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黒き王の呪い

 『ブル・ダーカ』

 六族記の中で記されているダーカーの王のことを言う。

 王と呼ばれるだけあって、その力は万人に匹敵するもので、勇猛なダーカー達を統率し、戦場を血で染めていき、ダーカーの最盛期を築いた人物である。


 その王の魂がリヒトに引き継がれていると、パルラケルスは言ったのだ。


「俺が? 何で王の魂を引き継ぐんだ?」


 当然の疑問であった。王の魂を引き継いでいるなどと考えたこともなかったからだ。


「リヒト様はダーカーで飛び切り優秀な方ですぅ。ダーカ・ラーガと呼ばれる程の人ならば、その魂はブル・ダーカのものである可能性が高いと思いますぅ」


「優秀な方って……。で、ブル・ダーカの魂を引き継いでいたら何なんだ?」


「引き継いでいるようでしたらぁ……」


 少し間が開くと、気だるそうに垂れた目が鋭くなった。


「死んでいただくことになります」


 パルラケルスが重みのある声色で言い切った。

 練習場内の空気が張り詰めると、不愉快な言葉に気分を害されたリヒトの顔色が険しくなった。

 

「俺を殺すだと?」


 殺気を発し、パルラケルスを強く睨みつけた。

 見る者を震え上がらせる眼力を受けているはずのパルラケルスであるが、その表情に変化はない。

 リヒトの噛み締めた奥歯がギリッと鳴った。


「やめろ」


 両者の間に流れる沈黙を壊したのは、やり取りを見ていたギルディスであった。


「パルラケルス、冗談は程々にしろ」


 ギルディスがたしなめると、鋭かった目が緩くなり、笑みを浮かべて軽く笑った。

 その変わりっぷりにリヒトは毒気を抜かれ、呆気に取られる。


「すみませぇん。ダーカ・ラーガに睨まれたら、どうなるかと思いましてぇ。思わず失神してしまうところでしたぁ」


「つまらない冗談を言わないでくれ。本気にするだろう」


「失礼しましたぁ。ですが、命を狙われる可能性はございますよぉ?」


 リヒトの顔が強張る。何者かに命を狙われると言われたからだ。

 当然の反応を示すと、確認の言葉を口にする。


「誰に狙われる?」


「六族記の真相を知る者。カルディネア王国の人間からですぅ」


「何っ!? カルディネアだと!? 何で俺がカルディネアの人間に狙われるんだ!? 俺は今ではカルディネア軍だぞ?」


「軍ではありませぇん。狙うのは王家です。……ねっ? ギルディス様ぁ?」

 

 パルラケルスの視線を辿ってギルディスを見た。

 表情に変化はなく、いつもと同じく凛とした佇まいだ。やましいことが何一つないのか、毛ほども表情を変えていない。


「おい、ギルディス。どういうことだ? 何で俺がお前達に命を狙われるんだ?」


「心当たりがないとでも?」


「そりゃあ……。まぁ、敵だったからな。だけど、六族記の真相を知る者って言っていただろう? 何なんだ真相って?」


「昔の話だ。信ぴょう性があるかは分からんが、カルディネア王国で管理されている六族記にはこう書かれている。ブル・ダーカは金髪レイルの王の裏切りによって殺されたとな」


「なっ!?」


 リヒトの知っている話とは違うことが、ギルディスの口よりもたらされた。

 世間に知れ渡っているのは、ダーカー以外の者達が力を合わせて、ダーカーを滅ぼしたというものだ。

 一大勢力に抵抗して、大連合を結んで戦った。どこにも裏切って殺した等とは書かれていなかった。


 衝撃的な話にリヒトは息を呑んでいると、パルラケルスが目を細くした。


「そうなのですぅ。恭順して油断させたところで、ブル・ダーカとその妻を殺害した。その後は、知っての通りなのですがぁ、なぜ命を狙われるのかと言いますとぉ。死ぬ間際にブル・ダーカが言ったのです。必ず蘇り、この世を滅ぼすと」


「滅ぼす……。深い恨みがあるから、その魂が宿った者は危険だ。ってことか?」


「はいぃ。この事実を知っているのは、ごく少数。おそらく、カルディネア王国の者しか知らないと思いますぅ」


「何で、カルディネアしか知らないんだ? 他の奴らが知らないってのは?」


 リヒトの問いに反応したのはギルディスであった。


「カルディネア王国が金髪の王の本家と言っても良い。他の国の金髪は、全て分家だ。古来から引き継いだ財宝や知識は、カルディネア王国が所有しているものが多い」


「その話が書かれた六族記はカルディネア王国にしかないと?」


「ああ。そのはずだ。というよりも、眉唾な話を信じるのもどうかと思うがな。大体、こいつの言う転生とやらは、あくまでも仮説だ。こいつの趣味みたいなものを本気にするな」


 横にいるパルラケルスを両断するかのような言葉を言い放った。

 信じていない男の言葉をリヒトに聞かせていた理由を問いただす。


「じゃあ、何か。俺を脅かすために、この話をしたのか?」


「そんなところだ。こいつが会いたいと言ったから連れてきただけだ」


 今までの会話が全て不毛なものであったことを知ったリヒトは、冷めた視線をギルディスに投げるが、何食わぬ顔をしている。

 冷たい反応にリヒトは深いため息を吐いた。


「どうでもいい話をしに来たのか……」


「そのようなぞんざいな扱いをしていい者ではないぞ。貴様の鎧に呪文を刻んだのは、こいつだからな」


 リヒトが普段身に着けている黒い鎧。敏捷型の鎧で、その性能は抜群に優れているものだ。

 あまりの早さに戸惑いを覚えたことをリヒトは思い出した。それ程の代物を作成した者が、今目の前にいる。


「あの呪文は、パルラケルスが彫ったものだったのか」


「私の専門分野は呪文の方でして、転生の研究はギルディス様の仰る通り趣味ですぅ」


「趣味か……。転生を信じる人が少ないことを祈るよ」


「残念なことを言わないでくださいよぉ。全然浸透しなくて、悲しいんですからぁ」


 がっくりと肩を落とした。

 リヒトにとっては転生の話はいらぬ話なので、広まりそうにないことに胸を撫で下ろした。


 もし、転生の話とブル・ダーカの呪いの言葉が浸透してしまえば、リヒトだけでなく他のダーカーの命まで危うくなるのだ。

 誰からも見向きもされないに越したことはない。リヒトは一つ頷くと、ギルディスに言う。


「で、用は済んだのか?」


「いや、まだだ」


「何だ? まだ、俺をからかいたいのか?」


「そんなところだ。暇か?」


 リヒトの格好を見て言った。

 現在治癒の真っ最中であることは、白い鎧を着ていることから察することができるはずだ。

 暇ではない。と言おうとしたが、おそらく言ったとしても無視されそうなので、渋々頷いた。


「そうか。ならば、俺に付いて来い」


「何だ? どこに連れていく気だ?」


「茶会だ」


 少しだけ間が空く。言葉の意味を理解するのは、数秒を要した。


「何で俺が?」


「貴様に会いたい者がいてな」


「今度は誰だ? もう、パルラケルスみたいなのは嫌だぞ?」


「安心しろ。カルディネア王国、第四王女、サーラミアだ」


 ギルディスの言葉の意味を理解するのに、また数秒を要した。

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