第4章1話 神聖皇国へ
「それで、結局朝までずっと一緒だったんですか? ルリ様を放って他の女のご機嫌取りですか? 待ちに待ったモテ期、到来ってヤツですか? ハーレム王に俺はなるってつもりですか? こんな女たらし野郎は退治して痛い痛い痛いぃ~~~っ!」
ぽんこつフランのこめかみに、最大まで【身体強化】された俺の鋼鉄の爪が食い込む。
「ここに捨てて行くぞ、ポンコツ?」
「わ~ん、ルリ様ぁ~。ヘタレ間男が暴力に訴えて来ますぅ~。おお女神様、DVからお助けを~」
「やはは~……。フランちゃん、気にしていないと言えば嘘になりますが、もういいですよ?」
青く澄み渡った秋空の下、王国第二の都市ニースィアを出発して海沿いの道を一路、神聖皇国へと向かう魔改造馬車の中で調子に乗ったぽんこつフランの奴に制裁を加えてやろうとしていると。
今の俺が一番、頭が上がらないルリの後ろに隠れてしまうので。
「うっ……い、言い訳は……し、しない、でしゅ」
「あ~、ハクローさんったら開き直りましたよぉ~? 見て下さい、あれ。カッコイイとでも思っているのでしょうか? 女神様、こんなダメ男には天罰を~」
昨晩は結局、連れて行けるばずも無いのでお留守番となってしまうレティシアにくっつかれたまま、彼女の客室のベッドでこの前のように膝枕をしてやっていて――いや、別に疚しいことはしてはいないのだが、それでも女性のルリとしては決して面白いはずは無く不誠実と言われてしまえばそれまでだ、とは思う。
でもまあおかげでレティシアは、うなされたり怖い夢を見たりすることも無くグッスリと眠れたようで――心配していた麻痺毒で痺れて動けないところを男に襲われたことによる心的外傷後ストレス障害、PTSDは見受けられないようなので、それだけは本当に良かった。
夜中に様子を見に来てくれたルリには、よく寝ていたレティシアのミスリルの指輪の付与効果を奴隷のサラと同じ構成の【状態異常耐性】へと、俺達と同じ【加速】から変更してもらっている。
もっと早くに変更しておけば良かったと、迂闊過ぎる俺はこれららずっと後悔し続けていくんだろうと思う。
ルリは指輪に触れることなく手をかざすだけで、あっという間に付与を書き換えてしまっていた。驚くべきスキル上達速度なんだろう。
今朝、王族別荘のプチ離宮を出発する時にレティシアは馬車まで見送りに来てくれたけど、少しだけ不安そうに視線を泳がせていたから、ミラとクラリスにはよくよく心のケアを含めてお願いして来ることになってしまっていた。
まあそのミラも、今回もお留守番と言うことで拗ねてしまっていたので、実際の所は侍女のクラリス頼みだったりするのだが。
「はあ~、フランもその辺にしておきなさい。そもそも出る時間になっても起きて来てなくて、部屋まで行って叩き起こす羽目になったのは、あんた自身の所為でしょ?」
頭の後ろに手を組んでソファにそっくり返っているアリスが、ため息をつきながらジロッと紅と蒼のオッドアイでへっぽこフランを睨むと、急にオドオドと視線を彷徨わせ始める残念シスター。
「ぎくぅっ! そ、それは……今日からの遠足げふんげふん――お出かけが楽しみで、昨日の夜はワクワクしてしまって寝付けなくって……それで、ついお寝坊さんを」
しかも、遠足が楽しみで寝れなかったって言ったな、こいつ。小学生かっ、このポンコツは!
「それに、実の母親に陥れられて無縁の男性の暴力を受けたばかりの、唯の貴族令嬢であるレティシアの心のありようを危惧するのは当然のこと。
たとえそれが、下心に支えられていたとしても」
そんなことをつぶやく、澄んだ紫の瞳でジッと無表情のまま見つめるユウナの視線から、というか良心の呵責から逃げるようにルリの背中に隠れてしまうぽんこつフラン。
それよりも、最後の一言は余計ではないですか、女神の半身なユウナさん?
