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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第4章 神聖皇国編
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第4章21話 四凶王


「はい、これで綺麗になりましたよ? うふふ、これは私のとっておきだったんですよ? でも、ちょ~っとだけまだ胸周りが大きかったので、とっておいた乙女な秘密のワンピなのです。やっぱり、ナイスバディなエンデさんにはピッタリですよねぇ?

 横になっていると綺麗なブルネットの長い髪が邪魔になるので、三つ編みにして胸の前に垂らしておきますね? そうだ、この前、水の都ヴィニーズで見つけた可愛いリボンがあるのでそれで結んでおきますよ?」


 そんなことを言いながら、ルリが段々と冷たくなっていくエンデの亡骸(なきがら)にこびり付いていた血痕やら臭い男の体液やらを、【収納】から取り出した清潔なタオルで丁寧に綺麗になるまで清める。

 壁際で意識を失ったままのハクローの横に防水シートを取り出すと、その上にそっと丁寧に寝かせてからゆっくりと新品の勝負下着と白いワンピースを着せてあげる。

 そうして綺麗なブルネットの長髪にリボンを巻いてから、薄くお化粧を(ほどこ)し始める。

 乳液やアイシャドーを明るめにしてから、リップを塗ると悪かった顔色も見違えるようで。それはまるで生きているようにも見えてしまって。


 しかし、そうなればなるほど、ルリの指先は震えてしまい。遂にはポツポツと涙の(しずく)が防水シートに(こぼ)れてしまう。


「……う……ううっ……なんで……エンデ、さん……うぅ……ハクローくん……助けて……」


 駄目(ダメ)駄目(ダメ)だと思ってはいても、やはりハクローに助けを求めてしまう。

 もはや神聖皇国にすらいなくなった超位回復魔法を、唯一人(ただひとり)使える稀代の魔術師であるハクローに助けを()うてしまう。

 一昨日(おととい)からずっと超位魔法や長距離転移魔法を連続使用し酷使され続けて、遂には意識を失って倒れてしまっているのに、それでもハクローに助けてほしかった。


 でも、だからこそ随分と前の初めて会った日のエンデの言葉を思い出す。


『今は何も返せるものが無いが、必ずこの身に代えても……この恩はお返しする。我が名はエンデュミオン、この名にかけて誓おう』


 きっと、エンデは『黒の十字架』のアキラ少年をハクロー達の知り合いだからと、ハクローの防壁魔法を持たない無防備な彼の身代りになって、(みずか)らを守護するはずの防壁魔法すら解除したのだろう。

 ハクローの防壁魔法があれば、簡単に傷つけることはできないし、少なくともすぐに死ぬことは無い上に、触れられれば電撃(スタン)が作動してハクローに危険を知らせるというのに、それを(みずか)ら解除してしまっていた。

 そして強姦され続けて一度心臓が停止した後に、無理矢理蘇生させられたようだから、その時に一度防壁魔法が自動起動して電撃(スタン)が作動したのだろうけど、すぐまた(みずか)ら解除されてしまったので居場所が分からなくなったみたいだった。


 きっと、ハクローはこんなことは想定していなかったはずだ。

 そしてエンデを助けられたかもしれない超位回復魔法の使い手である自分が、今この瞬間に意識を失ってしまっていたことを決して許しはしないだろう。

 それでも、ルリはハクローに助けてほしかった。


 向こうの世界で死ぬしかない運命だった自分を、この世界に来た時に心臓が停止していて死ぬはずだった自分を、何もできず動くことすらできずにこの世界の誰からも見捨てられて死んでいただろう自分を、決して見放すことは無くずっと傍にい続けて助けてくれたこの人に。

 ルリはそれでも助けてほしかった。


「……る、ルリ様……お、俺は……こんな……つもりは……」


 反対の壁際で座り込んだままの『黒の十字架』のアキラが、(すが)りつくような視線で何かを(しゃべ)り始める、が。


 ルリは無言で一度立ち上がると、綺麗になったエンデの隣で意識を失ったままのハクローの横に座り込んで、そっとその頭を膝に乗せて膝枕をする。

 そうして、ゆっくりとその瑠璃色(るりいろ)の髪を自分の指で()くように優しく()で始める。


 そうしてから重い沈黙が過ぎ去り、(しばら)くして。


「あなたはエンデさんが、ハクローくんに返す恩の代わりとして生かされました。そのことで心優しいハクローくんは未来永劫において苦しみ、重い十字架を背負い続けることになるでしょう。

