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迫る死

 リヒトとゴリュウ。二人の戦いの火ぶたが切って落とされた。

 観客の声を黙らせんばかりの大声をゴリュウは張り上げた。


「おぉぉぉぉらぁぁぁぁ!」


 ゴリュウの手にしたメイスが光を帯びた。

 その光が輝きへと変わる。ゴリュウも武鬼操者であった。


 光が消え姿を見せたのは、鉄のメイスではなく、原始的な岩石のように角ばったメイスだった。

 荒々しく、重々しい圧力を放つメイスをゴリュウは肩に乗せた。


「さて、俺は準備できたぞ。お前は」


 ゴリュウは言葉を奪われた。

 リヒトが手にした剣がすでに黒い剣に変わっていたからだ。

 惚れ惚れしてしまう程の美しい金の装飾に、禍々しさを抱える赤い刃。

 相反する色が混ざり合ったリヒトの武鬼は、宝剣レグムントの時と比べて遜色ない姿だった。


「すげぇな……」


 ゴリュウが呟いた。

 リヒトは手にした剣を軽く振るった。

 リュートの武鬼と似ている。ほぼ、そのままと言ってもいいかもしれない。

 何故、リュートと似ているかは分からないが、リヒトは親近感を抱いた。


 それと同時に、寂しくもなった。

 馬に乗り遠退いていくリュートはどうなったのだろうか。

 生きていてほしい。どんな形であれ、生き延びていて欲しい。


 自分はここで生きているのだから。空を見上げて、行方知れずのリュートに思いを馳せた。

 その思考もすぐに切り替えて、目をゴリュウに向ける。


「悪い、遅くなった」


「構わないぜ。どうせ、短い付き合いだ。少しばかし長くなっても、どうってことはないぜ」


「ありがとう。なら、始めようか」


「おう。そうしようぜ」


 リヒトが腰を落とし、剣を構える。

 対してゴリュウはメイスを肩に乗せたまま、ゆっくりと歩き出した。


 まるで散歩に出かけるような足取りで、五歩進んだ。

 その六歩目が地に着いた時、リヒトの視界が青く染まった。


 リヒトは仰天した。まだ、ゴリュウとリヒトの距離は三メートルは離れている。

 あと二歩は進まなければ、自分への攻撃は届かないはずだ。そう思ってしまったリヒトは、ゴリュウの振りかぶった手に目が向いた。

 筋肉を隆起させた腕からは、リヒトに渾身の一撃を叩きこもうとする意気込みが見て取れる。


 では、何故、離れた位置からなのか。

 リヒトの逡巡を二つの文字が遮った。


『右に避けます 左に避けます』


 二つ文字が浮いた端から、ブレだした。

 ヴァーリッシュの高速の突きを受けそうになった時と同じだ。

 リヒトの脳裏を掠めた光景が咄嗟に取らせた行動は、右に飛ぶものであった。


「せぇいっ!」


 ゴリュウの叫びが響き、破裂しそうな筋肉を持つ腕がしなった。

 その手から、メイスが一直線に投げ放たれた。

 メイスはリヒトが一瞬前までいた地面に当たると、大砲の球のように地面に穴を開けてめり込んだ。

 

 リヒトはその光景に目を剥き、慌てて距離を置いた。

 冷や汗が流れるリヒトを横目に、ゴリュウは緩やかな足取りでメイスの下へと向かう。

 ゴリュウは地面にめり込んだメイスを引き抜くと、また肩に乗せた。


「良い反応だ。騙し討ちみたいなもんだが、あれを避けられるとはなぁ。ダーカ・ラーガの名は伊達じゃないな」


 また、ゆるりと近づくゴリュウに、リヒトは同じ歩幅で歩み寄る。

 リヒトの行動に、ゴリュウの眉が上がった。


「やる気十分だな」


「あぁ、死ぬ気はないからな」


「奇遇だな。俺も、だっ!」


 先に飛び掛かったのはゴリュウだった。

 応戦するリヒトは剣を構えようと、腕を上げる。

 リヒトの動作を妨害するかのように、世界が青みがかる。


 再度の青の世界にリヒトは困惑した。

 ゴリュウが飛び掛かったのは把握できており、メイスを剣で止める余裕はあったはずだ。

 それなのに、青の世界が広がった。それが意味することはなにか。それを考える前に文字が浮かんだ。


『右に避けますか?」


 今回ははっきりとした文字で現れた。

 一つしかないのなら、リヒトの取れる選択は決まったようなものだ。

 右足に力を込めようとした。


 その瞬間、文字が溶けて、違う文字へと形を変えた。


『左に避けますか?」


 リヒトは足に込めかけた力を、すんでのところで抑えた。

 文字が途中で変わる。今までにない事だった。

 困惑するリヒトを余所に、文字が震えだす。


 結局、選べる選択肢は一つしかない。

 左足に力を込めて、飛び上がった。

 青の世界が晴れ、世界に色が戻った時、リヒトの鼻先を掠めるものがあった。


 それはゴリュウのメイスではなく、巨木のような左足であった。

 身の毛が総立ちになったリヒトは、一度大きく下がる。

 ゴリュウは頬を指でかいて、笑みを浮かべた。


「すげぇな。見切られたと思って、蹴りを入れてみたが、それも読まれちまうなんて」


 感服しているゴリュウの言葉に、リヒトは驚愕した。

 最初の文字は右に避ける。そして、次は左に避ける。

 何があって文字が変わったのか。それをゴリュウの言葉から知ったのだ。


 最初のメイスでの攻撃を読まれたと判断したゴリュウは、リヒトが動こうとした右に蹴りを入れた。

 それが青の世界の文字を変えた要因であると、リヒトは理解した。

 そして、青の世界がリヒトに見える条件も分かりつつあった。


 ゴリュウがメイスを自分の上で一回転させる。


「さて、まだまだ付き合いは続きそうだな。いくぞらぁぁぁ!」


 重車両のような勢いで駆けだしたゴリュウがメイスを横に構えた。

 リヒトもそのメイスに剣で応戦しようと身構える。

 互いに打ち合う形になった時、青の世界が広がった。


 ここで、リヒトは確信した。

 この青の世界が現れる切っ掛けを。


 自分に迫る脅威。生きることを脅かすもの。リヒトの信念を曲げようとするもの。

 それは、死、である。


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