「ハク様、したごころでしゅか?」
「え?」
あ~ぁ、ほら。家の小さなコロンにいらんことを教えないでください。
「フィは下心じゃお腹いっぱいにはならないぃ~」
「ニャア~」
育ち盛りの妖精フィと聖獣ルーは、もうお腹がペコリンで空いてしまったのだろうか。
「コホン、お昼まではまだ大分時間があるから、もう少し受験勉強をしたいと思います」
「ええー、ルリ様ぁ。だから、皆さんがお勉強してると私が暇で……あ」
今回もミラから先生代行を頼まれているルリが、ピコンと借り物の黄色い☆マークがついた指差し棒を立てて見せるのだが、一人だけ受験せずお勉強が必要ない上に嫌いなぽんこつフランが駄々をこねる、ので。
「やっぱ、ここで捨てて行こう」
「ぎゃあ――っ! ルリ様ぁ~、ハクローさんがいぢめる~。おお、女神様ぁお助けを~」
くそぉ~、このポンコツの所為でちっとも勉強ができんじゃないか。帰ってきたらお受験までは一ヵ月を切っているはずなので、ちょっと所ではなく小心者の俺としてはとっても心配なのだ。
俺一人だけ桜散ってしまって、ルリ達と離れ離れになったりでもしたら本気で洒落にならない。
「はいはい、フランちゃんも。途中のヴィニーズという水上都市に着いたら観光とか美味しいものを食べに行くのでそれまでは我慢してくださいね?」
「「「わーい」」」
「ニャア~」
おお、おねーちゃんなルリの一言でお子様なへっぽこフランまでが、小さなコロンとフィと一緒に大人しくなってしまった。
すると【賢者の石】の知識なのかユウナが右手をヒラリと上に向けて、ご当地観光ガイドを始める。
「私達のこの馬車の巡航速度なら普通の半分の時間で移動できるから、距離的にも二日後には到着できる。ちょうど今の時期はヴィニーズ精霊祭が開催されているので、向こうでは有名な仮面舞踏会が見れるはず」
「本気で? やったぁ、それじゃ私達パーティーメンバー五人全員で仮面レンジャーとして参加するわよ!
私が真紅レンジャーで、ルリが純白レンジャー、コロンは白銀レンジャー、ユウナなら紫レンジャーね。ハクロは……瑠璃色というか蒼色レンジャーってことで。
ああ勿論、仮面レンジャー専属サポメンの妖精のフィは七色で、聖獣のルーは漆黒で決定ね」
得意満面なドヤ顔でテキパキとカラーコーディネートしていく、厨二病全開のアリスさん。ああ、前に錬成して渡しておいた紙と鉛筆まで取り出して、フンフンと鼻歌を歌いながら仮面のデザインまで始めてしまう。
何だか戦隊モノの主題歌らしい鼻歌の合間に、「カレーが好きな黄色がいないじゃないのよ」とかブツブツ言ってる。
「やっぱり正義のヒーローには、赤いマフラーが必要ですよね?」
おおぅ、ルリさんまで前にハンカチを作る時に買っておいた布地を取り出して来て、何やらウキウキと裁縫を始めてしまったぞ。
でも【裁縫】スキルがレベル1からちっとも上がっていないルリさんには、まだ無理なのでは……。
「コロンもお裁縫手伝いましゅ」
「フィも手伝う~」
「ニャア~」
ホッ、どうやらレベル3になってる【裁縫】スキル持ちの、小さなコロンが手伝ってくれるようなので、まあ大丈夫か。
「あ、あの~。わ、私も仲間に入れて下さいよ~。仲間外れは嫌ですよぉ~」
すると唯一人置いてけぼりになっていた、へっぽこフランが泣きそうな顔をしてTシャツを引っ張って来るので、フフンと鼻で笑って自分の心に正直に答えてやる。
「や~、フランさん。お前って、パーティーメンバーじゃないしィ?」
「わーん! ハクローさんが、またいぢわるするぅ~。ルリ様ぁ~」
もう泣き出してしまったフランをよしよしと撫でながら、う~ん、とルリが小首を傾げる。
「はいはい、フランちゃんも仲間に入れてあげますよ~? それじゃあ、何色が良いですかねぇ? やっぱり、その修道服の色と同じでみずいろが良いですかねぇ」
「わーい、ルリ様。大好きぃ~! おお女神様、祝福を」
あ~、もう泣いた子が笑ってる。
こうして、いつの間にかなし崩し的にヴィニーズ精霊祭の仮面舞踏会に向けて、仮面レンジャー戦隊のコスプレ準備が始まってしまうのだった。
あ、また受験勉強が……まあ、いっかぁ。
まあ、こうなると俺にすることは無くなるので、久しぶりにステータス情報でもチェックしておくとするか。
名前;ハクロー・クロセ(黒瀬白狼)
人種;人族
性別;男
年齢;15才
レベル;Lv29
職業;【サーファー】
スキル;【解析Lv5】(UP!)【時空収納Lv5】(UP!)【時空錬金Lv5】(UP!)【剣術Lv5】(UP!)【身体強化Lv5】(UP!)【二刀流Lv5】(UP!)【魔力制御Lv5】(UP!)【物理強化Lv5】(UP!)【限界突破】【抜刀術Lv5】(UP!)【格闘術Lv4】(UP!)【隠蔽Lv5】(UP!)【偽装Lv5】(UP!)【威圧Lv3】(UP!)
