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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第3章 冒険者ギルド編
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第3章36話 中級ダンジョン攻略(3)


「デカい!」


 目の前には中級地下迷宮(ダンジョン)樹木の森(トレント・ウッド)』の地下十九階のフロアボスと思われる魔物がいた。

 【解析】によると、ジャイアントトレント1体とその周囲にビッグトレント5体がこっちに向かって歩いて来ている。

 この地下迷宮(ダンジョン)は全階層がワンフロアぶち抜きだ。

 いわゆる一部屋だけの森林だったり、草原だったり、沼地だったりするのだが、通路というものが無いので敵にエンカウントした瞬間に、周囲から蟻が(たか)るように魔物が集まって来た。

 という訳で、(なん)と言うか物理的にも質量的にも圧倒的な物量戦に見舞われている。


「あれって、高さ10mぐらいはあるんじゃないの?」


「あ~、前のジャイアントミスリルゴーレムと同じぐらいの大きさだな」


 神話級【剣杖】を抜いて構えたアリスが紅い長髪をなびかせて叫ぶので、その横を抜けて最前線に向かって歩きながらため息混じりに答える。

 まあ、この階層まで来ると他の冒険者の姿はパッタリと見えなくなっていた。だから範囲攻撃魔法が無制限に使用できるのは、実は俺達にとっては楽な展開だったりする。

 いつのまにか未踏破階層まで突破してきていたようで、ここまでの感覚的には次の地下二十階がラスボスとにらんでいた。


「まずは俺が【波乗り(重力)】で5m級のビッグトレントを蹴散らすから」


「【ゼロ・ケルヴィン】で足止めするっ。一斉射撃よお――――っい!」


 そう言うことならと、前方の全範囲に向けて3mクラスの【波乗り(重力)】を発生させてやる。

 波が5体の巨体にぶつかる瞬間、ビシィビシビシビシという波が凍り付く音と共に、極寒の冷気が足元を駆け抜けていく。


「テェーッ!」


 アリスの号令に従い、紅い四本のレーザーが冷気漂う空間を切裂いたかと思うと、その霧を1m程の直径で穿(うが)ち、下半身を凍結させて動けない4体のビッグトレントの頭部を吹き飛ばす。

 みんなのレーザーサイト付き魔法自動拳銃P226による射撃も、その命中精度といい、こめる魔力量による威力増大といい、今ではBランク相当の魔物でも一発の内に沈めてしまう程だ。


 などと見惚(みと)れている間に、ドンッと追加で一発――これはユウナだな。発射された9x19mmパラベラム弾が、残りのビッグトレント1体の頭を綺麗に消し飛ばしていた。

 おっと、いけない。俺も仕事をしなければ。


「【HANABI(爆裂)】!」


 『マルチタスク』で並列処理された爆裂魔法を、足元を凍らせて動きを停めているジャイアントトレントに向かって発射する。

 合わせてみんなからも9x19mmパラベラム弾が雨霰(あめあられ)と降り注ぎ、流石(さすが)の10m級の巨体もその身体を構成する木片の何割かを辺りに撒き散らすことになる。

 その巨体をグラッと(かたむ)かせたその時、【ソナー(探査)】のマップにアラートが上がる。


「敵影! 右三時方向、ビッグトレント10体!」


「足元が凍結しているから早くは移動できないっ、各個撃破!」


 アリスの言う通り、凍り付いた地面が滑るようだ。体重をかけて足を地面に突き刺すようにして、ゆっくりと前進して来ている。

 明らかに動きが鈍いビッグトレント10体に向けてユウナを始め、ルリとコロンの連射が見舞われる。


 その間にアリスは後ろで精神を集中するように呼吸を整えているので、ジャイアントトレントの顔面めがけて爆裂魔法を多重起動させて時間を稼ぐ。

 とその時、首なしビッグトレントの死体を掴んだジャイアントトレントが、おもむろに振りかぶると――思い切り10mを超える高さから投げ下ろして来た。


「マジか! 【ドライスーツ(防壁)】x7強化!」


「ルリ、結界強化!」


 俺が全員分の魔法防壁を強化するのと、ルリが精霊結界を重ね掛けした魔術結界を強化するのがほぼ同時だったところに、投げ付けられたビッグトレントの死体が轟音を立てて激突する。


