第3章14話 銅色のギルドカード
海ではしゃぎ過ぎてしまい周囲にご迷惑をおかけしたので、アリスにコッテリと怒られた翌朝。今日から休暇明けの職場復帰となる。
「よおっし、今日からいよいよCクラス中級冒険者として、本格的に地下迷宮を攻略するわよ!
基本的にこのニースィア周辺にある地下迷宮は地上にある唯一の塔の迷宮を除いて全てクリアするから、気を抜くんじゃないわよ。
さあ、刮目してみよ! これから私達【ミスリル☆ハーツ】の伝説が開幕するのだぁ~!」
「「「「おお~、ぱちぱちぱち」」」」
おお、ユウナもすっかり馴染んでしまってタイミングもバッチしじゃないか。まあ、染まり過ぎるのも良いか悪いかは別な気もするが。
バンッ、と気持ちよく冒険者ギルドの扉を開けると、一階フロアはまだ朝早いというのに多くの冒険者でごった返している。
「ああ、ちょうど良い所に来られました。こちらに来ていただけますか?」
そう言って受付カウンターからいつものゼロ円笑顔で手招きをするのは、毎度おなじみのネコ耳受付嬢ニーナだ。
はあ~。それにしても、あの笑顔には嫌な予感しかしないんだが。
「昨日は来られないから、ずっと心配していたんですよぉ~? 実は早速なんですが、期待のCランク冒険者である皆様に指名依頼があるのですよぉ。
それはこちらになります、じゃじゃあ~ん!」
混雑してで並んでいる列の横を素通りして、ネコ耳で手招きする受付カウンターに行くと、マシンガンのようなおばちゃんトークが炸裂する。
あまりの勢いに少し仰け反ったアリスが、遮るように手をヒラヒラと振る。
「おうぅ~、私達ってまだCランクどころか、EランクもDランクでもクエストを受けたことが無いし、中級地下迷宮にもまだ行ってないし――という訳で指名依頼はまだ無理ね。
あれ? って言うか、私達ってFランクの常時依頼で『採取クエスト』しかやったことないわよ? 不味くない?」
「そう言えばそうですねぇ」
「コロンのお料理はまずくないでしゅ」
「フィは不味いのは嫌よ?」
「クロセくん、そうなんですか?」
「あ~、確かにそうかも~。俺達って本気で冒険者っぽく無いかも?」
そんなことを言いながら、みんなでコショコショとつぶやいていると。
「わーん、そんなこと言わずに、話だけでも聞いてくださいよぉ~。実は毎年実施されているニースィア公爵領騎士団との合同演習なんですが、例の王都の騒ぎで開催が遅れていたのと、王都への協力要請で参加する冒険者も足りてないんですよぉ~。
助けると思って、ちょっとだけ参加してくださいよぉ~」
ああ、これは1ヶ月だけ新聞を取らされるパターンだ。きっと、洗剤と野球のペア観戦チケットなんかもらえたりするんだぞ、間違いない。
「え、ええ~? 嫌よ、騎士団なんて。だって、あのお貴族様な副ギルマスとへっぽこ三騎士がいるんでしょ? どうせ碌でもないことにしかならないわよ」
「そんなことありませんよぉ~。だってだって、今なら洗剤と――あれ?」
ネコ耳をピクピクさせていたニーナが視線を感じて後ろを振り向くと、ギルマスが怖い顔をして人差し指を上に向けてチョイチョイと呼んでいた。
「うわーん、皆さんちょっとだけ奥の会議室まで来てもらえますか? たぶん、例のBランク冒険者達の件だと思いますので」
「えー、あれはそっちに任せたじゃないのよ。話すことなんかもう無いわよ」
「そう言わず、お願いしますよぉ~。恐らくは、彼らの処分が決まったんだと思いますからぁ~」
そう言って、嫌がるアリスの腕を掴んでグイグイと引っ張って行ってしまう。
連れて行かれた奥の会議室にはソファに座るギルマスと、隣りには包帯だらけの男――なんでか半殺しの目にあった副ギルマスまでが不貞腐れたようにこっちを睨んでいた。
