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やつあたり  作者: smallstream
第1話 ユーリリオン動乱
8/70

エロだよそれは!!

 断崖絶壁、人はどのようなモノを想像するのであろうか?


 東尋坊、三段崖、俺には人の命が育まれる場所って想像はできないね。


 そう、それは自然の厳しさ。

 厳しい表情。

 厳しい目付き。

 厳しい視線。


 目を反らすと、ストンと落ちる胸部、決して胸なんて言ってない。


 微は美につながり、大きければ夢が溢れる。

 でも、無からは何も生まれないじゃないか。


「貴様、人を見るなり溜息とはいい度胸だな」

「おい、姫様の御前ぞ」

「姫と言うな、馬鹿者」


 金髪、碧眼、造形、全てどストライク。

 ツリ目がかなりキツイが、それはそれで踏んでもらうにはベストな感じ。

 それなのに、それだからなおさら。

「がっかりだ」

 こんなんじゃ、ボンテージが似合うわけがない。




 あれ、なんか温度下がった? まだ日は高いよ。



(視点変更)


 黒鍵傭兵団及び敵増援の撃破。

 扇動により造反したジーリョ側の領民兵により、督戦隊の掃討も容易だった。


 一息つくことができて、あらためて黒い男を見る。


 無謀にも単独で敵部隊に突入し、敵を撹乱。

 私達がほぼ無傷で黒鍵傭兵団を下すことができたのは、この目の前の男がこちらについたからだ。


 しかし、こやつ。何故私を見て落胆する? どうして、私を哀れみの目で見る?


「貴様、某の目の前で我が主君を愚弄するか!!」

「よい、言わせてやれ」

 部下達がいきり立つ。

 しかし、あの武者振りを見るに、この男をどうこうするとなると、ジーリョ軍と相対する前に無駄な損害が出るであろうことは明白。

 そして、損得感情よりもなお、これほどの剣士が私をどう評するかが興味深い。


 男は溜息をついた、重い重い息を。

「鏡で自分の顔と胸見てみろ。チグハグ過ぎんだよ、あんた」


 一瞬、頭が真っ白になって、その後ドス黒い怒りが湧いてくる。

 この男は触れたのだ、人が、私が必死になって押し殺していたデリケートな部分を。為政者としての表情と肉親への情念、貴様が指摘したのは相反して壊れそうな私そのものだ。


「もう、我慢ならん。

 アスセーナ姫が騎士、このセコイア=メタ。貴様に決闘を申し込む」

 ・・・だから、姫と呼ぶな。馬鹿者。


 セコイアの馬鹿は怒りで顔を真っ赤にしているが、手練れを目の前にして興奮しているのだろう、やや口角が上がって笑いを堪えているように見える。

 対して私は、臣下の激昂のおかげで頭が冷えてくれた。



(視点変更)


「鏡で自分の顔と胸見てみろ。チグハグ過ぎんだよ、あんた」


 俺の言葉で、姫さんの部下の何人かが、吹き出して顔を背けた。

 男同士のシンパシーを感じる。


「もう、我慢ならん。

 アスセーナ姫が騎士、このセコイア=メタ。貴様に決闘を申し込む」

 おっさん、おっさん、必死に押し殺しているけど、隠しきれて無いよ。自分に素直になろうよ。

 って、デカ!? 何、この人、ゴツゴツしてる。おっさん人間か?

「えっと、ロックゴーレムの方ですか?」

 姫さんの部下全員が、クッと顔を反らす。コラコラ、カッコつけて笑いを堪えていても、肩がプルプルしてるから隠せてないぞ。

「誰がゴーレムか、最早、問答無用!!」

「待て、貴様も人間なら有るのと無いの、どちらが良い!!」

「笑止、デカければデカい方が良いに決まっておろうが!!」


 おっさん、猥談しながら、槍を振るうの止めようぜ。



(視点変更)



 槍を躱し続ける黒い男は、槍を振るうセコイアと舌戦を繰り広げている。


 技量の差は明らか。

 臣下を失う前に双方を諌めるべきであろうが、忠臣の本音を聞く欲求に負け、私は愚かにも動けずにいる。


「デカい方が良い? おっさんの価値基準は大小かよ!!」

「おおよ、デカい方が夢が広がる!!」

 そうだ、私は主君として臣下、領民に夢を見せる必要がある。


「そんな図体の男が、なんて小さい。有るか無いか、有ればそこに夢をもとめればいいんだよ」

「ならば、全ての貧しき者にそれを与えて見せろ!!」

 器量、王者の器、重要なことは大きさではなく、有るか無いか。

 夢を全て受け止めることは不可能。しかし、夢を受け止めた時に、壊れずそこに有れば、また誰かがそこに夢を求めてくる。


「形、色、そして全体との調和。他に考えるべきことはたくさんあるだろうに!!」

「某に脇見をする余裕は無い。好き勝手やっている貴様のような者とは違うのだ!!」

「あんたも終わられせてなかったんかい!!」

 2人のやりとりに涙をこぼす部下も出てきた。

 部下は、臣下は真っ直ぐに前だけ見てくれている。

 だが、私は黒い男の言うように、全てを俯瞰して見る必要がある。


 セコイアの渾身の突きに、初めて男が剣を抜いて受け止め、殺気が漂いはじめた。

 止めなくては、ここからは血を流すことになる。

 このようなことで、臣下を失うわけにはいかない。


「双方、引いてくれ」

 私が止める前に、静かに響いた声が争っていた2人の殺気を薄めた。



(視点変更)


