第3章9話 Cランク昇級試験(下)
今回は上下話になっているため、2話連続投稿していますのでよろしくお願いします。上話を読まれていない方は申し訳ありませんが、前話の第3章8話を先にお読みくださるようお願いします。
「んん? ……ニーナ、何か言ってるぞ?」
いきなり根拠の無い難癖をつけられたアイーダは、副ギルマスの方を振り向きもせずにネコ耳の受付女性――ニーナと言うのか――に、あっさりと振ってしまう。
「ええ~? オーギュストさん、いくら副ギルドマスターといえど、言って良いことと悪いことがありますよ?」
「その副ギルドマスターで騎士団副団長の侯爵でもあるこの私が言っているのだ、問題はあるまい。そもそも、私の部下である騎士団の三人が不合格なのに、そこの何処の馬の骨とも分からぬ平民共が合格などと、手抜きでなければいったい何だと言うのだ?」
「だとさ、ニーナ。私は帰ってもいいかい? ニーナとギルマスから頼まれたから、来てやっただけなんだ。イチャモンつけられてまで、ここにいる理由は無いぞ。
更新したギルドカードをもらって、とっとと帰るとするさ」
そう言って、刃引きの大剣を肩にポンと乗せるアイーダに、ネコ耳をピンと立てた受付嬢のニーナが慌てて止めに入る。
「ま、待ってください。本日のCランク昇級試験は所用で不在のギルドマスターから、この私が全権を委任されているものです。
かと言って副ギルマスの意見も、それが如何に無責任で無意味な事実無根の言掛りだったとしても、無視することが難しいこともこれまた事実です。
ので、最後の昇級試験はBランクの副ギルマス自ら試験官をやっていただくことにしましょう。そうすれば、手を抜いていたかどうかは一目瞭然で白日の元に証明されますからね」
「へぇ~。そりゃあ、面白いじゃないか、ニーナ。いいぜ、そこの偉そうなお貴族様な副ギルマスとやらに、最後の相手は代わってやるよ。精々、殺されないように気をつけることだな。いししっ」
刃引きの大剣をで肩をトントンと叩きながら犬歯を見せておかしそうに笑うアイーダを、物凄い目をして睨みつける副ギルマスっぽい冴えない中年男。
「ふん、わざわざ上級貴族の侯爵であるこの私が相手をしてやるまでもないのだが、Bランクの副ギルドマスターの責務としてこのまま見過ごすことはできないからな。
いいだろう、この私自らが胸を貸してやろう。感謝して、かかってこい」
「ねえ、あんなこと言ってるけどさ。私、手加減って下手なのよねぇ。間違って殺してしまっても、後で文句言わないでよね?」
最後の最後におかしな方向に話が行ってしまって、ポカンとしていたアリスが呆れた顔をしながら、ネコ耳受付嬢のニーナに手をヒラヒラを振る。
「はい、結構です。責任はこの私が取りますので、Cランクの昇級試験には全力をもって臨んでください。もともとが、そのためのBランク上級冒険者である試験官のアイーダです。その代役といえど、ライセンスだけは同じBランクの副ギルマスに当然のごとく遠慮はいりません」
「何を言っておるのだ? 思い上がるなよ、愚民の癖に。すぐに高貴な私が思い知らせてやる」
副ギルマスとは仲が悪いのかフフンと鼻で笑って、全く敬意を払う素振りすら見せないネコ耳受付嬢のニーナに、副ギルマスが不快そうに顔を歪めて吐き捨てる。
それを聞いて安心したとでも言うように、アリスが腰に下げた神話級【剣杖】を抜くことも無く、白銀プレートの胸を張って腰に左手をあてたまま、ヒョイヒョイと右手の中指だけを立てる。
「あそ、んじゃあ。どっからでも、かかって来なさい」
「無礼者がぁ!」
安い挑発に簡単に激昂した副ギルマスは、【詠唱短縮】で逃げられないよう上位火範囲魔法【インフェルノ】を放つ。
が、アリスは【無詠唱】で同じく【インフェルノ】で後の先を取って、放たれた爆炎をいとも簡単に轟音と共に押し返してしまう。
「ぐあっああああ!」
