表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/62

流魂

 ギルディスの発した言葉に、リヒトはただ目を丸くしていた。

 理解が追い付かないリヒトにパルラケルスが近づく。リヒトの髪をまじまじと見ている。


「うんうん、本当にダーカーですねぇ。この目で見る機会がなかったので、感激ですぅ」


「あ、そ、それは良かった。おい、ギルディス。一体、何の話だ。ダーカーが最高って?」


 男に寄られて身の毛がよだっているリヒトはたまらずギルディスに話を振った。

 だが、その声に答えたのは、目の前で鼻息を荒げているパルラケルスだった。


「最高っていうのはぁ、全ての種族の力を、保有しているってことなんですよぉ!」


「ひぃっ!?」


 思わず慄いた。目を爛々(らんらん)としてリヒトの目を食い入るように見ている。

 全身にさぶいぼが立ったリヒトは、またしてもギルディスに助けを求める。


「ギルディス、この人の言っている意味がよく」


「ですよねぇ! 知りたいですよねぇ!? お教えしますのでぇ、先に体毛とかも見させていただけませんかぁ?」


「い、良い訳ないだろ! さっさと教えてくれ! ていうか、離れてくれ!」


 全力でリヒトは拒絶すると、パルラケルスは顔をしょぼくれさせながら離した。

 恐怖の存在が離れたことで、リヒトは安堵の表情を浮かべる。咳ばらいをして、顔を正した。


「で? ダーカーが最古の民で、最高ってのは?」


「先ほども申しました通りですがぁ、黒髪ダーカーは、金髪レイル銀髪ランロード赤髪ガシュ緑髪ユーピッグ紺髪リジュー。すべての人種の先天的特性を有しているのですぅ」


「言っている意味がよく分からないが、髪の色で力が違うってことか?」


 リヒトの問いに、深く頷いた。

 パルラケルスが言った六つの名称は、六族記という大昔の時の話に出てきた部族の呼び名だ。


 髪の色ごとに部族が分かれており、他の部族と争いを続けていた時代。

 かつては一大勢力を築いた黒髪ダーカーは、金髪レイルが他の部族と同盟したことにより衰退、根絶やしにされた。

 その後は金髪が筆頭者になり、支配階層を築いた歴史があり、時が経つにつれて過去の部族の名前を使うことはなくなった。忌み子である黒髪を除いて。


「そうなんですぅ。私達、金髪は魔力に秀でておりますぅ。そのお陰で、生まれた者の多くが武鬼操者としての力を保有しているのですぅ」


「あぁ、なるほど。じゃあ、銀髪や赤髪にも何かあるってことか?」


「ありますよぉ。銀髪は俊敏な者が多いですしぃ、赤髪は体力に優れておりますぅ。ですが、これも人によって優劣はございますぅ。あくまでも、そういう特性を有している、というだけでしてぇ」


「じゃあ、ダーカーは全部に秀でているってことか?」


「いいえぇ~」


 パルラケルスは手を前に出して、首を横に振った。


「特性があるだけで、それが抜きんでいる訳ではございません。普通の人と何ら変わらないダーカーも、もちろんいます」


「じゃあ、別にダーカーにこだわる必要はないんじゃないか? 才能がある奴なんて、腐る程いるだろう?」


 リヒトは興奮冷めやらぬパルラケルスを見て思う。

 ダーカーが全てにおいて秀でている訳ではない。その言葉通りであるなら、ダーカーは興味をそそる対象ではないのではないか。

 リヒトの疑問にパルラケルスは、にやりとした。


「ただのダーカー……であれば、それ程興味はございませぇん。ですが、あなたはダーカ・ラーガですぅ。ダーカーとして優れている存在なのですよぉ!」


「い、いちいち、叫ばないでくれ。心臓に悪い」


 パルラケルスが突然上げる大声に、何度もリヒトは驚き、鼓動が早くなっていた。


「失敬……。先ほど、私は魂の研究をしているぅ、とギルディス様が仰ってくださいましたがぁ。リヒト様、あなたは魂がどのように作られていると思いますかぁ?」


「魂って……。こう、天から授かるとか?」


「良い線行ってますがぁ、私の研究ですと、この世界に魂は満ちていると考えておりますぅ。生き物は死ぬと魂が、この世界に還ります。その魂は世界を巡り、次の生へと繋がります。これは転生と呼んでおりますぅ」


