40話 二つ名
19日目はいつもより少し遅めの時間の剣術と歩行の朝練。
少し気になったので、【解析】でみんなのステータスを確認しておく。アリスは居ないから、後で確認すればいいか。まあ、スキルレベルはほとんどがカンストしているし、基礎レベルがLv14だったのは見ているからな。
名前;ハクロー・クロセ(黒瀬白狼)
人種;人族
性別;男
年齢;15才
レベル;Lv15
職業;【サーファー】
スキル;【解析Lv3】【時空収納Lv3】(UP!)【時空錬金Lv3】(UP!)【剣術Lv3】【身体強化Lv3】【二刀流Lv3】(UP!)【魔力制御Lv3】(UP!)【物理強化Lv3】(UP!)【限界突破】【抜刀術Lv1】(New!)【格闘術Lv1】(New!)
エクストラスキル;【時空魔法Lv0.5】
ユニークスキル;【波魔法Lv3】(UP!)
オリジナルスペル;【ソナー(探査)】【ビーチフラッグ(加速)】【波乗り(重力)】(UP!)【ドライスーツ(防壁)】【HANABI(爆裂)】【ライフセーバー(救命)】【AMW(ノイズ)】(New!)
守護;【女神■■■■■■■の加護】【ルリの友達】
名前;ルリ・アイカワ(藍川瑠璃)
人種;人族
性別;女
年齢;16才
レベル;Lv13
職業;【幸運の■■】【勇者】【精霊使い】
スキル;【鑑定Lv10】【収納Lv2】【身体強化Lv2】(UP!)【料理Lv1】【付与Lv2】(UP!)【結界Lv1】【裁縫Lv1】(New!)
ユニークスキル;【健康Lv3】(UP!)【親孝行Lv1】【友達Lv3】(UP!)
守護;【祝福の聖精霊】【祝福の光精霊】【祝福の木精霊】(New!)【祝福の水精霊】(New!)【祝福の土精霊】(New!)【祝福の火精霊】(New!)
名前;コロン
人種;獣人族
性別;女
年齢;10才
レベル;Lv10
職業;【料理人】【妖精使い】(New!)
スキル;【調教Lv1】【召喚Lv2】(UP!)【料理Lv4】(UP!)【格闘術Lv2】(New!)【身体強化Lv3】(UP!)【二刀流Lv2】(New!)【加速Lv1】(New!)【教導Lv1】(New!)【裁縫Lv2】(New!)
守護;【女神■■■■■■■の加護】【ルリの友達】
名前;リリス=フィ
人種;妖精族
性別;女
年齢;115才
レベル;Lv8
職業;【暴食】(New!)
スキル;【魅了Lv2】(UP!)【睡眠Lv2】(UP!)【淫夢Lv2】(UP!)
守護;【ルリの友達】(New!)