すると、今日も赤いチャイナドレスをピシッと着込んだギルマスは、横に座るミイラ男のような格好の副ギルマスの方をワザと見ないようにしながら、渋々といった感じで口を開く。
「よく来てくれた。まあ、立ち話もなんだから……」
あまり気が進まなかったが仕方なく座ると、いきなり包帯だらけの副ギルマスが唾を飛ばして叫び始める。
「クラン殲滅者と言うのは貴様達か?」
初っ端から何だこのアホは、この前の事をもう忘れてしまったってのか? それにしても。
「おー、物騒な二つ名が」
「ふーん、クランがなくなったの? それが、私達にどう関係してるのよ」
アリスが手をヒラヒラと振ると、さらに激昂した副ギルマスが噛みつくようにして叫ぶ。
「あれでもBランクの上級クランだったのだ! それをお前達は……」
「ああ、あの殺人クランの文句なら、ここの冒険者ギルドに言ってよね。って、あんたも副ギルマスじゃないのよ。じゃあ、その目ん玉は節穴ってことね?」
「な、何をっ」
「ところで、奴等はギルドカードの犯罪履歴を偽造してたのか?」
アリスが至極当然の指摘をするが、話しが進まないのでアホ副ギルマスを遮って、念のために俺も聞いておくことにする。
するとネコ耳受付嬢のニーナが、同じく話しが進まないと判断したのかアホ副ギルマスを無視して簡素に答える。
「止めをクランの手下にさせたりとか、巧妙に隠滅してあったらしく……」
「【殺人】の犯罪履歴はダメでも、【暴行】や【傷害】の犯罪履歴ぐらいは確認できたろうに」
「クラン内部の行き過ぎた、訓練指導と言われて……」
「ギルドカードって役立たず?」
ネコ耳をペタンとさせてバツが悪そうに答えるニーナに、肩を竦めたアリスが盛大にため息をついて、わざわざ俺に聞いてくるので。
「お店のポイントカード以下だよなぁ。そんなことより、結局、あのBランクの馬鹿共はどうなったのさ」
「先ほども説明したように、Bランク冒険者達を含むクラン全体での組織的な犯行でしたので」
と、そこまでをネコ耳をペタンとさせた受付嬢のニーナが話してから、さっきから眉間に皺を寄せたままのギルマスに視線を向ける。
「全員が犯罪者奴隷だな」
「くっ」
副ギルマスは何が気に入らないのか、さっきから物凄い顔をしてこっちを睨みつけて来る。もしかして、こいつがどっか余所から連れてきたりしたのか?
とか考えながら、アホ副ギルマスの視線を無視していると、軽く肩を竦めたギルマスが静かに続ける。
「そういう訳でニーナからも話を聞いたと思うが、指名依頼を受けてくれたらBランクに」
「あー、さっき言ってた面倒くさいヤツね」
ゴホンとわざわざ咳払いをしてから、包帯だらけの副ギルマスが自慢気に胸を張る。
「ニースィア騎士団と合同討伐の演習で、今回は騎士団副団長で副ギルドマスターでもあるこの侯爵の私が同行するのだ。ありがたいと思え」
「あー、こりゃ間違いなく揉めるわねぇ。どうする?」
「そろそろプチ離宮の花壇のお世話を……」
「コロンはBランクは料理できないでしゅ?」
「フィも食べれない~」
「私には別に必要ないもの」
「俺は合同演習なんかより、海に行きたい」
みんなの意見を聞いてから、興味無さそうにアリスがバッサリと切り捨てる。
「とゆーわけで、パスね」
すると、顔を赤くした副ギルマスがソファからわざわざ立ち上がってまで叫び出す。
「Cランク冒険者は特別な理由が無い限りは、指名依頼を断れないのだぞ!」
「じゃ、こんな役立たずなカードは返すわ」
アリスのサッパリした一言と共に、バラバラと五枚のギルドカードがテーブルの上に投げ捨てられる。
「え?」
