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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第1章 異世界召喚編
44/240

44話 暴戻の勇者(上)

今回は上下話になっているため、2話連続投稿していますのでよろしくお願いします。



 21日目、さて今日も夜明け前から病室のすぐ外で楽しい剣術と歩行の朝練。


 歩行訓練リハビリ用の木製の手摺(てすり)(つか)まりながらであれば、ルリはだいぶ一人で歩けるようになっていた。

 まだまだスムーズという訳にはいかなかったが、寝たきり状態だった以前に来ればれば見違えるほどで本当に大したもんだ。

 彼女の【身体強化】スキルのレベルも、ようやくLv2まで上がっていた。


「クロセくん、ここまで(つか)まって一人で歩けましたよ。えへへ」


(すご)いな~。偉いぞルリ、がんばったな」


 そば()までやって来た、ルリの白髪(しろかみ)の頭をなでる。なでりこ、なでりこ。

 おお、白くて長い耳がピコピコと、白い丸しっぽがフリフリと見えるようだ。


「えへへ。もうすぐ、手摺(てすり)も無しで歩けるようになっちゃいますよ~。そしたら、一緒に手をつないでお散歩しましょうね」


「ああ、わかったよ」


「約束ですよぉ?」


「ああ、約束だ。

 王都の大通りの近くに流れている大きな河の河縁(かわぞい)が石畳で舗装されていて、街路樹とベンチがあって散歩するには良さそうだったからな。

 よく、王都の恋人同士が散歩していたようだったぞ」


「わぁーい。え? こ、恋人って……で、デートってことですか? わわわ、どうしよう~」


 明るくなり始めた空の下、白い長髪を(さわ)やかな朝の風にさらさらと揺らし、はにかむように紅い瞳を細くして微笑みながら、白雪のような透き通る肌をさらして、でもクネクネし始めてしまう少女。


 もう少し、もう少しで歩けるようになる。そしたら元気に、一緒に、みんなで出かけよう。


 この異世界の見知らぬ場所へと向かって――。


 後ろには、朝日に向かい【二刀流】の素振りを続けるコロンとビーチェの後ろ姿、それを虹色に輝く四枚の羽を広げ空中で見守る妖精フィがいた。




◆◇◆◇◆◇◆◇




手摺(てすり)(つか)まりながらだったら、少しだけ一人で歩けるようになったんですよ」


 午前中の魔法教室では少しだけなら歩けるようになったルリが、(ふく)らみ始めた小さな胸を張って、ふんす、とみんなに報告をしている。


(すご)いじゃないのよ、ルリ。本当よかったわね」


 これまで、ずっと一緒に見て来たアリスが少し目尻に涙を浮かべて微笑んでいる。すると、ガバッと意味もなくルリに抱きついてスリスリと始めるシスター・フラン。


「ああ、なんと素晴らしいことでしょう! 女神様に感謝を」


「ルリさん、よく頑張っていますね。その日々の努力が血となり肉となり」


 ちょっと先生っぽく、自慢の(ほし)マークの指差し棒をピンと立てたミラを、コホンと咳をしてクラリスが(さえぎ)る。


「姫様も、ルリ様を見習ってコツコツ頑張りましょうね」


「クラリス、せっかく良い話をしているのですから邪魔をしないように」


 クラリスにブーメランを投げ返されて、ミラが目を泳がせながらも(ほほ)(ふく)らませる。


 みんなに()められたルリはいい気分で、芝生に座ったままさらに胸をそり返して続ける。


「えへへ。秘密にしていましたが実はこの前、【身体強化】スキルのレベルがLv2にアップしたのですよ」


「おおー、ぱちぱちぱち。はい、それでは腕立て伏せ十回を三セット」


 パンパンと手を叩いて地面を指差すと、ルリはハッとした顔をしてから、すぐさまドヤ顔でキラーンと紅い瞳を輝かせて芝生に両手を着く。


「おねーちゃんにまかせて! うーっ、うーっ、うーっ」


 プルプルプルプルプル……(ひざ)が地面に着いたままでも、その両手はルリのまだまだ細い身体を持ち上げることはなく、生まれたばかりの小鹿のように小刻みに震えるばかりだ。