「がぁっ!」

「きゃっ」

「わきゃ」

「にゃぎぃ」

「ぴょ~」

「ニャア!」

「わわ」


 バラバラになった丸太や木片が飛び散って地面に突き刺さり、その一部は少ないとはいえ結界を突き抜けて来る。

 それを大きな破片から順に【抜刀術】で抜き放った直刀【カタナ】で粉々に砕いて行く。小さなチップはどうしても身体に(かす)るがそれも防壁に(はば)まれて大きな怪我(ケガ)に至ることはない。


「できた! 超位火魔法【スーパー・ノヴァ】!」


 木々の破片を受けながらも、呼吸を乱すことも集中を切らすことも無く呪文(スペル)と術式構築を維持していたアリスが最大火力を放出する。

 ジャイアントトレントがいた場所に、文字通り超新星が生まれたような真っ白な光が発生すると、爆轟(ばくごう)によってフロア全体のありとあらゆる物を()ぎ倒して、追って耳をつんざく轟音が肌を震わす。

 強固を誇るルリの多重魔術結界と精霊結界も何枚かが割れてしまったが、爆心地には頭と両手を失って見た目にも(ただ)の巨木のようになってしまったジャイアントトレントが白煙を上げて屹立(きつりつ)していた。


「おい、いくら広いとはいえ、地下の密閉空間で超位火魔法を使うのはどうなんだよ?」


「大丈夫よ、範囲を限定して威力だけを集中させたから、広範囲には影響は出ていないわ。それに、実験も上手(うま)くいったから次のボス戦も見ていなさいよ」


 いまだ漂う白煙と爆風の名残で真紅の長髪をなびかせながら、ニヤァ~と可愛い唇を月の形にするアリスには、これ以上言ってもしょうが無いのかもしれない。

 とか考えている間に、ドシンという重そうな音をさせて、光の粉になって消えてしまったジャイアントトレントの巨大な【魔石】が爆心地には落ちていたのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




「それじゃ準備は良いわね」


 中級地下迷宮(ダンジョン)樹木の森(トレント・ウッド)』の最下層と思われる地下二十階には、階段を降りると、初めて直線の通路と高さ10mあろうかという巨大な金属製の扉が鎮座していた。

 漆黒の金属で出来た扉には蔦模様が(から)まるように意匠されていて、見るからに不気味な雰囲気を(かも)し出している。


 明らかにボス部屋なのだが、わざわざ扉があるということは中に入ると閉じ込められる可能性が高いということだ。しかもこの扉の大きさから考えると、さっきのジャイアントトレントと同等以上の大きさの魔物が待ち構えているということで間違いは無いだろう。

 おまけに四凶王がいたりしたら、最悪はそのまま戦闘に突入ということもあり得るのだ。それは、(なん)だか()だなぁ。

 それでも全員が役割分担をして、これから扉を開けて突入しようとしていた。


「じゃ、開けるぞ」


 ギィゴゴゴゴッ、と重苦(おもくる)しい音を響かせて漆黒の金属でできた扉を開ける。

 全天候型野球場ぐらいある大きな一部屋の真ん中に――あれは、どう見積(みつも)っても精霊樹と同じぐらいの大きさのトレント、【解析】で視るとヒュージエボニトレントというらしいのがいた。


「あれって、木……なのよね、黒光りしてるけど?」


「エボニって名前にあるから、黒檀(こくたん)のようなもんだと思うが。硬いことは間違いが無いはずだぞ。本当に黒檀(こくたん)で出来ているなら、物によっては本当(マジ)で水に沈む程の密度と質量だろうからな」


