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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第5章 魔法学園編
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第5章3話 入試結果発表


「お~、合格順位まで即日発表されるんだなぁ」


 結局は実技試験は誰も移動標的(ターゲット)(のが)すことなく全数撃破できていたので、まあ筆記試験で名前の書き忘れても無ければ合格するだろうとは思っていたが。


「ふふんっ。ハクロー、どぉ~よ?」

「ふへぇ~っ、ハクローくん。一時はどうなることかと思いましたが、合格してよかったですぅ~」

「ハク様ぁ、()めて()めてぇ~」

「フィも一発撃ち込みたかったわよぉ!」

「ニャア~~~ァ!」

「うふふ~。クロセくん、これで妹のヒスイにお姉ちゃんとして自慢することが増えた。今日も日記帳(ダイアリー)にお手紙書かなくっちゃ」


 まあ一部の妖精フィと聖獣ルーがご不満そうなのは仕方が無いとしても、みんながみんなとても嬉しそうなんだが。それもそのはずで、張り出された合格者一覧には。


 一位 アリス

 二位 ユウナ

 三位 コロン

 四位 ルリ

 五位 ハクロー

 六位 ……

 

 八位 レティシア


 となっていて、前に冗談で言っていた合格者上位の五位までを【ミスリル☆ハーツ】のメンバーで独占することができてしまっていた。

 おお、これで確か授業料が免除だかなんだか特典があったような無かったような?


 すると、怒号や号泣が飛び交いザワザワしている合格者一覧を張り出した壁の前に、ようやく挨拶周りを終えたらしいミラとクラリスが合流して来た。

 

「ふふふ、クロセ様。合格おめでとうございます。みなさんも、おめでとうございます」


「はい、姫様。しかし、本当に一位から五位までを独占なされてしまわれるとは。これは驚きです。しかも、戦闘訓練を受けていないレティシア侯爵様も八位とは正直ビックリです」


 そうなのだ、純戦闘職でないレティシアが前にちょっとだけ護身用に教えた【短剣術】を駆使して、接近して来る移動標的(ターゲット)を全てゼロ距離で討ち果たしていた。

 これも【ルリの友達】スキルで身体パラメーターが上昇しているから出来たことかもしれないが、そもそも彼女自身が【短剣術】や【身体強化】や【加速】などの各種スキルを地道に上げ続けていたことが合格した理由だろうと思っている。


「ううぅ~、ハクロー様ぁ。合格ちましたぁ?」


 実はさっきから俺の背中におでこをくっつけて目を(つむ)ったままなので、試験結果を見れていない彼女に人混みを超えるように両脇を持ってヒョイっと抱き上げて、片手でお尻の下を支えて持ち上げると、丁度いい高さになった彼女の耳元に向かって小さな声で(ささや)く。


「ほら、レティシアも八位で合格だよ。おめでとう」


「……ひしっ、うう~~~ハクロー様ぁ」


 すると急に俺の頭に抱きつくと、そのまま瑠璃色(るりいろ)の髪に顔を埋めるようにして泣き出してしまう。


 まあ、普段から魔法の練習を地道に続けていないと【魔力制御】はレベルアップしないし、今回はそれで全ての移動標的(ターゲット)の中心にある黒いX圏を確実に撃ち抜いていたことが、全部で二百人近い合格者の中で八位という高順位の理由だと思う。


 ああ、やっぱりいつも毅然(きぜん)としているレティシアは、実はとっても頑張り屋さんなんだ。と、今更(いまさら)のように思い知る。


 すると、合格発表を張り出している壁の一番前から、豚の鳴き声のような聞き苦しい叫び声が聞こえて来る。


「こ、こんな、ありえない! インチキだっ、そうだこれはインチキに決まっている! だって、ボクチンが帝国の国宝である【魔剣】を拝領してまで受験して、一位にならないはずがないんだぁ!」


「……そ、そうですなぁ?」

「……いやあ~、どでしょうな?」

「……わ。私にはなんとも?」


 どうやら、見苦しく(わめ)き散らしているのは、昼休みに(から)んで来た帝国第三王子のお坊ちゃまのようだ。

 あ~、これは面倒事にしかならないなぁ。そう思って、みんなを見回すと合格者を学生寮に案内する係員のいるパイプテーブルの方を視線で指差すので、サッサとこの場を退散することにする。


「さあ、学生寮ってのもちょっと興味があるから行ってみるとするか?」


「き、貴様らぁ! ちょっと待てぇ、インチキ野郎共めぇ~!」


 がしかし時すでに遅し、トチ狂った帝国第三王子のお坊ちゃまが他の受験生を押し退けてやって来て、アリスに掴みかかろうとする。

 こいつ、さっきの超位火魔法を見てなかった訳じゃ無いだろうに、馬鹿(バカ)なんだろうか? ああ、やっぱり(ただ)馬鹿(バカ)なんだろうなぁ。


 そう判断してスッとアリスの前に立ち(ふさ)がると、黙って掴みかからせる。と次の瞬間には、バシィンッ、という雷撃音がしたかと思うと、「ぎゃあっ!」とか言ってお坊ちゃまは後ろに吹き飛ばされていく。