 パルラケルスの言葉にリヒトはしきりに頷き、話の内容を理解していた。

 前の世界でも転生は信じられており、リヒトも耳にしていたことから驚くべきことではなかった。


「転生の際に宿る魂は、過去と繋がりを持っている場合が多いですぅ。血縁や恋人関係など、縁が深い者の元に魂は引かれていきますぅ」


「じゃあ、死んだ人が父親だったら、自分の子供として生まれてくることがあるってことか?」


「その通りですぅ。円のように縁は繋がっていると私は考えておりますぅ。魂はこの世界を巡り、生き物に宿り、また世界に還って行くのですぅ」


「まぁ、言いたいことは分かった。で、話は戻るが、ダーカーが特別ってのは何でだ? 話の繋がりが見えないが?」


 リヒトの興味はそこであった。

 ダーカーの存在が珍しいのは知っているが、それが優れたダーカーだとどうなるのか。

 パルラルスは少しもったいぶるように、間を開けた。


「生まれてくる子供の髪の色が両親の髪の色と違うことがあるのはご存知ですよねぇ? 赤髪同士なのに、緑が生まれたりぃ、銀が生まれたりぃ」


「知っている。ダーカーも似たようなものだろう? 遺伝みたいなもんじゃないのか?」


「違いますぅ。それは宿った魂に問題があるのですぅ。先ほど、魂は縁が深い者の元へと引かれていくと申しましたがぁ、その魂は必ずしも同じ量とは限りませ~ん」


「量?」


 リヒトの疑問にパルラケルスが、大きく頷く。


「魂は、透明な丸い器に液体を満たしたようなものだと思ってください~。器の中の液体が多いか少ないかぁ。ここで一つの差が生まれますぅ。」


「なるほど。魂の量が多いと、それだけ才能に恵まれているってことか」


「その通りですぅ。そして、器の中を満たす液体の色ぉ。これが髪の色と考えてくださぃ。髪の色が変わるのは、世界を巡っていた魂が、他の魂と結びついた結果、過去の魂の持っていた髪の色と別の者が生まれるということですぅ」


「じゃあ、別の色の特性を持って生まれるってことか? たとえば、元は銀髪の俊敏性を擁しながら、金髪で生まれたことで特性の魔力に秀でている部分を持つとか?」


「はいぃ。仰る通りですぅ」


 リヒトは腕組みをし、微かに唸った。

 器に満たされた液体の量が多いか少ないかで、人の優劣が決まるというのは理解できた。

 そして、魂に別の魂が結びついて生まれたのが、親とは違う髪の色で生まれた子供。

 前の世界で言えばハーフのようだが、二つの優位な特性を持って生まれてくるので、ハーフと言うよりはハイブリッドと呼ぶ方が良いかもしれない。


「親と違う髪の色が生まれるのは分かった。で、ダーカーも同じってことか?」


「同じですが、違いますぅ。ダーカーの魂は世界にありながらも、循環しておりません~。その出生率の低さから、私は滞留しているものと考えておりますぅ」


「滞留? 何で滞留しているんだ?」


「魂は縁が深い者の元で生まれる、と申しましたがぁ。ダーカーは根絶やしにされておりますぅ。世界に還った魂は、その行く先を失っているのですぅ」


「行く先?」


 リヒトは遂に首を傾げた。

 許容量オーバーな話になってしまったのだ。

 そのリヒトを置いて、パルラケルスは続ける。


「ですから、ダーカーの魂は、他の魂と結びつかなければ生まれないのですぅ。それが出生率の低さで、ダーカーの珍しさはここにある考えておりますぅ」


「あ~、そうなのか」


「ここまではただ珍しい……だけの話なのですがぁ、ダーカーが全ての特性を保有しているのは、魂が原初のものだからですぅ。他の魂はダーカーの特性の一部しか保有しておりません~」


「なるほどねぇ」


「世界の初めにはダーカーの魂しかなかったのが、時と共に劣化していき、ダーカーの一部の特性を保有した魂が世界を満たし始めた。これにより、ダーカーの個体数が少なくなったものと推察しておりますぅ」


「あっ!」


 リヒトは六族記のことを思い出した。

 ダーカーは強かったが数が少なかった。パルラケルスの理論はここに繋がったのだ。


「なるほど、そうなるのか」


「分かっていただけましたかぁ? では、リヒト様が特別だと思ったのはですねぇ」


「思ったのは?」


「ダーカーの王、『ブル・ダーガ』の魂を引き継いでいる者ではないかと、思いましてぇ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