「えー、木が沈むって。それって、金属と変わんないじゃないのよ?」


 呼吸を整えたままで唇をへの字に曲げて、アリスが眉間(みけん)(シワ)を寄せる。


「だが、1体だけならって、オイ! あの巨体で歩くのかよ、って食らえっ【波乗り(重力)】!」


 俺達を見つけるなり、50mはあろうかという漆黒の巨体を動かしながら、ヒュージエボニトレントがこっちに向かって歩き始めていた。

 いくら、野球場ほどの広さがあるといっても、20m以上の一歩で迫られるとあっという間に接敵されてしまうので、作戦通りに初撃を放つ。

 しかし、高々数mの波では膝までも(さら)うことができず、足止めにもならない。


「くくくっ、この私の複合魔法を見ろ! まずは、超位火魔法【スーパー・ノヴァ】発動からの!」


 さっきよりも巨大な閃光がヒュージエボニトレントの胸元に向かって収束すると、奴が巻き上げていた波の水滴が接触する。すると最初に爆轟(ばくごう)の一次衝撃が辺りを突き抜け、次に爆発音が追いかけて来ると、続けて爆燃(ばくねん)による二次衝撃が襲いかかって来る。


「【水蒸気爆発】だぁ!」


「「「「「……っ!」」」」」


 ルリの多重魔術結界に、さらに重ねがけされた精霊結界がバリバリと破られる。俺達ですら立っていることができず、1700倍に膨れ上がった水蒸気の体積による爆圧で、ドーム型の結界ごと後ろにズリズリと押しやられてしまう。

 そして、この地下迷宮(ダンジョン)の空間の体積を優にオーバーした体積量がどこへ行くかというと、漆黒の金属と思われていた扉をぶち破って、そのまま上階層へと吹き抜けて行った。


 魔術結界に守られていたとはいえ急激な気圧の変化によって、キ――ン、という耳鳴りがする。頭がクラクラするのを必死に振り払いながら、閃光が(おさ)まった爆心地に視線を向ける。

 そこには――というか、俺達が立っている魔術結界の足元を除いて、このフロア全体が天井も壁も融解(ゆうかい)されてガラス化した結晶に覆われていた。


 白煙を上げ続ける爆心地に溶けたガラス結晶に埋まるようにして、ヒュージエボニトレントが上半身だけを(のぞ)かせている。周囲と同じように全身の表面をガラス状に融解(ゆうかい)されて、その結晶をあちこちに大きな塊で落下させていた。

 頭部と胸部は(なん)とか両腕で防いだのか原型は留めているものの、その代償として両腕は消失してしまっている。何よりその下半身は融解(ゆうかい)した結果なのか、地下迷宮(ダンジョン)と溶けて一体化している。


「結晶化で強度が下がって、(もろ)くなっているはずよっ。各自射撃自由、テェーッ!」


 アリスの追撃命令に、太腿のホルスターから抜き放ったレーザーサイト付き魔法自動拳銃P226を、ユウナを筆頭にルリとコロンがトリガーを絞る。

 マズルフラッシュと共に爆発音を響かせて、チィィンという焼けた空薬莢をいくつも地面に飛ばしながら、情け容赦の無い連射がヒュージエボニトレントの融解(ゆうかい)して本当に(もろ)くなったガラス状の外皮を吹き飛ばしていく。


「じゃ、俺も【HANABI(爆裂)】連続起動!」


 『マルチタスク』で並列処理した爆裂魔法を、みんなと同じように頭部に目がけて絨毯爆撃させる。

 すると、流石(さすが)のヒュージエボニトレントの残っていた巨大な頭部も、その破片を飛び散らしながら原型が分からなくなるほど削られて、とうとう下顎(したあご)を残して全て吹き飛ばされてしまう。


 そうして、最初の半分ぐらいの高さになってしまった巨体は、ゆっくりと光の粉に変えながら()き消えて行った。

 後に残されたのは、火竜と同じかそれよりも少し大きめの【魔石】と山のように積まれた漆黒の木材だ。たぶん黒檀(こくたん)の一種だろうけど、硬すぎて加工できないんじゃないのだろうか。

 ああ、でも溶けていたみたいから、純粋な木材では無いのかも。


「あ、ヤバッ! そういえば、ダンジョンコアのある祭壇まで溶かしちゃったかも?」


 アリスが下位氷魔法と下位風魔法の合成魔法で周囲を強制冷却しながら、爆心地には見向きもせずにボス部屋の最奥へと走って行ってしまう。


「はあ~、だからやり過ぎなんだってば」

「あはは~、ここって元に戻るんですかねぇ?」

「ハク様、飴が食べたい~」

「フィもペロペロキャンディー食べたい~」

「ニャア~」

「帰りにお留守番のみんなのために、お土産(みやげ)はペロペロキャンディーを買って帰ろうか?」


 ガラス化して飴のようになった地下迷宮(ダンジョン)を見て、お子様二人組はお腹がすいてきたらしい。無表情に見えて意外と面倒見がいいユウナが、お土産(みやげ)を買って帰ることにしたようだ。