ギョッとして口をポカンと開けたまま固まる包帯だらけの副ギルマス。元Sランク冒険者のギルマスはやれやれと首を振っていて、ネコ耳受付嬢ニーナは面白そうにニヤニヤしている。
「国境の通行証はどうしよっか?」
「魔術師ギルドでいんじゃね?」
「そだね。それじゃ、今から行ってみる?」
アリスとパスポートの再発行をどうするか話していると、ギルマスが落ち着いた口調で聞いてくる。
「待て待て、お前達なら近い将来Aランクにもなれるんだぞ」
「使えないカードが金色になるだけでしょ? いらねー」
あははっ、とアリスがおかしそうに笑うと、包帯が解け始めている副ギルマスがどもりながらも聞いてくる。
「え、Aランクになれば条件しだいでは、き、貴族にだってなれるんだぞ」
「もっといらねー。私達に言うこと聞かせたいなら、【異世界送還転移門】でも持って来るのね」
ふふん、とアリスが鼻で笑うと、嬉しそうにルリがパンと手のひらを合わせる。
「あ~いいですねぇ、それ」
「それじゃ、話はお終いね。私達は行くわよ」
「ま、待て! 貴様達が合同演習に参加せねば、私が困るのだ!」
ガタンッ、と机を揺らしてまでみっともなく騒ぎ出す副ギルマスに、アリスが冷たい視線を向ける。
「はあ? だから何よ。あんたなんか、助ける義理なんか無いわ。いったい、何様のつもりよ――あ、お貴族様だっけ? 知るかっ」
「くっくっ、実はですね、副ギルマスは先日の模擬戦での無様なボロ負けで、侯爵家から縁切りされそうになってまして~。
あなた達を冒険者ギルドに取り込む、というかハッキリ言うと貴族派側に取り込むことを条件に仮処分中なんですよ~。笑っちゃいますよねぇ~、あーはっはっはっ」
全てを暴露って大笑いし始めてしまうネコ耳受付嬢のニーナに、副ギルマスは目まで真っ赤にして恥辱に耐えているようだ。
「あ、そ。ご愁傷様、じゃあねぇ~」
後ろ手に手のひらをヒラヒラさせながらアリスが振り返りもせずに部屋を出て行くと、それに続いて席を立つ愉快な仲間たち。
「あ……」
副ギルマスが包帯を巻いた右手を差し出したままで固まってしまうのを、ニヤニヤしながら見ていたネコ耳な受付嬢ニーナがギルマスに文句を言い始める。
「もお~せっかく、私がもうちょっとで上手いこと指名依頼を騙して受けさせようとしていたのに、誰かさんがぁ~余計な横槍を入れるからパア~になっちゃったじゃないですかぁ。
まあ、自業自得ですからぁ~、潔く諦めるんですね。じゃ、私も仕事があるんで、これで」
ロシアンブルーのしっぽをユラユラと揺らしながらご機嫌で受付嬢のニーナが出て行った廊下からは、彼女の大爆笑が響き渡って聞こえて来るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「はあ~、余計な時間を食ったわ。さっさと地下迷宮に行くわよ」
「で、どこから行くんだ?」
一階フロアの壁に貼ってあるニースィア周辺の地図の前で、アリスに聞いてみる。というのも、初級と違って、中級と上級は大小合わせて二十を超えていて、中でも未だ踏破されていないものが一般に上級と呼ばれているらしい。
まあ、中には当然例外もあって、初級のように地下一階層しかないのに何故か上級というのもあるらしいのだが、それは特殊な装備をつけなければ中に入ることすらできない危険な環境条件だったりするためらしかった。
「ふふん、よくぞ聞いてくれました。今日はあまり時間も無くなっちゃったのでここに行きます。ドーン!」
と、ドヤ顔で地図を指差した先は上級地下迷宮『灼熱の火竜』と書いてあるようだ。目を擦ってもう一度見直すが、やっぱり間違いではないようです。