 だから、あなたはその命を大切にしてください。エンデさんに、ハクローくんに助けられたその命を決して無駄にせず、誰かのために」


 鈴を転がすような綺麗で涼やかな、こんな地下迷宮(ダンジョン)の倉庫に相応(ふさわ)しくないほど澄んだ声で、ルリが残酷な言霊(ことだま)を静かに響かせる。


「……あ」


 そうして初めて、アキラは自分の着ている黒い修道服の背中にあるはずの、黒い十字架の刺繍を思い出す。その驚くほど()()、十字架を。




◆◇◆◇◆◇◆◇




「それじゃ、私がさっきのアサシンを相手するから、コロンは」


了解(りょーかい)ちまちたっ、変態(ヘンタイ)をやっつけましゅ!」


 魔法アサルトライフルSG550スナイパーを構えたユウナが、草むらから視線を離すことなく【格納】から銃剣を取り出して実装しながらコロンに指示を飛ばすと、昨日から連戦に()ぐ連戦のはずなのにピッと敬礼して元気に返事を返す、今日もお気に入りとなった新装備のセーラー服を着た小さな銀狐の少女。


「ちょ、ちょっと。私も仲間に入れてよ」


 アリスが困ったようにそんなことを言うが、【賢者の石】を持つユウナがそんなことを許しはしない。


駄目(ダメ)。四凶王はもう一人(ひとり)残りがいるはず。最悪は、あの魔族が出て来る可能性もある。アリスはそいつを警戒を(まか)せた」


 銃剣を取り付け終わったユウナが、ガシャンと折り(たた)んでいた銃床(ストック)を戻して魔法アサルトライフルSG550スナイパーを構えてから、そう言い切ってしまう。

 だから、アリスは前に鉱山のダンジョンコアの前で逃がした魔族を思い出して、小さく舌打ちをしながらも静かに(うなず)く。


「分かったわ。その代わり、フィとルーも全力でサポートよろしく!」


「フィに任せておきなさい!」

「ニャア~!」


 空中に待機していた妖精のフィと聖獣のルーが元気に応える。すると、それを見ていたサラサラ金髪のイケメンなナルシストがクイッと腰を振りながら一歩進み出て来て。


「さあ、そろそろ良いかい、マイベイベー? ああ、自己紹介がまだだったねぇ。ボクはブエナベントゥラ・デ・ロス・リオス。この世の美をこよなく追及する者さっ。

 ああ、それはキミのように小さくても大人でも女でも男でも、美しければ何でも構わないのさ!

 だから、面白そうなこの『従属麻薬』とかってのに興味もあったんだけどぉ、まああの魔族もかえって来ないことだしぃ、いいかぁ?」


 クイクイッとひっきりなしに腰を振りながら長々と独白を続けるナル()に、いつもの素手をぶらりと下げたままの小さなコロンが困ったように眉を下げて、上空に漂う妖精のフィを見やる。

 すると、フィが驚いたように叫ぶ。


「こいつっ、私の幻術魔法がほとんど効かないわよ! コロンっ、気をつけて!」


 既に展開していたらしい妖精フィの十八番(おはこ)である、【魅了】、【睡眠】、【淫夢】、【幻影】によるスキル合成(コンボ)が通用しないようだった。


「にゃっ?」


「あーっはっははは! この世で最高の美を体現しているこの私が、見続けているのはこの私自身だぁ! そんな私に、たかだか夢幻(ゆめまぼろし)(なん)の意味があるというのかぁ!」

 

 ギョッとしたコロンに、Aランク相当と言われる四凶王の一人(ひとり)が素早くクイクイクイッと腰を激しく振りながら高笑いを始める。


「がうっ!」


 その不気味な言動に我慢できなくなったのか、聖獣のルーが小さな鳴き声を出す。すると、発射された不可視の衝撃波をクイッと腰を振りながらも悠々(ゆうゆう)(かわ)してしまうナル()


「にゃにゃっ!」


 ()め時間も無い即射砲で、しかも視界に(とら)えることすらできないはずのその発射弾道を見切って、気色悪い腰使いの挙動ひとつで回避してしまうその実力に、コロンが二度ビックリした顔をする。


「あーっはっははは! この可愛い黒ネコめぇ、この世の全ての美を探求するこの私に見通せない物があろうかっ、(いな)ぁ! ある、はずが、無ぁいいいいっ!」

 

