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二人の想い

 カルディネア王国首都にある、ニルヴァウヌ城内の執務室に五人の男が集まっていた。


 ギルディスの横にはロシュが立っており、光沢のある机を挟んで三人の男と見合っていた。

 全員が黒い軍服を着ており、その姿からカルディネア王国の兵士であることが分かる。

 並んだ顔を見て、ギルディスは右から順に声を掛けた。


「オルクト、イースバウ、ラダ。ここに呼んだのは他でもない。貴様らを隊長へと昇格させる。異論のある奴はあるか?」


 ギルディスは三人の顔をじっくりと見ると、右端にいるオルクトへと目を向けた。

 たくましい体に、緑色の短髪と無精ヒゲから粗雑に見えるが、童顔なこともあり、少年なのか青年なのか判別しづらい人物だ。

 緊張しているのか、ギルディスと視線を合わせないようにしている。


「オルクト、何かあるか?」


「えっ、そ、その。別にない、ありません、です」


 乙女のように顔を赤らめると、顔を逸らして会話を終わらせた。

 ギルディスは調練の時のオルクトを思い出す。

 勇敢である。どのようなぶつかり合いになろうとも、引こうとはしない。

 ただ、前を見据えて相手を打倒していく様が脳裏に浮かぶ。


 特に異論のなさそうなオルクトから、イースバウに目を向ける。


 しっかりと真ん中に分けた銀色の長い髪に、綺麗に整えた鼻下のヒゲ。柔和な顔つきのイースバウは、ギルディスににこりと微笑んだ。

 漂う気品の良さから貴族のように見えるが、出自は地方の役人の子だった。赤髪の両親から生まれた銀髪のイースバウは親の期待を背負って、軍に入隊したらしい。

 親の期待に応えることができたのが嬉しいのか、イースバウは笑みを崩すことなく言う。


「私もございません。お引き立ていただき、誠にありがとうございます」


 透き通った声で礼を述べた。

 この声で兵士達に夜な夜な歌を聞かせていたようだ。

 皆、その声に酔って、安らかな時間を過ごしていると聞いていた。

 ギルディスは噂に違わぬ美声だろうと思いながら、次の人物を見つめる。


 赤髪を短く刈った男の顔は、鼻が太く、目が細い。

 ロシュと同じくやや小柄ながら、体型が全く違うラダをしげしげと見る。ロシュは細身で俊敏なのに対し、ラダは肉団子のように体が盛り上がっている。

 見た目から力強さが伝わる通り、調練の時もその力をいかんなく発揮していた。


 兵を率いるに値するかどうかは悩ましいところではあるが、共に戦う兵士にとっては心強い仲間になるであろうと期待を込めての人事である。


「ラダ」


「はい!」


「……お前は何かあるか?」


「何も!」


「そうか」


「はい!」


 無駄なく答えたラダとの会話を終えると、ギルディスは改めて三人を見回す。

 自分が従えることとなった兵士達から見出したのが、この三人である。

 この人事が正しいのかは分からないが、それぞれ光るものを持っているとギルディスは思っている。


 無難な人物ならいるにはいたが、それではギルディスの野望を叶えるには力不足だ。

 強靭な者達を従えなければ、この国を、この乱世を治めることなど不可能だからだ。


 一つの賭けである、この抜擢が吉と出るか凶と出るか。

 その答えが出るのをギルディスは密かに楽しみに思った。


「よし、ならば、俺の命に従え。期待しているぞ」


 ギルディスの言葉に、三人は声を張り上げて了承する。

 三人が部屋を去ると、傍に控えていたロシュが口を開けた。


「本当に、あの者達で良かったのですか? イースバウならともかく、後の二人は」


「どちらも勇猛果敢な者だ。一緒に戦うには心強かろう」


「ですが……」


「真価は戦で発揮されるであろう。ダメなら、ダメで次を探せばいい」


「分かりました」


 ロシュは一歩下がって頭を下げると、部屋を去って行った。

 一人部屋に残されたギルディスは思案の海に入る。


 自分の今の状況を省みる。