 そうして、アホ坊ちゃまが立ち上がれないのを確認してから、試験官に向かって面倒臭(メンドクサ)そうに聞いてみる。


「なあ、この学園の中じゃ爵位は関係無いんだろ? だったら、こいつ殺していいか?」


「いっ、た、確かにこの学園の中では、貴族でも平民でも同列に(あつか)うことが校則で定められている。これに違反するものは、この学園には必要ないとされて理由の如何(いかん)に関係無く退学処分となる。

 しかし、だからと言って殺して良いことにはならんぞ?」


 筋肉マッチョな教諭らしい男が後ろから出て来て、(なん)だか建前だけを勝手に偉そうに述べ始めるので。


御託(ごたく)は良いよ、このアホを学園はどうするんだ? 女性に対する暴行未遂だぞ?」


「ふむ、まずは双方の話を聞いてからだなぁ、それから教員会議で検討して理事会に上申してから」


 紋切型(もんきりがた)に口先だけの論説を並べ始めた脳筋教師に、このアホ教師どうしてくれよう。とか考えていると、後ろの方から無駄に図体(ずうたい)のデカいこっちもさらに筋肉マッチョな2m近い巨漢がやって来てしまう。

 しかも、こいつ魔法学園の制服を着ている。


「それには(およ)ばん。見ていた状況では、我が弟の方に非があることは明らかだ。こいつは私の方で(あず)かろう、それで良いな?」


「え、ああ、それなら」


 2mの巨漢に圧倒されるよに、たかが一生徒(いちせいと)に言い含められるアホ教師に、(あき)れて文句をつける。


「良い訳ねえだろ? (なぁに)、スッとボケて連れて逃げようとしてんだよ? 婦女暴行未遂犯の逃亡を親族が手助けでもするつもりか? 学園の処置はどこ行ったんだよ? ふざけてんのか?」


「ムッ、貴様。先輩に向かって(くち)の利き方がなって」


先輩面(センパイヅラ)すんなら、やることやってからにしろよ? 貴様(おめえ)なんかの出る幕じゃねェつってんだよ?」


 絶対に日本で登校拒否をしていたアリスに要らぬ禍根(かこん)を残しては駄目(ダメ)だ。最悪でも標的になるなら、俺の仕事だ。その一心(いっしん)で、この場での明確な処分を求めてワザと目立つように(あらが)って見せる。


「ムムッ、この帝国第二王子であ」


「だぁ~かぁ~らぁ、おめえが王子様がなんだろうが知ったこっちゃねェつってんだよ? うっせえから、とっとと失せろ! 二度とアリスに手出ししないと約束させるまで、半殺しにするだけだ。どけっ!」


 ガッ、とブーツの(かかと)を地面に打ち付けながら、大声でタンカを切って()える。


「き、貴様っ、帝国を愚弄(ぐろう)するか!」


 とうとう、顔を真っ赤にして訳の分からないことをほざき始める脳筋アホ王子。なんで、この世界の王子ってこう馬鹿(バカ)ばっかなんだろうか?


(なん)だぁ、弟がアホなら兄貴もアホか? (なぁに)(おんな)じようなこと言ってんだよ? お前、それでよく先輩面(センパイヅラ)できんな? 新入生から、もっかい出直して来いよ?」


「はいは~い、そこまでぇ。そこの帝国第三王子様とやらは、学園で身柄を拘束させてもらうよ~?」


 そこへようやく押っ取り(がたな)で駆け付けて来たのは、公王の甥だったかの【剣王】だ。


「なっ、誰だっ貴様っ! あ……【剣王】殿でしたか」


「んん~、僕に(なん)文句(モンク)でもあるのかなぁ? 君って、帝国の第二王子()だっけ? 今度の三年の実技演習では、特別に僕が直々に指導員やってあげよっか?」


 流石(さすが)にここモニャコ公国で【剣王】を知らない者はいないというのは本当のようで、帝国の第二王子といえど既に半分腰が引けてしまっているようで。


「ひっ、い、いえ、それには及びません。それでは私はこれで」


「あ、兄上っ、助けてください~」


 とうとう、2mのデカイ図体を揺らしながら弟を置き去りにして逃げて帰ってしまった。どうやら、帝国も(ロク)なもんじゃなさそうだ。


 その後ろ姿を見送ることすら無く、こっちを見て少しだけ恨めしそうに、でもちょっと嬉しそうに微笑みながら【剣王】が人差し指をフリフリと振ってみせる。


「ふぅ~、やれやれ。ハクローくんも意地が悪いなぁ。僕が出て来るまで続けるつもりだったでしょ?」


「別にィ~、第三者なら誰でも良かったさ」


 プイッとソッポを向いて、馴れ馴れしくすんじゃねぇよ、と吐き捨てる。すると、ワザとらしく悲しい顔をしてわざわざ回り込んで顔を(のぞ)き込んで来る【剣王】の黒いネコ耳がウザい。