「……みやぁ~」


 あ、ルリがとうとうバッタリと(つぶ)れてしまった。


「はあ~、ハクロー。ルリが可愛いのは分かるけど、いじめるのは止めてあげなさい」


「ハク様、ノーモアいぢめ」


「コロン、これはいじめではなく、乗り越えるべき愛の試練というのだよ」


「おー、あい……愛……おおー」


 ぱかん


「あいた」


「コロンに変なこと教えないの」


 顔を少し赤くしたコロンを抱いて、頭を(はた)いてくるアリス。


 実はコロンも既に【身体強化】スキルに(いた)っては、Lv3までレベルアップしているという(すご)さだ。


「そういえばコロンも随分(すいぶん)とレベルアップしているよな。よくがんばったなぁ。」


「えへへ。ハク様、コロンえらい?」


 ()められて、お腹に抱き付いてくる小さなコロンに。


「ああ、(えら)いぞ。ん? なんだか、背もずいぶんと伸びてないか?」


「獣人族の子供は、レベルアップで身体的にも急成長するそうですよ」


「その通りです、姫様。だからこそ獣人族のあのマッチョな身体と強靭な身体能力ができあがるのです。

 はっ、コロンちゃんが細マッチョに……いや、可愛いままの方が、いやいや割れた腹筋も――うへへ」


 ミラ先生とクラリス先生が、異世界の種族的なマメ知識を披露してくれる。

 でも、コロンのシックスパックは――想像するまでも無く、お父さんは(なん)だか()だなぁ。


「ぜいぜい、はあはあ……でも、もう10才の小学生には見えませんね。

 今のコロンちゃんなら、見た目にはもう中学生ぐらいかなあ?」


 お、地面に()()して(うな)っていたルリさんが復活したようだ。

 紅い瞳をうるうるさせて、まだ震える両腕を(さす)っている――見えない長く白い耳もペッタリしていて、ちょっとかわいいぞ。


「コロンはお洋服が、ちょっとだけキツくなったので()()


 言われてみれば、少しふっくらして来た胸を押さえるコロンは、言葉使いも舌足らずな感じが少しだけ無くなって来ている。 あれ? アリスさんが芝生に両手を着いて、血の涙を流していますよ。


「また、抜かれた。なぜ、()()だけキャラデザインで忘れたのか……もう一回召喚からやり(なお)したい」


「アリス様は、チッパイでも問題ありませんです!」


 わっ、ビックリした。急にアリス大好き宮廷魔術師のマルタンが目をキラキラさせながら、(おが)むように両手を胸の前に合わせてアリスの前に(ひざまず)いていた。

 (ちまた)(うわさ)では、アリス非公認ファンクラブの会員第一号で名誉会長も兼任しているらしい。

 しかしどっから、()いて出たんだ?


「なんで、あんたもいるのよ!」


 パカン


「あたっ! ああー、ご褒美(ほうび)ですぅ~。ハアハア……」


 おお! アリスの突っ込みを自分から望んで受ける、奇特(きとく)な人がここにいるではないか! 

 今後の『アリス受け担当』の(やく)は彼に任せよう、そうしよう。決めた、今決めた。


「ハクロー、あんたまた(ロク)でもないこと考えてるでしょ」


「え? い、いや。ソンナコトナイヨ、ホントダヨ」


 おおぅ……、なんでここでバレる?


「それじゃあ、コロンちゃんのお洋服を買いに、昼食も兼ねて街にみんなでお買い物に行きましょうか」


「姫様、ナイススルーです」


「「「「わーい」」」」


 