「「「「おお~、ぱちぱちぱち」」」」
「はあ~、前からドラゴンがなんとか言ってたもんなぁ」
「やっぱり、異世界で狩りといえば、ドラゴンでしょ! ド・ラ・ゴ・ンっ。これで、ドラゴンスレイヤーの称号をゲットよ!」
ふんす、と白銀プレートの下の控え目な胸を張って、竜を倒した伝説の英雄の姿を夢見る紅い髪の美少女がここに一人。
「これも踏破されていないのか?」
「んーと、いいえ。踏破されているけど、ボスキャラが強すぎて特別に上級認定された地下迷宮みたいね。ああ、後は地形条件が」
「はははっ、それは初心者では入れない地下迷宮だよ? 悪いことは言わないから、ちゃんと初心者地下迷宮『骸骨の館』から挑戦することをお勧めするよ。
なんだったら、僕達が最初は案内してあげてもいいけど?」
後ろから爽やかな笑いと共に声をかけて来たのは赤い髪の――たぶんちょっと上で17才ぐらいだろう、少年と青年の中間ぐらいの大剣を背負った元気の良い冒険者だった。
「どうしたアベル、さっそくナンパか?」
「ばっ、ち、ちげーよ! 初心者が困っていたから最初だけでも案内してやろうかと……あんだよ」
そのすぐ後ろからやって来た、金髪の青年――こいつもイケメンだが、驚いたことにエルフの男だ。からかわれた純情な赤髪の少年アベルは、顔を真っ赤にしてバタバタと手を振っている。
「別にぃー。ただ、凄い可愛い子だなぁ~と思ってさぁ」
「ばっ、ち、ちげーってば! クランリーダーのイアサントさんがいない間は、俺達が新人の面倒を見ないと……だ、駄目じゃないか?」
ニマニマ笑うエルフのイケメンに、真顔で早口に言い返すのだが、だんだんと声が小さくなってしまうアベル少年。
すると、ガタイの大きなもう一人やって来て――今度は獅子人族の男だ。グイッとアベルの肩にぶっとい腕を回して、バンバンと叩きながら大声で笑い始める。
「わっはははっ。分かった、分かったって。ああ、紅い髪の綺麗なお嬢さん、このアベルは悪い奴じゃ無いから安心して良いぜ。ただ、ちょーっと固いかなぁ?」
「ほ、ほっとけ。お前だって、ガチムチに固いじゃないかよ」
そう言って、肩に回された筋肉だらけの腕を払いのけるアベルくんに、困り顔のアリスが悪い人では無いのだろうと判断したのか珍しく丁寧に答える。
「いえ、私達は大丈夫なん」
「ああ、遠慮なんてしなくていいから。こう見えても俺達、もうすぐ中級になるDランク冒険者なんだ。だから、クランでは新人の教育担当なんかもやってるからさ。安心して任せてくれていいよ?」
「あ、そうじゃなくて。私達は中級冒険者の」
話を聞かない元気なアベル少年に手をパタパタと振りながら説明しようとするアリスは、ちょっと困ったようにこちらを見る。
「ほら~、お前のせいで紅い髪のお嬢さんが怖がっちゃったじゃないか。だいたい、お前のそのガタイは女の子には怖いってんだよ」
「んなことないよなぁ? この優しい筋肉が怖い訳あるかよ、ふんす!」
そう言って、パンプアップする獅子人族の男は大きな牙を見せて、ニカッと笑う。
うん、悪い奴等では無い。悪い奴等では無いんだが――致命的に他人の話を聞かないようだ。
「はあ~。ハイ、これ……」
ちょっと肩を落として疲れたように銅色のギルドカードを差し出すアリスに、肩を組んで騒いでいた三人の男が固まってしまう。
「「「嘘……」」」
「「「「本当です」」」」
そう言いながら、俺達も同じようにそっと銅色のギルドカードを出して見せる。
「「「本気で?」」」
「そうゆう訳だから、心配してくれてありがとう。私達は今から上級地下迷宮『灼熱の火竜』に行くから、これで」
スチャっと手を上げて、ポカンと口を開けている三人組の前をアリスが横切って出て行こうとする。