それにしてもコロンは、もう基礎レベルがLv10の大台に乗った上に、スキルレベルもどんどんアップしている。身体能力に優れている獣人というだけでなく【加速】スキルまで手に入れて、本物の才能というのはこうゆうことを言うんだろうか。
それに比べて、フィのレベルは現状でもそれほど高くない。いや、年齢からは低いと言ってもいいだろう。
「ところでフィはスキルが一気にレベルアップしたようだが、今までどうしていたんだ?」
「フィは生まれてからずっと花びらの中で寝ていたから、起きて来たのは最近なのよ。まあ、ざっと100年は寝ていたわね」
「寝すぎだろ! じゃあ実質15才と変わらんということか」
「やっぱりおねーちゃんでした! ふふん。フィちゃんったら、おねぼうさんです」
うれしそうに、ルリが少しふっくらしてきた胸を張る。いや、それでも年の差は歴然としているんだがな。
朝食もまったり取って、ゆっくりと午前中の魔法教室へ向かう。いつも通りに青空の下、木陰に置かれた黒板の前に座るが、今日は少し暑いようだ。
「皆様、昨日はお疲れ様でした」
「まあね」
当然、ブヌトー公爵騎士団との戦闘について、王家として把握していて当然の立場のミラレイア第一王女姫殿下が、本当に心苦しそうに頭を下げる。
「今日はお疲れのことと思いますので、休講にしたいと思います」
「そうね、それは助かるわ」
アリスがちょっとお疲れの様子で笑うと、ミラが珍しく凛とした第一王女姫殿下モードでその後の状況を説明し始める。
「それでは気分の悪い話は、さっさと終わらせてしまいましょう。
ブヌトー公爵は贈賄や横領などの罪により、爵位剥奪、財産没収の上でお家取り潰し、公爵家は四公から三公に減ることになります。
騎士団も公爵の自領で、誘拐や殺人など、やりたい放題だったようです。解体された後は、罪状に応じて犯罪奴隷落ちになる者もいるようです。
ただ、例え軽い刑で釈放されたとしても、仕返しや私刑が怖くて自領に帰ることはできないだろうとのことでした。
問題の公爵屋敷の地下牢からは、攫われてきたと思われる珍しい種族の女性が、【従属の首輪】を付けて大量に見つかったとのことです」
王族が用意したシナリオ以上の厳しい結果に説明するのも苦しそうにするミラ、それに代わるように侍女のクラリスがちょっと気になると補足説明をする。
「ただ、売買契約書と照合すると、エルフ族の少女がひとり見つかっていないようです。地下牢にいたことは確かなようなんですが……実は王城の王族用の客室に軟禁されているはずの公爵の姿が今朝から見当たりません」
あんなヤツだから、嫌われていたようで味方も少ないのだろうが、隠し財産とかだけはあるのは間違いないから、この時とばかりに恩を売るために助ける腹黒い貴族もいるということか。
するとさっきの見つかっていない女性一人は、逃げる時に一緒に連れて行かれた可能性があるな。
まあ公爵の居場所は掴んでいるんだろうから救出も簡単なんだろうが、そもそもあいつを生かしておく必要があったのか。
クラリスが俺の考えを読んでたように厳しい表情で、メガネの縁を上げながら続ける。
「ブヌトー公爵家を取り潰したことで、政治バランスが崩れて各派閥の者達が騒ぎ出しています。
特に王家に【勇者】という強力な戦力が集中することを嫌う、強硬な者達は後の無いブヌトー公爵を体の良い神輿として擁立しようとするはずです」
「死んでいてはそいつ等をあぶり出すことができないから、生かしておく必要があったということか」
「息をひそめて水面下に潜ってしまわれる前に、今回の件で強硬派を一網打尽にするつもりの様です」
「それこそ王国国内の事情だろうに、異世界人を巻き込むなよな」
クラリスに愚痴るように言うと、ミラが再び深々と頭を下げて謝り始めてしまう。
「おっしゃる通りです。この度は王国が大変ご迷惑をおかけしましたこと、心より深くお詫び申し上げます」
「別にミラが悪い訳じゃないだろ。今回の件だって、事前に知らせておいてくれたからカウンターの準備ができた訳だし」