副ギルマスは撃ち返されて来た爆炎の渦を避けることもできずに、魔法障壁を展開することで辛うじて全身に火傷を負いながらも必死に耐えるしかない。
「くっ、小癪な売女がぁ!」
魔力付与された高級そうな服と撫でつけた金髪をあちこち焦がしながらも、再び【詠唱短縮】で今度は上位火魔法【フレイムジャベリン】を連続発射し始める。
それをアリスは連続発射されて来た二十発以上の上位火魔法【フレイムジャベリン】を視認してから、再び【無詠唱】で同じく高精度の【フレイムジャベリン】により全て正確に迎撃してそのまま撃ち抜いてしまう。
「ぎゃああああ!」
自分の放った【フレイムジャベリン】を空中で撃破したにもかかわらず、その威力を衰えさせることなくそのままの勢いで着弾したアリスの【フレイムジャベリン】に、なんとか維持していた魔法障壁を遂に打ち破られ、とうとう副ギルマスは絨毯爆撃の直撃を受けて地面に磔にされてしまう。
立ち昇る砂埃を下位風魔法でフッと吹いて払いながら、アリスが腰に手を当てたままで眠そうに欠伸をする。
「ねえ、あんたのチンタラ遅い魔法じゃ、私に掠り傷ひとつ付けられやしないわよ? つまんないから、他に何か隠し裏技とか必殺技とかないの?」
「おお、アリスの厨二病が暴走し始めたぞ……みんな、もうチョットこっちに寄っとけ」
そう言ってから俺もルリの傍に寄っていくと、ユウナの『車椅子』を押してコロンとフィがトコトコと避難して来る。
実はさっきからルリがドーム型の魔術結界を展開させていて、アイーダとニーナとおまけに気絶したままのお貴族様三人組を蹴り飛ばしてまとめながら、どうみてもCランクの昇級試験の枠を超えたアリスの放つ上位火魔法の爆炎から身を守ってくれていたのだ。
「ああ……。この前、大金を払って建て替えたばかりの練習場がぁ~」
「あははっ。何を泣いているんだ、ニーナ。思いっきりやれと言ったのは、お前だろうに?」
頭を抱えて半泣き状態のネコ耳受付嬢のニーナの肩をパンパンと叩いて、おかしくて仕方ないというようにアイーダが大笑いをしている。
「あ~、アリスちゃんが何だか凄く楽しそうですね~」
「アリスおねーちゃん、かっちょいー!」
「フィも、かっちょいー!」
すっかり諦めた表情のルリはもう笑うしかないと肩を落として苦笑しているが、お子様なコロンとフィは久しぶりに見せる正統派の【賢者】で【聖女】なアリスの本来あるべき雄姿に目をキラキラさせてしまっている。
「あ~でも、あれじゃ本当に死んじゃうかも……」
「あはは、大丈夫だろ? 痩せても枯れてもBランクの副ギルマスなんだしぃ、まあいざとなれば致命傷じゃなきゃ治せるし?」
そんな心配性のユウナのプラチナブロンドの頭をゆっくりと撫でながら、【時空収納】から取り出したアイスクリームをみんなに配っていく。
「わーい。ハクローくん、今日はチョコのアイスがいいです~」
「ハク様、コロンはヨーグルトのアイス~」
「フィは、フィは……あ~ん、迷うぅ~!」
「あ、クロセくん。私はバニラで……わ、おいしい」
魔術結界で舞い上がる砂埃もバッチリ遮断しいるので、のんびりと観戦モードでアイスを食べ始めるパーティーメンバー。
あ~、はいはい。アイーダさんとネコ耳ニーナさんにもあげますから、そんなに物欲しそうな目で睨まないでください。
ありゃ~ぁ、せっかくの美人さんが涎垂れちゃっていますよ。
「おおっ! 何だこれはぁ! 冷たいけど、甘いぞおっ! 最初からこれを出してくれれば、模擬戦なんかしなくても合格にしてやったのに~」
「うわっ、こ、これは……何と……はっ! もしやこれはギルドへの賄賂になってしまうのでは? いや、しかし……ここで、やめるわけには……ああ~、でも美味しい」
二人して何やらグダグダなことを言い始めてしまった、Bランク冒険者のアイーダとネコ耳ギルド職員のニーナ――それで、いいのか?