 ピョンピョンと跳ねるように帰って来たアリスが、嬉しそうに何かをフリフリ振り回している。


「ほらほら~。初回クリア特典の宝箱だと思うけど、レアスキルが書かれた『魔術巻物(スクロール)』が入ってたわよ~」


「へぇ~、そんなのがあるんだ」

「わあ~い、(なん)か得した気分ですねぇ」

「わ~い、コロンにも見せて見せて」

「フィにも見せて~」

「ニャア~」

「はいはい、ルーも見たいのね」


 なんと、アリスが持って来た『魔術巻物(スクロール)』なるものを開いてみると、聞いたことも無い【防壁無効】というレアスキルを覚えられるアイテムのようだった。


「ほお~。これって相手の物理防壁と魔術防壁を無効化して、攻撃を貫通させるレアスキルってことか?」


「そうみたいね。レベルにもよるかもしれないけど、下手(へた)したら結界すらも貫通するかもしれないわね」


「わあ~ん。ハクローくん、私の存在意義がぁ~」

「ルリおねーちゃん、がんば」

「フィも応援するからねぇ~」

「ニャア~」


 ああ、ルリが涙目になってしまっている。そうしていると、ユウナがちょっと分かり(にく)い思案顔をしてからつぶやく。


「それって、打撃での攻撃を得意とする人が使うと相性がいいのよね?」


「ああ、だったら。(うち)でいうと、コロンになるな」


「ふえっ?」


 白銀の狐耳をピコンと立てた小さなコロンが、金色の瞳を見開いてビックリしてしまう。


「え……でも。これはレアアイテムで大切なものでしゅ」


「今日みたく硬いだけの奴でも、【防壁無効】があれば貫通して内部から破壊できるはずよね?」


 ポンとアリスがコロンの白銀の頭に手を乗せると、ルリがその反対側から優しく白銀の髪を()でる。


「良かったですね、コロンちゃん。これで、戦う【料理人】はさらに強くなりますよ?」


「フィも嬉しぃ~」


 コロンの肩に座ったフィが、ぷにぷにの(ほほ)に抱きつく。それを見ていた聖獣ルーが『車椅子』のユウナの膝の上で後ろ脚だけで立ち上がる。


「ニャア~」


「そう、聖獣のルーもご主人様が強くなると嬉しいのね?」


 紫の瞳を細めてわずかに微笑むユウナが、聖獣ルーが転げ落ちないように支える。


「で、でも……コロンが……こんな、高価な……ものを……もら、もらうわけには」


馬鹿(バカ)だなぁ。俺達の大切な(むすめ)が強くなるんだから、良いに決まってるだろ?」


 綺麗な金色の瞳に涙を浮かべて、眉を下げてしまった小さなコロンの、美しい白銀の長髪をモフモフの狐耳と一緒に優しく()でながら微笑み返す。


「う……ハクしゃまぁ。ハクしゃまぁ、えぐえぐぅ~~」


 最近はめっきりやらなくなっていたが、久しぶりに俺の肩によじ登ると髪に顔を埋めるようにしてしまった。少しだけ大きくなった身体を、下からそっと抱き支えてあげる。

 そして、パフンパフンと白銀のしっぽでお腹を(はた)かれながらも、しばらくの間はポンポンと丸めた背中を優しく(さす)ってあげるのだった。

 

 


◆◇◆◇◆◇◆◇




「え? 今、(なん)て言いました?」


 ボス部屋の転移門から地上へと飛んでから冒険者ギルドまで戻って来ると、ネコ耳をフルフルと小刻みに震わせた受付嬢ニーナに出迎えられた。

 でもフリーズしたように固まってしまって、目の前でフラフラと手を振っても戻って来ない。困っていると相変わらずナイスバディにぴったりフィットの赤いチャイナ服を着た、ギルマスが笑いながらやって来た。