エクストラスキル;【時空魔法Lv0.7】
ユニークスキル;【波魔法Lv5】(UP!)
オリジナルスペル;【ソナー(探査)】【ビーチフラッグ(加速)】【波乗り(重力)】【ドライスーツ(防壁)】【HANABI(爆裂)】【ライフセーバー(救命)】【AMW(ノイズ)】【マイクロ波】(New!)
守護;【女神フォルトゥーナの加護】【ルリの友達】【女神アルティミスの加護】
名前;アリス・アカサカ(赤坂アリス)
人種;人族
性別;女
年齢;15才
レベル;Lv29
職業;【賢者】【聖女】
スキル;【遠見の魔眼】【未来視の魔眼】【火属性魔法Lv10】【水属性魔法Lv10】【風属性魔法Lv11】【土属性魔法Lv10】【氷属性魔法Lv11】【雷属性魔法Lv10】【聖属性魔法Lv10】【光属性魔法Lv3】(UP!)【剣術Lv10】【身体強化Lv10】【加速Lv10】【神速Lv4】(UP!)【魔力制御Lv10】【鑑定Lv5】(UP!)【収納Lv5】(UP!)【無詠唱】【教導Lv3】【限界突破】【射撃Lv3】(UP!)
オリジナルスペル;【ガストバズーカ】【タイフーン】【ギロチン】【テンペスト】【ゼロ・ケルヴィン】【サイレント】【アリス・レイ】(New!)
守護;【女神フォルトゥーナの加護】【ルリの友達】【女神アルティミスの加護】
名前;ルリ・アイカワ(藍川瑠璃)
人種;人族
性別;女
年齢;16才
レベル;Lv28
職業;【幸運の■■】【勇者】【精霊使い】
スキル;【鑑定Lv10】【収納Lv4】(UP!)【身体強化Lv4】(UP!)【料理Lv1】【付与Lv5】(UP!)【結界Lv5】(UP!)【裁縫Lv1】【射撃Lv3】(UP!)【加速Lv2】(New!)
ユニークスキル;【健康Lv5】(UP!)【親孝行Lv1】【友達Lv5】(UP!)
守護;【祝福の聖精霊】【祝福の光精霊】【祝福の木精霊】【祝福の水精霊】【祝福の土精霊】【祝福の火精霊】【女神アルティミスの加護】
名前;コロン
人種;獣人族
性別;女
年齢;10才
レベル;Lv28
職業;【料理人】【妖精使い】【聖獣使い】(New!)
スキル;【調教Lv1】【召喚Lv5】(UP!)【料理Lv6】(UP!)【格闘術Lv2】【身体強化Lv5】(UP!)【二刀流Lv5】(UP!)【加速Lv5】(UP!)【教導Lv1】【裁縫Lv3】(UP!)【射撃Lv3】(UP!)【防壁無効Lv2】(New!)
守護;【女神フォルトゥーナの加護】【ルリの友達】【女神アルティミスの加護】
名前;リリス=フィ
人種;妖精族
性別;女
年齢;115才
レベル;Lv27
職業;【暴食】【幻術師】(New!)
