座標もお答えしましょうか」

「何を訳にわからんことを!」

宰相が指を鳴らそうと手をあげる。

神部も場の雰囲気が冷めていくのを感じ隣の望月にし噛み付く、

「実力行使ならやめたほうがいいですよ。

無力な人間がこんなところに来れるとお思いで?」

その一言が放たれると、天井裏から今にも飛び出そうとしていた暗殺者は失神し、天井から落ち、

宰相は射抜かれるような視線を受け椅子を濡らしていた。

「交渉は一旦休憩といたしましょう。

神部様ほかの方々はお友達でしょうか?

もしかしたら帰還を希望される方が他にもいらっしゃるかもしれません。

一緒にお話しに行きましょう」

呆然としていた神部に椅子から立ち上がった望月が手を差し出す。

未だ状況をよく読めていない神戸の手を引きつつ、望月は混沌としてしまった惨状から抜け出した。


お読みいただきありがとうございます。


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