「しかし、これで表立って皆様をどうこうする者はいなくなるはず……です」
「だといいんだがな」
少年少女八人誘拐の主犯であるクソ国王とやらが、そんな簡単なタマじゃない気がするのは俺だけなんだろうか。
まあ、ミラも自分で考え始めてはいるが、クラリスの場合はミラのためにもう少し先まで考えていそうだけどな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
午後は昨日の対人戦でのフォーメーションチェックも兼ねて、軽くいつもの常時依頼の『採取クエスト』を受けるために、久しぶりに冒険者ギルドに行くことになった。
やはり魔物との戦闘とは違う点が多く、どうしても微調整が必要なためだ。
大型の魔物が王都の近くに出始めているのでそれはそれで対応策が必要だが、それ以上に注意しなくてはいけないのは、いろんな意味でも危険度が遥かに高いこの世界の人間だということが再確認されたからだった。
それは多くの魔物と違い、異世界人の俺達には理解できない概念でできあがった『心』を持つ存在だからだ。
だがそれがどんな『心』を持つ人間であろうと、俺達には絶対に負けてはやれない理由があるのだった。
そしてギルド会館の扉を開けた瞬間、そんな不安は的中することになる。
「おい、騎士団殲滅の【紅の魔女】だぞ……」
「噂では神聖騎士団を超位風魔法の一発で壊滅させたって」
「騎士団は百人以上いたって話だ」
「巨人殺しの【紅の魔女】じゃなかったのか?」
「バカ、どれも本当の話だ」
ギルド会館一階ホールの壁際からヒソヒソと聞こえてくる声に、アリスがさくらんぼ色のかわいい唇をへの字に曲げる。
「なあ……、【賢者】で【聖女】から、どんどん離れて行ってないか?」
「……何がまずいのかしら」
「ほ、ほらみんなはアリスちゃんの優しさを知らないだけで」
慌ててルリがフォローに入るが、それに振り返りもせずアリスがつぶやく。
「ルリ、例えば?」
「ほら、チンピラの腕を圧し折ったとか」
「……」
「他には貴族の股間を消し炭にしたとか」
「……」
「あ、あれ? あれれ?」
どんどんドツボにハマっていくルリが、コテリと首を捻っていると、慰めるようにポンポンッとアリスの肩に手を乗せるコロン。
「アリスおねーちゃん、どんまい」
「……」
アリスの視線はどこか遠くを見据えたままだった。
「ん? あれは」
入れ違いで平河衛士が奴隷の女性達と出て行くのが見えたが、元没落貴族のサラだけがわざわざ近づいてきた。
「あら、あなた達もこれから魔物狩りかしら。せいぜい森では、【勇者】平河様の邪魔をしないように気を付けることね」
そう言えばこの前、サイクロプスを倒した時にこの女がどこにいたのか気が付かなかったが……生きてはいたんだな。
他の奴隷の女性達九人は、ぺこりと頭を下げてから後を追いかけて出て行った。今日は怪我しないといいんだが。
なんかクエストに出る前からすっかり疲れてトボトボとギルド会館を出たところで、今度は馬車を取り囲んで揉めている集団に道を塞がれてしまう。
「あんた達みたいな下賤な冒険者風情は、黙って言うことを聞いていれば良いのよ!」
「貴族……じゃないな、平民か?」
「あれは……」
見るからにガラの悪い冒険者達三人を相手に、威勢の良い啖呵を切っている高級では無いが品の良い服を着た少女を見て、急に驚いた顔をして固まってしまう妖精のフィ。
よく見るとコロンの肩の上で、その透明な虹色の四枚の羽を小刻みに震わせている。
「知り合いか?」
「いえ、あぁ、うん……」
「ん?」
いつも飄々としているフィにしては、殊の外歯切れが悪いし、少し顔色も青白くなってきている気がする。
どうかしたのか、と聞こうととしたときに問題の少女が大きな声を上げて、こっちに走って来た。
「何でこんなところにいるのよ!」
「……いちゃ悪い?」
「だって奴隷商に、引き渡したはず! ……あ」