 二十歳で遂に軍隊を率いることができるようになった。

 兵だけ与えられての出発であったが、総勢六千の兵を従えるには十分な将を集めることができた。


 だが、真に兵を率いたことがあるのは、まだ牢獄にいるエイガーのみである。

 エイガーは形上、捕らえらて投獄されたとしているが、後に牢から出すことは決定している。

 カルディネア十世の計らいの下の解放なので、誰も文句は言えないだろう。


 他の者達は実戦経験はあるにしろ、将として使えるかは不明である。

 リヒトもシームも一人で大勢と渡り合えるだろうが、戦局を動かす巧みな指揮ができるか。

 これからのことを考えると、調練を積み重ねていくしかない。


 長い長い目標に辿り着くまでの一里塚。

 着実に前進していることにギルディスは微かに笑った。

 ギルディスは机の上にあるベルを鳴らす。


「お呼びでしょうか?」


 ドア越しにミーアの声が届く。


「あぁ。入れ」


「失礼します」


 重々しいドアをミーアは空けて入ってくると、深々と頭を下げた。

 ギルディスは手招きをすると、それに従ってミーアは近づいた。


「俺の今の評判を教えてくれぬか?」


「え~……。あんまり、言いたくないんですけどぉ」


「構わぬ。お前と語らう共通の話題は少ないからな」


 意地の悪い笑みを見せたギルディスからミーアは目を逸らした。

 顔を赤らめ、照れているように見えるが、それを隠すためか腕組みをして大きくため息を吐いた。


「ギルディス様の評判は最低です。貴族のご令嬢方と遊ぶ放蕩者、軍事では他国の者の力を借りる怠け者。まだまだ悪い噂は絶えませんよ?」


 呆れるミーアに対して、ギルディスは目を細めて低く笑った。


「楽しいものだな。世の評判と言うのは」


「楽しくなんかありません。聞いていると腹立たしくて……。ギルディス様はそんなお方ではありません」


「本当にそうか? メイドをたらし込んだ俺が、そんな尊い者に見えるか?」


「ギ、ギルディス様!」


 顔を赤らめ、声を荒げたミーアを見て、ギルディスはまた笑った。

 あまりにも分かりやすい怒りが、ギルディスの笑いのツボを何度も突く。


「は~……。お前との時間は落ち着く。子供時代のままだ。お互いにな」


「私は成長してますよ? ギルディス様は子供の頃のままです。真っ直ぐで、冷たいようで温かくて……」


 もじもじとしながらミーアは声が萎んでいく。

 その顔を見て、ギルディスは愛おしさを感じた。

 小さな頃から一緒におり、家族といるよりも長い時間を過ごしてきた。

 それがあってギルディスは、ミーアこそが本当の家族であると思っている。


「そういえば昔、聞いたことがあったなら。お前はどうなりたい? どう生きたい? と。今ならなんと答えることができる?」


「えっ!? そのぉ……」


「俺は思うがままに生きるぞ。お前を愛して、子を育み、家族を作る。本でしか見た事のない、温かい家庭とやらを築いてみたい」


「ひ、卑怯です。そんな風に言われたら。……わ、私は、いつまでもギルディス様のお傍にいたいです。傍にいさせてください」


「お前の想い、しかと受け取った」


 ギルディスは柔和な笑みを浮かべると、席を立ち、ミーアの傍に行く。

 ミーアのあごに手を当てて、軽く顔を上げさせ、ミーアの唇に自身の唇を重ねた。

 口づけが終わると、目を潤ませたミーアにギルディスは優しい眼差しを向ける。


「この冷たい城内にはないものを作ってみせようぞ。お前と二人でな」


「はい、ギルディス様……」


 会話を終えると、再度、二人は口づけを交わした。


多忙により、定期的な更新が難しくなりました。今後は書き溜めしてから、集中して更新しようと思います。読んでいただいている方には申し訳ございませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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