「降伏する。戦闘を中止してくれ」

 ジーリョは静かに、妹に告げる。


「それで、済むとでも?」

「いいや、この謀反を唆したこやつと。

 この謀反の責任者の首が必要であろう?」

 アスセーナの問いにも、やはり静かに、静かに答えるジーリョ。

 アスセーナは、訝しむ。この兄君は、外面はともかく、実は癇癪もちで感情のコントロールが苦手なはずだった、と。


「どういうつもりか、兄君」

「久しぶりに兄と呼ばれたな。

 どういうつもりも、内乱で自領が得をすると思っておるほど、私は愚かではない。

 ・・・しかし、ここだけの話だが。

 愚かな私は、もうどうでも良くなって、全てを放り投げたいのだ」


 あんまりな兄の言葉に固まっているアスセーナから視線を外し、ジーリョはクロウに話しかける。

「城門であった者だな。最後まで戦ってくれて、感謝する。

 そなたの言葉通り、コレは痛快だったよ。

 私を縛っていたもの、自分自身も含めて全部壊してやったさ。

 もう、二度と同じモノに戻れない。取り返しのつかない。

 しばらくすれば後悔するんだろうが、ここで終わるなら関係ないな」


 敵味方、あんまりな言葉で呆然となる。


「若、情のうございます」

 ジーリョの配下の1人が剣を抜いた。

「あんまりな言葉でございます。

 我々は、貴方様の事を慮り、貴方様を支え、貴方様が君主であって欲しいと。

 ですが、その貴方様は」

「私を担ごうと考えたのは、諸君らだろう?

 諸君らが私を情けなく思うのは勝手だが、自らの意思決定の責任は自分でとりたまえ」

「・・・・・・しからば、御免」


 アスセーナは、信じられないでいる。

 ジーリョは、プライドの塊のような男だった。そのプライドは彼女から見ると安っぽいものだったが、彼がそのプライドを維持するため、愚直に研鑽してきたことをアスセーナはずっと見てきた。


 ここで、彼を見殺しにすれば、彼の配下は愚かな男に騙されたと悔い、それを彼女が許せば。そう、人の見る目が無い、判断を誤ったと自分自身を責める男達を優しく、仕方がなかったことと許してあげれば、彼らは神に許された仔羊のように彼女に懐くだろう。


 彼女は、己の心に生まれた打算に嘆く。

 しかし、君主たろうとする彼女は、それを懸命に押し留める。


「おい、マジかよ」



(視点変更)


 ゲ、ゲロ太が格好つけてる。似合わね。


 って、嘘ん。刀抜いちゃったよ。槍受け止めちゃったよ。

 刃、欠けちゃったよ。

「おい、マジかよ」

 これ、鋳造品じゃないんよ、鍛造品よ鍛造品。


「おい、おっぱいゴーレム」

 怒りを隠さず、目の前のロックゴーレムを睨みつける。

「わかっとる」

 おう、何がだよ。言ってみろ。

「じゃが、判断は姫様がする。

 お主に命令できる筋は無いが、頼むから黙って見ていてくれんかんか」

「イヤだね」

 はい、みぞおち一丁!! 何言ってんだこのおっさん、脳みそ石化してんだろう。

 あちゃー、無防備すぎるだろ。ワンパンKOじゃねえか。

 ストレスまだタップリ残ってるんだぞ。


 ふーむ、周りを見渡すと、と。

 どうやら、ゲロ太君をイジメている奴らが一番弱そう、だな。

 イジメって、結局ストレス発散のためにやってると思うんだよね。

 人を傷付けること自体に快楽を覚えるサイコさんがそんなにいるわけないから。


「やつあたり、させて貰いましょか」

 イジメって最高だよね。特に弱いものをイジ、

「この場は私が預かります!!」



(視点変更)


「ジーリョは我が城に拘禁、貴方達は自分の屋敷に戻り謹慎して沙汰を待ちなさい!!」


 馬鹿なこと考えていた。顔から火が出るほど恥ずかしい。

『許す』?『優しく』? 人心掌握のために、聖母か女神になろうっての?

 キャラ違うでしょ、似合うわけないでしょ。


「アスセーナ姫、この身、ここで死を受け入れます。ですが、この道化だけは」


 憤怒の感情のせいか、ジーリョ側についた者達から熱い空気が伝わる。

 このままでは、私刑がはじまってしまう、私の手から手綱が離れてしまう。

 ダメだ。私は絶対者。ここにいる者、全ての意思を受けとめ、汲み切れるだけでも思いを汲み、・・・反して自分の意思を貫く必要がある。


「もう一度言う。

 私は『下がれ』と言ったのだぞ、申し開きの場は後で作ってやる。これ以上、煩わすな」

「ですが、このままでは」

「このままでは、何だ? いいや、聞いても詮無いことであろう。

 考える頭が無いからこのザマなんだからな。

 いいか、この道化も貴様ら脳無しの操り人形も、私の前では等しく敗者だ。

 それにな、貴様らには初めから誰かを裁く権利なんてなかったんだよ。

 私かジーリョ、そのうち勝利した片方のみがユーリリオンの法だ、弁えろ」


「そんな、あんまりな。

 おい、お前らはそれで良いのか。勝ったのはお前らなんだぞ」

 ジーリョ側についた臣下が、アスセーナの部隊に叫ぶが、彼女の兵の反応は芳しく無い。

「当然だ。どこに子供のわがままを全て叶える大人がいるというのだ。

 だが、話は聞いてやると言っただろう。それまで、少し頭を冷やせということだ」



 アスセーナはジーリョ側の臣下を見渡して、大音声を響かせる。

「謹慎に見張りはつけん!!

 領を出るなら、好きにしろ!! もちろん、反抗するのなら反抗してみろ!!

 ただし、勝機も無い子供の駄々は許さん!! 反するなら私に勝てるよう考えろ!!

 貴様ら相手なら、いつでも受けてたってやる!!」



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