こいつ! まさか、妖精のフィが奴隷商に捕まったときに、そこに居合わせていたのか――険悪な雰囲気から、フィのすぐ横に移動して警戒する。アリスも気がついたようで、反対側に立つ。
「おかげさまで、このとおりピンピンしてるわよ。あんたこそ、こんな所で何してんのよ」
「そんな! それじゃ私は」
「どうしいたんだい、おや? その妖精は……」
そう言って馬車から降りて来たのは見るからに貴族で、30才ぐらいで切れ者と言った印象の金髪のイケメンだ。燕尾服のいかにも執事らしき老人を連れて、こちらに歩いてくる。
「ん? まさかとは思うが、ブヌトー公爵にお届けできていなかったのか。これはどういうことだ……いや、ちょうどいい。これで、お前を連れて来た甲斐があったというものだ。
ディアヌ、お友達の妖精を連れてこちらに来なさい」
「え? あ、それは……子爵様、実はこの妖精は……」
「どうした? 早くお前の友達の妖精を連れて、ブヌトー公爵にお会いしなくてはならないのだ。
お約束のモノがまだ届いていないのは困ったが、なに、友達共々に今日王都に着いたことにして、一緒に訪問できればお喜びになられるだろう」
やはり、この子爵がこのディアヌというそこの少女を使って妖精のフィを捕え、奴隷商に引き渡してあのエロ公爵に届けようとしたので間違いなさそうだ。
「あ、あの……フィ、あの時はごめんなさいね。ちょっと手違いがあって、……今度は大丈夫だから、私と一緒に行きましょうね」
「何をほざいているのよ、このクソビッチ。『お友達』のあんたに騙されて、危うく鳥籠の中でペシャンコだったわよ」
「うっ……そ、それは奴隷商が」
「ディアヌ、何だお前の友達ではなかったのか?」
その時、馬車がもう一台凄い勢いでやって来て急停止し、勢いよく開けられた馬車の窓から顔を出した初老の貴族が叫ぶ。
「フェリクスここにいたのか! 遅いから心配して、迎えに行くところだったのだぞ」
「申し訳ありません、父上。護衛の冒険者達が、些細な報酬のことで少々揉めまして、余計な時間を取られているところです」
「そんなことよりも、ブヌトー公爵邸に行くのは中止だ! 非常に不味いことになった」
急な展開に、イケメン子爵は訝し気に父親から小声で話を聞かされる。すると顔色を変えて、すぐさま自分の馬車へと向かって早足に歩き出す。
「王城へ、その後で本邸へ戻る」
御者にそう言うと馬車に乗り込もうとする子爵を、ディアヌという少女が血相を変えて追いすがる。
「コワル子爵様、どうなされたのですか? この妖精はどうされるのですか?」
「そんなモノはもういらん。ブヌトー公爵への引き渡しは取り止めだ。貴様も、もう必要ない」
「そ、そんな!」
「出せ!」
そう言うと、二台の馬車は王城の方角に向かって走り去ってしまう。
後には呆然とたたずむディアヌという少女が一人――いや、さっき揉めていたガラの悪い冒険者三人が、彼女の周りを取り囲んで来る。
「ふへへ。頼みのお貴族様には、すげなく捨てられたようでごぜぇますな。お嬢様ぁ~。ひへへ、俺達の顔をよっく覚えておくんだな。
このギルド会館の前じゃ見逃してやるが、必ず捕まえて思い知らせてやるからな、ひゃははっ!」
「ひっ、そんなことをすればお前達だって」
ビクッと自分の身体を両腕で抱きしめて、思わず後ずさるディアヌという少女。そんな彼女に、グィッと汚い顔を寄せて、ニヤァ~と笑うガラの悪い冒険者達。
「王都の周辺は、俺達の庭みたいなもんだ。
平民の女の死体のひとつやふたつ、何とでもできるに決まってんだろ! ぎゃはははっ」
あ~あ、何か勝手に話がついたみたいだ。後はフィなんだが……コロンの白銀の長髪の中に隠れてしまっていた。
「フィ、そろそろ行くけど――いいか?」
「……うん」
できるだけ優しい声になるよう声をかけるが、妖精の少女はコロンの白銀の長髪から虹色の四枚の羽を出したまま、小さく頷き返すだけだった。
振り返って見ると、ディアヌという少女はウェーブのかかったブロンドの髪を力無く垂らしたまま、ギルド会館の前にひとり立ち尽くしていた。