◆◇◆◇◆◇◆◇




 王城の複雑に入り組んだ数多くある廊下の一角(いっかく)、薄い藤色のドレスを着た公爵令嬢ミュリエルが侍女を連れて歩いていると。


「あれ? フレデリック第一王子のフィアンセ殿じゃないですか」


「ああ、【勇者】エイジ様でしたか。晩餐会以来ですね、ご無沙汰しております。

 申し訳ありませんが、フレデリック殿下のところへ急いでおりますのでそれではごきげんよう」


 大貴族の令嬢らしく、優雅に目礼をして立ち去ろうとする公爵令嬢ミュリエル。


「まあ、まあ。そう(あわ)てないでよ。あ、そうだちょっと聞きたいことがあったんだ」


「え?」


「さっき、ジョスリーヌ第三王女に聞いたんだけど、最近、フレデリック第一王子が【勇者】カオリに夢中で相手をしてくれないんだって?」


「そんなことはございませんわ」


 少しムッとしたようだが、そこはさすがに公爵令嬢で第一王子のフィアンセということなのか、顔色を変えることも無くあっさりと切り返す。


「そうなの? 高堂先輩――【勇者】キョウイチもそんなこと言ってたけどなぁ」


「ええ、本日もこうしてフレデリック殿下にご挨拶にうかがいましたのですから」


「そうなんだ。でもさ、ちょっとだけ付き合ってよ。時間は取らせないからさ」


「しかし……」


「伯爵令嬢のエルミールの相談に、ちょとだけ乗ってやってほしいんだよね。

 ほら、俺って異世界人だから貴族令嬢の――元副騎士団長の元フィアンセの気苦労(きぐろう)のこととか良く分からなくってさ」


 ランベール副騎士団長の模擬戦の結果、伯爵令嬢のエルミールが賭けの景品として連れ去られるところを見ていた、公爵令嬢ミュリエルは同じ貴族令嬢として思う所もあったのか、相談に乗ることもやぶさかではないかと考える。


「まあ……そういうことでしたら、少しだけなら」


「あぁ、ご無沙汰しております、ミュリエル様。

 今日はどちらへ? フレデリック第一王子殿下のところですか?」


 そこへローブを着た一人の宮廷魔術師が、両手に大量の魔法スクロールを抱えて通りかかる。


「あら、宮廷魔術師マルタン様。お久しぶりですね」


「なあ、そんなヤツのことはいいから行こうぜぇ」


 話の途中に割り込まれた形の平河衛士が、(さえぎ)るように間に入る。


「え? 【勇者】殿? ミュリエル様を連れてどちらへ?」


「どこだっていいだろぉ?」


「でも、こんなことがフレデリック第一王子殿下に知れたら」


(うるさ)いなあ」


「しかし、それではフレデリック第一王子殿下のフィアンセである、ミュリエル様が困ることに」


「うるせって言ってるんだよ!」


 平河衛士が瞬時に距離をつめると、マルタン宮廷魔術師の喉を(つか)んで思い切り(にぎ)(つぶ)す。


「ぐげっ」


「【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、【強奪】!、……ふん、レベルが上がったから前より早く全部取れたな。

 おお、今度は属性魔法か……魔法関連のバフもあるな。こいつぁ良いや」


「ゆ、【勇者】エイジ様。な、何をされるのですか?」


「いいからお前はついてこい! そこの侍女、騒いだらお嬢様がこいつのようになるぞ」


「あ!」


 (くち)から血が混じった泡を吹いて気を失っている、マルタン宮廷魔術師を近くの空き部屋に放り込むと、驚く公爵令嬢ミュリエルと侍女の腕を(つか)んでさっさと歩き出す平河衛士。


「あー、何だかムシャクシャして来たな!」




◆◇◆◇◆◇◆◇




 いつものアリスのお気に入りの服屋に、コロンの洋服と下着類を買いに来ている。


 店に入るなり、すぐさま試着室に連れ込まれたコロンは女性店員とミラ達に囲まれているようだ。俺は肩の上でグデェっと垂れて爆睡しているフィと一緒に店の端で待機――というか、退避している。