そんなことをしていると、塵ひとつ舞っていない魔術結界の中で、ペロペロとのんびりアイスクリームを舐めている俺達に気がついたアリスが騒ぎ出す。
「あーっ! あんた達だけ、何食べてんのよぉ!」
「あ、そうだ。みんな、アイスを食べ終わったら、喉が渇くだろうから口直しに美味しいお茶でも出そうか?」
「こらぁー! あんたら、聞けぇ~!」
そんなアリスを無視して、白いテーブルを出してお茶の準備を始めると、タマゴを抱えた小さなコロンがアイスを咥えたままで、アールグレイの紅茶を淹れるのを手伝ってくれる。
うん、家のコロンはええ子や。はっ、思わず訛ってしまったぞ。
「わーん、ハクローの馬鹿ぁ~。私の分も、必ず残しておきなさいよぉ~!」
「ぐっふうううう~、き、貴様ぁ、副ギルドマスターで侯爵位のこの私に、こんな真似をして唯で済むと」
七三に分けられていた金髪も無残に焼け焦げてチリチリになって、身体じゅうに火傷を負いながらも、未だに変わることの無い上から目線とその自信は、一体全体どこから溢れて来るのだろうか。
「はいはい、じゃあそろそろこっちから逝くから、死なないように避けるのよ」
そう言い残すと、【神速】でスタッと魔術結界の中まで帰って来て白い椅子に座ったかと思うと、アリスがニヤッと悪い笑顔を見せる。
「超位光魔法【アリス・レイ】」
ヒュン、とアリスの紅と蒼のオッドアイから――というか、視線の少し先から紅と蒼の螺旋の光の細い線が放たれる。
「う? ぐぁああああ!」
螺旋状の細い光の束は狙い違わず、詠唱途中だった副ギルマスの右太腿を貫通していて、本人も攻撃を受けたことを認識するのに少し時間がかかってしまったようだ。
「おお、目からビームってやつか? いよいよ、アリスの厨二病がフル全開で大爆発だな」
「馬鹿ね、これは中三になった私の学力の推移を集めて、【未来視の魔眼】と【遠見の魔眼】のスキル合成魔法よ。実は色々やっていたら、いつの間にか【光属性魔法】も習得していたしぃ~」
ふふん、と、お馬鹿なハクローには分からないでしょうけどぉ~、とでも言わんばかりのドヤ顔をして、薄い胸を反り返らせるアリス。
ちなみにアリス、漢字間違ってるぞ――『粋を集める』だからな。
あらためてそんなお馬鹿なアリスの紅と蒼のオッドアイを覗き込んでみると、右目の紅い【未来視の魔眼】には薄く時計の文字盤と針が、左目の蒼い【遠見の魔眼】には照準線が浮かんでいる。
おお~、厨二病が全開だ――けど、めっちゃカッコイイぞ!
「な、なによ……」
余りに熱心にアリスの顔を覗き込んでいたからか、顔を赤くしたアリスがプイッとソッポを向いてしまう。そして、そのまま得意気にドヤ顔で言い放つ。
「しかも、こんなこともできたりしますぅ~」
ヒュン……グイッ、あ、今度は明後日の方向に発射された紅と蒼の螺旋光が途中から屈折してから、懲りずに呪文詠唱しようとしていたらしい副ギルマスの左太腿を貫通していた。
「お? おぁああああ!」
「【遠見の魔眼】が届く範囲なら、いくら隠れていようが、どんなに避けようが【未来視の魔眼】でその行く先を貫くことができるわ」
「おおー。すっげぇ~、厨二病くせぇ~」
「アリスちゃん、かっけーです! ぱちぱちぱち」
「アリスおねーちゃん、かっけー! ぱちぱちぱち」
「フィも、かっけーと思うわよ。ぱちぱちぱち」
「アリス。か、かっけーぇ? ぱちぱちぱち」
みんなからの拍手喝采を受けて満足そうに、うんうんとドヤ顔で頷くアリス。新人応援団のユウナさん、そこは照れていては駄目な所ですよ。
「ぐうわあおぅ~、ぎざまぁ~、ぜっだいに、ゆるざんぞぉ~」
「はいはい。で、まだ合格とは言わないのね。あ、これおいしい」
