第3章12話 ビキニの水着
夏の海水浴シーズンも終わりに近いからか、思ったよりも混雑していない浜辺――というか、ここの海岸は拳よりも少し小さめの、でも結構大きな楕円の石がゴロゴロとしている。
その昔には日本でも見られた光景らしいが、河川にダムができて減ったと聞いたことがある。
しかし、大きなパラソルを立ててビニールシートを敷いて座って待っていても、砂だらけになることもなく意外と快適だったりする。
座って辺りを見回していると、意外なことに家族連れとやっぱりカップルが多いようで――でも、水着は日本で言うとひと昔以上前の物で、特にセパレーツを着ている女性は見かけない。
むしろ、薄いローブのようなものまで羽織っている女性までいて、もしかしたら素肌を見せるのは余り良くないことなんだろうか。
そう言えば、現実の女性冒険者でもアニメのようなビキニアーマーとか言うのを見たことが無かった気がする。
今、女性陣は海の家――というか、それっぽい石造りの建物で着替え中だ。
勿論、俺は余計な詮索を受けないように、ちゃんと海を向いてビーチェと二人で大人しく座って待つ荷物番の忠犬のようだったりする。
それにしても、ここの海は文字通りマリンブルーで途中までは遠浅のようだが、その先は波が立ってるので深くなっているのだろう。流石に、サーファーは見当たらないみたいだけど。
後で波打ち際まで行って、久しぶりにサーフボードでも出してみるか。
「ハク様ぁ~、ぽふっ」
「おお~、ビックリした。なんだ、コロンか――おお! 可愛いじゃないか~」
座っている背中に飛びついてきたのは、へそ出しセパレーツだが上下共にフリルがあしらってある黒のビキニを着たコロンだ。長い白銀の髪と白い肌に良く似合っている。
それに何と言っても、チャームポイントの白銀の狐耳ともふもふな白銀しっぽが可愛さを倍増していると言っても過言ではない。うん、もふもふは正義だ。
「えへへ~、かあいいでしゅか~? でぇへへへ~~」
「う~ん、やっぱり家の娘が一番可愛いわよねぇ」
そんな俺の台詞を横から取って、うんうんと腕組みをしながらドヤ顔をしているのはアリスだ。
「……え?」
「そんなことを言いたそうな顔をしてるわよ、あんた」
ふふん、と真紅のシンプルなビキニで決して大きくはない胸を張って腰に手を当てて見せるが、まあ、何だ、その、がんばれ。
「む、何で私から目を逸らすのよ。何か言いなさいよ」
「ベ、別にぃ~。ヨクニアッテイルヨ……」
勘弁してくれよ~。日焼けしていない真っ白な肌に真紅のビキニが良く映えて、とても似合っているのは本当なんだからさ。
「もう~、みなさん待ってくださいよ~」
「うふふ、姫様。よくお似合いですよ~。ね、クロセ様?」
ペタペタとサンダルで走って来たのはミラ――なんだが、元々がモデルのような八頭身に、出るところはバッチリ出ているナイスバディなので、ワインレッドのビキニにアップにまとめたストロベリーブロンドが良く似合っていて、本気でハリウッド女優のようなんだが。
ところでお姫様、そんなに走るとふよんふよんと揺れて大変なことになっていますよ。
それに、その――思ったより布の面積が少ない気がするんですが、一国のお姫様としてはそれで大丈夫なんですか?
