011~020
011.
「…で、なんでぼくのところなんだ」「城では飼えません…」「戻してこい」「近隣の村を襲うかも…」「なら今ここで縊り殺せ」「…!」「「「きゅーん」」」姫の腕に抱かれた三頭魔狼の仔が切ない声で鳴く。一時間後、必要経費と散歩は姫が担当ということで魔法使宅の一員となった。
012.
未熟な魔術師が墓地で魔術を暴走させた。新鮮なものから白骨まで動きだし、魔術師は瞬殺。墓土も固まって動きだし、聖堂を祈る聖職者ごと擂り潰した。天空から青い炎を纏って姫が蹴りをぶちかます。魔法使は、炎と蹴りの余波が町へ及ばないようバリアを張るだけの簡単なお仕事。
013.
姫は闇の中で目をぱっちりと開いた。濃いピンク色の目は、星明りでも充分にものが見える。机に突っ伏した魔法使は疲れて熟睡している。その背後に黒い刃を持った暗殺者が近付く。音もなく、更にその背後へ姫は立った。#twnovel 魔法使はハッと顔を上げた。姫はぐーすかソファで眠っている。
014.
雨の中を水の精霊たちが楽しげに駆け回っている。草葉を滑り降り、岩に大地に飛び込む。フードを目深にかぶって歩く魔法使の周りは見えざる屋根でもあるように雨が避けていく。足元も水溜りが怯えたように両脇に避ける。魔法使は進む。彼が邸に入ると同時に、雨が猛然と勢いを増した。
015.
寄る辺ない中空で姫は白銀の髪を風に靡かせる。「何をニヤニヤ笑ってる」「嬉しいからです!」その隣で風に弄ばれる黒髪を神経質に撫でつける魔法使もまた、空に突っ立っている。「同じ景色を見れる人、ほとんどいませんから!」「そらそうだろう」雲より高い場所で夜明けを見下ろす。
016.
姫は物語の中の英雄になりたかった。乳母が語り聞かせてくれる物語の中の英雄は、最後には全ての人を救い、そして自分も幸せになるからだ。けれど知ってしまった。悲劇を打破する英雄の活躍の為には、不幸な人々が必要なのだ。そして全てを救える筈もないのだと。なんと邪悪な望み。
017.
パンッと乾いた音を立てて、魔法使の手の中で金剛石が砕けた。珍しい菫色の金剛石だ。鋭い破片が彼の手を切り裂き、血の雫が滴り落ちる。足元の魔法陣から菫色の光が湧き起こり、魔法使の血を吸い上げていく。「我が問いに答えよ」『なんなりと』「三日後の天気を」『晴れです』
018.
「あら、どうしたの?風邪でもひいた?封印が綻びちゃってるわよ」魚と蜥蜴と人を不気味かつ妖艶に混ぜ合わせたような姿の、凄い美声の生き物が、ぐったりした魔法使にしな垂れかかる。「寝かせて貰えなかった」「あら!」「負けず嫌いにも程がある。たかがババ抜きで」「あらぁ…」
019.
雨と一緒に降り始めたのは「ねこ」だ。百年ぶりの出来事に王都は大混乱に陥った。「ねこ」は猫に似ているが、全くの別物だ。端的に言えば人や家畜を殺戮し、バラバラに散布する。そこから生える赤い草を食べる。「伝承どおり刃物は効かない」「なら戦えるのは私たちだけですね」
020.
姫の濃いピンク色の両目からは、ポロポロ涙が零れ落ちている。王国に災いが増えたのは、姫がいるからではないか。そんな噂を聞いたのだ。気のせい以外の何物でもないのだがそういうものだと魔法使は諦めている。でもあまりにも泣くから。「出ていくか」「?」「全部捨てて出ていくか」