「ほう、流石(さすが)だな。出来て間もない若い地下迷宮(ダンジョン)とはいえ、未踏破の中級『樹木の森(トレント・ウッド)』を初見で初踏破(クリア)してしてしまうとは。

 確かBランク冒険者のレイドでも、地下十九階層が最高到達点だったはずだが。(なん)でも10m級のジャイアントトレントがビッグトレントと一緒に地下通路への門番をしていたんじゃなかったか?」


「そ、そうですよ! Bランク冒険者パーティーの三チームがレイドを組んだ二十人体制で(いど)んでも、立ちはだかる10m級のジャイアントトレントに(はば)まれて、結局は甚大(じんだい)な損害を出しながら逃げ帰って来ているんですよ!

 そ、それを……たっ五人で。いえ、妖精のフィさんを入れても、わずか六人ですよ? し、しかも、正味一日半で誰も見たことの無い、地下二十階層のラスボスまで……」


 カタカタと壊れた人形のようにぎこちない動きを始めるネコ耳ニーナを笑い飛ばしながら、ギルマスがニヤリと凶悪に笑う。


「あはは、こいつらなら()るだろ? で、ラスボスはいったい(なん)だったんだ? おい、勿体(もったい)ぶらずに教えろよぉ~」


「確か、ヒュージ……ん?」


 ほとんど何もさせずに倒してしまったので、名前すら忘れてしまったらしいアリスに、仕方なく後ろからこしょこしょとつぶやいてやる。


「……ヒュージエボニトレント」


「ああ、それそれ。真っ黒で50mぐらいあったわよ。ああ、行くんなら入り(ぐち)の扉が閉まるから、閉じ込められないように気をつけることねぇ」


 いやぁー参った参ったと、アリスが笑いながら手のひらをヒラヒラと振るのだが、それを聞いたネコ耳ニーナが(くち)をパクパクさせて両手を上に上げてこ~んなおっきい仕草をする。

 

「ご、ごじゅうめぇーとぉるぅ? それって、王都の五層でできた王城よりも大きいってことなんじゃ?」


「そりゃあ、世界樹よりは小さいが、精霊樹と同じくらいの大きさってことだな? しかもそいつ、黒檀(こくたん)系だったんなら、硬かったろう?」


 やっぱり元Sランク冒険者としては血が騒ぐのか、まるでたぎるとでも言いたそうにギルマスが前のめりに聞いて来る。


「まあ、超位火魔法でも一発(いっぱつ)じゃ沈まなかったしねぇ」


「おお~。漆黒のヒュージトレントなら【漆黒の魔女】の異名を持つ私としても、一度そいつを」


 ダークエルフの長い耳をピクピクさせながら、ギルマスが嬉しそうに拳を握り締めていると、ロシアンブルーの毛をネコ耳としっぽまで逆立てて受付嬢のニーナが怒り出す。


駄目(ダメ)に決まってるでしょ! リアーヌ様が50m化物(バケモノ)相手になんか会いに行って、――(なん)かあったらどうするんですか!」


「ええー、だってェ。やってみたいじゃーん?」


 ナイスバディのチャイナ服でギルマスが(しな)を作る。すると受付ロビーにいた屈強なはずの冒険者達が、鼻血を出してバタバタと倒れ伏す。やはり、元Sランクは伊達では無いらしい。


「ああ、後――四凶王は見つからなかったから、もうひとつの植物系魔物の上級地下迷宮(ダンジョン)の方は注意した方がいいわよ?」


「そうだな、あそこに攻略(アタック)しているBランク冒険者達には伝えておくよ」


 念のためにと追加で頼むアリスに、ピッと手をあげてギルマスが颯爽(さっそう)と答える。


「そう言えば、合同演習にはもう出発したんだが、今からでも追いかけて行けば間に合うん」


「他の仕事もあるから、行かない」


 ふんっ、とソッポを向くアリス。そりゃそうだ、あの副ギルマスに加えて(ロク)でもない三馬鹿がいた騎士団に、おまけにおかしな竜人族(ドラゴニュート)までいるんじゃ行く気も失せるというものだ。


「ふえ~ん。だよねぇ~」


 一転してしょんぼりしてしまったギルマスの、(かな)し気な声が冒険者ギルドの受付フロアに木霊(こだま)する。


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