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対峙

 キメ顔を見せたリヒトは、剣を肩に乗せて男達に寄って行く。


 視線を左に向けると、三人の子供たちが手と足を縛られ、布切れで猿ぐつわをされている姿が見えた。

 間違いなく誘拐犯である男達を、リヒトはきつく睨みつける。


「ひぃっ!?」


 小柄な男が小さな悲鳴を上げた。

 一歩後ずさり、息を呑んで顔を引くつかせている。


 中年手前の大の大人が、十八歳の目を見て怯んだのだ。

 それ程までにリヒトは成長し、強くたくましい男に成長していた。


 リヒトの無言の圧力に押されるように二人の男はじりじりと下がっていく。

 その様子を見たリヒトは一人の男に向けて、突然駆け出した。

 剣を大上段に構えて飛び掛かったのは、小柄な男の方だった。


 刃を落とした鉄の塊が男の肩にめり込み、くぼみを作った。


「ぎやぁぁぁぁぁ!」


 男の悲鳴が上がった時には、すでに次の攻撃を放っていた。

 斜めから左足の膝目掛けて剣を叩きこんだ。


「あああ! はああぁぁぁ! ひぎぃぃいぃぃぃ!」


 男の絶叫が森にこだまする。

 関節を壊された男は地面の上でもんどりうって、痛みを訴え続ける。

 リヒトは小柄な男の戦闘力を奪ったことを確認すると、長身の男に体を向けた。


 長身の男は口をあんぐりと開けており、今までの光景に呑まれている様子だ。

 リヒトが剣を持ち上げたところで、やっと我に返ると腰にはいた片手剣を抜いた。

 その剣を握る手は震えており、切っ先もブレ、リヒトへの殺意は分散していた。


「はっ……はっ……何なんだよ、お前よぉ。ダーカーの癖によぉ」


「ダーカーだから、何だって?」


 リヒトは剣を振るって空を斬った。

 風切り音が聞こえると、男は体を大きくびくつかせた。


「ひぃっ!? 分かった! ガキどもは返す! だから、助けてくれ! 頼む!」


 今にも地に頭を押し付けんばかりに詫びを入れている。

 リヒトは一瞬考えた。これ以上の争いは不要ではないか。

 子供達が返ってきて、誘拐犯共がどこかに去れば、それで良いのではないか。


 逡巡した結果、気を緩めて一息吐く。


「分かった。じゃあ、どこへでも行け」


「ああ、恩に着るぜ。なぁ、兄貴!」


 リヒトは後ろから迫る圧力を感じ、咄嗟に横に飛び退いた。

 鈍く重い音が地面を震わせる。リヒトがいた地面には、斧が深々と刺さっていた。


 避けたリヒトは、もう一度飛び退いて、斧の主に目を向ける。

 そこには、巨躯で坊主頭の男が、忌々しそうな顔をして立っていた。


 坊主頭は汚れたプレートメイルを着ており、手にした斧と合わせると戦士の風体であった。

 長身の男の言葉から、この坊主頭が誘拐犯達のボスではないかと思われる。

 リヒトは思考を切り替えて、坊主頭との戦いに集中する。


 坊主頭は地に転がる二人の男を見回すと、鼻で笑った。


「まったく、使えない奴らだ。ガキ一人にやられちまいやがって」


 心底見下したような声色で坊主頭は言うと、リヒトを見た。


「ほお、ダーカーか。こんな所で会えるとはなぁ。いや、ダーカーだから森の中に隠れていたのかな?」


「あんたには関係ない。そこの子供達を解放しろ」


「おいおいおい。こいつらは俺の飯のタネだぜ? それにお前もこいつ等からは嫌われてるだろ? 嫌われ者同士、ここから去るからよ。お前も黙って、どっかに行きな」


 坊主頭は手を振るって、この場から去るようジェスチャーをした。

 その提案に対して、リヒトは首を振る。


「ダメだ。子供を放せば、見逃してやる」


「はっ! ガキの癖に随分強気だな。これは、親のしつけが足りないな。ま、親が育ててくれたのかすら、怪しいがな」


 口を大きく開けて笑い出した。細身の男は曖昧な笑いを浮かべ、地面で寝転がる男達はうめき声を上げている。

 坊主頭以外、現状を楽しんでいる者はおらず、その笑いは滑稽にすら見えた。


 ひとしきり笑い声が森に響く。坊主頭は緩んだ顔から、鋭い顔つきへと変貌させた。

 言葉を発することなく、男はリヒトに肉薄した。


 早かった。体格から鈍重かと思っていたリヒトだったが、一つのことを失念していたのだ。

 坊主頭は大きく斧を振りかぶると、筋力だけでなく、体重を掛けての一撃を繰り出す。


 一連の動きに対して、リヒトは冷静に対応した。

 剣を持ち上げ、刀身に手を当てて斧を剣の腹で受け止める。


「ぐうっ!?」


「ほおっ?」


 足が地面に、めり込みそうな程の力をリヒトは剣で受け止めた。

 剣と斧が当たり合い、カチカチと細かい金属音が鳴る。


「くっそぉぉ!」


「やるな、ガキ! 硬化型か? だが、腹ががら空きだぜ!」


「ぐふっ!?」


 坊主頭の巨木のような足が、リヒトの腹にめり込んだ。

 リヒトは痛みに堪えて、男から距離を取る。

 前のめりになって、腹を抑えるリヒトを見て、男は笑った。


「しっかりと魔力を込めているじゃないか。雑魚だったら、硬化型でも真っ二つだぜ」


 坊主頭は斧の刃の腹に刻まれた呪文を指でなぞり、下卑た笑みを見せる。


「俺のは剛化型だ。骨が砕けそうな力だっただろう? それを受け止めたんだ。褒めてやるぜぇ」


「う……嬉しく……ないね」


「お世辞でも素直に受けとるのが大人のマナーだぜ?」


 男はそういうと、腰を落とした。

 痛みを訴える腹を抱えたまま、リヒトは横に飛び退く。

 その瞬間、男は飛び掛かっており、斧を振り落としていた。


 また地面に切れ目を作った斧を横目で見つつ、ふらつく足で距離を置いた。

 坊主頭が何故、俊敏な動きができたのか。リヒトは一つの答えに行き着いた。


「その鎧……」


「ふん、気づいたか。この鎧は敏捷型だ。力がある俺との相性は抜群だぜ」


 裏に呪文が刻まれているであろうプレートメイルを胸で叩き、誇らしげな顔を浮かべた。

 その様子をリヒトは歯がゆく見ている。分が悪い。そう思えて仕方がなかった。


 戦士としての条件は、体を強化する鎧、もしくはそれに準ずる物と、武器に魔力を同時に注ぐことができる者だ。

 それなりの魔力が必要であり、センスも求められるため、やや厳しい条件である。

 その条件を男は満たしていた。


 リヒトも練習をして、できるようにはなっていたが、今は呪文を刻んだ物を着てはいない。

 そのまま戦うことが厳しいことは、誰が見ても明らかだった。


「さて、止めと行こうか!」


 坊主頭の声で我に帰った。

 反応が遅れてしまったことで、坊主頭との距離が縮まってしまった。

 リヒトを両断せんばかりに振り落とされた斧をどう避けるのか。


 考える暇もない程の速さで迫る斧に、リヒトは意識を呑まれる。

 その瞬間、世界が青みがかった。


 青の世界が訪れたのだ。

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