スキル;【魅了Lv5】(UP!)【睡眠Lv4】(UP!)【淫夢Lv5】(UP!)【幻影Lv3】(New!)【加速Lv3】(New!)【身体強化Lv3】(New!)
守護;【ルリの友達】【女神フォルトゥーナの加護】【女神アルティミスの加護】
名前;ユウナ
人種;人造ハイエルフ族
性別;女
年齢;3才
レベル;Lv25
職業;【予言者】【狙撃手】(New!)
スキル;【射撃Lv5】(UP!)【命中Lv5】(UP!)【銃剣術Lv0】【身体強化Lv3】(UP!)【錬金Lv3】(UP!)【物理強化Lv3】(UP!)【鑑定Lv3】(UP!)【隠蔽Lv2】(New!)
守護;【ルリの友達】【女神フォルトゥーナの加護】【女神アルティミスの加護】
名前;クルガルーガ
種族;聖獣
年齢;0才
レベル;Lv18
職業;【使い魔】
スキル;【飛行魔法Lv2】(UP!)【身体強化Lv1】(New!)【加速Lv1】(New!)
守護;【ルリの友達】【女神フォルトゥーナの加護】【女神アルティミスの加護】
それにしても生まれたばかりの聖獣ルーはともかく、俺以外はみんなダブルジョブやトリプルジョブになっていて。
俺だけがシングルジョブで、しかも色物の【サーファー】だけってのは、パーティーで唯一人の男としてはどうなんだろう?
やっぱり、もう少し真面目に天使と話をすればよかったか。後悔先に立たずだが、これからみんなの役に立つように頑張って行くしかない。
いよいよ、基礎レベルも一般的に中級クラスと言われているレベル30の大台が見えてきた。この異世界に召喚されてからわずか三ヵ月そこそこで、ここまで来るというのは間違いなく異例なんだろう。
それもこれも、【ルリの友達】スキルのおかげと言っても過言ではない。しかも、このスキルレベルがアップしたことにより、おそらくは一般と比べても実質的に2倍以上を優に超える速度で成長しているはずだ。
<守護【ルリの友達】>;経験値取得1.5倍化。スキル取得に必要な経験値1/1.5倍化。倍率は友達であるルリの【友達】スキルレベルによる。パーティー全体で獲得した経験値をメンバー全員で分割せずに各人で全て取得できる。
ちなみに、王都の頃からの友達であるミラやクラリスにぽんこつフランは勿論、最近【ルリの友達】になった小さなエマにレティシアや奴隷のサラも、俺達の稼いだ経験値を貰って知らない内に成長しているはずだ。
しかもレベル5になるに至って、遂にルリ本人との物理的な距離をほとんど無視して経験値を受け取っていることが分かって来た。
実はベヒモス討伐から帰還してみると、ニースィアでお留守番していた小さなエマのレベルが爆発的に上昇していて、同時期に友達となった聖獣ルーと同じレベル10台後半に迫る勢いだったのだ。
隠しパラメータも考慮すると、10才の誕生日を迎える前にエマは見習いどころか初級冒険者と同等だったりするかもしれない。
「うふふ、ハクローくんボーッとしてどうしたんですか? あ、動かないでくださいね――これをこうして」
そう柔らかく微笑みながらも、ソファの隣りにちょこんと腰掛けると、俺の首に試作品だろう赤いマフラーっぽい何かを巻き付けてくれるルリ。
もう、すっかり女性らしさのある丸みを帯びた曲線に包まれた彼女は、ほんの三ヵ月前には痩せ細ってガリガリだったなんて信じられない程で――思わず、両手を俺の首筋まで伸ばしていたのですぐ傍まで近づいて来ていたルリの白雪のような頬に、そっと指の背で触れてしまう。
「ん? 何か付いていましたか?」
「いや、ツルツルのルリのほっぺはモチモチしていて気持ちがいいなぁ、っと思って」
元気になったルリが昔の病気だった頃のことなんて思い出しても嫌な気分になるだけだろうと、つい適当に思いつくまま誤魔化してみるのだが――ちょっと、言い方がキモかったようで失敗したみたいだ。