侍女のクラリスも日差しを避けるためのパーカーを持っているのなら、渡してやれよ。自分はパーカーだけじゃなくて、パレオまで巻いてる癖に。
それから、したり顔でサムズアップしながらこっちに振るなよな~。まあ、本当のことを言えば良いだけなんだから、難しいことでは無いんだけど。
「はい、よくお似合いですよ。お姫様」
「え? クロセ様、そ、そうですか? えへへ~、ちょっと布が少なすぎるかとも思ったのですが、頑張った甲斐がありました~」
スラリとした身長で張りと形のいい胸をフリフリさせながら、クネクネするミラ第一王女姫殿下。ストラップを首の後ろで結ぶタイプなので、うなじと腰の横に細い紐が結ばれているだけで露出度が非常に高過ぎるんだが。
ほらそこで、うんうんと頷いているだけの駄目侍女。何とかせんかい。
「魔法で浮かせているから、こんなに石ばっかりの海岸でも楽チンですねぇ」
そう言いながら、『車椅子』を押しながらやって来たのは、強烈な存在感をこれでもかと、みずいろと白のストライプのビキニから零れるほどの二つの膨らみを溢れさせた、へっぽこフラン。
ストライプ柄が伸び切ってしまって、元のデザインを留めていないじゃないか。そんな訳でまあ、こっちは放っといてもいいか。
「ユウナも良く似合っていて可愛いよ」
「……あ、ありがと」
きっとまた水着を着る時には、私は何だかんだとゴネたんだろうに、それでもお礼を口にしてくれる、白いチューブトップのようなビキニに下は黒革のローライズパンツを履いているユウナ。
やはり、まだ男性の視線が少し怖いのかもしれない。渡した包みの中にはワンピースの水着もあったはずなんだが。まあ、スク水までアリスが用意したのは、何の目的があってのことなのか分からないが。
今日は、いい。これで、いい。ゆっくり、ゆっくりと慣れて行けばいずれは。
「気分が悪くなったりしたら、すぐに言うんだぞ。いいな?」
「うん、わかった」
コクンと頷くと、透き通るような紫の瞳を細めてわずかに微笑み返してくる。
「あー、ハクローさん。私には何か無いんですかぁ~? ほらほら、どうです、どうですかぁ~?」
「ああ? 何だお前。分かってはいたが、いたのか」
「あ~ん、ハクローさんが私にだけ酷いですぅ~」
無駄にみずいろのビキニから今にも零れそうな凶悪極まりない膨らみをフリフリ振り回すへっぽこフランに、手をヒラヒラと振っていると嘘泣きを始めてしまうポンコツ。
周りの野郎共がガン見してるから、その無駄に揺らすの今すぐ止めろって。
「ん? なんだルリ、そんなところに隠れて……あ」
へっぽこフランの後ろに隠れるようにしていたルリが――純白のセパレーツのビキニを選んだようで、胸元と腰の両サイドに白い蝶々結びがある。
見えないはずの白く長いウサ耳をピョコっと出してこちらを覗いているので、思わず苦笑してしまう。
「う……やっぱり、似合っていませんか?」
「ああ、悪い。笑ったのはそういう意味じゃないんだ。いや、よく似合っているよ。その白の水着がルリには似合うんじゃないかと思っていたから、それを着てくれて嬉しくてさ。それで、ね?」
「そ、そうですか? これ、ハクローくんが選んでくれていたんですか? えへ、えへへへ~~」
ピョンと隠れていた後ろから飛び出てきて、見えない白い丸しっぽと一緒に、ふっくらしてきた胸もフリフリとさせ始めるルリさん。
胸の傷痕もきれいに消えて無くなっていて、そこには透き通るような白雪の肌だけが太陽の光に輝いていた。
「そういえば日焼け止めは、ちゃんと塗ったんだよな?」
先に【時空錬金】で錬成したSPF50+でPA++++の肌に優しいチューブタイプのサンスクリーンを渡しておいたので、大丈夫だと思うが。
何故かキョトンとした顔をして小首を傾げるルリ。おお、横に傾いた白いウサ耳がやっぱりその白ビキニにぴったり似合ってるなぁ。
「あれ? いつものように、ハクローくんが塗ってくれるんじゃないんですか?」
「え? 日焼け止めぐらいは……ん?」
ルリの後ろでアリスがドヤ顔をして親指を立てているのは、何でだ? まさかとは思うが。
そのままコテンと首を傾けて、スラッとした顎に細い人差し指を当てて見せる雪ウサギさんは。
「え? だって、海ではビーチに敷いたシートの上に寝て、ビキニの紐を外して男の人に背中を塗ってもらうのが、海水浴の王道だって――アリスちゃんが」
それ、何てエロゲ?