「え? だって、確か数日前にこのニースィア冒険者ギルドに登録したばかりのはずじゃ?」
「はあ~、そうですけど。Cランク昇級試験を合格したのも本当ですよ?」
ピラピラさせていた銅色のギルドカードを、アリスがもう一度見せる。
「そんな……、そこのお腹の大きな狐人族の女の子も?」
「はいでしゅ」
大口を開けたままの獅子人族の男に聞かれて、タマゴを抱えたままで小さなコロンがニコッと笑顔で素直に答える。
「それじゃあ、その椅子に座ったエルフの美少女も?」
「ええ」
同じようにイケメンなエルフに聞かれて、怪訝そうにユウナが何故聞かれるのか分からないという顔をする。
最後に止めとばかりに、アベル少年がプルプルと震える指で俺を指差す。
「じゃ、じゃあ、このTシャツと短パンの男も?」
「おい……服は関係ないだろ、ほっとけ」
いつもの冒険者らしくない見た目に文句を付けられたようでムッとして言い返すと、見えない白く長いウサ耳をピーンと立てたルリがウガーッと吠える。
「そうですよ! ハクローくんは、いっつもこんな薄っぺらい格好ですが凄く強いんですよ~」
「う……ルリさん、ペラペラの人間性ですみませんねぇ」
「あっ」
しまった、とアタフタしたかと思うと、てへへ~と白髪の頭を掻きながら笑って誤魔化すルリさん。
「ゴホンッ。まあともかく、ご親切はありがたいのですが俺達とは行く地下迷宮が違うみたいだから、ここで」
悪意の無い相手にはとことん弱腰なアリスの手を引っ張って、ギルド会館から出ようと扉に向かうが、行く手を塞ぐようにしながらも嫌な印象を持たせないようにとの配慮か、先輩Dランク冒険者のアベルが腰を折って頭を下げて来る。
「ま、待ってくれ、いや、待ってください。先程は、失礼をした。可能であれば、一緒にレイドを組んで同行させてもらえないだろうか?
俺達Dランクでもレイドのメンバーであれば、中級や上級地下迷宮攻略にも参加できるんだ。この辺のことなら、何かアドバイスできることもあるかもしれないし」
「え? それは……でも、俺達も今から行く地下迷宮は初めてだし、たぶん危険だと思うけど」
「それは構わない! 自分の身は自分で守るから、何とか連れて行ってもらえないだろうか?」
男の俺だからだと思うがTシャツに縋りつくようにしながら何度も頭を下げて来るので、困ってみんなに聞いてみることにする。
「うーん。どうする?」
「まぁ~、ハクローがいいんなら、いいんじゃない?」
「はい、ハクローくん。私が魔術結界で守るので大丈夫でしょう」
「コロンもいいでしゅ」
「フィもいいわねぇ~」
「クロセくん、私は別にどっちでも」
人好きのするアベルの人柄なのか、みんな否定的な意見は無いようなので、苦笑しながらも返事をかえす。
「了解です。その代わり、見たり聞いたりしたことは他言無用でお願いしますね」
「も、勿論だ。特に戦術やスキルは決して口外しないと誓おう」
「ははは、じゃ行きますか? 俺はハクロー、よろしく」
右手を差し出すと、赤髪の少年も両手で握り返して来て――何だかこの感じ、生まれて初めてかもしれない。
男と握手なんて気持ち悪いだろうと思っていたけど、意外とそうでも無かったことにちょっとビックリしていた自分がいる。
「ああっ、俺はアベルだ。大剣使いをやっている。それから、丁寧な言葉使いは不要だ」
そうして、他の二人とも――エルフのイケメン男性はカミーユでガタイの大きい獅子人族の男性はレオンと言うらしい――自己紹介をしてから、いつものネコ耳受付嬢のニーナにレイドの申請を済ませると、いよいよ上級地下迷宮『灼熱の火竜』へ向けて出発するのだった。