あぁ、そういえば、Cランクの昇級試験をしているんだった。すっかり忘れていたぞ。
そういうアリスも、椅子に座って綺麗な長い脚を組んでミントアイスを、ペロペロと舐めているんだけど。
「これのいいトコはね、両手が塞がっていても、相手が見えなくても、攻撃が間違いなく正確に着弾することね」
ヒュン、――俺達と話をしながら紅と蒼のオッドアイが光ったかと思うと、紅と蒼の光の螺旋の束がアイスを持ったアリスの頭の上を超えて、副ギルマスの左腕を貫いていた。
「ぐぼぁあああ!」
よく見ると、副ギルマスは超位氷魔法【ゼロ・ケルヴィン】で腰から下を絶対零度に凍らされて、地面に直立した姿勢で固定されていた――おぅ、いつの間に。
「ねぇ、試験官が合格って言わなくても、合格するにはどうすればいいの?」
すっかり、飽きてしまったらしいアリスは、副ギルマスの方を見向きもしないで、ネコ耳受付嬢のニーナに小首を傾げて訊ねる。
「そ、そうですねぇ。ここまで一太刀も浴びせることもできずにこうまで一方的ですと、お貴族様な侯爵とは関係なくBランクの副ギルドマスターである彼の試験官としての素養が適正でなかったということになりますので、私の権限で合格ということにさせていただきます。あ、この紅茶もおいしい」
「ふぅ~、美味いなこの紅茶。じゃあニーナ、私の新しくなったギルドカードをもらえるか? これを食べてたら、腹が減って来ちまったよ」
ほっこりとした表情でお茶をしばいているネコ耳の受付嬢ニーナから、Bランク冒険者のアイーダが金色のギルドカードを受け取る。
「ああ、こちらになります。今日はご苦労様でした。急なお願いでしたが、引き受けていただき本当にありがとうございました」
「構わないさ。私も結構楽しめたし、後進を育てるってのも偶には良いもんだと、初めて知ることができたのはニーナのおかげだ」
清々しいまでにカラカラと笑うアイーダに、何故か凄い違和感を感じて思わず聞いてしまう。
「アイーダさんって、Bランクって言ってませんでしたっけか?」
「ああ、そうだよ。ん? ああ、そうか。今回の試験官をやることが、私のAランクへの昇格条件だったんだよ。だから、Bランクとして試験官をしていたのは、間違いではないぞ?」
あははっ、と全く悪びれることも無く笑い飛ばすアイーダ試験官。てことは、俺達は人類最強の新Aランクと模擬戦をしていたということになるのか? おいおい、勘弁してくれよ。
すると、ロシアンブルーのようなネコ耳をピンと立てたニーナが、人差し指を振りながら愚痴り始める。
「まったく、もう。アイーダは今までちっとも、後進の教育に協力してくれないからですよ。こうでもしないと、ずっとBランクのままで、フラフラされていることになりますからねぇ」
「えー、だってさぁかったりぃじゃんかよぉ~。別にぃ、Aランクじゃなくったって、困んねぇしさぁ」
あ、この人って戦うこと以外は駄目人間って奴かも――いや、間違いないな。みんなも、うんうんと残念そうに頷いてるし。
「もう、またそんなこと言って。リアーヌ様にいいつけちゃいますよ?」
「うわ~、まてまて。待てって、ちゃんと試験官はやったろ? これで、私も晴れてAランクになったんだからさぁ、いぢめないでくれよぉ~」
あ~、このニースィア冒険者ギルドのヒエラルキーが分かった気がする――それでいいのか、人類最強のAランク冒険者。事実上、並居る冒険者で最高位のはずなんだろうに。
けど、会ったことの無いギルドマスターよりも、目の前に座ってロシアンブルーのネコ耳をピクピクさせている、唯の受付嬢のはずのニーナの方が上のような気がするのは気のせいだろうか?
