021~030
021.
姫が城出してひと月後。王都の古物商が持ちこんだ壺から古代の魔神が復活し、暴れ始めた。倒せる力を持つのは姫と魔法使しかいないが、姫はおらず、魔法使は郊外の邸を完全防御して出てこない。#twnovel 『あのそろそろ戻りましょうか…?』「人命は守ってるから、王都が半壊したら報せるよ」
022.
二か月ぶりに戻ってきた姫は、土木作業に精を出していた。青ノ龍の御子に何させてんだと百年前の人々なら大騒ぎするだろうが、ありがたみの薄れた現状では頑丈で力持ちな人扱いだ。でもとても感謝されている。古代の魔神もパンチ一発でやっつけてくれたし。現金なものである。
023.
魔法使は想定外の出来事に頭を抱えていた。単純な国民が姫を歓迎しているのは良い。だがなんで自分の株まで上がってしまったのか。死者が出たら不味いと行動しただけなのだが、孤軍奮闘する(ような)様がなんか感動を呼んだらしい。邸の外に貢物を抱えた姫がニッコニコして立ってる。
024.
姫のパンチ一発で古代の魔神は死ななかった。流石である。色々便利なので魔法使が使い魔にして、今、邸にいる。「そういえばお前、なんで封印を破れたんだ?」魔神特製のとても美味なパンケーキをほお張りつつ魔法使が問う。「自らの力ではない。偶然や事故では解けぬ」「…ふうん」
025.
ぼんっと凄い音と白煙。魔法使のサラサラの黒髪は、金のモジャモジャになっていた。「大丈夫ですか!?」「あんまり。でも何故だ」「魔法薬の混ぜ間違い、ですか?」魔法使は眉間に皺をよせ、ガラス瓶の匂いを嗅ぐ。「…お前、魔狼の仔のトイレの躾どうなってる?」「マーキング?!」
026.
嵐の中でも、姫は平然と中空に立つ。暴風に髪は乱れ、豪雨でびしょ濡れになっても巌のように微動だにしない。一方魔法使は一本の髪すら揺らがず欠伸すらして隣に浮いている。二人に迫るのは台風の目。長い睫毛がバサリと風を産む。ボロボロ零れる涙。何故荒れるか、今から慰めに行く。
027.
嵐の原因は「母ちゃんにげーむでーた消されたから」だった。よくわからないが、巨大な目玉を持つ嵐の原因は異世界の存在にある。時空を超えた強烈な感情が嵐となって荒れ狂うのだ。大抵は負の感情なので始末が悪い。「少し前に来た、朝日が綺麗で泣いていた嵐は綺麗でしたね」
028.
「お前なら出来る」「あの、そんな美声で仰らなくても、やりますよ」「うん、頼む」溜息をつく姫に、魔法使は頷いてそそくさと離れていく。姫の足元には毒々しい色の草。抜くと叫び、近くにいる者の命を奪う。だが音は振動である。姫の反射神経なら耳を塞ぐのが間に合う、お願い、と。
029.
国境付近で暴れている巨大生物がいるらしい。「なんなんでしょう?」「邪神が受肉したとか大型のドラゴンとか突然変異した生き物でもないと」「なる…ほど…?」「カイジューと呼んで、と」「…どなたが仰ってるんですそれ」「ぼくの師匠だ。滅亡した異世界出身でいつも変なことを言う」
030.
書棚の整理をしていたのだと魔法使は言った。正確には本の左側のページに文字で表記した。右側にはフルカラーで精緻に描かれた魔法使が眉根を寄せて悩んでいる。「何か、何か私に出来ることは!?」『とりあえず逆さにして振ってみてくれないか』「はい!!」なんと、出られました。