 またまた絶好調でクイックイーックイクイッと早いリズムで腰を振るナル()に、下がって見ていたアリスがボソッとつぶやく。


「ありゃぁ~キモくてもハクローとは、大分(だいぶ)キモさのタイプが違うわねェ」


「ピクン! コロンの最強なハク様は、キモさでも負けにゃあ~い!」


 アリスの台詞(セリフ)何処(どこ)琴線(きんせん)()れたのか、コロンが白銀の狐耳としっぽをピンッと立てて、ガオーッと()える。

 こんなナルシストの腰振り野郎に、自分の自慢のハクローが負けるというのが(なん)であろうと我慢ならなかったらしい。


 ズドンッ、という爆発音と共に無手のコロンが地面を蹴って、一足飛(いっそくと)びにナル()に接敵する。

 しかし、Aランク相当と言われる四凶王の一人(ひとり)は、腰をクイッと振ると。


「来なさいっ、ベイベー!」


 と叫ぶと、腰の【魔法剣】らしい薔薇の意匠をした細剣レイピアを抜刀して迎え撃とうとする。

 が、空中から召喚されたコロンの【魔法のおたま】と【魔法のフライパン】をパリングしようと振り抜かれたそれは、(かす)ることも無くすり抜けるように空振りしてしまい。

 しかし、交差して突き出された【魔法のおたま】の斬撃を身体に受けることも無く、やはりクイッと腰を振ってそれを(かわ)すナル()


「にゃにゃにゃあ?」


「ほうっ! かなりの【剣術】レベルと見たっ、美しいぃいいい!」


 【剣術】スキルが9レベルだった神聖騎士団聖都守備隊の一番隊組長ウンベルトにすらほぼ互角の戦いをして見せた、自分の【料理】と【二刀流】のスキル合成(コンボ)をアッサリと(かわ)されて三度ビックリするコロン。

 だが、嬉しそうに絶頂を(むか)えて腰をクックイックイクイクイッと見えない程の速度で、ユーロビートに合わせるようにリズミカルな振りを見せつけるナル()は超絶楽しそうだ。


 しかし(かわ)されたとしても、その振り向きざまに今度はコロンが咆哮を上げる。


「うにゃあああああ! 【飛剣術】!」


「ふんっ、美しい太刀筋だが! それだけでは(なぁに)ィっ?」


 コロンの【二刀流】から繰り出された【魔法のおたま】と【魔法のフライパン】がナル()の薔薇の【魔法剣】細剣レイピアに今度は正面から激突する。

 しかしそれだけに終わらず、火花を散らした【魔法のおたま】と【魔法のフライパン】からは【魔法剣】細剣レイピアをすり抜けるように【飛剣術】の見えない(やいば)がナル()の身体に到達する。


「いやああああんっ!」


 流石(さすが)に自分の持つ【魔法剣】細剣レイピアと同じ、その超短距離の間合いで撃ち出されてくる【飛剣術】の(やいば)は腰をクイッと振っても回避し切ることはできなかったようで、ひっくり返ったような高い悲鳴を上げながら全身を無数の斬撃に切り刻まれてしまう。


「い……いいぃわぁああああああっ! ガクッ」


 そうして、最後に腰をクイッと天空に向けて突き上げると、()ってしまったようでおっ()てたそれをピクピク痙攣(けいれん)させながら失神してしまった。


「…………」


 フイっと小さなコロンはそれを見なかったことにしたらしく、(きびす)を返してアリスの方へと帰って来るので。


「あははは~。コロンのその剣術というか、【二刀流】は最早(もはや)パーティーメンバーで(かな)う者がいないんじゃ? 今なら、あのウンベルトにも銃なしでも勝てちゃうような気が……」


 乾いた笑いを浮かべながらもアリスはそんなことを言ってから、倒れているナル()を見るが。腰を高く持ち上げたまま股間も()てて気絶しているアホに、ウンザリしたようにため息をつくと。


「はあ~、四凶王ってこんな性欲ザルばっかなの?」


 そうして、さっきから草むらの中で激闘を繰り広げている、もう一人(ひとり)の四凶王の方に視線を移す。


 そこでは、最近になってやっと一人(ひとり)で不自由なく歩き回れるようになったばかりの、ユウナがその両脚を地面に踏ん張って立ち、銃剣を付けた魔法アサルトライフルSG550スナイパーを振り回していた。