「あらあら、まあまあ。初めてのお客様のサイズですと、こちらのブラが」


「きゃー、これ可愛いです」


「姫様、こちらの胸にフィットした、フリフリもたまりません。じゅるり」


「ハク様、ハク様~、助けてっ」


 大量の下着を両手にしたミラとクラリスの(すご)い勢いに、下着姿のまま逃げて来て肩によじ登るコロン。

 いったい何をされたんだ、いつもはフサフサしている白銀色のしっぽが丸まってしまってるじゃないか。


「こぉ~ん」


 ポカ


「あいた」


「あんた、なに見てんのよ! ミラとクラリスも、ちょっとは手加減しなさいよね」


 腕組みをしたアリスがさくらんぼのような唇を(とが)らせているが、後ろから追っかけて来たミラとクラリスが手を、ワキワキさせてにじり寄ってくる。


「うへへ。姫様、寂しがり屋さんのアリス様も、かまってほしいそうですよ」


「あら、それでは一緒に見ましょうね」


「え? あ、私は……ちょっと、待って。いや、ハクロー助けなさい!」


「がんばれよー。そういえば、形状記憶『釣り糸(タングステン合金ワイヤー)』入りブラジャーが完成したって言ってたぞー」


「おぼえていろよ~」


 ああ、アリスはミラとクラリスに両脇を(かか)えられた宇宙人のように連行されて、混沌(カオス)とした試着室に消えていってしまった。


「ところで、コロンは気に入ったのがあったのか?」


「ハク様、これどう?」


「ああ、コロンによく似合ってとっても可愛いぞ」


「えへへ~。ハク様、ぎゅぅ~」


 下着のまま肩の上で頭に抱き付いてくる、コロンの白銀色のしっぽが、わふん、わふんと盛大に振られる。


 ぎゅう~……。


「いたい、いたい。ルリさん?」


 なぜかルリさんが真っ白な(ほほ)(ふく)らませて、俺の脇腹をつねっています。


「な、(ナン)でも()いしぃ~……」


 しかも、長い睫毛(まつげ)で紅い瞳を閉じると、ツンとそっぽを向いてしまう。

 まったく……しかたないなぁ。


「ルリの形状記憶『釣り糸(タングステン合金ワイヤー)』入りブラもできてるはずだから、後で見せてもらいな」


「……う、うん」


 そっぽ向いて、桜色の珊瑚(さんご)のような唇を(とが)らせた横顔が少し赤いですよ。


「きゃ~。ルリ様、コロンちゃんに()いてるんですか? マジ可愛いですぅ」


 ぽんこつフランが(ほほ)を両手で(はさ)んで、くねくねしている。ところで、こいつは王城の礼拝堂をずっと(カラ)にしっぱなしで良いのか?




◆◇◆◇◆◇◆◇




 その頃、王城で異世界から来た平河衛士に割り当てられた、上級貴族用の客室の前では人だかりができていた。


 奥の寝室でシーツを一枚だけ身体につけてベッドに横たわる、自分のフィアンセである公爵令嬢ミュリエルの姿を見て、扉が開かれたままの入り(ぐち)呆然(ぼうぜん)とするだけのフレデリック第一王子がいた。


「ね~、王子様ぁ。急に押しかけて来るなんて、ちょっと無粋じゃねーのぉ? 

 今ちょっと、取り込み中なんだよね~」


「平河っ、お前!」


 一緒に来ていたらしい正義の味方の沢登生徒会長が、バスローブを着ただけの格好でヘラヘラ笑っている平河衛士に(つか)みかかる。


「うっせえなあ! 合意だよ! モテねー奴が、口出(くちだ)しするんじゃねーよ。

 それとも(なん)だぁ、生徒会長様も(うらや)ましいんじゃねーのか?」


「お前は、何をしたか分かっているのか!」


「うるせって言ってんだろ!」


「うわっ」


 平河衛士が肩を押しただけで、簡単に部屋の外まで突き飛ばされてしまう生徒会長。あっけなく尻もちをついている生徒会長に、慌てて長瀬風紀委員長が駆け寄って助け起こす。


「んな、弱っえ~のに、偉そうに口出(くちだ)しするんじゃねーよ。ははは」


「くそ! だったら【勇者】の力でお前の間違いを分からせてやる!」


「沢登くん! 日本人同士でそんなっ」


 風紀委員長が生徒会長を思いとどまらせようと肩を(つか)んで説得するが、平河衛士はそれすらも聞き流して笑い飛ばす。


「なんで俺がお前の相手なんか、してやんなきゃいけねーんだよ。

 ああ、んじゃまた賭けるか?」


「何っ?」


「風紀委員長は……いらねーな。おっぱいのでっかい、副生徒会長を賭けようぜ」


「なっ。平河くん、あなた!」


 ()()()()()()()と言われて、なぜか長瀬風紀委員長が顔を赤くして怒ってる。宮野副委員長は状況が把握できていないのか、一人で首を(かし)げていた。


「んじゃ、着替えて屋外の訓練場にでも行くとスっか!」


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