「はあ~、まあルリはこれまでも全身マッサージをしたりしているからな。じゃあ、そのパラソルの下に横になってみて」
「は~い」
ペタンとシートの上にうつ伏せに寝ると、何故か足をパタパタさせ始める。
「う……うう……ううう~」
「どうした――ああ、ブラの背中の紐が外せないのか。ちょっと待てよ~。ほら、外したぞ。これでいいか?」
「あ、ありがとうございます。うう~~、これって何か恥ずかしいですねぇ」
うん、きっとアリスに騙されてるんだと思うぞ。言わないけど。
「じゃ、背中から塗っていくからな。ちょっと、ヒヤッとすると思うけど」
「ひゃぁ! つ、冷たいですぅ~」
「ははは、だから言ったろ? それじゃ、パパッと塗って――うっ!」
そんなに冷たかったのか、ピクンと仰け反ってからパタンとシートに垂れ伏してしまう。
その時、だいぶふっくらしてきている豊かな胸が、グニャっと潰れて形を変えるのが背中からでも見えてしまっていた。
「ん? どうしました、ハクローくん?」
「い、いや、何でも――ない」
「うひひ、見た見たぁ、今の? ハクローの奴、ルリの押し潰された胸の膨らみを見て、手が止まってたわよ。やらしぃ~」
くっ、ワザと聞こえるように喋ってるな、アリスの奴め。
それにしても、ルリの白雪の様な肌は、こっちに来てすぐの頃の病気で痩せ細ってカサカサに荒れていた時に比べると、見違えるようにプルプルの艶々で触っていて凄く気持ちがいい。
ヤバイ。これ、何か癖になりそうだ。
「え? 何ですか、アリスちゃん。良く聞こえませんでしたが」
「ううん、ルリ。何でもないわよ。ただ、ハクローがルリの裸にムラムラ欲情してるだけだからさぁ~」
「ええ! そ、そんな、本当ですか、ハクローくん?」
「誰がムラムラだ、誰が! 唯、俺は前にマッサージしてた頃と比べて大きくなったなぁと――は!」
「えええ~! ハクローくん、どこ見てるんですか? 背中じゃないんですか?」
「あ~、ハクローったら。欲望がダダ漏れよ。まだまだ、若いわねぇ~。こんな所で健全で男子高校生な性衝動を爆発させないでよねぇ」
「くっ、アリスの奴めぇ~」
ウッヒヒッ、と笑うアリスの理不尽な突っ込みに、睨み返すことしかできないでいると、一方で横になったルリが何やら嬉しそうにニマニマし始める。
「でも、久しぶりにハクローくんにマッサージしてもらってるみたいで、何だか嬉しいです。えへへ~」
「……そうか」
「うふふ、ハクローくん。ありがとうございます」
「ああ」
俯くように長い睫毛を伏せて横になったまま、ルリが囁くように微笑むので、俺も静かに頷く。
「何だか熟練の夫婦みたいな会話ですよね」
「はい、姫様。ここは私達が大人の器量を見せて、生温かく見守るところです」
何だかミラとクラリスがおかしなことを言い始めているが、アリスも何故かため息をつきながら首を振っている。
「はあ~。いいことなのか、悪いことなのか。若々しさが無いのよねぇ~、若さがさぁ」
だいたいルリに日焼け留めを塗り終わったところで、今度は白銀のフワフワしっぽをフリフリさせながらコロンが手を上げる。
「ハク様~、コロンも塗ってぇ~」
「んん? ああ、じゃあ次はコロンな」
「わーい」
ニコォーっと笑ってタマゴを預けてから、ルリの隣りにペタンと横になる小さなコロン――あれ? 隣りで横になっているルリと比べても、あんまし小さく無いぞ。けっこう胸もお尻もふっくらとしていて。
いやいや、待て待て、どこを見てるんだ。
「ふにゃぁ~、ハク様。ヌルヌルして気持ちイイでしゅ~。えへへ~」
「はいはい、は~い! その次は、私も~」
「姫様、それなら私が塗ってい差し上げましょう」
ピッと手を上げたミラも立ち上がったルリの後にペタンと横になるが、日焼け止めのチューブを持ったクラリスを牽制するように足をパタパタさせる。
「いーやーだー。クロセ様がいーのー」
「おいおい。お姫様がどこの馬の骨とも分からない平民の男に、肌なんか触らせていいのか?」
子供のようなことを言い出すミラは、さらに良く分からないことを言い放つ。
「クロセ様なら大丈夫~。それにそんなの、バレなきゃいーのぉー」
「はあ~、姫様。しょうがないですねぇ、今回だけですよ?」
「クラリスが良いって言うなら、まあ~なぁ?」