「――ヒヒッ――見えない――敵と――戦う――気分は――どうですか――ヒヒヒッ――」


 草むらの中にいる四凶王の一人(ひとり)は姿を見せることなく、常に視界の外から死角を突くように、まるで蛇が飛び出して来るような仕草(しぐさ)で毒塗りの短剣を繰り出している。

 その独特の挙動は、獣人族の毒蛇族だと言われても言われても納得してしまいそうだ。


 しかし、魔法アサルトライフルSG550スナイパーを両手で構えて草むらに(みずか)ら踏み込んだユウナは、まだまだ細いその肢体を【身体強化】スキルで最大限器用に(あやつ)りながら、さっきから披露しているのは【銃剣術】だ。


 視界の外側からの構えの死角を突いた見えない敵からの毒短剣を、ユラっとその細い身体を揺らして、時には銃剣で突き払い、時には銃床(ストック)(はじ)き返し、銃口の先に敵が見えた時には5.6mm弾をまるで三点バーストのように三発だけを速射してバラ()く。


 この気がついた時には敵が超至近距離の間合いにいるという暗殺術にもかかわらず、その(スキ)の全く無い変幻自在な統合格闘戦術に、アサシンの毒短剣を(かす)らせもせずに、逆にすれ違う(たび)に手傷を負わされ続けるという信じられない状況が、とうとう四凶王の一人(ひとり)を草むらから引き()り出してしまう。


「――ヒヒッ――いったい――これは――どういう――」


 魔法アサルトライフルSG550スナイパーの銃口とは反対側だからと安心したのか、草むらから姿を見せた四凶王のアサシンが呑気(のんき)に話を始めると、当然のように最小回転半径で銃口を右手だけで身体ごと(ひね)るように向ける天才ユウナ。


 しかし、そんなことは想定範囲内だとばかりに、スルスルと草むらの上を滑るように銃口の先から逃げるように移動する四凶王アサシンの進行方向にあった、ユウナの何も持たない左手が敵を指差す。


 そしてその指の先に敵が照準された瞬間に、【格納】スキルによって呼び出されたのは、右の太腿のホルスターに装備されていたはずの魔法自動拳銃P226だった。


「――状況なのか――理解になぁ! ぐっあああああ!」


 出現と同時に轟音と共に三点速射された9x19mmパラベラム弾が、目の前に突然出現した銃口にギョッとした四凶王アサシンの、身体の中心点を避けても逃げ切れないように撃ち抜く。

 しかし、流石(さすが)はAランク相当ということなのか、三発中二発を避けたまでは実力相応だったが、最後の一発を脇腹に受けてしまう。

 そして魔力付加された銃弾の凶暴な物理エネルギーに殴られたように身体を揺らされてしまったその先には、既に魔法アサルトライフルSG550スナイパーの銃口が待ち構えていて。

 しまったと思う間もなく、いつの間にか残弾を気にすることなくひっくり返されていたジャングルスタイル20発マガジンの5.6mm弾をフルオートで全弾撃ち込まれていた。


「……がっ……はっ……はあっ……」


 内臓と骨を裂けた身体から全て吐き出したまま、草むらの血溜まりに崩れ落ちた四凶王アサシンは、そんな状態でもまだ息をしていた。

 よく見ると、装備に付与された【自動回復】で損傷を修復し始めているようだ。流石(さすが)、Aランク相当ともなると装備も一級品で多芸なことだ、しかし。


「――楽に死ねるとでも、思ったか?」


 そう言うと、草むらを見下ろしていたユウナの左手からスッと魔法自動拳銃P226が消えて、右太腿のホルスターに戻る。


「……ぐがっ……んが?」


 ニヤっと血が(あふ)れる(くち)で笑った四凶王アサシンは、次の瞬間にギョッとしたように目を見開く。突然のように、【自動回復】による損傷の修復が止まってしまったのだから、驚いて当然だが――それだけで済ませてくれる生易(なまやさ)しい相手では無かった。


「あ~、あんたには聞きたいこともあるからさぁ。状態変化が出来ないよう完全に切り離した亜空間に入れてあるから、死ぬこともできずにその状態でずっとそのままってことになるわねぇ?」


 気絶しているナル()と一緒に亜空間にアサシンを突っ込んでしまったアリスが、ニヤニヤと笑いながら後ろから歩いて来る。


 ずっとそのままと言われて、自分のバラ撒かれている内臓と骨と肉体の全てを、倒れ伏したまま横目で見て絶望に愕然(がくぜん)としてしまう四凶王アサシンだった。


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