「うわっ、ハクローくんって僕の(あつか)い、ちょっと(ヒド)くない?」


「それよりも、っと。おい、お坊ちゃん、次にアリスや仲間に手出ししてみろ、今度はその汚ねぇ片腕もらうからな?」


 やっぱり黒いネコ耳(こいつ)は苦手だと思い、とっととお坊ちゃんの方のカタを付けておこうと帝国のアホ第三王子の両目を(のぞ)き込むようにしてから、【威圧】の強度をドンッと一気(いっき)に上げてやる。

 すると、「ぴっ!」とか言ってジョロジョロ~とか粗相を始めて、そのままアッサリと気絶してしまう。


「あ~ぁ、こっちが引き取るって言ったのにぃ~。おい、そこの脳筋教師、そう、お前だよ、(なぁに)、帝国なんかの言いなりになってんだよぉ?

 罰としてお前の大好きな帝国の王子を運ばせてやるから、ありがたく喜んで感謝するんだよ?」


 ガックリと肩を落とした【剣王】は近くにいた筋肉マッチョな中身カラッポ教諭をとっ捕まえると、ヒョイヒョイと手を振って仕事を言いつけてしまう。


「ひうっ……は、はい」


 まあこれで、とりあえずは一段落(ひとだんらく)かとため息をついてから、もうこんな所からはサッサとトンズラすることにする。


「はぁ~、じゃあ後は任せたから。俺達は学生寮とやらに行かないと」


「え? 君たちは学生寮には入れないよ?」


 すると驚くべき言葉が、()りにも()って黒いネコ耳をピクピクさせている【剣王】の(くち)から()れて来る。


「はあ~? (なん)でさ?」


「だぁって~、上位五位までは学費免除の上に、寄宿舎だがを割り当てられてェ~?」


 ギョッとして聞き返す俺に、(トボ)けた顔をしてヒラヒラと手を振りながらおかしなことを言い始める黒いネコ耳を後ろに向けた【剣王】。

 頭に来たので、もう一度怒鳴り返してやる。


「おい、それって今、考えつかなかったか? しかも、学生寮から寄宿舎って居住環境のランクが下がっている気がするのは、俺の気の所為(せい)か?」


「いや~、だって学生寮は基本的にランダムな二人部屋だけど、君たちと一緒の部屋になった子がかわいそ――げふんげふん、という訳で、古くなった教員用寄宿舎が余っていたから君たちをまとめて放り込で置けば安全――げふんげふん、という訳だからぁ?」


 しきりに咳をしながら訳の分からない言い訳を続ける黒いネコ耳の【剣王】に、大きなため息をついてからちょっとだけ心配になってルリの方に視線をやる。


「今、全然、誤魔化せてなかったぞ? はあ~、まあみんな一緒ってならその方がいい、のか? ルリは楽しみにしていた寮生活ができなくなるけど」


「うん、大丈夫だよ? どっちにしろ、ハクローくんと一緒じゃなきゃ寝れないと思うしィ?」


 すると、意外とアッサリとトンでもないことを衆人環視の中で、お年頃の娘さんがコテンと小首(こくび)(かし)げて、そんなの当たり前じゃんとでもいうように言い放つ。


「おい、それって」


「はいは~い、ハク様ぁ。コロンもハク様と一緒じゃないと寝れなぁい~!」


 ビックリして聞き返そうとしていると、今度は小さなコロンが腕にしがみついて来て同じようなことを言い始める。


「私もヒスイのベッドが必要だから、二人部屋を一人(ひとり)で使わせてもらわないと無理」


 そして、とうとうユウナまでが――まあ、ユウナだけはどうにかしないと、とは思っていたから丁度いいっちゃあ丁度いいんだけどさ。


 ただ、視界の(すみ)で黒いネコ耳をピクピクさせてニヤニヤしている【剣王】が、無性にムカつくんだが。

 こいつ一発、殴ってもいいだろうか? とか、本気(マジ)で考えていると。


 珍しくアリスがピョコっとやってきて、耳元にさくらんぼのような唇を寄せて来て甘い吐息と共にそっと(ささや)いてくる。


「ハクロー、さっきはありがとうね?」


「あ、……ああ。楽しい学校になるといいな?」


 どうやらバレてしまっていたようで、でもせっかく新しい学校に入学したんだから、前の中学校でのことなんか忘れて楽しい学校生活を送らないと(ウソ)になる。

 ただ、そう、思ったんだ。


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