「あ、それじゃ、一緒に何か食べに行きませんか?」
「ああ、いいわねぇ。アイーダさんには、ここの冒険者ギルドのことを色々と聞きたいし」
すっかりアイーダに懐いてしまったらしいルリが嬉しそうにポンと手を打つと、アリスも真似をしてポンと手を叩く。
「え? ああ、いや私はあんまり他人とは――まあ、お前達は面白いからいいかぁ~? よし、じゃあ、Cランクへの昇級祝いにうまい店に連れてってやるとするか!」
一度は断ることも考えたみたいなアイーダだったが、紅い瞳をウルウルさせて胸の前で両手を握り締めているルリを見て、ポリポリと頭を掻くとわずかに犬歯を見せて人の良さそうな苦笑いをするのだった。
「あー、アイーダだけズルいですよ。私もここを片付けたら、すぐに行きますので席を取っておいてくださいね。アイーダのAランク昇級もお祝いしたいですから」
そんなアイーダを見ていたネコ耳の受付嬢ニーナは、バッと椅子から立ち上がると人差し指をブンブン振りながらギルド会館の方に向かって、長いネコしっぽをフリフリさせながらを走って行ってしまった。
「わーい、コロンもみんなで美味しいのも食べるのでしゅ」
「フィも食べるぅ~」
「Aランク冒険者お勧めのお店ですよ~。ハクローくん、楽しみですねぇ」
「やっぱ、観光地に来たら地元料理よねぇ~」
コロンとフィのお子様二人はおいしいものと聞いて大喜びで、ルリとアリスもニマニマしているので、俺もいそいそと出していたお茶のセットと白いテーブルと椅子を【時空収納】にしまい始める。
「あ、あの、クロセくん。ここはどうするの?」
そう言ってユウナが指差す先には、凍らされたままの侯爵な副ギルマスとお貴族様三人組が練習場に転がったまま伸びている。
「あ~、それはニーナさんが後始末をするって言ってたらか、大丈夫だろ? さあ、ユウナもいらん心配なんかしてないで、行くよ?」
そう言いながらユウナの座る『車椅子』を押して、先にアイーダと一緒にワイワイと歩いて行くみんなの後を追う。
「ま、までぇ、ぎざまら、ごのままで、ずむどおもう……ガクッ」
完全に無視されたまま、練習場に放置された侯爵様もようやく凍らされて立ったまま腰から崩れて意識を失って静かになるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
立っている人間が誰もいなくなってから、ネコ耳の受付嬢ニーナに言われてギルド職員達が中庭の練習場へとやって来た。 しかし、この前綺麗にして新品同然だったはずの練習場が見るも無残に破壊されていて、しかも真ん中にはいつも高飛車な副ギルマスがお貴族様の騎士団員三人と一緒にボロボロになって倒れているもんだから腰を抜かしてしまう。
「なんじゃ、こりゃぁ」
「ニーナの奴、こんなもん置いていきやがって」
「こんなの押し付けるんじゃねぇよ」
「ニーナはどこいったんだよ」
「ニーナさんなら、さっきアイーダさんと一緒にでかけましたけど」
「ちくしょー、きったねーな。やり逃げかよぉ」
「ああ、間に合わなかったか。どうしたんだ、これは?」
漆黒の霧と共に押っ取り刀で現れたのは、今日も赤いチャイナドレスを着たギルドマスターのリアーヌだった。
「ああ! ギルマス、見てくださいよこれ~」
「せっかく新しくしたばかりの練習場が、これじゃ使い物になりませんよ~」
「ん? そこに転がってるのは副ギルマスじゃないか。それに、そいつら三人は特別推薦でCランク昇級試験に来たお貴族様の騎士団員か?」
腕組みをして良く分からんと、首を傾げてしまうギルマス。
「そこのへっぽこ三人組はアイーダさんに伸されただけらしいですが、練習場と副ギルマスをこんなにしたのはあの【紅の魔女】らしいですよ」
「なんで、こんなことになってる? ニーナはどうした? あいつ、どこに行ったんだ?」
「どうも、アイーダさんに副ギルマスがいちゃもんをつけたらしくって、ちょうど良いからってニーナが【紅の魔女】をけしかけてボコッったらしいです」
「あの、馬鹿。いくら副ギルマスがアホだからって、相手は侯爵だぞ。やり過ぎだろう。
わかった、お前たちはすまないが後片付けを頼めるか? すぐに応援も寄越すからな。私はニーナの奴をとっ捕まえてくるとしよう」
「「「へーい、わっかりやしたぁ~」」」
「ったく、どこ行ったんだニーナは?」
そう言って、再び来たときと同じように漆黒の霧と共に消えていくギルドマスターに、残されたギルド職員達は並んで深々と頭を下げている。
そうして顔を上げると、みんなで元気に掛け声をかけるのだった。
「「「さ、片付けるとすっかぁ」」」