「ああ、うふふふっ。はい、ハクローくんの言いつけを守ってちゃんといっぱいご飯を食べたので、もうすっかりプクプクのお肌になりましたよ? 以前のように、ザラザラでガサガサのお肌では無いでしょう?」
そう言うと長い睫毛を伏せて、自分から気持ちよさそうに俺の手の甲に頬を擦り寄せて来るルリ。
しまった、俺の下手な演技なんてルリには全てお見通しなんだった。参ったな、また余計な気を使わせてしまったか。
「ああ、悪い。でも、本当に良かった」
「はい。もう、ちょっとだけなら、走ることもできるようになりました。それに今度は、異世界の水上都市に観光旅行に行けちゃうんですよ? 街の中にも運河があって、小さなお船で移動するんだそうです。うふふ~、とっても楽しみです」
にへら~、と笑うルリの頬の温かさを感じながら、幸せそうな彼女の言葉にようやく安堵する。これまでも綱渡りだったのだからこれからも簡単なことでは無いだろうけど、何としてもこの笑顔を守って行かなくてはともう一度、心に刻む。
「そうか、それは良かったな」
「はい、ハクローくん。だから、ありがとうございます」
そう言って、嬉しそうに綺麗な宝石のような紅い瞳を細めると、えへへ~と元気な向日葵のように微笑むのだった。
ああ、危ない。これは、とても危ない。このまま抱きしめてしまいそうになる。周りにアリス達がいるのに。構わず、ルリを抱きしめてしまいそうな自分に抑えが効かなくなりそうだった。
すると、今度は逆にルリがその細い指を俺の頬にそっと触れさせると、ちょっとヒンヤリした指先から熱が伝わってくる。
「だから、そんな顔をしないでください。私はもう大丈夫ですから、だからそんな泣きそうな顔をしないでくださいね?」
「……え?」
そんなことを言われて、初めて自分がどんな顔をしているのか思い知ることになる。
そうして俺の頬に触れていた指先だけでなく手のひらもそっと触れさせてくるので、ルリの熱がじんわりと伝わって来るのを感じていると。
スラッと形のいい顎をわずかに上げると、顔を近づけながら小さな声で囁くようにつぶやく。
「ハクローくんはカッコイイ、私の正義のヒーローですから」
ああ、だから俺はこの少女を――。
「ハク様ぁ~、おそろいでしゅ」
ポフッと後ろから同じく赤いマフラーを首に巻いたコロンに抱きつかれて、そのまま目の前まで近づいていたルリの綺麗な顔をその柔らかな身体ごと抱きしめてしまう。
「見て見て~、フィも赤いマフラー~!」
「ニャア~」
ルリを抱きしめた俺の目の前を、小さな赤いマフラーを巻いた妖精のフィと聖獣ルーがフヨフヨと漂う。
その向こうには同じく赤いマフラーを首に巻かれたユウナが、ソファに座ったまま優しい笑顔でこちらをジッと見つめている。
アリスはというと、ソファから立ち上がって首からぶら下げた赤いマフラーをなびかせながら、決めのポーズの練習をしていた。
ああ、ぽんこつフランは顔にまで長い赤いマフラーをグルグル巻きにしてまるでミイラのようだ。
だから、そっと胸に抱いてしまっていたルリを離すと、俺の首に巻いた赤いマフラーを半分だけルリの首にもかけてその細い肩を抱く。
「はっははは!」
そんな風に大笑いをすると、すぐ傍の俺の頬に自分の頬をくっつけたルリがクスクスと笑い、背中にくっついたコロンもワッハハハと大笑いを始めるので、妖精フィと聖獣ルーも楽しそうに笑いながらクルクルと宙を舞う。
そんな俺達を見ていたユウナがしょうがないなぁと言った風に微笑むと、クルッと振り向いたアリスがガッハハハと決めポーズのまま高笑いする。
泣き虫フランが私も仲間に入れて下さい~、とか言ってるけどそんなのは放っておいて。
高速で移動を続けるビーチェが操る馬車の中は、赤いマフラーを首に巻いたおかしな正義のヒーロー達で混沌としてしまっているのだった。