「わーい」
シートに寝ころんだままで、手足をパタパタさせて喜ぶ子供のようなミラに苦笑しながらも、『車椅子』に座るユウナにも声をかける。
「それじゃ、最後はユウナも塗ってやるからな?」
「え? わ、私は……けがれ」
「あ、男に触られるのが嫌なら、アリスかルリにでも塗ってもらうんだぞ。日焼けすると、後で痛いからな。ははは」
やはり男の俺に対してはいつもの台詞を口にするユウナに、悲しくなって思わず遮るように口を挟むと笑って誤魔化してしてしまう。
まだ、駄目か。俺だから駄目なのか。いや、急ぐな……ゆっくり、ゆっくりだ。傷だらけのユウナの気持ちが少しでも落ち着いてくれば、いずれは。
「う……じゃ、じゃあ、クロセくん。時間ができたら、お……お願い」
「え? あ、ああ、分かった」
よかった、男の俺に塗らせてくれるようだ。でも、よかった。少しでも、嫌がられなくて本当によかった。
ああ、悪夢のような思い出す必要も無いほど酷い過去から逃げるようにでも構わないから、ユウナが少しでも笑って前に向かって進んでいてくれるなら、涙が出そうなほど嬉しかったりするんだ。
すると、さっきから静かに聞いていたアリスが、少し頬を膨らませて。
「何よ、私は塗ってくんないの?」
「えー、俺一人で全員塗るのかよ~」
「えー、じゃないでしょ。私の玉の肌が日焼けしちゃったらどうしてくれるのよ~」
「アリスの肌にシミができても、それはもう年だからだよ。全てを紫外線の所為にしちゃいけないなぁ~。あっはっはっ」
「私はまだ15才よ!」
俺がカラカラと笑うと、プンむくれてしまうアリス。まだまだ、子供だのぉ。わっはっはっ。
「アリスおねーちゃん、コロンが塗ってあげましゅ」
「ええー! いーの? わーい」
日焼け止めを塗り終わったばかりのコロンが自分もサンスクリーンのチューブを持って手を上げると、現金なアリスはいそいそと嬉しそうに向日葵の様な笑顔を見せてペタンと横になる。
「あれ? あれれ? ハクローさん、私は? 私には塗ってくれないんですか? というか、声ぐらいかけてくださいよぉ」
もう涙目になっているへっぽこフランが、腕に縋りついてくるが、グニャっと膨大な質量が変形して大変なことになっている。
「お前は女神の加護があるから、日焼けしないだろ?」
「えー! 日焼け止めの加護なんか無いですよぉ~。わーん、ハクローさんが私だけいぢめるぅ~」
こら、揺らすな。お前のその凄いグニャリとした物に、腕が埋まってしまってるじゃないか。というか、周囲の野郎共の視線が投擲槍のように突き刺さって来るからヤメロ。
俺が男の夢が詰まっているというその膨大な質量の何かから、一生懸命に腕を引っこ抜こうとしていると、苦笑しながらルリがやって来る。
「はいはい、フランちゃんには私が塗ってあげますから。さあ、こっちに来てください」
「わーい、ルリ様ありがとうございます~。おお、ルリ様手ずからなんて。女神様、感謝いたします~」
コロンが塗っているアリスの隣りに、ペタンと――いや、ボヨンと寝ころぶと、その尋常ではない豊かな塊がグンニャリと溢れかえる。
隣りで同じく横になっているアリスとの差は歴然で、げふんげふん。
危ない危ない。アリスさんの紅と蒼のオッドアイがこっちを睨もうとしています。
「さあ、これで全部塗れたぞ。大丈夫か、ミラ?」
「はい、クロセ様。えへへ~、とっても気持ち良かったですぅ~」
「そうか、よかったな。それじゃ、次はユウナだな」
そう言って、『車椅子』からそっと抱き上げてシートの上に優しく寝かせる。
「うつ伏せにするからな――そう、苦しく無いか? じゃあ、背中から塗っていくぞ。最初は冷たいからビックリするなよ」
「うん、ありがと――ひゃあ!」
「ああ、だから言ったのに。ほら、こうやってゆっくりと温めるように伸ばしていくと、もう冷たくないだろ?」
「うん、もうへいき」
少しだけ顔を赤くしながらも、大人しく日焼け止めを塗らせてくれるユウナに、できるだけイヤらしくならないように細心の注意を払いながら、ゆっくりと優しく何かを込めるように塗っていく。
将来もっと他人と触れ合い、もしかしたら好きな人なんかができて、恋愛をしてお互いに触れ合うことが怖くならないようにと、そんな願いを込めながらゆっくりと塗り込む。